
「つまり男は生まれてまもなく自らの柩を引き取り、自らの柩をはぐくみ、いとおしみ、自らの柩を娶って苦楽を共にし、生を全うするってわけか」
それを聞いた旅人などはまず、皮肉めかしてそんな口をきくか、二の句が告げずに目を白黒させているかのどちらかだが、共に頭の中は今までの物事の序列を根底から覆されて大混乱に陥っていることはまず、間違いない。それほどに、樹魂大陸に棲む樹魂人種の一生はその時代の人々にとってもとびきり奇異であり、夢物語のようであったのだ。
男は果実より生まれ、生を全うして後、女の子宮に回帰してゆき、女は人の腹より生まれいで、生を終えて後、果樹の根元へ回帰していくといういにしえよりの神秘の大陸である。人々はまるで樹に咲く花々のように短い命を燃やし、次の世代を結実してゆく。連綿と続くその掟を、樹と人間が渾然一体となって繰り返している。しかも男は枯体から若者に、そして女は若き身体より老いて男とは逆の人生を辿り、双方は交差する人生のつかの間のあいだだけを夫婦として暮らす。その煌く時間を、あるいはその在り方を、樹魂の人々は呼ぶーーーーーーCROSSと。
一 樹魂の女
俺がそれを思い出すのはいつだって唐突だ。
ある時は暖炉の側で編み物をする母親の足元で積み木遊びに興じている時だったりする。
「ラズレイって誰?」
俺の片言に、聞き取れない母親は蕩けるように微笑む。かくして答えは得られない。
―――――また異なる時代、
出撃十五分前、慌ただしい廊下の軍靴の響きを耳にしながら司令室の脇の小部屋で肩章の上に女性上官の白いかかとを乗せ、ひと仕事の真っ最中。
「む」
突然、頭の中にそれは閃く。
「あン、やめないで。今やめたら懲罰房行きよ」
「・・・・了解」
彼女の中に強力バズーカをぶっ放しながら、俺はそれを反芻する。
(ラズレイはどこだ)
――――――また時を隔て、
その時の俺は臨終五分前。白いシーツの中から枯れ木のような腕をやっと持ち上げ、
(ラズレイ・・・)
声を出そうとしても唇がかすかに動かせたかどうか。見守る老妻や息子、娘、孫たちの顔が闇に没していく・・・・。
――――――また別の人生では、
毛むくじゃらのゴリラグモのような男を相手に、薄汚い場末のホテルで春をひさいでいる時。
「おっさん、ラズレイって奴、知ってるか?」
「知らねえな。おめえのイロかい、坊主」
俺は首を振って諦める。
――――――また、遠く隔たった国でのこと、
ぽかぽか陽気のプールサイドで籐椅子に身を伸ばして新聞を読みながら、芝生の上でふざけあっている幼い息子たちの歓声ひとしきりの瞬間、脳裏を突き抜けるその名。
「どうしたの、ダディ」
「ん?ああ何だった、テムシド」
「何回呼んだと思ってんの、もういいよ」
俺はまたぼんやりとプールの光踊る水面に見入る。
ラズレイーーーーーラズレイーーーーーー
恋うる相手か、永遠の敵か、師か、庇護するべき者か、はたまた仇なのかーーーーーー。
それが誰なのか、俺という人間にどう位置するのか全く判然としない。だが、いつの人生においても奴を見つけ出し、奴に関わっていくことが俺の生まれてきた理由、生を授けられた使命だと確信できるのだ。そしてそれを成し得ぬうちは未来永劫、俺の孤独な彷徨が終わる事がないだろうということもーーーーーー。
ラズレイ・・・・奴もまた、俺の名を知っているのだろうか。
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