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浪漫@kaido kanata

. 小説「中天より地平へ」 第7回

「臥龍と申される錦衣衛官をご存知ですか!」
部屋に飛び込むなり話しだす奏姫に、窓辺に立っていた玉綸は驚き振り向いた。小さく返事をするのがやっとである。
「いいえ」
「たった今、お会いいたしました。随分と失礼なお方です」
「そのようなことは…錦衣衛官といえど、こちらに役人など入ってはならぬ筈です」
「まあ」
では、彼は許しも得ずに奥庭まで入り込んだのだろうか。あの口ぶりでは庭の造りを全て頭に入れているかの様子…既に何度も…?
「どこまでも図々しいお方!」
奏姫は最初の印象よりも彼を鼻につく存在に思えた。
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                                         (イラスト・まもと鶴)

やがて、徐々に頭が冷えてくると、奏姫は玉綸が涙ぐんでいることに気がついた。しかし、彼女はそれに気付かれまいと、袂で涙をぬぐいながら平静を装おうとしている。その部屋には男物の香のくゆりがほのかに残り、卓上には酒盃が置かれてあった。
「玉綸さま」奏姫はおずおずと尋ねた。「どうかなさったのですか」
固く結ばれた唇が大きく震えたかと思うと、急に玉綸は泣き伏した。
「私は…私はとても奏姫さまのように強うはなれませぬ」
「え?」
「十日後、私は北方のタタールの王朝に嫁ぐ身なのです」
「何と」
タタールは明王朝に追われた蒙古族が打ち立てた新しい王朝で、明とはことごとに衝突し、永楽帝の軍をてこずらせていた。砂漠を遊牧しながら生活する騎馬民族で、習慣も、性質も、人種も、明国人とは根本的に異なっていた。その王朝に玉綸が輿入れするという。
「永楽帝さまがタタールとの和平の為にお決めになられたことです。いやとは言えませぬ。建文帝の妹であるこの私を生かしてくださったのですから…でも、でも、どうしてもお別れしたくないお方が…」
 先ほどまでこの部屋に訪れていたらしい玉綸の恋人のことであろう。それにしても普段、物静かな公主をこれほどまで痛々しく震わせる相手とは誰なのであろうか。玉綸はやがて頭を上げると小さく、しかししっかりと言った。
「全てお話いたします。私のお慕いしているお方は皇太子さま」
「永楽帝さまのお跡継ぎ…」
「愚かな女とお思いでしょう。兄帝を倒した人の息子を愛するとは」
「いいえ。でも…」
私には解りませぬ…と奏姫は思った。無論、見知らぬ民族のもとへ政略的に嫁がされる玉綸を気の毒には思う。しかし恋うる為に流す涙…その心情が解らない。
「お許しくださいませ、奏姫さま」
玉綸は言った。
「何ゆえ、玉綸さまが私に侘びなど」
「奏姫さまは皇太子さまのもとへお輿入れされる身。なのに、こんなことをお聞かせして…」
「え?」奏姫は思わず問い返した「何と申されました?玉綸さま」
「でも、皇太子妃になられるのが奏姫さまなら…諦めもつきます…」
「私が皇太子さまの妃に?何かのお間違いでは」
奏姫の声は震えていた。玉綸は茶色い瞳を不思議そうにまたたかせ、
「姫さまは私と同じ十日後にお輿入れされるはず。そのために倭国から渡ってこられたのではございませぬのか」
「いいえ、そのような…私はただ祖父の書状と献上品を…!!」
奏姫は次の瞬間、あっと叫んで立ち上がり、遮二無二自分の寝所へ走ってゆき、明風の寝台の枕元にあった文箱の中の書状を取り出した。倭国を離れる時から今まで書状を開いたことはなかった。使者とはいえ、祖父より永楽帝に宛てた書状を見ることなど、はばかられたからである。
「我が孫娘、御帝のお側に献じ…」
紙面には濃い墨ではっきりとそう書かれていた。長く巻かれた書状は、奏姫の手から流れ落ちた。
祖父、義満は急に自分の明国行きを許した!
母は毎日泣き暮らしていた!
寧波からは自分ひとりしか応天府入りを許されなかった!
数々の出来事が自分の輿入れをうなずかせた。呆然と立ち尽くす奏姫の耳の奥に、先程庭で会ったあの臥龍の言葉が何度もこだました。
----------見たい…行ってみたい。それだけの理由ではるばる船旅を?

=====<中天@編集部作品>=====
原作・監督・総指揮・キャラクター原案 ...海道 遠(YUB)
校正・リライト・挿絵 ...まもと鶴


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~もうひとつの中天~ BYまもと鶴

タイトル「奏姫、あなたが失礼ですよ」

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> 「臥龍と申される錦衣衛官をご存知ですか!」
部屋に飛び込むなり話しだす奏姫に、窓辺に立っていた玉綸は驚き振り向いた。小さく返事をするのがやっとである。
「いいえ」
「たった今、お会いいたしました。随分と失礼なお方です」

絵は...ここのツッコミです
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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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