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浪漫@kaido kanata

. 小説「碧き琥珀に眠れ」第7回

その日の検問が厳しかったのは、奇しくも竜蛇皇帝の生誕祝賀祭が行われていたためだった。
 一割譲地での行事がここまで盛大なら、本国ではいったいどのようであろうか、回廊都市の庶民には想像がつかない。それほどの、今日の祝賀祭の規模だ。
 一座はその前に、まず町庁舎横に建設された総督府の広大さ、壮麗さに度肝を抜かれた。
 竜蛇建築様式の粋を凝らした、曲線で優美な弧を描き端の跳ね上がった金色のいらか。
 その下に伝説の雲上巨人の足さながらの純白の柱が林立している。
 居並ぶ兵卒など、アリほどにしか見えない。
 総督府が大人とすれば、旧い町庁舎は足元の小犬でしかなく、おそろしく貧弱でみすぼらしく見えた。
 総督府の正面には、そのまま戦闘機の滑走路に早変わりしそうな広場が地平線まで続き、竜蛇の紋章をかたどった石畳が見渡す限り敷き詰められていた。
 その上を軍事パレードが行われていた。
 角竜や首長竜を思わせるいかつい戦車やミサイル搭載車が何台も、冬の淡い陽射しに鈍く光りながら大衆の前を通り過ぎる。
 兵卒たちもそれぞれの階級の盛装を着け、一糸乱れず石畳に軍靴を響かせてゆく。
 総督府の正面にさしかかると、彼らはいっせいに測ったように同じ角度だけあごを傾け、小手をかざして敬礼姿勢をとった。
 金色のいらかの下の巨大なテラスには、総督自身とそのブレーンが並んでいるらしい。
 「豆粒みたいで良く見えないや」
 ロピがパルドッサムに肩車されて双眼鏡を覗いていた。一座の連中が群衆の波にもまれながら、パレードを見物しているのだった。
 群衆の表情は一様に暗かった
今日の祝賀祭で、彼らはこの町が白鳳の一部から軍事大国竜蛇の支配下におかれたことをいやがうえにも思い知らされたのだった。
(竜蛇は白鳳より、二百年も科学や文化が進んでいるってのは本当らしいな)
(あの戦車の砲頭を見ろよ)
(くわばら、くわばら。こんな国と戦って大陸全土が焦土にされずによくぞすんだことじゃ)
(しかしこの町とわしらはこれからどうなることよ)
ロピの耳にも群衆の脅えたささやきが届く。
「皇帝の肖像画が飾られてないな」
双眼鏡を奪ったパルドッサムが言った。
「知らないのか、パルド」
脇の下のはるか下からタルタルーガの声が昇ってきた。
 「皇帝は成人するまで民衆の前に姿を現さないんだぜ。まだ十四、五のはずだからな、時輪皇帝リシュダインは――――――」
 「そんな子どもに琥珀回廊は占領されたのか」
 「パルド、お前何にも知らないんだな」
 タルタルーガは舌打ちした。
 「皇帝は見かけは少年でも不死なのさ」
 「不死?」
 パルドッサムのごつい手から、危うく双眼鏡が落ちるところだった。
 「ちゃんと歳とって爺さんにゃなるが、老体のサナギを破って赤ん坊として生まれ変わるって噂だよ。今の皇帝は二十三回目の人生の時の輪を生きてるそうだぜ」
 「馬鹿馬鹿しい。タルタルーガ。お前そんな法螺信じてるのか」
 「しかし、それを証拠に皇帝には子孫がいないらしいぜ。自分が不死じゃ子孫つくる必要がないからな」
 「じゃあ、本当なのか」
 「木っ端微塵にされりゃおしまいだろうけど、いや、ひょっとすると鱗の一枚でも残ってりゃ再生するかもしれないぞ、竜蛇の皇帝は」
 「うへえ」
パルドッサムの背筋をうすら寒いものが奔りぬけた。
 「あれえ、あの真ん中の人、銀の仮面を被っているよ。変なのお」
双眼鏡を取り戻したロピがもらしたとたん、周りの空気が一変した。群衆がうろたえてどよめき、刺々しく唇に人さし指をたてる。
 「な、何?おいら何かまずいこと言った?」
 「坊や、総督の仮面の噂をしちゃいけない」
かたわらの老婆がおののきながら、それでも毛糸のショールを口元にあてて教えてくれた。
 「えっ、あれが総督なの?」
ロピは次の瞬間、群衆にひきずり下ろされ、よってたかって口をふさがれた。
 「何するのさ、うちの子に!」
マドカが群衆をかきわけてやってきて、息子を奪い返した。
群衆はとばっちりはごめんだとばかりに去ってゆき、一座の周囲にはぽっかりと空間ができてしまった。
 リダも双眼鏡で総督府のテラスを見やった。
 確かに、死神のような薄笑いを刻んだ銀の仮面を着けた男が中央に立ち、広場を睥睨している。
 (あれが少年皇帝の代理人、総督モーガイか――――――)
リダは不気味な印象を覚えた。
 「竜蛇の軍・・・・竜蛇の・・・・」
背後からのつぶやきに振り返ると、キャスケードが蒼白な顔で総督府を睨んでいた。
 「どうかした?」
リダが言い終わるかどうかのうちに、若者の身体はふわりとバランスを崩し、キツネ色の長髪を扇のように開いて石畳に沈んだ。

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
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OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
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家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
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技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
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結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
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★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
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