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浪漫@kaido kanata

. 「遠雷 去らず」第3回

 対して、幕府の方も手をこまねいてはいなかった。
 北条政子の名演説は有名である。


鎌倉時代の上流女性。

(尼姿の思うような画像が見つからないので、これで勘弁してください)

『故、右大将(頼朝)の恩は山よりも高く、海よりも深いはずだ。逆臣の讒言(ざんげん)により非義の論旨が下された。秀康、胤義を討ち取り、亡き三代将軍の遺跡を全うせよ。院に味方したい者は、直ちにその旨を述べて参じるがよい』
 この、政子の口角泡を飛ばした、眼を血走らせ、涙を迸らせた叫びに近い演説で、幕府は御家人を結集させることに成功する。
 出撃が政子によって発せられ、京方と幕府軍は激突の上、各地で大乱戦となった。
 結局、京方が破れ、後鳥羽上皇は隠岐島、順徳上皇は佐渡にそれぞれ配流された。それぞれ上皇に味方した公家らも処分され、後堀河天皇、即位。
 西園寺公経が内大臣に任じられ、朝廷を主導することになる。
 京方の公家、武士の所領の膨大な地域は没収され、幕府方の御家人に分け与えられた。
 これが「承久の乱」の概要である。
 つまり、三浦義村は両軍を手玉に取り、生き逃れたと言えようか。



 一二二三年、、光村は父親に呼ばれた。
 秋も深まり、空の蒼が深くなった頃である。
 父の義村は、息子を近くに呼び寄せ、扇を口元にあてて小さい声で言った。
「実はな、そちに藤原三寅公の近習にならぬかという話がまいっておるのじゃ」
 思いがけない言葉だった。
「藤原三寅公……ですか」
 藤原三寅といえば、光村より十三歳ほど年上で、二歳の時に京から鎌倉へ次期将軍として京の九条家より迎え入れられた青年である。
 京の九条家、道家と西園寺家の娘、倫子(りんこ)の子として生まれた。
 健保七年(一二一九年)源実朝が暗殺された後、鎌倉幕府は皇族を将軍に迎えようとして、有力御家人一同が連署した上奏文を携えた使者を送ったが、後鳥羽上皇に強行に拒否される。そのため、源頼朝の同母妹(坊門姫)の曾孫にあたる頼経が鎌倉に迎えいれられたのである。
 光村は他家へ修行中も政情の噂は幼い頃からよく耳に入れていた。
「そうじゃ。そちもよう存知おろう」
「北条義時どのと政子どのの担ぎ出された傀儡(かいらい)将軍になられるお方ですね」
「これっ!そう、はっきり申すでないっ」
 父親は顔をしかめた。
「私がその三寅公の近習に?」
『得宗家』執権政治に対する勢力である三浦氏にとっての画策であることは推測できた。少しでも『得宗家』の反勢力の力を強めたいのだ。


 有無を言わせず、三寅の屋敷へ参上する日が段取りされた。
 出仕するのは光村だけでなく、北条高時、結城朝広という少年も同時だった。
 光村は生まれて初めて訪れる豪壮な建物に緊張しながらも駕籠から降り、玄関へ一歩踏み込んだ。
 三人の少年は長い廊下を何度も曲がり、主の小さめな謁見室へ通されるとしわぶきひとつ立てずかしこまって座った。
 やがて三寅が奥から現われたので、三人は平伏した。
 光村がそっと眼を上げると、三寅は細身の青年である。いかにも御曹司という涼やかな目元の風貌だ。
「これはこれは、三人ともまだまだ若いのう。その方は」
「三浦三郎光村と申します」
 光村は固くなってもう一度頭を下げた。
「余の名の由来を存じておるか?寅年、寅の日、寅の刻生まれだからじゃそうな、三寅という」
 三寅は豪快に笑った。塊儡将軍にさせられる人間と思えぬ明るさと爽やかさを併せ持っている。
「どうじゃ、その方ら、余の近習になる覚悟はできておるか?引き返すなら今のうちじゃぞ」
 青年らは、やや躊躇の色を見せたが、光村だけは迷うことなくかしずいた。
「公の仰せのままに」
 心から、そう思った。この好青年との出逢いは、宿命を意味しているものと、不思議にも光村は感じ取っていた。


 それからは何かというと、三寅は光村を三人の新参の近習から特に供に連れ出し、公私ともに過ごした。どうやら三寅も光村の素直な気質を気に入った様子である。
 程なくして、尼将軍、北条政子から三寅に書状が届いた。
 それは、三寅から次期将軍としての権限をいっそう削り取る命の権限だった。
 三寅は、形相を変え、いかにも忌々しそうに光村の目の前でそれを破り捨てた。
「九条家と西園寺家からの援助を一切断ち切れだと!?あの女ギツネめ!」
 両家共に、三寅の父母の出身家である。そうしてまで尼将軍は、傀儡将軍をより堅実に自らの手足にしたいらしい。
 三寅の自尊心の傷つきようも、光村には、よく感じられた。
 しかし、尼将軍からの書状を破り捨てた行為は、他の家臣一同もはっきり目撃している。
(まずい)
 そう思った光村は、咄嗟に言い放った。
「今、この書状を破り捨てたのは、この三浦三郎光村である!短気ゆえの不始末じゃ!皆の衆もその目で確かめられましたな!!」
 光村の迫力に、家臣たちは度肝を抜かれて、後になってその底にある光村の気持ちを察したのだった。

 後日、それを耳にした三寅は短慮だった自らを責め、いっそう光村を信頼するようになった。

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
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家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
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技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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