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浪漫@kaido kanata

. 小説「碧き琥珀に眠れ」第6回

公演が果てた深夜、マドカはいつものように息子の寝息を確かめて、キャスケードの寝台にすべりこむ。
 「何だってあんたを目の仇にするんだろうね、リダったら。でも安心して。私がきっと守ってあげるからね」
 キャスケードの瞳は相変わらず虚ろだ。
 自分の周りで何が起ころうと、特別関心はないらしい。
 「リダは蘭の催眠術で聞き出せって言うのよ。でも、私はいや。だって思い出したら、あんたはどこかで待ってる恋人の元へ帰ってしまうだろ」
 「・・・・・・・」
 気づかう言葉が耳に入っているのかいないのか、アイスブルーの瞳は艶っぽく濡れて揺らめき、マドカの胸をせつなく責める。
 こらえきれず、中世の楽士めいた彼の繊細な頬を両手でつつみ、唇にくちづける。
 だが、いくら情熱的なキスを繰り返しても、彼の内部に火を点けることができない。
 「女の愛し方まで忘れちまったの?―――――――いいよ。私が一から・・・・」
 キャスケードはいつのまにかやすらかな寝息をたてている。
 「あらら――――――ま、いっか」
 マドカはあきらめて若者の腕を枕に目を閉じる。
 炉の火も燃えつき、幕内には蘭の香りがますます濃厚にたちこめていった。


        第 二 章 銀仮面の総督


 紺碧の海に朱色の艦隊がみごとなコントラストを見せている。一座は何日ぶりかで海岸線へ出て、灰色の断崖からエレクトロン海の眺望を望んだ。
 竜蛇海軍の巨大な戦艦が三隻、竜の背中のようなコブを盛り上がらせて沖に停泊し、その周りを巡洋艦が何隻も走っている。
 「何事だい、えらく物々しいねえ」
 マドカが言いながら烈風に首をすくませた。
 カンナが皺の目立つ目元をしかめ、
 「おおかた演習か何かだろ。奴さんらドンパチやってりゃご機嫌なんだから」
 「ケッ」パルドッサムが唾を吐き捨てた。「琥珀回廊をわがもの顔で占領しやがって、竜蛇のミミズ野郎めが」
 「エレクの町は一年ぶりだけど、どんな具合だろうね」
 カンナは不安そうに亭主のタルタルーガを振り返った。
 「総督府が建てられて本国から総督が派遣され、回廊全域の行政を行っているらしい」
 「メレア公爵様の城とは目と鼻の先じゃないか。なんてこった、公爵様、さぞ悔しい思いをしてらっしゃることだろう」
 一同はシンとした。
 「竜蛇・・・?」
 皆の背後にいたキャスケードがぽつりと洩らした。珍しく表情が強張っている。
 「知ってるの?キャス」
 マドカの問いに、
 「どこかで聞いた気がする」
 朱色の戦艦を熱心に眺めている。
 「あんたはどう見ても竜蛇人には見えないけれどね。やつら、黒髪と黒い眼、浅黒い肌だし」
 「黒髪に黒い眼――――――」
 若者はもどかしげに首をふった。
 頭の中にかかった霧はなかなか晴れないらしい。

****************************************

 一座は公爵の城へ向かう前に、エレクの町でもうひと興行うつことにした。
 回廊都市であるエレクの町は今までの農村地帯とは違い、人口が多い.桁違いのもうけが期待できそうだった。
 数十人も居並ぶ兵の列を検問所で目の当たりにした一座は、顔色をなくした。通行手形はキャスケードを除いた六人分しかないのだ。が、急に引き返せばかえって疑われることになる。
 マドカは声をひそめてリダに泣きついた。
 「お願い、一生のお願い。キャスも絶対一緒に通らせて」
 「たくもう、世話焼かせるね」
 御者台にいたりだは荷台へすべりこむと、薔薇豹の檻にもたれてうたた寝していたロピを揺り起こした。
 「ロピ、ちょっとの間、エクリュドの胎の中に入ってて」
 「むにゃ、いいよ?」
 寝ぼけまなこの少年は慣れた動きで檻の中の猛獣の袋にもぐりこんだ。薔薇豹は有袋類なのだった。
 一座の検問の番が来た。
 検問官はリダの示す六人分の通行手形を改め、部下の兵士は五台の馬車を次々に覗いてまわり、天幕用の布を銃床で乱暴にさぐった。
 インコやサルが檻の中を右往左往しては盛んに吠え叫び、大騒ぎした。
 「やかましいな。こっちの馬車は?」
 兵士が薔薇豹の檻を積んだ馬車に近づいた。
 「あっそれは・・・」
 マドカが思わず叫んだが、次の瞬間、猛獣の獰猛な眼光に射抜かれた兵士は、ぶざまに馬車を転がり落ちた。
 「と、通ってよし!」
 一座の列はゆっくりと動き出した。
 薔薇豹が有袋類であることを知る竜蛇兵士はいなかったらしい。
 冷や汗ものだった。
 当のキャスケードは竜蛇兵士の黒い瞳にばかり見入っている。
 「まったく、なんだって私がこんな苦労をしなくちゃならないのさ」
 リダはおかんむりだったが、ともかく一座はエレクの町へ入ることができたのだった。


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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
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家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
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技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
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