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浪漫@kaido kanata

. 小説「碧き琥珀に眠れ」第2回

 ――――――初冬の海は波が荒い。
 港の空気も波に劣らず荒々しかった。
 埠頭にバイクを乗り入れた瞬間、嫌な予感がジャレツの胸をつきぬけた。
 港湾オフィスは人だかりだ。
 「どうした?」
 近くにいた労働者風の男に尋ねると、
 「飛翔アザラシ号が遭難したんだ。琥珀海岸付近で音信を絶ったらしい」
 「飛翔アザラシ号だと――――――――?」
 相棒、キャスケードの乗って帰るはずの船だ。ジャレツはいぶし銀の光を放つ波頭を見つめて茫然と立ちすくんだ。

**************************************************

 白鳳大陸の南西一帯、琥珀回廊と呼ばれる地方は古くから琥珀の産出地として名高い。
何万海里を隔てた琥珀の宝庫、神秘の樹魂大陸とはその産脈を同じとすると言われている。
 回廊を旅する商人のてによって、年間何百トンもの琥珀が流通し、世界中の貴婦人の肌を飾る。
 中でも数十年前、琥珀海岸がぐるりと弓状に囲むエレクトロン海から発見されたという巨大な碧い琥珀の内部には、古代人らしい乙女が生前の姿そのままに閉じ込められているという。だが、それを所有するメレア公爵は門外不出として城の奥深く蔵してしまったので、今では誰も見た者がない。
 メレア公爵家は、代々琥珀回廊の支配者であった。しかし先年、白鳳大陸が隣の軍事大国竜蛇と戦火を交え敗北した際、竜蛇皇帝のたっての希望で琥珀回廊一帯が割譲されたのだった。
 血族は死に絶え、今や年老いた当主ひとりきりになってしまった公爵家は往年の隆盛を失い、支配権をも失い、陸の孤島といった哀れさである。
 軍事的に特に有利とも思えぬこの地方を、なぜ竜蛇大陸の皇帝が欲したのかはいろいろな憶測がとびかったが、結局のところ謎のままだった。

********************************************

 潮風に輪舞する粉雪がまつ毛に落ちた。
 少年ロピは、海岸を歩き回りながら、しきりに真っ赤な手に息を吐きつけた。
 琥珀回廊の冬は厳しい。
 数日前、大型客船が遭難したらしく夥しい漂泊物が海岸に打ち上げられている。ロピは轟く波に脅えながら、漂泊物と遺体が散らばる波打ち際を何か金目の物がないか捜し続けているのだった。
 「母ちゃん、もう帰ろうよお」
 ロピは辛抱できずに叫んだ。
 少し離れた場所で遺体から指輪を抜こうと躍起になっていた女が顔を上げた。
 「何言ってるの、ロピ。しっかりお捜し。蘭の仕入れにはいくら元手があっても足りゃしないんだからね。ああもう。抜けしない」
 母親といってもマドカはまだ娘と呼べる若さだ。
 トビ色の瞳は勝気そうで、赤っぽいちぢれ髪を何本ものみつ編みにまとめ結いし、ドレスの裾をたくしあげた姿は生活力たくましそうなことこの上ない。
 ささやかな抵抗をひと言で木っ端微塵にされた幼いロピは、しかたなく物色を続けた。
 先年の戦争のおかげで遺体なんか怖くはないけれど、この寒さはまっぴらだ。早く帰りたい。帰って、天幕の中で温かいミルクを飲みたい。鼻をすすり上げた時、磯の方にキツネ色の頭髪が見えた。近づいてみると、まだ若い男の亡骸だった。うつ伏せのままジーンズ姿の手足を妙な形に折り曲げて、長い髪を寒風にさらされている。
 その腕に光る銀のバングルを、ロピは見逃さなかった。
 「もらいっ」
 これで母親に褒められて温かいミルクにありつける。はりきってバングルを外そうとした時、
 「・・・・・・・」
 遺体の彫り深い目元がしかめられた。
 「か、か、かあちゃあん!」
 ロピは跳びすさり、叫んだ。
 「こ、こ、この水死体、生きてるウ!」
 「バーカ、生きてるのは水死体とは言わないんだよ。え?生きてるって?」
 母親のマドカは手元の作業を中止して、腰を抜かしている息子のところへやってきた。
 「これはまあ」
 ひと目見るなり言葉をなくした。
 マドカは生まれてこのかた、こんな美しい若者をじかに見るのは初めてだった。無数の砂粒がこびりついた頬は死の影に脅かされて蒼白だというのに、この匂いたつ華やかさはどうだろう。
 「こいつのバングルが高そうだったからいただこうとしたら、動いたんだ」
 ロピは半べそをかいている。
 「変な子だね。死んでる人間より生きてる人間を怖がるなんて。―――――――おや、ほんとだ、いいバングルだ。何か文字が彫ってあるよ。
ええと――――――たぐい稀なる麗しき蘭、キャスケード・・・・!黄金蘭の名前だ!」
 マドカの瞳に俄然、光が増した。彼女は先祖代々の蘭使いの家系なのだった。蘭を使って香料や薬を調合し、花びらや蕊で占い、まじない、催眠術を行うことを生業としている。こうして遺体から金目の物を物色しているのも蘭の仕入れ資金のために他ならない。
 「それってこいつの名前かなあ」
 「そうさ、きっと。黄金蘭―――――か」
 マドカは若者の乱れた前髪をかきあげ、まつ毛に着いた砂をはらってやった。そして頭の肩の下に手をすべりこませた。
 「ロピ。お前、足をお持ち」
 「正気かい、母ちゃん!」
 「だってこのままじゃ死んじまうだろ」
 「いいじゃないか、こんな知らないやつ、どうなったって」
 「いいからお持ち」
 ロピはしぶしぶ母親に服従した。
 粉雪の輪舞が激しさを増した。
 母子は白い砂の上を、若者の身体を引きずっていった。

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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