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浪漫@kaido kanata

. 小説「碧き琥珀に眠れ」第8回

カトレヤ、レリア、ブラッサボラ、エピデンドラム、ソフロニティス、ブロートニア、カトレイトニア、レロニア――――――。
 何種類もの蘭が華麗なギヤマンの中で熱され、混ぜ合わされ、芳醇な香りを放つ。
 深夜、マドカの天幕ではキャスケードに蘭の催眠術がかけられようとしていた。
 渋っていたマドカだったが、最近、竜蛇の戦士を見かけるたびに様子の変なキャスケードを見て、ようやく重い腰を上げたのだった。
 「かわいそうなキャス。よほど竜蛇が嫌いなんだね。私がその苦しみを取り除いてあげるよ」
 かくしてリダを立会人に、催眠術が始められることになった。
 馥郁たる蘭の香りを嗅がされると、若者の瞼はとろりと落ち、上体がゆらゆらと揺れ始めた。
 マドカは静かに質問を始めた。
 「楽にして。・・・・名前は?」
 「キャスケード。ガキの頃からダチがそう呼んでた」
 うって変わって快活な声だ。マドカとリダは顔を見合わせた。
 「親は?」
 「ねえ」
 「生まれは?」
 「知らねえ」
 「いくつ?」
 「多分、十九か二十歳」
 「何が見える?」
 「ゴミタメの貧民窟」
 「それはどこの町?」
 「・・・・・・」
 「他には何か?」
 「・・・・・・」
 沈黙が色褪せる頃、突然、
 「ジャレツ・・・・」
 「え?」
 「俺の相棒ジャレツ。いつも一緒だった。あいつのためなら俺は鬼神にだって喜んで喰われてやら」
 「誰よ、それ!まさか女じゃ・・・・」
 マドカがぴりぴりと詰問しようとしたが、
 「ちょっと、マドカ」リダが引き止めた。「ひょっとしてこいつ・・・」
 「何よ」
 「だって、ジャレツって名前の女はいないだろ。そういえば、めちゃ、男好きするタイプじゃないか」
 「よしてよ!」
 心当たりがないでもないマドカはムキになって否定した。イスを倒して立ち上がった拍子に、キャスケードがうめき声を発した。
 「アンバーヌ、アンバーヌ、やめろ、爺い、アンバーヌに触るな!」
 がらりと様子の違う緊迫した声色だ。マドカは仰天した。
 「どうしたの、キャス!」
 あごががくがくするほど揺すぶると、ようやく彼の眼が開いた。
 見慣れているはずのマドカがどきりとするような深い光を湛えている。
 「アンバーヌって誰?恋人?」
 「・・・・・・」
 光が消え、若者はそれきり元の憂いを秘めた記憶喪失者に戻った。
 「やれやれ、とんだ疫病神をしょいこんじまったこった」
 リダは言い捨てて天幕を後にした。
 結局、知り得た手がかりはわずかばかりだった。あれっぽっちでは身元をつきとめることは絶望的だ。

*************************************

 市中での巡業は連日盛況で、一座は日々、はりきって芸を披露した。
 が、リダのキャスケードに対する仕打ちはその後ひどくなる一方だった。
 団長としての采配や猛獣使いの芸は冴えを見せていたが、ことキャスケードに関することになるとヒステリーの魔女が宿る。
 今日も、上演中に誤って天幕の一部を倒してしまったキャスケードに、間髪を入れず平手打ちをくらわした。
 「このドジ!お客さんにもしケガでもさせたらどうするつもりよ?」
 すばやくマドカが間にすべりこむなり、リダの頬をやり返す。
 「キャスがケガでもしたらどうするつもりよ?」
 リダも負けじと幼なじみの横っ面を張り飛ばす。
 「あんた、お客とムダ飯喰いとどっちが大切なんだい」
 「キャスに決ってるじゃないさ」
 「この淫乱女!」
 今にもつかみあいを始めんばかりの両嬢の間にタルタルーガとカンナが止めに入り、やっとその場はおさめられた。
 ロピはパルドッサムの背中に隠れて一部始終を見ていたが、唇の血をぬぐって眼を上げた元凶の若者に、あかんべえをするのを忘れなかった。

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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