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浪漫@kaido kanata

. 小説「中天より地平へ」 第3回

 街では湧き出すような沢山の人々が、道の両側に立ち止まって奏姫の一行を眺めた。人々の風俗も、土壁の家屋も家畜も姫の目を輝かせた。
ひとつ、街を過ぎると、広大な田園風景である。青々とした苗が大河より汲み上げられた水でうるおい、風の波紋を描いていた。
 奏姫は道中、何度も懐の書状と短剣を握りしめた。剣は日本を発つ時に母から手渡されたものである。無論、護身用のためではあったが何事かあった時に恥をさらさず潔しとせよとの武士の教えであった。...しかし、のどかで美しい大地は自分を歓迎してくれているとしか思えない。
 奏姫は自分の謁見する永楽帝とはどんな人物であろうと思いめぐらせた。

 明国はまだ若い。元王朝末期の混乱期、貧農の身から紅巾軍に入り、やがて明の太祖となった洪武帝が没してまだ十数年である。当時、跡を継ぐべき皇太子は若くして既に亡く、その息子の皇太孫が即位し建文帝となった。弱冠十五歳であった。
 彼は詩や音楽を愛する風流人でありこそすれ、政治家には不向きであったといわれる。太祖・洪武帝の息子たち-----つまり叔父たちの謀反を恐れてそれぞれを遠方の領地に封じ込め、それでも安心できなかった若い皇帝は彼らの取り潰しにかかった。
 最後に残った北方領の燕王は今度は自分の番だと思った。そうでなくとも洪武帝からは皇太子をしのぐほどの寵愛を受け、蒙古討伐でも勇名を馳せていたのである。そのうちにつまらぬ口実で王位を取り上げられよう。その前にこちらから-----。
 燕王は建文帝に叛旗をひるがえした。靖難の変である。
建文帝もこれを受けて立ち、形勢は五分と五分のまま叔父と甥の骨肉相食む闘いは四年に及んだ。
 しかし建文帝の行政に不満を持つ宦官が燕王側に内通し、建文帝側の内情を遂一洩らしたため、応天府に総攻撃をかけた燕王は遂に都を陥落させた。
 宦官とは元々、皇帝のみのまわりを世話する役人であるが去勢されていたため、人としての扱いをされない。彼らの不満は鬱積し、皇帝をも失墜させる毒に成りうる。今までの王朝の歴史がはっきりとそれを物語っている。それをよく知っていた太祖・洪武帝は宦官を臣の如く広く重用したが、彼らの取り締まりも忘れなかった。その後建文帝が一層取り締まりを強化したため、宦官たちの反感を買ったのである。
 ともあれ、燕王軍は応天府を占領し、燕王は第三代永楽帝として即位した。一方、建文帝は落城と運命をともにしたといわれたが、城中の何処にも彼の遺骸は発見されなかった。ある噂では、建文帝は落城寸前に僧侶に姿を変えて脱出を謀り、行方をくらましたとも言われていた。
 根拠などある筈もなく、そんな噂もいつしか人々に忘れられ、永楽帝治世九年を迎える。
 永楽帝はますます宦官を広く使い、取り締まるどころか彼らを役人の長官にまで就かせている。
 奏姫はこれらのことを明の商人から耳にしていた。
 
奏姫にとって、大陸を何十万という兵に駆けさせる永楽帝も建文帝も雲上の人であったが、風雅を愛したという建文帝に心惹かれるものがあった。もし、靖難の変での勝者が建文帝ならこれから奏姫が謁見するのも彼の筈である。
実の甥を倒して帝位についた永楽帝が、奏姫にはやはりそら恐ろしく感じられた。

やがて、行く手に応天府の長い城壁がみえはじめた。


 =====<中天@編集部作品>=====
原作・監督・総指揮・キャラクター原案 ...海道 遠(YUB)
校正・リライト ...まもと鶴


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「番外人物往来編」 ① ~BY@編集部~

本編には登場しませんが、気になる人物を追ってみるこのコーナー。
第1回目は「永楽帝」。

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イラスト・まもと鶴

永楽帝(成祖) 1360~1424
本名・朱棣(在位1402~1424)文帝による諸王領削減に反対し、斉泰・黄子澄を除くことを名分として起兵した(靖難の変)。四年にわたる激戦の末、南京を落とし、帝位を奪った。北方経営を重視し、北平を北京と改め、五回にわたって漠北(韃靼)に親征した。七回にわたって鄭和率いる大船団を派遣して、東南アジア、インド沿岸、アラビア、アフリカ東岸の諸国に朝貢を求めた。永楽十九年(1421)、北京に遷都する。

絵は、肖像画からアレンジした妄想であってフィクションです。
日本ではいまひとつ馴染みが薄い方ですが、中国のドラマでは結構登場されているようですよ。
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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
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家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
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技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
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