長い指が、魔術のような手際で次々にカードを並べてはめくり、ひらひらと空中に浮かせては陶製のテーブルの上にまた伏せる。
アスンシオンのカードさばきは、相変わらず鮮やかだった。
夕暮れせまるスノウバードの街の一角にある公園で、あずまやの空間はカード占いの不思議な雰囲気に包まれていた。
カードは暁の精と死神の落し物。
失せ人見出せし、の暗示だった。
「キャスケード。間違いない。彼だ」
「やはり・・・・!」
アスンシオンの答えに、ジャレツは大きく肩で息をついた。
「ジャレツ。どうして黄金蘭の名を持つ少年を殺さなければならないんだ。俺はまだ聞いていない」
アスンシオンは真っ向からジャレツを見据えた。今日こそはどうあっても答えを聞き出すまで逃がさない構えだ。
ジャレツはもう一度肩で吐息を吐いた。
陶製のテーブルに散乱するカードを忌々しげに見やり、腰掛けていた椅子から立ち上がる。あずまやを出て空を仰ぐと、黄金を織り交ぜた空色の果てに鳥の群れが飛翔して言った。
竜蛇から遠く隔たったこの白鳳大陸で暮らしていると、竜蛇の少年皇帝の掌から逃げおおせたような錯覚に陥ってしまう。
黄金蘭の名を持った少年など追わず、白鳳に根を下ろせば、すべて世の中は何事もなく平穏にめぐっていくのではないか―――――――――。そんな錯覚だった。
しかし厳しい現実は確かに足音を忍ばせて近づいてこようとしている。
ジャレツは覚悟したように眉間に深い皺を刻んだまま、切り出した。
「アスンシオン。皇帝の不死の力が衰えてきているという噂は知っているか」
「聞いたことはあるが、まさかと思っていた。本当なのか?」
カードを繰りながらあずまやを出てきたアスンシオンは息をのんで尋ねた。ジャレツはうなずいた。
「その衰えを唯一救うことのできる存在。それが黄金蘭の名を持つ少年だ。そう皇帝が俺に告げ、捜しだして連れ帰るよう密命を下した。二年前、アナリディカをあやめた日の前日のことだ」
「その少年に皇帝の命を永らえさせる、どんな能力が秘められているというんだ」
「それは俺にもわからない」
沈黙がふたりを浸した。
アスンシオンが一枚のカードを噴水向けて投げた。
たちまち噴水は静まり、水鏡が現れた。
「遠見の鏡だ。皇帝の様子を映してみよう」
驚くジャレツを尻目に、アスンシオンがもう一枚カードを浮かべると、夕暮れの空を映していた水面に、古びた城の内部がぼんやりと浮かび上がってきた。
ジャレツのよく知る巣窟城の奥深く、少年皇帝リシュダインの居間である。
少年と老婆が話しているのがぼんやりと、次第に輪郭をはっきりさせて見えてきた。話し声さえ、聞こえる。
(まだ見つからぬのか、黄金蘭の名の者は)
苛立ちを含んだ皇帝の声。
ジャレツにとっては懐かしく、そして背筋をぞっとさせる声だ。
(わが君、ただいま捜索を急がせておりますほどに、今しばしのご猶予を)
しきりに老婆がなだめている。と、その声が急に険しさを帯びた。
(お待ちくださいませ、わが君。今、誰かがこの様子を窺っておりまする)
不意に水面が乱れた。
像は消え、もとの夕暮れの赤い空が水面に帰ってきていた。
ジャレツは額に汗を浮かべていた。
「急がなければ――――――」
「ジャレツ、何故なんだ。何故黄金蘭の名の少年を抹殺しなければならないんだ」
焦れて繰り返す親友に、ジャレツは答えた。
「――――――――皇帝を滅ぼすためだ」
「ジャレツ・・・・・!」
「皇帝は恐ろしい計画を持っている。
「八大大陸征服――――――か?」
「それよりもさらに。皇帝は――――――皇帝は自分の身体からクローンを作り出し、いずれ自分の征服した大陸すべてに何億人ものクローンを放ち、繁栄させる腹積もりだ」
「クローンだと?」
アスンシオンの目が驚愕におののいた。
「そうなればクローン以外すべての人類は用なしというわけだ。皇帝は容赦なく世界人類を殲滅させるだろう」
「まさか」アスンシオンは唇を無理に吊り上げて笑い飛ばそうとした。「だいいち、いくら竜蛇の科学力が素晴らしく発達しているとはいえ、完璧なクローンなど造れるはずが」
彼は言葉を切った。
ジャレツの表情があまりにも真剣だったからだ。
「アスンシオン。今、お前が目の前にしている人間が皇帝のクローンだと言ったら?」
「ジャレツ・・・・・・!」
アスンシオンの手からカードが舞い落ちた。