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浪漫@kaido kanata

. 三浦春馬 BIRTHDAY 記念短編 「MOTHER」 1

 場末の食堂 皿洗いの中年女、髪をふり乱し、一心不乱に 洗っている。
 その手は赤切れまみれだ。

  いくた 1


 厨房室の湯気と汗とで、三角巾からはみ出た 髪からしずくが垂れている。
 やっと客足が途絶えかけた 午前二時頃、春とはいえ、夜の冷え込みが厳しい。

   ゴミだしブル


裏口からゴミを よいしょと持ち上げ、出したところ、ふと中年女は、人の気配に気づく。
 背の高い若い男が カーキ色のジャケを着て立っていた。中には、ベージュの作業服を着ている。
「何か用なら まだ 玄関が 開いているはずだから、そっちへ廻ってくれるかな。バイトか何かだろ?」
「いや、そうじゃなくて………」

 マジメ はるま 1



 


 中年女は 構わず 何度も往復して ゴミ出し作業を続ける。
 何度か、中と外を往復して、まだ男が いるのに気づき、疲れた目でギロリと睨みつけた。
「何なんだよ、アタシに何か用かい?」
 若い男は 地面を見下ろしたりして 落ち着かない様子だ。
 中年女は 下品に地面にツバを吐き、戸口を閉めようとした。
「あ、待ってください、母さん………」
閉まろうとする戸に手をかけ、男は 思わず 叫び、中年女も 驚いて見返した。


「いったい??」
「息子の葉介です。赤ん坊の頃に別れた……。覚えてますよね?俺のこと」
 男は真剣な眼差しで 女の腕に 爪が食い込むほど、掴んで離さない。

「ちょ、ちょっと、痛いじゃないか、お放し!」
中年女は、男の手をもぎ離し、ガラス戸を ぴしゃっと 閉めて、ねじ式のカギを ガチャガチャと閉めた。
 そして、両方からごつい木綿のカーテンを閉め、ガラス戸に張り付いた男を遮断した。
「開けてください。下村七枝さんですよね? 22年前、ボクを生んでくれた……!!」
 ガラス戸を、二、三度 叩いてから 青年の悲痛な声が 背後でした。
「何のことだか 分からないねえ。お帰り!!」
 突き放すように 言うと、むしり取るエプロンを取って、薄手のダウンの上着と手提げだけを掴み、店を出た。
 残っていた 店員が 呆気に取られるほどの 素早さだった。
「どうしたんです、下村さ……」

    
 同じ、皿洗いのトキ子が声をかけたが、あっという間に、路地を曲がってしまった。
(どうしたんだろ? いつも 一緒に帰るのに……)

   わしお 4


    
 トキ子は仕方なく 店の戸締りをして、いつも通り、最後に店を後にすると、男の気配にびっくりして 立ちすくんだ。


「あの、怪しいものじゃ ありません。下村七枝さんのことで 少し」
「だ、誰だい、あんた。まさか私服刑事かなんかじゃないだろうね、下村さんは、後ろに手が廻るようなことは 何もしてないよ」
トキ子は 面食らった。

「俺、いや、ボク、下村さんの息子です。倉満葉介といいます」

「息子さん? あの人は ひとり暮らしだけど」
「色々 あって、小さい頃、別れたんですけど、間違いなく息子ですよ」
「ちょっと、ちゃんと話してくれないと 詳しく解からないよ。そこのおでん屋台でも 行こうか」

ちょうちん



 
 見れば、赤ちょうちんが暗い街の中に見える。


 痩せ型のトキ子は、シャキシャキの江戸っ子だ。さっさと おでんの屋台に座って手招きした。
 飴色の電球とおでんの甘い香りと 湯気が ふたりを包んだ。
 頭がつるつるに テカッた おでん屋の親父がにっこり笑って迎えた。

屋台のおでん



「ヨォ、トキ子さん、今晩は 七枝さんとじゃなくて また えらくきれいな にいちゃんを 連れてきたねえ」
「へへん、これでも まだ 女なもんでね。熱燗、つけてやっておくれ。それともヒヤがいいかい、ボク?」
「は、はあ、じゃあ、ヒヤで」
 親父が 一升瓶からドクドクと 日本酒を注いだ。

男山


        

「カンパイ」
 トキ子は 朗らかに 葉介のコップとカチンと言わせた。
「七枝さんの息子? へぇ~~、七枝さん、あんたみたいな 立派な息子さんがいたのかい」
「立派なんかじゃないですけど。ロクに義務教育も受けてない男ですよ」
「どこかの工場で働いてるの?」
「はあ、まあ。ひとりで食べていけるだけはなんとか」
 葉介は はにかんだ。


 それにしては 手がそんなに荒れていない。トキ子は勘付いていた。
「私ね、七枝さんとは、もう十年以上のおつき合い。何でも腹を割って話してきたよ。独り身同士で。でも、あんたみたいな 息子さんがいるとは 知らなかったな」
「言えなかったんだと思います。ボクが赤ん坊の頃、家出したそうですから。
「おや、また、なんで」
「それは 多分、多分ですよ。あの人にとって。嫁いだ家が合わなかったんだと思います。かなり重すぎて。土地での知名度も高くて、家族も多かったですからね」
「へえぇ、一度、結婚してたとは聞いたけど、詳しくは話してくれなかったよ」

小皿おでん


     

 何品か 選んだ おでんの中の大根を 頬張りながら、トキ子は言った。
 初対面だが、この女性なら 打ち解けて話せる、と葉介は感じた。


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. 三浦春馬 BIRTHDAY記念短編「MOTHER」2

「ボクが三歳の時、父親が再婚して、新しい母が来ました。しばらくして 弟が生まれ、居心地が悪くなり 小学校中学年くらいで鬱憤晴らしに 万引きも タバコも酒もやっちまいました。何回も家出して、補導され、挙句の果てに 街のチンピラとケンカして、少年院へ送られそうになったこともあります」


わし 1


 「ちょっと、お待ち」トキ子は口を挟んだ。「作り話は いかんよ、君。そんなメロドラマが 今どき、信じられっかね!」
 半分、お酒に浸りかけた目つきで にらみつける。
「こんなこと、ほんの一部です。何回、刃物沙汰起こしても、殺人だけは犯してませんけどね。慈善家の人が里親を世話してくださり、でも、里親と言っても、ひどい人間もいるもので。里親としての手当てだけを目当てに、ロクに食事も与えられなかったこともあります。ボク自身も世話を焼かせましたが……」


 誰か知りませんけど、学費まで面倒みてくれて、自分でも色んなバイトしながら、工業専門学校を卒業できました」
「それで その作業服?」
「いや、これは コスチュームかな?」
「!?」
「七枝さんに 会うために。今はスーツで出勤してますが、この方が親しみやすいかな、と。いったん小さな工場で働き始めたんですが、今度こそ、無遅刻、無欠勤で頑張りましたよ。学費を援助してくださった、会ったこともない人に申し訳ないですから」
「えらく 真面目に立ち直ったじゃないか」
「そんな時に、ボクの作った小さな部品が、あるIT企業に採用され、あれよ、あれよという間に そっちの IT企業に引き抜かれ第一線で企画、製作させてもらえることになって」
「シンデレラボーイというヤツかい?」
「芸能雑誌の見すぎでしょう。おばさん」

  春 ドアップ 1


   
葉介は苦笑した。「出るクギは打たれる、でね。その後も順調ではなかったですが。一応は実の母親を引き取れるような環境には なってきたので、勇気に勇気を出して ここまで 会いに来たんです」
 誇らしげに言う、葉介の表情に トキ子は 酔いが覚める 気分だった。


 ~~~~~~~~~~~~~


 青年と別れて、トキ子は自宅のアパートへ歩き始めた。
 桜が咲き始めたとはいうものの、深夜は、花冷えが 身体の芯まで染み渡る。

 サクラ きれい


 お酒は入っているが、いつものように 酔いが廻ってこない。実は、七枝からは、赤ん坊を置き去りに婚家を飛び出してきたことは、昔から聞いて知っていたが、詳しいことまでは 聞いていない。
 自分も 又、独身、女ひとり身で苦労してきた。


 七枝のアパートに 立ち寄ってみた。アパートというより、一階建ての文化住宅の長屋である。
 まだ 灯りは点いていた。コツコツと薄い木の扉をノックして、
「私だよ、トキ子」
「ああ」
 中から返事があって、すぐに、扉が開けられた。
 部屋に入ったとたん、焼酎の匂いがした。
「どうしたのさ、目が赤いよ。お酒のせいだけじゃないね」
「これが 泣かずにおれようか、トキちゃん」
 狭い居間に戻って、ちゃぶ台に あった焼酎瓶から また コップに酒をそそぐ。

 桜島


     

「ちょ……アルコール禁止なんだろ、この前、お医者から 禁酒を言い渡されたって言ってたじゃないか!」
「今日だけ、今日だけ、許しておくれ、トキ子さん。今日は私にとっちゃ、記念日だ。あんなに大きく、立派になった息子が 息子が会いに来てくれた」
 言いながら、コップの酒を飲み干す。そして、苦しそうに かがみこんだ。
「ほら、ごらん。無茶な飲み方 するからだよ」
 心配そうに 背中をさすってやる。
「あの小さくて 真っ赤な顔をして、ギャースカ 泣いていた赤ん坊が ねえ……」
 
   ベビー 1

  



 苦しそうな息をしながら、声を押し出すように、それでも目を細めて 七枝は言う。
「良かったねえ、七ちゃん、立派な息子さんじゃないか。ゆっくり会って、話がしたいそうだよ」
「会って、話すことなんか、何もないさ。こんな、わが子を捨てた女なんか 会う資格なんかありゃしない」
 直後に、七枝の顔が苦痛に歪み、トキ子が叫ぶ間もなく、気絶してしまった。
「七ちゃんっ!!」
 すぐに救急車が呼ばれ、文化住宅の住人が野次馬になって群がる中、七枝は、病院に運ばれた。

      

~~~~~~~~~~


 運ばれた直後は 宿直医、朝には、専門の主治医が診察して神妙な面持ちになった。
「あれほど 言ったでしょう。下村さん。安静にしていなさいと。お酒は一滴もいけませんよ、煙草もダメですよ、と」

    初老ドクター 1


  しかし、七枝に意識は無い。苦しげに目をしかめたまま、酸素吸入器をはめられている。
「先生、下村さんは、そんなに具合が悪いんですか。ここのところも 変わりなく、食堂の皿洗いの仕事に来てましたけど」
「そんな無茶な。すぐに入院してもらわないと、と、言ってあったのに」
 酸素吸入器が 七枝の息でくもり、うっすらと瞼が開いた。


「にゅういん……なんて……したって、もう、手遅れ……です……よ……。それに、こんな命、もう、いつ無くなっても……いいんです……」
「七ちゃん、なんてこと 言うのさ、あの息子さんとやっと会えたんじゃないか。ちゃんと何回も会って話さなきゃあ」
「そうですよ、下村さん」医師が 言い足した。「無くなってもいい命なんて、この世にはありはしません」


「いえ、先生……、私は 何のために 産まれてきたんだか……。物心ついた時から 施設で育ち、脱走ばかりして……、街で遊び歩き、バカな男に 弄ばれて……育てられもしないのに、赤ん坊を産んでしまいました……」



 そこで、七枝の意識は また遠のいた。これが、葉介から聞いた、七枝の嫁ぎ先が、名家であることと、食い違っていることを、トキ子は はっきり 分かったが、どちらが真実なのだろう。

えつこ 8

「後、もって一週間でしょうな。心臓が弱っています。どなたか、下村さんに お身内は?」
 医者が トキ子に 尋ねた。

「ひとりだけ……息子さんが」

 葉介のケータイ番号をよくぞ、聞いておいたことだ。
 トキ子は、病院の待合室の公衆電話から、すぐに彼に連絡を取った。

~~~~~~~~~~~~

 一時間後、顔色を変えた葉介が 息せききらせて 病室に駆け込んできた。
 七枝はすでに、普通の病室から、ICUに移されていた。
「下村さん……!!いや、母さん、いったい、どうして……!!」
「息子さんですか?」と、主治医。「ちょっと こちらへ」
 葉介は、ICUのガラスから 引き剥がされる思いで 呼ばれるまま、その場を離れた。
 ベテランの主治医と副主治医が、小部屋でテーブルを挟んで 葉介と簡易椅子に座った。

      

「お母さんは 心筋梗塞です。発病してから、十年には なります。ずっと診察させていただいておりました。治療を積極的に進めようとしても、断固として拒否しつづけ、身体の中心に爆弾を抱えているようなものでして、ニトログリセリンは、肌身離さず持っておくように、と、厳命しておいたんですが。何度か、発作もあって、うちに担ぎ込まれてきました」
「手術は無理だったんですかっ」

 葉介は乗り出した。
「大腿の動脈からカテーテルという細い管を挿入して、 患部の冠動脈に血栓溶解剤の投与を行い先端のバルーンを膨らませて冠動脈を拡張し、ステントという拡張した血管を支える金属製の骨組みを留置して、狭窄の再発を防ぐという手術を二回 施したが、何せ、それまでの生活習慣がひどくて……、食生活もめちゃくちゃ、睡眠時間も極端に短かった。何度注意しても、そうでした。悪玉と言われるコレステロール値も高かったんだが、どうやら、喫煙量も、多いままの生活だったようだな」
「そんなに ヤケッパチな生活を……」




 呆然とする。
「きっと 下村さんは、健康的な生活を送らなくちゃという気持ちと、自分を管理できない気持ちの葛藤があったんだと思われますな。それに、胸の痛みが自覚しにくい糖尿病の症状も出ていた。お母さんに 少しでも長生きできるように、もっと念は入りな処置を受けるような提案もしてみたんだが『そんな費用があるのなら、別のところで使う必要がある』の、一点張りでね」
「別のところ?」
 小部屋の外で 立ち聞きしていた トキ子が飛び込んできた。


「それ、きっと、葉介さんの学費のことだよ!!」


「なんですって?」
「ちょっと、あなた、いくら、あなたでも、お身内でもないのに、入室は困りますな」
 主治医が窘めたが、そんなことに屈するトキ子ではない。


      

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. 三浦春馬 BIRTHDAY記念短編 「MOTHER」3

「身内、同然ですよ。お医者様や、お役人様は、どうも 頭が固くておいでですよね!この十年間、苦楽を共にしてきたんですからね」
 今にも、主治医の襟首を掴んで 食ってかかりそうな剣幕だ。

「ちょっと、トキ子さん」葉介が その トキ子の腕を引っ張って、壁際に連れてきた。「ボクへの学費って、どういうこと?」もしかして、ボクの学費援助してくれた人ってのは……」
「多分、七枝さんだろうと思う。日頃から爪の灯を灯すようにして、お金を貯めていたからね。昨夜、あんたの話を聞いて、七枝さんじゃないかと思ったんだよ」
「母さんが?匿名で?いや、養母を名乗って?」
 チカチカ 光の点滅する夥しい数の医療器具に囲まれて七枝が白いベッドに横たわっている。

ICU 1

     


 葉介たちは もちろん、ガラスの外からしか 様子を窺えない。
「先生、お願いします」葉介は 改めて 主治医に頭を下げた。「母とは、昨夜、22年ぶりに再会出来たんです。なのに、いきなり こんなことって……。お願いです。お願いですから、母を救ってやってください」
「もちろん、出来るかぎりのことは」
 医者の決まり文句だ。それでも、葉介には、一縷の望みだった。
「ボクの心臓を母に移植するとか、そんな方法でも 望み薄なんですか」
「何を言うんだね。君が亡くなって、お母さんが 喜ぶとでも?それに移植して治る心疾患ではないのだ」
「そんな……」
じゃ、このまま、指をくわえて 見守るしか……。唇が固く噛み締められた。
 どうすることも出来ない自分がもどかしくて仕方ない。

~~~~~~~~~~~

真っ白い雲に包まれて、ふんわりした世界……
(ここは 天国だろうか、アタシ、もう 死んでしまったんだろうか。いや、アタシなんか、
 天国へ行けるわけない。ただの夢だろう)
 七枝は そんな中にいた。
「おぎゃあ……」
 赤ん坊の泣き声が どこかから聞こえてきた。目の前に、顔を真っ赤にして泣く 赤ん坊の顔が浮かんだ。
「葉介……」
 まさしく葉介だ。 まだ お乳も完全に離れていなかったのに、婚家に置いてきてしまった……。

授乳 1


 「葉介、ごめんよ。あの家の固いしきたりと、冷たい夫に耐え切れず、出てきてしまった……」
 自分でも頬を涙が伝うのを感じたが、止められなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 葉介は そうそう仕事を休むわけにも行かず、それでも母親の主治医には、容態が急変するようなことがあれば、 すぐに連絡してもらうよう、お願いしてある。
 桜が五分咲きになった頃、仕事中の葉介のケータイに、相次いで ふたりから 電話がかかってきた。

 ひとつは 主治医から。
「すぐ、来てくれたまえ。今夜まで持つかどうかだ」
 そして、トキ子から。
「お母さんが……少し、意識が戻ってる!早く来てあげて!」
 返事もそこそこに葉介は会社のビルから飛び出して、タクシーを飛ばした。
 病院に駆け込むと、白衣、マスク一式を 渡され、ICUに入ることを許された。
「母さん……」
 ずっしりした大きな医療器具が、けたたましい音を立てていて、耳障りだ。
 七枝は 薄く眼を開けて、枕元の息子に気づいた。
「しっかり。せっかく会えたんじゃないか」
「ううん、私はもう、長く……ない……。会いに来てくれて……ありがとう。それだけが言いたかった……」
「母さん……」

背後から白衣に着替えたトキ子が そっと差し出した小さな緑色の手帳がある。
「これは」
 それは、「母、倉満七枝、 長男 倉満葉介」と書かれた、母子手帳だった。


母子手帳 2




 カバーまで着けられ、「ようすけくんのあゆみ」と書かれてある。
「七枝さんに頼まれて、家から探し出してきたの。これだけはどんなことがあっても 肌身離さず大切に持っていたって」
 それには 妊娠時の経過や、胎内写真、妊娠期間中、新生児、乳児に対して留意するべき点、
出生時の身長、体重、その後の何ヶ月か検診での 計測記録や様子、初めて大人のお風呂に入れた時のこと、離乳食の回数やメニュー、初めての歯が生えた日、寝返りをうった日、初めて猫と出会って、大泣きした後、やっと抱っこできたことなど、こと細かく記入されていた。

猫とボク 2



 一枚の色褪せた写真が 足元に落ちた。それは お宮参りの時の写真だった。


おみや 1

おみや 2


     


 会ったこともない 母方の祖母が 家紋の入った藍色の晴れ着をまとった 小さな葉介を抱っこして 笑っている。その横に まだ若い七枝も、薄桃色の色無地を着て、笑顔でウレシそうだ。
 葉介の胸が なんともいえず 熱くなった。


 それを葉介から 渡されたトキ子も驚いた。
(名家に嫁いだってのが、本当だったのかね)
 そして、それをもう一度、七枝の手に握らせた。
「さ、あんたの手から 葉介くんに」
「ようすけ……、受け取ってくれる? アタシからは……何もないけど、これが、あんたへのお誕生日の……」

はるま BM アップ


  震える手で渡そうと、やせ細った腕を持ち上げようとする。
 手帳を落としかけた手ごと、葉介の大きな手が 七枝の手を包み込んだ。きつく握りしめた。

手つなぎ


「22歳……おめでとう、葉介」
「あ、ありがとう、母さん……」

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. 三浦春馬BIRTHDAY記念短編「MOTHER」4(最終回)

 葉介の眼から、泪が どっと溢れた。
「待っていてくれ、すぐに戻ってくるから。な、絶対にだぞ!」
 祈る気持ちで主治医に念をいれて母親のことを頼み、会社へ戻るなり、小脇に何か抱えてトンボ返りした。


 もう一度、急いで着替えてICUに入る。
 七枝はかろうじて 意識を保っていた。しかし、呼吸が荒い。主治医や医者たち、看護師たちも、患者と機器から眼が離せない。
 小脇に抱えてきた iPad を、母親の目の前に持っていった。
「見てくれ、母さん。母さんの知らない俺だよ。よちよち歩き、保育園、七五三、小学校の頃、かなり荒れてたけどな。中学の頃……かなり、かなり 荒れてたけどな、遊び仲間、バイク仲間が写してくれた」


くいぞめ

七五三 2
 
小ボク

チャリ 2


 iPad の中には、母子手帳から続く成長記録が詰まっていた。
 七枝の眼が輝いた。映し出される写真、一枚一枚に 力のない手を伸ばし、撫でていく。
「ようちゃん、可愛かったんだねえ……。母さん、ついていてあげられなくて……ごめんね……」
「何 言ってんだよ。俺を生んでくれたじゃないか!!今日は その感謝の日でもあるんだよ」
 さっき もらった 母子手帳をかざしながら、葉介は涙声で答えた。
「こっちこそ……、ありがとうね……。私なんかの子どもに産まれてきてくれて……」
 瞼が閉じられた。
「血圧低下!!」
「脈拍低下!!」
「心マだ!」
 緊迫した声が行き交う。テキパキと 処置がなされる。
 心臓マッサージの衝撃が、葉介の心臓にも、響くように感じられた。痛い。
 「母さん――――!!」
 母親の弱りきった手を両手で握り締める。
「母さん、だめだ、逝っちゃダメだ!許さんぞ~~~!!」

泣く はるま

      



 白い廊下に葉介の悲痛な声が響き渡った。

~~~~~~~~~~~~~~


 桜の季節も過ぎ、街にも 若葉が溢れる頃になった。
 街を見下ろせる高台に、葉介とトキ子が 薫風に吹かれながら佇んでいた。
 緑鮮やかな墓地である。灰色の墓石が 五月の陽光にさらされて 照り光っている。

みどり 墓地


     


 葉介の胸には 白い布に包まれた 骨壷が抱かれていた。
「この丘なら 安らかに眠れるだろう、母さん。俺もしょっちゅう 逢いに来れるから」
「七枝さん、きっと喜んでるよ」
 トキ子も 目頭を拭いながら、言った。
 真新しい墓石にお骨納めを無事終らせた。 読経が終わり、住職と小坊主も 緩い下り坂を降りていった。
「葉介くん……、実は 私も別れた子がいるんだ。女の子だけどね。私も勇気出して、会いに行ってみるよ」
「……そうですか」
 穏やか葉介の顔には 心からの祝福の色が 浮かんでいた。
 トキ子の細い後姿を見送ってから、やや強くなってきた陽光の木漏れ陽に染まった葉介の手には、しっかりと みどり色の母子手帳が握られている。

  若葉

    

   2012年  BIRTHDAY記念 「MOTHER」 終わり。



   <イメージ キャスト>


  倉満 葉介 ――――――― 三浦春馬
  七枝 ―――――――――― 生田悦子
  トキ子 ――――――――― 鷲尾真知子

★これは、完全に 「まぶたの母」ですね(汗)

 最後まで 読んで下さった方に 厚くお礼申し上げます。
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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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