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浪漫@kaido kanata

. 小説「中天より地平へ」 第8回

(三)夜襲

 春というよりは、初夏の匂いが応天府をつつみはじめた頃、南の離宮から二台の花嫁の車が出発した。一方は公主、玉綸がタタールへ向かう地味な車であり、もう一方は奏姫が王宮へ向かう四頭立ての晴れやかな厭翟車である。
 倭国からの初々しい花嫁は、都大路を進み、観衆の祝福を受けながらその日の正午には王宮に到着し、そのまま皇太子の待つ後宮に向かう。
 公主、玉綸の一行は、数十人の供の者とおびただしい貢物を従えて西北へと旅を始めた。王天府の城門をくぐれば景色は一変して広大な田園地帯だが、一日歩きづめると人家も稀な荒地であり、最初の宿は寒村の中の大きな農家が割り当てられることになっていた。

 「公主の一行はまだ見えぬのか」
夕暮れの中、小高い丘の上からその農家を見下ろしつつ臥龍は訊いた。
「はい。いまだ」
すぐ傍らに控えている年若い桂靖が答えた。その後方には二十人ほどの黒装束の男がそれぞれに逞しい馬を連れ、息を殺してじっと待機している。
 臥龍自身も、そりの深い重そうな剣をいつもと同じようにたずさえてはいるが、冠も脱ぎ完全な黒装束に身を固めている。それは錦衣衛官などのいでたちでなどはなく、もっと粗野で荒々しいものである。
「都の様子はいかがであった」
臥龍はまた桂靖に訊いた。
「北平より戻った永楽帝も参列し、皇太子と奏姫の婚儀は無事に済みましてございます」
「そうか」
臥龍はふと離宮の桃の庭で出会った奏姫のことを思い出した。気丈そうな強い視線を放つ瞳。砂漠にも行ってみたいなどという無邪気な姫。だがその夢はもう叶えられぬのか。…後宮に入った女子は死ぬまでそこを出られぬ。
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                                        (イラスト ・.まもと鶴 )
いつしか空は濃い紫に染められようとしていた。それにつれて星の数も増え、やがて漆黒の空に無数の宝石が煌きだした。春にしては突き刺すように鋭い光が満天にちりばめられ、まるで南の朱雀、北の玄武、東の青龍、西の白虎をはじめとする天の神々が一堂に集っているようであった。
 丘の上の男たちは、青白い星明かりを浴びながら、相変わらず息を潜めている
「臥龍さま」桂靖がためらいがちに臥龍にだけ聞こえる声で話した。「何故、玉綸公主さまを奪おうなどと」
臥龍は振り向き、桂靖の一途な瞳を見てとると、
「公主が欲しいからじゃ」
「は…?」
「わしの大切に思う娘をタタールなんぞにくれてやるものか」
「また、そのような嘘を」
「お前が嘘と思うても真なのだから詮ないのう!」
そう言って臥龍は高笑いをした。
その時、背後から鋭い声が飛んできた。
「公主の行列が見えました!」
臥龍は反射的にそちらの方へと眼を走らせた。黒々とした地平の、少し手前からちろちろと燃える松明が幾重にも連なって近づいてくる。それはまるで天からこぼれ落ちた星が、地上を輝きながら転がってくるようであった。

臥龍の見つめる先から、列がゆっくりとこちらに近づいてくる。次第に、松明に照らされた人、馬…そして公主の安車が暗闇の中に浮かび上がってきた。一行は、いままさに自分の眼下を通りすぎようとしている。その表情は和らいで見える。今晩の宿を目の前にして、安堵しているのだろう。

「臥龍さま」
桂靖が声をかけたと同時に臥龍は馬に乗り、さっと右手を挙げて中天を指した。
「行くぞ!」
その手が振り下ろされるやいなや、馬に乗った黒装束の男達は、臥龍を先頭に一斉に急斜面を駆け下り、行列の横腹に突っ込んだ。

「龍頭賊だ!」
「龍頭賊の襲撃だぞ!」
斬りかかってくる役人たちの剣を巧みにかわしながら、男たちは松明の先を切り飛ばした。明かりが消え、暗闇の中、人馬が入り乱れ、侍女たちの甲高い悲鳴が上がった。臥龍はその虚をつき一目散に公主の車に近づくと、車につながれている二頭の馬の尻に鞭を打った。馬は眼をむいて嘶き、猛烈な勢いで駆け出した。臥龍は、すぐさまその後を追った。

公主の車がさらわれたと知った役人たちは慌てふためき、それを追おうと馬にまたがった。が、みな、次々と地面にころげ落ちた。龍頭賊らによって、馬の手綱や鞍が断ち切られていたのである。 そして、従者の一人がようやく松明をかざした頃には、公主の車も、黒装束の龍頭賊たちの姿もなく、馬蹄さえも既に聞こえなくなっていた。

 安車をうばって、そのまま二里ほども走らせただろうか、臥龍はようやく車を止めた。いきり立つ馬をなだめると、安車に向かって声をかけた。

「無事か、玉綸!」

 しかし、中からは何の返答もない。「玉綸、痛々しい…あまりの恐怖に気を失っているのであろう。」臥龍はそう思うとたまらずに簾に手をかけた。
 と、いきなり短刀を持った白い腕が眼前に飛び出してきた。
「玉綸?!」
切っ先が耳元をかすめた。臥龍は娘の手首を押さえ、その顔を覗き込んだ。

「玉綸ではない…!」

鋭い視線が臥龍の顔を射る。

「そなたは…」
桃の中で会ったあの激しい眼が臥龍を見ていた。そして、彼女もまた、臥龍との再会に驚きを隠せずにいた。

ふたりはしばらくの間、微動だにせず、見つめあっていた。

=====<中天@編集部作品>=====
原作・監督・総指揮・キャラクター原案 ...海道 遠(YUB)
校正・脚本・演出 ... 真先裕
リライト・挿絵 ...まもと鶴


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~もうひとつの中天~ BYまもと鶴

「謎の発言」

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「江戸を斬る」のファンだったのだろうか臥龍?
若い桂靖にはその発言を怪しげな趣味としか受け取ることができなかった。
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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
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