―――目指すのはあの黒い龍だけだ。
木端どもには目もくれず、背後から配下が敵を斬り捨てる気配が届いても、アロタイにはどうでもよいことだった。雨のように降り注ぐ矢を左腕に着けた盾で防ぎ、大振りの剣が朱に染まるのを振り払うこともせず、ひたすらその旗を目指し突き進む。
「将帥!そのように接近されては!」
「お退きを!」
配下の声さえ遠のいていく。
龍頭賊の一団はアロタイの姿を認めるや、すぐさま緊張の度を固めた。
アロタイも馬を止め、黒い鎧に身を固めた龍頭賊の中に臥龍の姿を見つけようと焦った。
―――何処だ?
背後からようやく追いついた手勢に手を挙げて抑える。
対峙した双方の兵は焼け付くような陽光の下、静寂の中で一枚の絵となった。

龍頭賊の一団から馬を降りて進み出てきた人物に、アロタイの眼は獲物を見つけた猛禽のように険しいものになっていた。
―――臥龍!
咄嗟にアロタイも馬を捨てた。
「やはり再会は戦場であったな」
重々しい声音(こわね)は以前のままだ。
「互いに望み通りになったわけか」
応えるが早いかアロタイは剣を構えて砂を蹴った。
剣と剣のぶつかる金属音が響いた。
どちらの攻撃か受け手かも解らず、斬り結んだまま、二人の男の漆黒の瞳と瑠璃色の瞳がぶつかって炸裂した。
奥歯を咬みしめながらアロタイは呻く。
「何故だ。何故俺たちは戦うのだ」
二人は剣を構えたまま退いた。
「何を今さら。貴様は自分のした事にしらを切るのか」
「そのような話ではない。お前とは生まれる以前からこの定命にあったのだ」
「言い逃れにしか聞こえぬぞ、アロタイ。貴様には積年の怨みがある。『恩』などではない。」
「すべては部族と可汗への忠誠のためだ」
血気にはやったタタール兵が将を救おうと馬を進めた。それを見てとった龍頭賊も応戦し、対峙しているアロタイと臥龍の周囲で乱戦となった。
―――が、二人の視界には互いの敵だけしか見えてはいない。何度も斬り結び、双方の鎧はその度に切れ端が弾き飛んだ。そして、互いに合図でもしたかのように同時に兜を脱ぎ捨てていた。
砂を含んだ熱風が取り巻いていた。
額に垂れてきたひと筋の血をアロタイは乱暴にぬぐった。
「先頃知ったぞ。建文帝の憤死説を流布させたのは臥龍、お前だと。そしてお前こそが…」
「それがどうしたというのだ。あのような座に生まれとうて生まれたのではない。未練など芥子粒ほども無いわ」
「何の未練もない…だと?!」
「それよりも貴様や宦官どもに翻弄されている皇帝や亡き臣下が哀れでならぬわ!」
再度剣を交わせてから瞬時に退く。
「アロタイ、今ひとつ聞きたいことがあるのではないか?」
「…!」
「小賢しく間者などを差し向けたりせず、今ここで聞くがよかろう」
「カナは何処だ?!お前の許に居るのだろう!」
アロタイが声を張り上げると、臥龍は苦笑した。
「愚かな男だ…あの姫なら、わしがお護りせずとも明の地で逞しく生きて行かれるであろう」
「何だと!?」
タタールの兵が劣勢を告げると、アロタイは歯軋りしながら馬上へ戻った。
「カナは俺が必ず探し出し、連れ戻す!…臥龍、お前との決着はそれからだ!」
そう言い捨てると少なくなった手勢と共に砂塵の中へ消えていく。
「待て!貴様、逃げるのか!」
馬蹄音が遠くなり、敵兵の姿が地平の彼方へ消えるまで臥龍はその場に立ち尽くしていた。
(…アロタイ、貴様は必ずこのわしが倒す!この次こそは貴様の最期だ)
龍頭賊も陣営に引き揚げ始め、辺りは暮色に包まれようとしていた。臥龍もようやく鞘を納め、踵を返そうとした。
―――無防備なその喉元に矢が射込まれた、その時である。

=====<中天@編集部作品>=====
原作・監督・総指揮・キャラクター原案 ...海道 遠(YUB)
リライト・校正・挿絵 ...まもと鶴
☆お楽しみ企画・
臥龍さんは何型?&
第二弾・奏姫は何型?←こちらもまだまだ受付中です♪
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