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浪漫@kaido kanata

. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 11」

そんなある日の休日、自宅に知らない男から 電話があった。
 
「小説を書いている、室井 雄三郎です」
 あまりに知れ渡っている、著名な作家の名前に、
俺は 受話器を握ったまま、目を見開いた。

15年 紺じゃけ 首に手をやる 春馬


 俺に会いたい、という。
 急いで言われた喫茶店へ赴く。

くさりつき ドアベル


 カラン、と ドアベルが鳴り、大通りから離れている小さな店に 入ると、
中年の紳士が席から立ち上がった。


 顎髭を生やした自由人。
 陶芸の職人のようだ。
 四十代、後半だろう。さっぱりした ジャケットを着ている。
 著名だが はっきり 顔は 知らなかった。
 いくつもの 賞の受賞歴、小説、エッセイなど著書多数。

加藤剛 白い着物


 ふたりで マホガニーの椅子の席に着いたが、カウンターの向こうのマスターがコーヒーを 
沸かす音と、静かなBGMが 流れているだけで、テーブル置かれたコーヒーがすっかり、
冷めてしまった。

 ☆男の眼光は 多分、鋭いだろうに、伏せられるか、コーヒーカップしか見つめていない。
 やがて~~覚悟を決めたように、顔を上げた。

 一瞬、BGMが 消えた。
「彼女の自死の原因は この私かもしれない。私は妻子もちだから、彼女を苦しめていた」

「な、なんですって!!」
では、この小説家と音色ちゃんは 不倫関係だったのか。
誰かから 頭に一撃くらったような、今の俺を見ていたら、さぞみっともなかったろう」
 室井作家は 唇から 苦し気に吐き出した。
「私の胸に飛び込んできたのは、音色の方だ。娘のような年齢だが」

 この男、世の中に知れ渡る、一応、識者なのに、しれしれと よく言えたものだ。

ラクダのコーヒーカップ


「彼女が 何を思いつめてしまったのかは まだ 分かりませんし、
永遠に分からないかもしれない」
 とりあえず、そう答えるしかなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


12年頃 雑誌より 乱れた髪の 春馬くん


 俺自身、頭の中を整理してみないと。惑乱が隠せない。
 本当に 彼女について 何も知らなかった自分を思い知る。
 あの屈託のない、笑顔の下に 何を隠していたのか?
 清純だと思い込んでいたら、実は、魔性の女?

杏奈 さわやか 笑顔


 いや―――、
 そもそも、何が 清純で 何か 魔性なんだろう?
 人間は 両面持ち合わせているだろうし、相手の受け取った印象によっても変わる。
 もし、音色ちゃんが 最低、最悪の人でなし女だったとしても、
 俺が絶筆の自伝小説を完成させようという、気にさせたのが彼女であることに変わりはない。
 この事実を 信じよう。


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. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 12」

                十

 まだまだ、慣れないながらも、小説もどきを 書くために Wordに 向かった。
 男たちに、ふつふつと 湧いてくる憎しみと闘いながら、キーを打つ。
 何度も 消しては 書き直す。


PCキーと 原稿用紙と手


 音色は こんな文章で 納得してくれるんだろうか。
 そればかりが 頭の中をめぐる。
 どんなに 穢れたウワサを聞いても、彼女の面影は フルートの美しい音色と共にある。

 まだ これからだった。
 もっといろいろ、やりたいことが あったろうに。
 ついつい 女々しい内容になる。
 こんなのじゃ、鎮魂歌なのか、ポジティブなのかもわからない。
 頭を 抱えること数時間、また少し書き、公園へ出向いて、
外の風に辺り、部屋へ戻っては ベッドに寝転がって 考えなおし、そんな繰り返しだ。

14年 赤パンツ ねころん 春馬



 不意に、チャイムが鳴った。
 誰だろう?こんなボロアパートに、セールスに来ても仕方ないのに。

 西日が射して、夕方だ。
 ドアを開けると、地味なグレイピンクのスーツを着た四十代、半ばの女性が立っていた。


「突然、すみません。私、佐久間恵と申します。
祥文館、編集長の佐久間の妻でございます」
 丁寧な挨拶、ゆっくりとした口調、上品で博識そうだ。
 それでいて、高飛車な態度は まったくない。


根本りつ子 ペパーミント服


「これは、佐久間編集長の奥さんですか!!狭くて汚いところですが、どうぞ」

 面食らいながらも 慌てて、とっ散らかっていた部屋を 片づける。
 女性は ボロいちゃぶ台の前の、たった一枚のマシな 座布団を 遠慮して、畳の上に座った。
 俺は なんとか 煎茶の缶を、ごった返した 戸棚から 探し出し、
さび付いた蓋を開けようと、していた。



「どうぞ、おかまいなく」
 女性は 笑いを堪えながら言った。
 それでも、どうにか、缶の蓋をこじ開け、お茶を淹れることに成功した。
 脂汗もんだ。

お茶セットおいた ちゃぶ台


「いただきます」
 女性―――、佐久間夫人は 丁寧に俺んとこの不潔にしか 見えない、
湯呑みを、両手で包むように 持ち、ぬるいお茶を啜った。
(カビ臭くなってないだろうか)
 俺は 冷汗 浮かべた。


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. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 13」

                     十一


「で~~~~~」
「あ、おうかがいもせず、いきなり失礼しました。私、佐久間を通して音色ちゃんとは 
親しくさせていただいてました。 我が家にご飯、食べに来てもらったり」
「そうでしたか」

14年 ワインとグレー 春馬 2 あぐら




 そういえば、この恵さんという女性は 音色のお母さんに 少し似ているかな?
「先日、佐久間から あなたが 音色ちゃんのことを、小説に書かれているって 聞きまして。
どうしてもお逢いしてみたくて」
にっこり笑った顔は とても 女らしく優しい。


根本りつ子 ペパーミント服


「それなら、ありがたいです。僕も生前の音色ちゃんのこと、もっと知りたいと思っていたところです」
「……音色ちゃんが 亡くなって、 娘を失った気分で、しょげかえっていました。
家にも、しょっちゅう、ご飯に呼んだり、一緒に、お料理を作ったり。
私どもには子どもがおりませんので、そりゃ、いつも大歓迎してましたよ」

 恵さんは 窓辺に目を泳がせ、写真立てに 目を当てたようだ。
 そこには 昨秋だったか、友達が 十人ほど集まってBBQをした時の写真が飾ってあった。
 音色が 屈託なく、トウモロコシにかぶりついている。

杏奈 笑顔



「楽しそうね。心の中は 重く悩んでいたでしょうに」


「あんなに若くで、死を選んだ 音色の心中を思うと、どうしても彼女が生きていた証を書きたくなりまして。
こんなド素人の僕ですが」
「主人が あなたの原稿を読ませていただいて、とても熱意を感じられるって申してました。
軽いセリフだらけのラノベより、よほど読ませるって」
「ご主人は 僕に 同情してくださったんでしょう」

ネクタイと 小日向 薄いスーツ



 佐久間夫人の表情が、とたんに キリリとなった。

「佐久間は 中途半端に同情で仕事を進めるような人ではありません。

私はまだ 読ませていただいてませんが。音色ちゃんのこと、大好きでした。
素直でまっすぐで、あの子のためなら 協力させていただきます」

 そこで 恵さんは 目元に手をやり、
「もう――――、もう―――、彼女には何も 届かないけれど」
 沈黙が落ちた。



空っぽになった 湯呑みの飲み残りが乾いてしまうまで、ふたりで 長い間、見つめていた。
 その通りだ。彼女には、何をしたところで 何も届かないのだ。すべて遅い。
「届かないけれど、何かせずには いられなかったんです」
「遠野さん!!」夫人が「あなたの気持ち、とてもよく分かります」
 俺の目を見つめ、両手を包んで握りしめた。

黄昏の ビル群


 陽は すっかり落ち、薄紫の帳に包まれたので、やっと灯りを点す。
 やがて、息を整えて、座った恵さんは、
「実は……音色ちゃんが 自らの命を断った理由ね。もしかしたら……」
「何か、ご存知で?」

「実はね、実はね、佐久間も知らないの。私にだけって、打ち明けてくれたの」
「いったい……?」
「亡くなる間際に 音色ちゃんは お腹の子を「堕胎」したの」
 一瞬、言葉の意味が ピンと来なかった。

 妊娠していた――――??
 あの音色ちゃんが。

<いったい、父親は、荒瀬とベテラン小説家と、どっちだ>という疑惑を
 思わず、この夫人に聞きかけたが、危うく呑み込んだ。

が、室井雄三郎とは 面識があるのか 尋ねてみた。

「室井先生。存じ上げているわ。佐久間を通してね。
室井先生と音色ちゃんが出会うきっかけになったのも、出版社の催しで、だと思うわ」

いきなり、室井作家と音色ちゃんが 直結した!!

加藤剛 黒いセーター



 思わず、室井先生と音色ちゃんのことについて尋ねてしまう。
「では、ふたりのことも。室井先生が、その……音色ちゃんと……」
「え?」
 夫人はきょとんとした。
「音色ちゃんとのウワサを聞いたのは、室井先生の息子さんとですけど……」
「息子さん―――!?」

松田翔太 指1本
(松田翔太さん、すみませんm(__)m)


「滅多なことは 申せませんけど、音色ちゃんから、
それらしきことを打ち明けられたことがあります。
室井先生の息子さんは お若いながら、事業をされていて、ご立派な方ですが……」
 この後、夫人は言葉を飲み込んだ。

 俺は 室井先生の息子と会わなければならなくなった。

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. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 14」

 しばらくして、口を開いた佐久間夫人の言葉こそ、驚愕させるものだった。

「同時に 不治の病だったの。もし、出産するとしても、無理だと、
お医者様から言われていたそうよ」
「そ、それは……まったく、気づかなかった……」

15年 黒じゃけ


 茫然と、畳の上に立ちすくんだ。
 彼女は あんなに 元気そうだったじゃないか。
「産めない身体と知りながら、妊娠してしまい、悩んだ挙句に 堕胎したのね」
「そして、それを悔やんで」

(どうして、少しでも 相談してくれなかったんだ――――!!)
 夫人のことも 忘れて 歯ぎしりして、地団駄踏みたい気分だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

居酒屋 かんぱーい


 いつだったか、俺が会社の先輩に飲まされすぎて、夜中の公園のベンチで伸びている時、
 居酒屋のバイト帰りの 音色ちゃんが いつのまにか 
俺のひたいに 冷たいタオルを置いてくれたことが あった。

「あれ……?」
「なんだか、今日は 飲みすぎだな~~と、思って見ていたの」
 音色ちゃんは 大きなため息をつき、
「飲み会も仕事のうち」なんて いうけど、無理しちゃダメよ」
「ああ、ありがとう。ついつい断り切れずに」


 上半身を起こそうとしたが、世界がぐるぐる回転している。
 またもや、ベンチに 仰向けにバタン。
「星がきれいよ。夏の大三角が 見える。目が開けられるようなら、見てみて」
 そっと、タオルの隙間から 覗くと、星空を見上げている、音色ちゃんの横顔が見えた。

杏奈 ひょう柄


「天の川から フルートの音符が こぼれてくるみたい」


 あどけないけど、星空をバックにすると、女王さまみたいに崇高だ。

 そして、いつも背中に背負っている 重そうなケースから フルートを取り出し、
 吹き始めた。

フルートを押さえる 指



 何度か聞いたことのある、優しい旋律だ。
 音色ちゃんの白い指が フルートの背を 動きまわり、ころころと音符を転がしている。

紫の天の川


フシギな恒星の画像
スマステ 出演衣装 はるま



 この夜を境に、音色ちゃんは 俺の中で、
行きつけの居酒屋のバイトの女の子ではない存在になったような気がする。
 
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. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 15」

                       十二



 数日後、俺は室井先生の息子、優(すぐる)の経営するIT会社へ訪問した。
 何度か 執拗にアポを取り、ようやく「諾」を 得た感じだ。


 都心に位置する、かなり大きなビルの中に、その企業はあった。
 シックなインテリアの客間で 待っていると、
 入室してきたのは、シャープな感じの青年だ。
 文人肌の父親とは まったく印象が異なる。

会社 黒の椅子 応接間



「室井 優(すぐる)です」
 スマートに名刺を 渡された。一介の安サラリーマンの俺は 尻込みしそうになった。
「親父から なんだか わけのわからないことを 少し耳にしましたが、何ですか」
「音葉音色という女性をご存知ですね」
「おとは??その人が どうかしましたか」


(この男、トボケて通すつもりだな)
 俺の胸の裡で、ごうごうと怒りのこもった焔が 燃え上がった。
「知らない、と おっしゃるのなら 仕方ないです。しかし、貴方自身はよくご存知でしょう。
そして、お父上から 庇われているということも ご存知のはずだ」

 優(すぐる)氏の こめかみが、一瞬、ぴりりと ヒクつくのを、
 俺は見逃さなかった。


松田翔太 指のぞき
(松田翔太さん、すみませんm(__)m)



「ボクは――――」
 彼の口から出た言葉は 音色とは まったく関係ないことだった。
「ボクの力で 今の地位を 築き上げてきた。
 父親は 小説家として偶然、成功はしたものの、若い頃は定職にも就かず、極貧生活だった。
母親も、そのために 苦労した。
 その父親から、今さら、恩着せがましく尻拭いをしてやった、などと、思ってほしくない」


 いきなり、室井父子の確執が、語られた。

「あ、あんたたち、親子間のことは 知りませんよ。音色ちゃんは あなたたちにとって、
どんな親子だったか、が 知りたいだけだ」

桜をバックの 杏奈


「汚点だ。それでしかない」


「な~~~~~!?」

いつごろ? 少し暗めのはるま




 憤怒で 目の前が 真っ暗になった。
 そんなに 血の気が多くない自分でも この火山のような 怒りをどこへぶつければいいのか、
静かな応接室の中、情景が 歪みに歪んで見えた。

 しかし、どうにかして、どす黒い熱いカタマリを飲み込んだ。



 音色の著書を一冊だけ、テーブルの上に 置いて、客間を後にした。
 彼がそれを手に取ったかどうか、読んでみたのかどうか、届けただけでいいだろう。

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. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 16」

よし!!書いてやろう!!
 もう、推測でしか書けないけど、君の心情を 慮って悔しかった思いを代って、この俺が!!

 先日、訪ねてくれた 佐久間夫人の証言が 原動力になったが、彼女に恐る恐る、訊いてみた。

じぇ 僕の11



「僕が 彼女の絶筆作品を受け継いで彼女の自叙伝みたいなのを仕上げるって、
傲慢じゃないでしょうか」
 これは、俺自身の腹の底に澱(おり)のように 溜まっていたものだ。
 すると、恵さんは、
「そう受け取る人も、世の中、彼女のファンの中には いらっしゃるでしょう。
でも、音色ちゃんのために 何かせずにはいられないあなたの思い、私には しっかり伝わってきたわ。
あなたは 自分の知名度とか の ためじゃなく、彼女が存在したことを、書き残したいだけ。
損得勘定なく。本当は 彼女をキズつけた相手にも 思い知らせよう、なんて考えは無いわよね。
そうでしょう?遠野さん、貴方の瞳を見れば分かります」

根本りつ子 にっこり



佐久間夫人の穏やかでいて、力強い言葉は 更なる勇気を与えてくれた。


 <音色のモノローグ>部分を読んでみる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 あの人のことは、本当に好きだった。
あんな奔放な、危険な香りのする人を好きになってしまった私。


それは 仕方ないこと。自分の心に正直なだけだったから。
あの遠野さんのような人を好きになっていたら、
幸せな結婚生活ができる道を歩んでいたかもしれない。
それより、むしろ、取り返しのつかないことは、赤ちゃんの命を断ってしまったこと……。

杏奈 泣きそう?



赤ちゃんには 何の罪もなかったのに。
どうしても産んであげられなくて、申し訳なくて―――。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 いきなり、俺の名前が出てきて、ドギマギしたが、更に、
 絶筆原稿の中から 俺の記述が 少し見つかった。彼女自身が書いたものだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 居酒屋のバイトで 知り合った遠野さん。お客さん。
 若いサラリーマンさん。
 いつも先輩たちのグチに付き合ってるけど、ちゃんと、聞いてあげてる。
 えらいなあ。先輩は酔っぱらってるかもしれないのに。

 ああいう人を、お人よしというのね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 またもや、最後の一行で 打ちのめされたような?
 気持ちを奮い立たせて、また、俺はキーボードに向かう。

マッターホルンと星空


PCキーと 原稿用紙と手


 何回も何回も 佐久間編集長から、ダメ出し出され、書き直すうちに、
文章書くのが苦手だった俺が 楽しくなってきた。
 仕事から帰ると、早メシぶっこんで PCに向かった。

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. 三浦春馬 イメージ小説 「宇宙の果ては ここにある 17 完。 」

                  十三

 数か月後、その作品は 「宇宙の果ては ここにある」
という、タイトルで、電子書籍で 出版された。
 突然、この世から いなくなった新進作家の最後を読めるというので、
かなり多くの方が読んで下さったようだ。
 にわかにペンを取った俺の稚拙な文章で、スキャンダル暴きにしか受け取られなかったら、
仕方ないが。
フルートの音色が 届いたかどうか。
 感じられる人にだけでいい。

香港かな 雑誌を かざして
(雑誌じゃないでしょ、すみませんm(__)m、福山さん)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ある日、佐久間編集長が 一冊の本を持ってきてくれた。
 紙質の本になった 「宇宙の果てはここにある」だった。
 装丁も、彼女が描いた海が 描かれていて、青さが 心に沁みるようだ。
「彼女の希望は、海葬だったね。だから、少部数だけ本にした。
この本、海へ投げて、彼女へ届けてあげてほしい。遠野くん」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  <本の最後の文章>

 彼女が俺に伝えてくれたものだった。それをそのまま、書いた。

桜をバックの 杏奈


『 宇宙の果て。それは 気が遠くなるほど、遠いように思っても、自分の心の中にあるの。
いつでも――――。
宇宙の果てって、今まで自分を見守ってくれた人たちの魂だと思うから。
だから、私は 遠くになんか いっていない。あなたの心の中にいます。

 今こそ、ありがとう。
 私なんかのことを、そっと思いやってくれたこと。
 気がついていたわ。ありがとう。それだけ』

ヨット浮かぶ 青い海


 このラストを 著わした本を 俺は生まれ故郷の海辺へ行き、岬から空へ向かって、
力いっぱい、投げつけた。


 グラン・ブルー葬という、海に流して。。。。
 この弔い方を 彼女は希望していた。


 本は 空へ小さく溶けてゆき、やがて 小さな潮騒の中へ消えていった。




   <終章>

 やがて、俺のブログに一通の書き込みがあった。
 匿名で。

「音葉音色の最後の作品読みました。
後半は遠野さんの受け継ぎで 代筆だそうですが――――、
彼女のお腹の子の父親は私です。
 悔いて悔いて、何十回、何百回、悔いても自分が 許せません。
 一生、彼女のことは 忘れず、二度と同じことを繰り返さず、
十字架を背負っていきます」



 これが 誰なのか、は、もはやつきとめても仕方のないことだ。
 本物かどうかも分からない。ふざけた書き込みかもしれない。
 俺は 言葉を選びながら、そっとレスを書き込んだ。

「音葉音色は いつも あなたの笑顔の側にいたいのです。
あなたの泣き顔の側ではありません」
 書き込んでから、俺自身、笑顔でいなきゃな、と、思った。


 音色ちゃんの 生死に 関われたこと、片思いだった俺には もったいないような
タナボタだったと思う。

 こんなに、躍起になって 音色ちゃんの小説を仕上げたかったのは―――

 俺の大切な人を 自死で 亡くしてしまった過去が あるからだ。

14nen 3月 SODA


 俺こそ、一生、この十字架を背負って生きていかなければならない。
 それが、彼女への 償い、レクイエム。

 俺が俺で あることの 証し。


プラタナス 花つき画像


 窓の外には、音色の大好きだった初秋の風が街路樹 
プラタナスが、大きな葉を銀色になびかせはじめた頃だ。
 
                                              完。


 <イメージ>

 遠野翔馬 ――――――― 三浦春馬
 
 佐久間編集長 ―――――  小日向文世
 佐久間夫人、恵 ――――― 根本りつ子


 荒瀬礼司 ――――――― 井浦 新

 室井雄三郎 ―――――― 加藤 剛
 室井 優(すぐる)―――― 松田翔太

   音色の母 ――――― 賀来千賀子


 音葉音色(おとは ねいろ) ―――――石橋杏奈


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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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