奏姫は桃の花に囲まれて小さな公主を抱いていた。
玉綸は微笑んでわが子の寝顔をそっと覗き込む。
「なんと麗しい公主さまでしょう。お母様にも似ておいでですが、臥龍さまの若様にも似ておいでのような…やはり同じ血が流れていらっしゃるのですね」
「兄上のお子については全て奏姫さまにお願い致します。このような宮城の奥に閉じ込められている身では、何もお手助けが出来ず申し訳ございません…」
「何をおっしゃるのです玉綸さま」
奏姫は公主をそっと母の腕に戻すと話し続けた。
「私のような異国の者が、臥龍さまの若様をお預かりすることさえ恐れ多いことでございますのに…」
「いいえ、兄はきっと奏姫さまであられるからこそ託されたのだと思います」
「玉綸さま…」
緑のさやぎが爽やかな林泉の中で二人の麗人は小さな公主を間に肩を寄り添わせた。

北平の都に永楽帝の軍が凱旋してきた。
奏姫と桂靖はようやく応天府の旅から戻り、旅装を解く間もなく帰着する軍を待ちうけていたが、最後の軍の中にも臥龍の姿を見つけることは出来なかった。
「タタールの軍は敗走したそうです」
数日後、老夫婦の元で報せを待っていた奏姫に桂靖が告げた。
「では、あの将帥は沙塞の果てへ逃げ延びたというのですね…」
複雑な思いが胸中に去来していた。
一度は良人として側にいた。その懐に安らぎを感じたことさえあった…。
タタールへ辿り着いた宦官から聞いた彼の奥深い策謀、そして知ってしまった自分への裏切りとも言える事実。
―――アロタイは『カナと共に黒い龍と戦う』と、あれほど固く誓っておきながら、目の届かぬ一方では臥龍に対して執拗なほどに刺客を差し向けていた。
決死の覚悟で沙塞の地から逃げた時の想いは今でも忘れてはいない。…彼に一体、どのような理由であったとしても許すことは出来ない。
(もしもあの宦官がタタールへ辿り着いて居なかったら…それを知らずにいたとしたら…私は…)
ただ、身を焼くような怒りの炎は消えていた。
(もう、あの方とは生涯見えることも無いのだろう…)
=====<中天@編集部作品>=====
原作・監督・総指揮・キャラクター原案 ...海道 遠(YUB)
リライト・校正・挿絵 ...まもと鶴
☆お楽しみ企画・
臥龍さんは何型?&
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