デニーゼが目を覚ました時、清潔な朝日が小さな部屋に満ちていた。寝台に身を起こすと、男物のシャツを着せられていることに気づいて身をすくめる。
窓辺でホットミルクの湯気に頬をなぶらせていたキャスケードが気づいた。桟にマグカップを置き、少女の枕元へ腰掛ける。
「俺が住み込んでる旅籠の屋根裏部屋だ」
「あたい・・・・」デニーゼは両頬を抑えた。「か、鏡を見せて」
キャスケードが手渡した、折れたバックミラーを覗き込んだ少女は肩を落とした。
「変ってない。あたい美人になってない」
「どうやら、あの真珠の効力は月が出ている間だけらしいぜ。朝になるまでお前、ドキドキするほどイカす女だったぞ」
「ほ、本当?」
デニーゼの脳裏に真珠売りの言った言葉が甦ってきた。そして、彼から受けた仕打ちの記憶も――――――。
「あたい、あたい・・・・」

キャスケードはデニーゼの小さな肩を強く抱きしめた。
「あの野郎、ひどい奴だな。ルナシルダって女もタチが悪いが、真珠売りのガキはもっと悪い。邑のやつらは皆、騙されてんだ」
デニーゼは細い喉を震わせて泣いた。
「泣くな、デニーゼ。泣いたら負けだ。あんな真珠売り、堂々と見返してやりな。こんなことぐらいでちっとも傷ついてねえって見せつけてやりな」
「キャスケード・・・・」
「お前、そのままの方がいい。変だな、昨夜の美人のお前より、ソバカスだらけの今の方がよっぽどいいや」
本心だった。妖艶なタイプが好みのキャスケードとしては至極不思議なことだが。不思議といえば、この状況で、キスのひとつもしようと思わない自分も不思議極まりない。
「月が出たら、あたい、また顔が・・・」
デニーゼは握りしめたままだった左手を解放した。艶も形も完璧な真円真珠があった。
媚薬の真珠である。
「いわれてみりゃ確かにあいつにはそんなもん、効き目があるとは思えねえな」
――――――――彼の心を捉えるのは、とうの昔に冥府に旅立った妻、ただひとり。
真珠売りの少年が言ったあの言葉がキャスケードの胸を去ろうとしなかった。
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