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浪漫@kaido kanata

. 「遠雷 去らず」第8回



       第 五 章


 実は、頼経上洛と共に、光村も険非違使にも任命されていた。
 無論、頼経も承知の上である。
 しばらくは、京に留まって任務につかなければならない。
「その方なら無事に任務を遂行して戻るであろう。余はひと足先に鎌倉へ戻るが、おおいに励むがよい」
 この主の言葉に、光村は腹を据えた。
 険非違使庁に毎日、出仕して務めに励む日が続く。
 だが、この荒れすさんだ京の街をどこから手をつけて若輩者、その上、よそ者の自分がどれだけの功績を上げられるのか、途方に暮れた。
 毎日、些細な事柄に対処していくしか仕方がない。
 生来、短気な光村は、自らがじれじれといたたまれぬ焦燥を抱いているのを感じながらも、どうすることもできなかった。
 毎日の任務だけでも、げんなりするほどの量であるのに、不快な風聞が耳に入ってきた。

 光村を最初に怪訝にさせたのは、周囲からの刺すような視線である。どうも、不愉快極まりない。
 同僚の信頼できそうな武士に尋ねてみた。
「皆、私のことを毛嫌いしているような気がしてならぬ」
「気のせいであろう」
「教えてくれ、そなたを信じて尋ねている。我ら三浦一族の者は、この険非違使庁では、どう思われているのか」
 何度も話をはぐらかそうとした同僚だったが、ついに根負けして白状した。
「なら、言おう。そこもとの父上、三浦義村氏は世間では『友を喰らう三浦犬』と噂しておる」
「な、なんと!?」
「あの、和田義盛の件じゃ。義村氏は和田氏に協力すると約束したが、最終的には和田氏を裏切り北条氏を援助したそうではないか。それに……」
「それに!?」
「源実朝公暗殺の際にも黒幕だったと聞く」
「なに―――!?」
 光村は目の前が真っ暗な思いに陥った。
 父、義村の考えが解からなくなった。いったい父は北条を憎んでいるのか、味方しようとしているのか、自分は彼にとり、どういう立場で動かされているのか……。それとも、三浦一族が生き残るためには仕方ない手段だったのか?今すぐにでも鎌倉へ帰り、父を問いただしたい衝動にかられた。


  『友を喰う三浦犬』


 この言葉が光村の脳裏から離れずに渦を巻いていた。
 呼応するように家路を急ぐ馬上に、秋の荒れた嵐を予感させる生暖かい強風が殴りつけるように吹いてきた。
 最初から『得宗家』に敵対する家に生まれたのだ。
 波乱に富んだ幼少時代、、話にきいている承久の乱のことも。世間から反感を買っていることも。

 しかし、この日に光村の胸に突き刺さった言葉は、どう頭を冷やそうとしても、暗澹たる思いから抜け出ることはできなかった。
 逗留している武家屋敷で、夜更けまで書物を広げる格好だけ整えて物思いに耽っていると、小さな足音が廊下をパタパタと駆けてきた。
 障子を開けてみると、なづなが驚いて白い子犬を抱きしめて立ちすくんでいた。大きい眼(まなこ)がよけい見開かれている。
「ごめんなさい。こまわかが、こちらまで駆けてきたのであたい、夢中で追っかけてきて」
 少女の最後の言葉まで、光村は言わせはしなかった。
 いきなり抱きすくめて部屋の中へ引き入れ、障子をピシャリと閉めた。


武家屋敷 室内より 障子

「殿さま……」
 子犬が驚いてどこかへ逃げていく。
 光村の力強い腕は、すでに少女の華奢な身体の自由を奪い、畳に押し倒し、甘い陽射しの香りの残る髪の香に溢れた首筋を吸っていた。
 なづなは最初、抗おうとしたが、やがて、その力は萎えた。


「殿っ!」
 仙吉の騒々しい叫びがある明け方、まだ床にいた光村を眠りから引き剥がした。
 身を起こすと、障子の向こうに仙吉の小柄な身体が映っている。
「何事じゃ」
「なづなさまのお姿がどこにも見当たりません」
「あれなら、しょっちゅう屋敷を抜け出してその辺りをうろついておる。心配はない」
「しかし、殿、お部屋には殿がご用意された小袖がきちんとたたまれて、お部屋も片付いておりますぞ」
(まさか……)
 思い当たる節がある光村は、仙吉に命じ数人の配下の者をなづなの捜索に当たらせた。


女の子 草むらの素足

 やがて、出仕していた庁から戻ると、薄汚れたなづながこまわかを抱きしめたまま、小部屋で待たされていた。
 光村は心底、安堵した。
「なづな、そう心配させるものではない。何故、黙って出ていったりしたのじゃ」
「それは…」
恨めしそうに、なづなは光村を敵意さえ含めた視線で見つめた。それは殿が胸に手を当てて考えて下さればお解かりのはず。視線はそう言っている。
「……」
 返す言葉が無かった。獲って喰ったりはせぬ、と言ったのは、光村自身である。
 しかし、戻ったなづなの姿は、貧しい小袖がドロで汚れているばかりでなく、あちこちが裂け、何がその身に起こったのか、想像に難くなかった。
「怪我はないか」
「……」
 光村を睨みつけていた、なづなの瞳がすうっと閉じられたと思うと、その場に倒れこんだ。
「なづな!」
 薬師の診立てによると、なづなは身ごもっているという。なづな自身、それに気づいて屋敷を出ようとしたのだろう。

 晩春のやや強い陽射しが包み込む座敷、肌触りの良い夜具の中でなづなは目覚めた。
 傍らには、光村が座していた。
 みとめるなり、なづなは、ぷい、と逆の方向を向いて寝返りをうった。
 光村はその前髪に手を伸ばし、艶々とした黒髪を撫でた。
「こまわかは……」
「庭でそなたの元気な姿を待っておる」
「……」
「辛い思いをさせたな。無理矢理、野の花を摘みとったのは、私の落ち度じゃ」
「殿の気まぐれで、命を得たこの子はどうなるのじゃ」
「安堵するするがよい。決して不幸にはせぬ。母子共々、鎌倉へ来るがよい」


白い子犬(少し大きい)

 やがて、焦れたこまわかが座敷に飛び込んできてなづなの頬を舐めまわした。
「これ、くすぐったいったら、こまわか!」
 光村はその様子に胸を撫で下ろして、そっと座敷を後にした。

 数ヶ月の後、光村の元になづなが男子を産み落とした報がもたらされた。光村の嫡男にあたる。


赤ちゃんのねんね



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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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