浪漫@kaido kanata

. 月の娘、眉美と桂 第十四章 (最終回)

    < 第 十四 章 >

 干し柿が連なって、藁葺きの軒先にぶら下がっている。
 銀色のススキがあちこちの田畑のはずれに見られる、月の美しい季節である。
真夜中の月は雫をふりまいて、寒村にやってきた都会風の女を見降ろしている。
 大きな農家を探し当てた眉美である。
 エナメルのヒールが何度もぬかるみにはまりこんだ。
 ここに間違いないはずだ。庭先で、月を仰いでいる男の影を発見する。
「白光さん、探しましたよ」
 声をかけられ、ぎょっとこっちを向いたのは、間違いなく白光だ。

丸い 干し柿



【 失敬 】なんて言った、背広すがたの彼とはほど遠い、
髪もぼさぼさ、綿入れのちゃんちゃんこを羽織った姿だが。
「やっと見つけた。こちら、お父様のご実家なんですって。
バスで何時間かかったかしら。駅から」
「眉美さん……」
 白光は驚きを隠せない。
 故郷の庭先で、大都会の香りをぷんぷんまとった女に出くわすとは。
「どうか、姉さんの元へ帰ってあげて。姉さんと生まれてくる赤さんが待ってるわ」
「しかし、私は押しかけ夫で、桂さんの美しさまで奪ってしまい……」
「何を言ってるの、新しい命のおかげで、姉さんはさらに 
あの月のように輝かんばかりに美しいわよ。あなたが撮影しないでどうするの。
父さんではだめ。父さんはご自分の限界をお知りになったわ」
「私が、桂さんを撮影?」
「もともと、そうしたかったんでしょう」

鬼面の着物をきた女 日本が



 横っ面をはたかれたような、白光のまんまるい眼だった。
「私が着色します。最高の姉さんの美しさを引き出しましょう」
 展示会の作品を、白光とふたりで創り上げようというのだ、眉美の説得に熱がこもった。
「明日、汽車で東京市に帰ります。一緒に帰って下さいますね。待っていますから」


 農家を後にすると、生垣のはずれに永渡が待っていた。
「いいのか?これで。さんざん支配してきた姉さんに幸せを譲っても。
じゃじゃ馬の眉美お嬢さんらしくないぜ」

「いいのよ、これで。どうやら、私のことまで月の光が浄化させてくれたらしいわ。
わがまま言ってないで、育ててくれた人の幸せの手伝いをしなさいって」
 
その横顔は 大人びて見えた。


「へっ、つまんねえの。ルナティックパワー(月の狂気)なんて嘘っぱちじゃねえか」
「ヘソ曲がりはあなたね。私と一緒に白光さんを探してくれたクセに。素直じゃないわねえ」
「照れるじゃないか」
 永渡は、眉美の横顔に、変わることのない白光への想いを感じた。
「俺もお人好しだな」自分でも意外だった。「月の浄化とやらを浴びたのかもしれん。
眉美からはずっと目が離せんだろう、ずっとずっと。たとえ、
眉美の心に白光がすみついていようと」
 それは、見返りを求めない「愛」というものだ。静寂な月の持つ、
深い慈愛だ。ルナティックパワーのような、わがままな「恋」ではない。


(お人好し……)眉美は肩をすくめた。
(長年、嗅ぎなれた、じゃ香の香りを知らないとでも思って?
姉さんの赤さんの父親は、あなたか、白水さんかどちらだか)
 永渡が、このつぶやきを聞いたら、ギクリとしたことだろう。


 山道を下ると景色が開けてきた。
 ぼうぼうと生えはびこるススキの群れに混じって、
真昼のような月光を浴びる村の屋根屋根が見渡せた。
 降るような満月の光の中、ふたりは黙って砂利道を下っていった。

木々の向こうの満月


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大都会の東京市の銀座。

 落ちていきそうな深い青の天井をいただいたある秋の日。
 写真の展示会が東京のとあるギャラリーで催された。
そこには展示会に押し寄せた紳士淑女が注目を浴びる一点の写真。
 若みどり色の着物をまとった妙齢の女が長い黒髪を肩から流し、
山の端から昇りはじめた黄金の満月を眺めている。
お腹にそっと手のひらをあて胎児の動きを聞きながら。
 その肌は満月のようにぽってりと白く、面差しには母性が溢れている。

「早くこの世に出てらっしゃい。世の中の美しいもの、醜いもの、みんな眺めましょうね」
 写真の女は 胎児にそう語りかけているようだった。
                                   完。

★この中編は かつて書いた長編「マルガリイタ」を短くしたものです。
無駄に長いセリフなど部分を削りとり、「核」になる“あるもの”は、
バトンタッチしましたが、姉妹の葛藤を描いた部分はその分、分かりやすくしました。
大正時代の香りと月の神秘を感じてくださいましたら幸いです。
ご愛読下さった方々へ、深く御礼申し上げます。
元になる長編「マルガリイタ」を ご愛読下さいました 
Y子様へこの短篇を捧げます。 
                             海道遠(かいどうかなた)

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
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家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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