夜更け――――――。
アスンシオンは、キャスケードの寝顔を見つめながら、とめどなく愛用の定命占いのカードを弄んでいた。
やがて少年が眼を開けた。
その鮮やかなカードさばきを暫く碧の宝玉さながらの瞳に映していたキャスケードだったが、心細そうに尋ねる。
「ジャレツは?」
「日雇い仕事に行った。お前も元気になったことだし、食わせなきゃってな」
「ふうん」
「そうしょげることないだろ。暇つぶしなら俺がいるじゃないか。そんなにジャレツがお気に入りか」
キャスケードはきまりが悪そうに毛布の中に潜ったが、しばらくしてから、またもぞもぞと顔を出し、
「なあ、アスンシオン」
「何だ」
「あんたたち、ずっと前から友達なんだろ」
「ああ、お前くらいの時からな」
「じゃあ、ジャレツのこと何でも知ってるな」
「大抵はな」
「教えてくれよ。あいつのこと。何が好きか、何がきらいか、何が欲しいか、何になりたいか、何が喰いたいか、それから・・・・」
「やれやれ、恋占いより厄介だな」
アスンシオンはまたも苦笑を禁じえない。この少年の、ジャレツへのなつきようは端で見ていても妬けるほどだった。
(人の出会いとはわからないものだ)
アスンシオンは思う。
ジャレツが狙撃しようとしていた少年が、今では彼の生きる糧にさえなりつつある。
皇帝のクローンであることを悩みぬいて憔悴していた頃からすると、今のはつらつとしたジャレツはまさに生きることを謳歌していると言えるではないか。
すべてはこの痩せこけた野良猫のような少年がもたらした変化なのだ。
(ひょっとして・・・・)
アスンシオンは考える。
キャスケードがジャレツに救われたのではなく、ジャレツがキャスケードに救われたのかもしれない。・・・
もしかすると、この少年はアナリディカを失ったジャレツの心の孔をも埋めることができるのかもしれない。
(いいのか、それで・・・・)
アスンシオンは自分に聞いてみる。
「俺よりちょっと落ちるけど、アスンシオンて綺麗なツラだよな。モテるだろ」
少年の話題はもうあらぬ方へ向いている。
「この脚じゃあな」
アスンシオンは寂しげに笑った。
「そんなことないよ。今にすげえマブい嫁さん見つかるよ。ジャレツはどうかな?俺の方が女にモテる自信あるぜ―――――――そうだ!」
急にキャスケードは瞳をきらきら輝かせてアスンシオンの膝元へ跳んできた。
「占ってみてよ。俺たちの十年後」

「十年後?」
「できるんだろ、百発百中なんだろ」
「できるが、占いのタブーで俺自身のことは占えない。お前とジャレツのことなら」
アスンシオンはためらった。いつ竜蛇の魔の手に襲われるかわからない彼らに果たして未来はあるのだろうか。
「ねえ、早く」
だが、少年の好奇心に満ちた目に、アスンシオンは流され―――――――カードを繰っていた。
粗末なテーブルの上にカードが並べられていくのを、キャスケードは固唾を飲んで見守った。
一度並べて、アスンシオンはやり直した。もう一度最初から並べて、またカードを混ぜた。額に汗が浮かんでいる。
「どうしたのさ?」
焦れたキャスケードが片眉を吊り上げた。
「いや、少し間違えた」
アスンシオンは慎重に並べていった。
「どう―――――――?」
キャスケードの碧い瞳が覗き込む。
洋燈に照らされたアスンシオンの顔が強張っている。
「なあってば、じれったいよお」
「ああ」アスンシオンは緊張を解いて微笑んだ。「当たりだ。お前の方が早く運命の女性とめぐり会えるらしい」
「やっぱりな。俺ってモテるもんな」
得意になって鼻唄を歌いだしたキャスケードは、カードを持つアスンシオンの指先が震えていることなど気づきもしなかった。