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浪漫@kaido kanata

. 「銀の森 英雄叙事詩 CROSS 番外編」 第1回




「銀の森 英雄叙事詩 CROSS 番外編」1.


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 ♪ ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*銀の森の樹たちよ  樹に棲まう老人たちよ☆☆.

   輝く緑の葉裏に潜む小さな妖精よ
   森を渡る薫風の精よ  木漏れ陽の精よ
   古木の足元に生える苔の精よ  茸の精よ
   枝を渡る小さな獣たちよ
   知らぬか?
   愛しい女の居所を……


  ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*  ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*


1. 若き大統領官邸にて



 アイスブルーとアイスブルーの対決!!
「なんだ、お前、生意気じゃねえか、そのツラ」
「……」
「挨拶くらいしろってんだ、えっ?」
 視線と視線のぶつかりあい。お互い一歩も譲ろうとしない。
 そのうち、気の短いキャスケードは、どんな手を使って相手に頭を下げさせるか本気で考え始めた。
 相手は、つと眼を外すと、しなやかな長い手首をペロリと舐めた。
「こんの~~!!」

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 遂にキャスケードが跳びかかると、純白の猫は、ぴょんと門柱から飛び降りて庭に入ってしまった。
「おい、キャス、何を遊んでる。着いたぞ」
 まだ息荒いキャスケードの背中にジャレツの厳しい一喝が突き刺さった。
「だって、あいつがよお、ツノ生やしてやんの、猫のクセして」
「嘘をつくな!それより、ほい、スーツの襟が曲がってるぞ」

sibireru kurokami


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「ふん、ジャレツはいつもの皮の上下じゃねえか」
「お前の穴の空いたジーンズよりはマシだろう。大家の息子のを借りてやったんだぞ」
 ふたりは巨大な官邸の前に立っていた。芝生の庭がやたらと広大だ。
 白鳳(はくほう)大陸の若き大統領、ノワクレスの住まう官邸だ。
 名乗ると門の番兵が速やかに通してくれた。
 いつもの門前払いと大違いだ。
 なにせ、今日のふたりは大統領自らの招きでやってきたのだから。

旧 前田 公爵邸


 大統領の居間はジャレツとキャスケードのアパートの部屋十個分くらい入りそうだった。
 オフホワイトの壁紙、同じアースカラーのシンプルな家具。
 ベージュのふわふわの絨毯。
 ふたりが少し落ち着きなくソファで待っていると、木目の大きな扉が開いた。
 ノワクレス大統領である。


の枠レス モデル

 まだ若い。ジャレツと同年代か。異例の若さの大統領である。
 選出されたのは最近だが、その時には、大陸中が湧きに湧いた。ゴミ溜めのような首都スノウバードが美しく生まれ変わるのではないか、貧民が少しでも楽な生活をおくることができるように出来るのではないか、失業率が少しでも抑えられないか、多大な期待が寄せられた。
 この科学の遅れた白鳳大陸を別天地に変えてくれるような希望を民たちは抱いた。

 彼は人好きのする笑顔でジャレツとキャスケードと握手を交わした。
 ハニーゴールドの髪と灰色の瞳。いかにも育ちの良い男だ。
 と、彼の背後から、もうひとり入ってきたのは美しい老婦人だった。
「私の母です」
 こちらは赤毛に白髪がずいぶん増えた、赤茶色の瞳。
 まだ妻帯していないノワクレスは母親の大きな支えを得て政治をしていると、もっぱらの噂だ。品の良い貴婦人だった。ジャレツたちのような、ならず者を見ても、嫌な表情ひとつせず丁寧に握手した。
「ノワクレスの母、ゾナです。ほほほ、おふたりとも、やんちゃそうだこと」
 そう言って、席に着いた夫人の膝にひょこんと乗ってきたのは、さっきのツノの生えた白猫だ。
「あっ、こいつ…」
 キャスケードは言いかけたが、思わず口を閉じた。
 窓から秋の陽射しが柔らかく満ちてくる。猫の背の毛が鈍くビリジャンに輝いた。
「で、探し出す人物というのは?」

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. 「銀の森 英雄叙事詩 CROSS番外編」 第2回

「銀の森 英雄叙事詩 CROSS 番外編」2.


 ジャレツは切り出した。

オー 1


 ノワクレスの話はこうだった。
白鳳大陸で人が住んでいるのは、ほんの少しの地域で、その殆どは山脈や森林に覆われている。
 人々はその中に通された細い街道を馬車を使うか徒歩で交易しているのだった。
 昔から旅の商人を狙う輩は後を絶たなかったが、最近、特に被害者が続出している。


白銀

 大陸の奥の奥に、銀の森と呼ばれる深い森が存在し、そこで徒党を組んでいる賊の仕業だという。賊は多々居るが、中でも大きい被害をもたらす輩は頭目の名をスタブロスという賊だという。スタブロスは若いが統率力があり、賊の者たちの人望も厚いらしい。
 商人を皆殺しにするような残虐な事はしないが、被害額が相当に登っている。
 何度か政府からも軍に出動命令が下され、銀の森へ投入された。
 が、スタブロスはちゃちな罠にはひっかからない。隠れ家も依然と不明だ。業をにやした大統領は、別の策を思いついた。
 スタブロスを捕らえるのではなく、手を結ぶふりをして懐柔するのだ。
 その証として、政府からスタブロスに花嫁が贈られることになった。
 その花嫁行列が首都のスノウバードから銀の森へ向かう途中、忽然と姿を消したというのだ。
 花嫁とは名ばかりの、銀の森の賊と和平を結ぶと見せかけ、その内情を通告役目の大切な女だ。
 大掛かりな捜索が行われた。一行の人間たちは、山の中で無惨に殺されている遺体が見つかったが、肝心の花嫁がどこにも見当たらない。

みどり

 なかなか到着しない花嫁に、スタブロスは苛立って、抗議してきた。
 ノワクレスが途方に暮れていた時のことである。人探し稼業というものをやっているふたり連れがいるということを耳にしたのは―――。

「君たちのことは、かねてより耳にしていました」ノワクレスは言った。「本当は違法行為なんですけどね、民間で人探し稼業っていうのは……」
 ジャレツとキャスケードはドキリとして彼を見返した。
「まあ、今回の事を片付けてくれるのなら、大目にみましょう」
 ふたりは胸を撫で下ろした。
「じゃ、頼みますよ」
 ふたりを送り出すために、門の外まで出てきたゾナ夫人は、キャスケードにツノの生えた白猫をぽい、と渡した。

老婦人


シャ 1

「えっ、これ…」
「あなた方の役にたちますから」
「こいつが?」
「カララと言います。レディなのよ」
「???」
 どうも釈然としないが、逆らうことは許さない、と言わんばかりの夫人の眼の色をキャスケードは読み取った。
『オマエ、キライダ』
 どこかから声がした。腕の中の猫だ。
「お前、今、喋ったか!?」
 ノワクレス親子はにこやかに人探し稼業のふたりを送り出した。
 秋の陽はオレンジ色で山の向こうの銀の森へ伸びている。
 もうひとつの小太りな男の影がノワクレス親子に近づいた。
「ふっふ、これで銀の森の賊も一掃出来るぞ、きっと」
 副大統領のゾドリゲスだった。初老で政治家歴も長く、ノワクレスも坊ちゃん扱いで、彼の補助無くしては、ノワクレスも立ち往生する存在だが、個人的に人相といい、政治のやり方といい、ノワクレスは今ひとつ彼を好きにはなれない。
「ゾドリゲス殿、本当にうまくいくでしょうか」
 副大統領は大きな腹を揺らせて不気味な笑みを浮かべるばかりだ。


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. 「銀の森 英雄 叙事詩 CROSS 番外編」第3回

 


「どうでえ、このテンの毛皮!!」
「こっちの首飾りの方がすげえど。きっとエメラルドだあ」
「いんや、この壷の方が値打ちもんだで」

 野蛮な面構えの男たちが、次々と今日の略奪品を手にかざして自慢している。
 辺りは黒々とした深い森の闇だが、スタブロス一賊の囲む焚き火だけが真っ赤な火の粉をシルクのような黒い夜空に飛ばしている。

ぶりぶりざいもんも盗賊

 それぞれの男たちが、色んな帽子、ターバンを巻き、様々な人種の民族衣装を着たり、盗んだ都会風の格好をしたりしている。
 スタブロスは、大きな樫の木を背にして座り、竜の酒(ドラゴン・モルツ)を味わいながら手下どもの嬉しそうな様子に眼を当てていた。
 燃えるような赤毛、真紅の瞳。いったい、どの大陸の血が混じっているのか。険しい目つき、大きな鷲鼻。弱々しい美男などではない偉丈夫だ。

赤い瞳

「お頭よお、今日は羊も沢山分捕ってやったわ。それ、この肉が美味そうに焼けておる。食べて下され」
 中年男が羊の肉を差し出しにやってきた。スタブロスはそれにかぶりつき、満足げにニヤリと笑う。
「この銀の森じゃ俺たちゃ怖いもん無しだな。政府だって俺たちが手強くて手も出せねえ」
 声も野太い。
 宴もたけなわ、賊の皆が酔っ払って踊りだしたり眠りこけたりし始めた時、スタブロスの背後から美しい調べが流れてきた。

タイの一弦琴



♪ ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:* ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*

炎の精は舞い踊り勝利を祝うよ。
  我が長(おさ)は炎の王だ
  赤い髪と真紅の瞳を持つ
  赤い髪は 強い闘志  真紅の瞳は情熱の魂の証(あかし)
  讃えよ 炎の精よ 我が長を

 ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:* ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*


 澄んだ声音の合間に一弦琴(グスラ)の音がかき鳴らされる。
 スタブロスは語り部(グスラル)アベルモスコの傍らにやってきて腰を下ろした。
「お前も飲め」
 アベルモスコは何も映さぬ翠(みどり)の瞳を優しく燻らせ、首を横に振った。
「お前は今日の戦利品から好きな物を好きなだけ選べ」
 温厚な盲目の語り部は、美しい薄い薔薇色の唇にふと笑みをもらし、又、首を振った。背中の中ほどまである長い金髪がサラサラと揺れる。
「相変わらず欲の無い奴だな」
「私は、雪原の中で凍死しかかっていた時、、あんたに命を助けてもらった。他には何も要らぬ。あんたの側にいられるだけでいい、スタブロス」
 細い指で愛器の一弦琴を撫でた。
 スタブロスの脳裏にも、考えがよぎる。
(どうして、俺は、こんなにひとりの語り部に惹かれるんだろう)



 長閑な山の中の砂利道だ。
 小春日和のポカポカ陽気、一台の荷馬車がくねくねとした峠道を登っていた。
 馭車台に座っているのは、ふたりの青年。行商人である。
「さっきの村で何をおかみさんたちとアブラ売ってたんだよ」
 キツネ色の巻き毛のまだ若い男がもうひとりに尋ねる。
「道を聞いていただけだ」
 応えたのは、もう少し年重の黒髪の男。
「道!?道なんざ、この一本しか無いじゃねえかよ」
「そんなことより、そろそろ銀の森が近いぞ、気をつけろ、キャス」


オ 2

 ジャレツは鋭く周囲の山肌の森に視線を巡らせながら言う。
「わかってら」
 キャスケードは長い巻き毛を絹の布で結わえ直した。
『にゃ~~ん』
 その膝ですっかり懐いてくつろいでいるのは、ツノを持つカララだ。キャスケードは、さも迷惑そうに鼻面をしかめた。
「なんでお前が役にたつんだよ」
 じゃれあっている青年と猫を尻目に、ジャレツの思いは行方を断った花嫁のことに流れていた。
(何故、花嫁だけが見つからん?スタブロスの賊が拉致したのか?それとも逃げる途中に谷へ落ちた可能性も……)
 その時だった。
 いきなり山の上から雷とも地響きともつかぬ大音響と共に大きな岩が転がり落ちてきたと思うと、荷馬車の前で止まった。二頭の馬が驚いて立ち往生し、いななく。
 同時に思い思いの格好をしたうす汚いヒゲ面の男たちが滑り降りてきた。
「へっへ。これで馬車は動けまい」
 ひとりの男が太い反った刀を閃かしながら近づいてくる。
 ジャレツが席の横の長い銃を握るなり
「動くなっ」
 他の男たちが様々な型の銃や刀を構えてじりじりと近づく。
「手を上げて馬車を降りろ」
 ジャレツとキャスケードはおとなしく言われたとおりにする。
 カララは三角耳をシャン!と立ち上げるなり、荷馬車の奥に逃げ込んだ。

猫アップ

 男たちは寄ってたかって荷馬車の幌をめくり上げ、中の荷物を物色し始めた。
「お前たちの首領は、スタブロスって奴か?」
「うるせえっ黙ってろ!」
 ジャレツの問いは大太刀を持った男に封じられてしまった。
 荷に群がった男たちは、
「まあまあ、ってもんしかねえな。そんな高価なお宝じゃねえ」
「おい」
 仲間の男が目配せして、キャスケードを示した。
「あいつの方がよほど金になるじゃねえか」
 卑しげな口元で舌なめずりする。
「あいつだったら長も喜ばれるだろう」
 せむしの灰色髪の男がキャスケードの胴に抱きついた。
「なっ何しやがんでえっ」

てん



 驚いたキャスケードは思わず突き飛ばす。
「へっへ、綺麗なにいちゃんよ、こりゃ、あの語り部にも負けねえぜ。ずいぶん威勢がいいじゃねえか」
 周りの男たちが一斉にキャスケードに飛びかかって縄で縛ろうとする。
「やっ、やめ……!」
「キャス!」
 ジャレツが眼で合図を送った。
「じゃあ、こっちの無骨なのは、始末しちまうか?」
 ジャレツに刃先が向けられた時、キャスケードが大慌てで叫んだ。
「そいつに指一本でも触れたら、俺が舌を噛み切るぞ!!」

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. 「銀の森 英雄叙事詩 CROSS番外編」第4回

 ふたりは後ろ手で縛り上げられ、険しい森の山道を歩かされた。



 深い森、太陽の光も届きにくいような陰気な、樹木の根がぼこぼことした道を何里登ったことだろう。やっと木々の無い開かれた場所に出た。
 山の頂上に近いらしく、平坦な狭いが少しは人間が集まれそうな場所だ。
 焚き火の跡が中央に残っており、それを中心にいくつか薄汚い幕舎が建てられている。
 その奥に洞窟があり、男がひとり走っていって、中に声をかけた。
 やがて現れた男は、燃え立つような髪と真紅の瞳で引っ立てられてきたふたりの男の前に立った。
「……スタブロスか」

オーラ 6

 ジャレツが漆黒の視線をぶつけながら言う。
「行商人の間では俺はすっかり有名人だとみえる」
 スタブロスは苦笑を浮かべてジャレツとキャスケードをとくと眺めた。

赤い髪男

「こっちの黒髪の男も屈強そうだし、体力がありそうだ。労働仕事に役に立つだろう。売れるな。それに、こっちのキツネ色の髪のお兄さんは、こいつぁ、確かにいい値で売れそうだな」
「だっ誰がいい値だって!?」
 アイスブルーの瞳が本気で怒りを発した。
「にゃ~~ご」
 その時、運ばれてきた大きな甕(かめ)の中から白猫が登り出てきてキャスケードの足にまとわりついた。
 そのしなやかな姿を、まるで見たかのようにスタブロスの洞窟から出てきたアベルモスコが足を止めた。鋭くそれを察知したカララがアベルモスコの元へ走り寄る。
「おい、どこ行くんだよ、白猫!」
 素早くジャレツがキャスケードの耳元へ囁いた。
「あの猫の言葉をお前は聞きとれるんだろう。あいつに探ってきてもらおう」




3. 純白の猫の思念


 ふたりは広場の奥の一隅にある小さな天幕に連れて行かれた。中央の柱に背中合わせにくくりつけられて、放っておかれた。
「やい!腹が減った、飯くらい喰わせろっ!酒もよこせっ」
 キャスケードのわめきに応じて、スタブロスの手下が案外、実のある食事を運んできた。その間だけは縄を解かれた。
 夕暮れが迫っているらしい。
「にゃ~~~ご」

sya 1

 天幕の隙間からカララがやってきてふたりの食事のおすそ分けにあずかった。
「へん、お前の思念が役に立たなきゃ肉のひと切れだってやるもんか」

『……ワカッタワ。一弦琴ヲ奏デル語リ部あべるもすこノカナシミ』
 白猫カララは碧い眼を真っ直ぐキャスケードに向けて唐突に話し始めた。


 太古の昔、この銀の森にたいそう栄えた一族があったという。
 実は行方不明になった花嫁とアベルモスコはその一族の生まれ変わりで愛し合った仲だという。
 ふたりは一族を滅ぼした白鳳政府を憎んでおり、スタブロスたちを利用して微々たる抵抗を続けているというのだ。
 花嫁というのは、いったい誰なのか?今、どこにいるのか?生きているのか?
 ジャレツとキャスケードは悩んで顔を見合わせては、ため息をついた。


 夜半、キャスケードは縛られた姿勢のまま、いつしか眠りの女神に抱かれていた。
『青年よ……青年よ』
 琴のような繊細な声にキャスケードは夢の中で呼ばれている。いや、うつつなのか。
『私の言葉が聞こえる美しい青年よ、目を覚まして』
 キャスケードがようやく眼を開くと、猫のカララがちょこんと座って言葉を発していた。
 猫の姿が、ぼうっと変貌した。白磁の肌、エメラルドの瞳、足元まである巻き毛の純白の髪はビリジャンに輝いている。世にも信じられぬ麗らかな女が白く長いドレスを着て立っている。

銀髪 1

『私の名は、ビューセ。太古の銀の森に栄えた一族の巫女姫』
 そしてキャスケードに幻影を見せた。一弦琴を抱いて横になっているアベルモスコだ。彼を見やるビューセの瞳は愛しげだ。
『彼と将来を誓いあっていたのに、次元を狂わせ、時代をも狂わせ、私たちを
太古から現代へ迷い込ませたんだわ!スノウバードにひとり放り出された私は、何者かに捕われ、スタブロスの花嫁に仕立て上げられ銀の森へ送られたの』
 ビューセの顔が急に歪んだ。
『そして……ああ』
 両手で顔を覆い、泣き崩れる。
「ど、どうしたんだよ」
 キャスケードは焦れた。
『私は……私にはアベルモスコに愛してもらう資格がもう無いの』
「どうしてさ」
『旅の途中、山賊に襲われて必死で逃げたわ、だけど捕まって……』
 嗚咽に揺れる細い肩が、彼女に起こった凄惨なことを連想させた。
 キャスケードは縄さえなければ、その肩を抱きしめてやりたい衝動にかられた。
『気がつくと透きとおるようなエメラルドグリーン……アベルモスコの瞳のような泉が目の前にあったの。ここで身を浄めれば、もう一度アベルモスコに愛してもらえるかもしれない……そう思って』
「身投げしちまったのかよ!?」
 ビューセの身体がほわりと影のように薄くなった。

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. 「銀の森英雄叙事詩 CROSS 番外編」 第5回


 ビューセの身体がほわりと影のように薄くなった。
「あっ、おい、待てよ」
 我に返ると薄暗い天幕の中、カララが高貴な座り方でキャスケードの前におり、優雅に前足を舐めていた。
 キャスケードの頭の奥で閃いたことがあった。
「ジャレツ。おい、起きろよ、ジャレツ。大切な時に二日酔いは許さねえぞ!」
 柱の向こうにいる相棒にどやしつけた。そうして、今、猫から聞き出した一部始終をまくし立てた。
「もう少し……小さな声で喋れんか」

オー(笑)

 勢いあまるキャスケードにジャレツは閉口した。
「おい、おっさん、早く目を覚ませ」
「そりゃ、こっちのセリフだ、夢の話ばっかしやがって」
「夢じゃねえってば!!それよか、ここにあの語り部を呼びつけろ」
「彼がどうかしたか」
「いいからっ!」
 ジャレツは大きな欠伸をひとつしてから、天幕の外の番人を呼び、事の次第を告げた。


 しばらくして、サッと朝陽が射しこんだと思うと、黄金の髪の青年が静かに入ってきた。
「私に何か?旅商人の方」
 ふたりの縛りつけられている柱の傍らにひざまずいた。
「あんた、白鳳政府に恨みを持ってるだろう」
「何ですか、いきなり」
 温和な表情は変わらない。
「全部分かってるんだぞ。あのスタブロスって奴は、あんたを絶対的に信用しているようだが。あんたの歌い語りで行動を決めたりするそうじゃねえか」
「……」
「でも、あんたは違う。スタブロスを信用してるんじゃなくて利用するつもりなんだ。彼に銀の森一帯に住む輩を扇動させて暴動を起こし、政府にひと泡吹かせてやろうという肝(はら)だろうが。ああ?」
「どうして盲(めしい)の私がそんな大それたことを」
「復讐のためにだよ。……愛する女を死に追いやられた」
「……」
 音もなくどこからともなく白猫が近づいてきて、アベルモスコの側に擦り寄った。
「ビューセ」
 アベルモスコはさも愛しげに白猫を膝に乗せる。


シャム 4

「君はこの猫の思念を受け取れるのか?若い商人よ」
 彼は尋ねた。
「ああ、なんでだか分かんねえけどよ。ところで」キャスケードは声を潜めた。「政府がスタブロスに和平を求めて献上した花嫁……ビューセを送り出したのは誰だか見当がついてるんだろう?」
「あなたがたはいったい」
「ノワクレス大統領と母上のゾナ夫人の依頼を受けて花嫁を探しにきた。人探し稼業やってんだ」
「ゾナ夫人から……?」
 アベルモスコの顔色が変わった。
「どうかしたか?」
「ゾナは……ゾナは、実は私たち太古の銀の森の一族の長で、巫女姫だ。私が禁忌を破り、ビューセを愛して一族を抜けようとしたのだ。だから……彼女は時代を越えて私たちを追ってきた。いや、彼女の神力で私たちを送り込んだのかもしれん。それでビューセを探してるんだ」
 なんとも神秘的なことが青年の口から語られた。
 キャスケードとジャレツは、返す言葉もなく沈黙の澱みに落ちた。

金髪巻き毛 1




 夜が更けてから―――。
 ザッザッと荒々しく砂を踏むひとりの足音が近づいてきた。
 垂れ幕をめくり上げたのは、燃え立つ髪、真紅の瞳の青年だった。
「ほ~う、旅商人にしちゃ、両方とも出来上がった面構えじゃねえか」
 しゃがんで、ジャレツ、キャスケードと順にアゴを持ち上げ、視線をぶつけて眺め回す。
「はて?一介の旅商人には見えん気がするが」
 唇に蔑笑が浮かぶ。
「スタブロス」ジャレツが口を開いた。「どうして盗賊なんかに身を落とした。そんな立派な体格と器量を持っていて」
「……大きな世話だよ」
 賊の長はポツリと答えてから激昂した。
「この国の貧しさと荒れ方をよおく知っているだろう!?特に俺のように変わった姿の人間はハナからつまはじきにされるのよ」
「生まれは……?お前の生まれた村の人間は皆、そんな髪と眼の色じゃないのか」
「知るかっ!!俺は……俺は捨て子だっ」
 言い捨てるとスタブロスは足早に立ち去った。
 ジャレツの漆黒の瞳は空(くう)を見つめて長い間考えに沈んでいる。




4. 捕 縛


「来襲だぞォッ!」
 野太い声が、ある夜、スタブロスの隠れ処に響き渡った。スタブロスが瞬時に洞窟から走り出てくる。
「お、長(おさ)、政府から……ノワクレスの奴の手下だよお!!すげえ数だ、山一帯を取り囲んでやがら」
「落ち着けっ!!」真紅の瞳がいっそう燃え上がる。「くそ、どうしてここが判った……!?」

赤い瞳 2

 そのうち、地鳴りのような沢山の軍靴の足音が近づいてきた。
 辺りは戦闘の用意を始める男たちの怒号が満ちた。
「な、何の騒ぎだ?」
 相変わらず柱に縛りつけられたままのキャスケードも不安そうな声をもらす。
「ひょっとすると大統領がここを嗅ぎつけたのかもしれん」
 ジャレツは比較的、落ち着いている。
「どーして、そんなこと分かるんだよ?俺たち、何にも報告してねえぜ」
 白猫がいつもののんびりした動きを止めて神がかった姿勢を保っていた。
「さては……」キャスケードは長い間かかって緩めた縄から抜け出し、猫のカララに飛びかかって押さえつけた。「さては、てめえがノワクレスに……いや、ゾナの婆さんに伝えたなっ!!」
「にゃ~~ご!!」
 勢いに任せてむんずと猫のユニコーンのような一本ヅノをつかんだキャスケードは、そのままボッキリとツノを折った。たちまち、苦しみだすカララ。
「てめえはいったい、どっちの味方なんだよ、白猫!!アベルモスコが死んでもいいのかよっ」


 矢庭に立ち上がったせいで、夫人の膝から編みかけの白いレースが落ちた。
 議会から戻ったばかりのノワクレスが部屋に入るなり母親の異常な表情に気づいた。
「お母さん……どうかなすったんですか」

おやこ

「カララから報せが来た……ビューセを囮(おとり)にアベルモスコめを捕らえようとしていたのに、ビューセはスタブロスの元へ着く前に湖に身を投げてカララの魂に戻った……」
「何のことです……お母さん……」
 ノワクレスは震える母親を前に、立ち尽くすしかなかった。

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. 「銀河英雄叙事詩 CROSS 番外編」 第6回



 スタブロスの激しい叱咤激励も虚しく、所詮、賊など政府軍の敵ではなかった。一賊の隠れ処さえ押さえてしまえば軍が彼らを攻撃することはいとも簡単なことだった。
 さんざん旅人や旅商人を脅かし続けた銀の森の一賊は、遂に政府軍に一網打尽にされてしまったのだった。

部族 1



「ご苦労だった」
 ノワクレス大統領は、送り出した時と同じ笑顔でジャレツとキャスケードを官邸の一室で出迎えた。
「君たちのおかげで我々の手こずっていた銀の森の一賊を捕らえることが出来たよ」
 たいそう感激した様子でふたりの手をそれぞれ握る。ふたりはうろたえながら、口籠もっていた。
「お、俺たちは、商人のふりして山を旅していたらあいつらに捕まっただけで」
 キャスケードは嬉しさより迷惑そうな素振りを隠さずに応えた。
「ゾナ夫人」

オーラ 7

ジャレツが唐突に夫人に歩み寄り、耳元で囁いた。そして隣接した小部屋に連れていくと、
「銀の森へ向かう途中の貧村で耳にしたのですが、三十年ほど昔、赤い髪と瞳の赤ん坊が村の一軒の軒先に捨てられていたそうです。そして身分の高そうな女性が走り去ったのを見た者がいると」
「そ……それと私と何の関係があるというの」
「その女性は、ツノの生えた白猫を連れていたというのです」
「なんですって?それじゃ、まるで 私が」

イングリッド 1

ゾナ夫人の顔が真っ赤になり、そして蒼白になった。
 皺深い手がぶるぶると震えて握り締められた。


 銀の森の賊どもは、容赦なく冷たい石牢に放り込まれた。
「くそォ、手荒なことしやがって」
「半分は殺されちまったじゃねえか」
「ノワクレスって男は残虐非道な奴だ。あんな上品なツラしやがって」
 中でもスタブロスは悔しさを燃え立たせて石牢の壁を凝視していた。
 アベルモスコも一弦琴を抱いて沈黙するばかりだ。

 牢の外に女の姿が静かに立った。
 アベルモスコの見えぬ目元に緊張が奔る。
「待っていましたよ、麗しい語り部……」ゾナ夫人だった。「私の手から逃れられるとでも思ったのですか、アベルモスコ」
 矢庭に堅固な牢の扉を爆破される大音響が響きわたった。
 番兵がふたり、吹き飛んだ。石牢もその一部が崩れている。
「な、何事です?」
 身を伏せていたゾナ夫人に、番兵長が額から血を流しながら走り寄った。
「マダム、大丈夫ですか、早く安全なところへ」
「待てっ!」
 ふたりが振り返ると、キツネ色の巻き毛の青年が立っていた。
「このババァ、お上品な顔しやがって、やる事が汚えじゃねえかよ!」
「何の事です?」
「昔から、アベルモスコと恋人のビューセのことを知ってたんだろう?隠したってムダだぜ。全部ビューセ……あのカララって白猫が教えてくれた」

ホテルロビー

 ピリとも表情を動かさず、すっくとゾナ夫人は立ち上がった。
 駆けつけてきたジャレツが、間に合わなかった、とばかりに顔面を自分でピシャリとやった。
「さあ、みんな、逃げるんだ、今のうちに」
 銀の森の賊たちを導こうとするキャスケードに、ゾナは言い放った。
「番兵!何をしているの、この人探し稼業とかいうふたりも一緒に捕らえておしまい!」
「俺たちまで!?」
 このままおとなしく捕らえられるキャスケードとジャレツではない。群がる兵を蹴散らして、一賊の中からアベルモスコを見つけるや、その手を引っ張って石牢を脱出した。


 三人は都スノウバードの裏街へ逃げ込んだ。
 細い路地に身をすべりこませ、肩で息をして整える。雑踏が小さくなった。
 アベルモスコは大事に持ってきた一弦琴を撫でながら、
「この世にビューセがいないのなら、もう私には生きている意味などない……」
 美しい透けた緑の瞳が悲しみに沈む。
「何、男が寝言ほざいてんだよっ!」キャスケードがイラついて一喝する。「スタブロスと組んでゾナのババァにひと泡吹かせてやるんじゃなかったのかよっ」
 キャスケードの怒鳴り声に驚いて、ホームレスの男が二、三人、路地をドブネズミのように、すばしこく逃げていった。

「そうだぜ、アベルモスコ」
 路地の入り口に上背のある人影が見えた。
「俺たちの目的をこんな事でひしゃげさせるわけにはいかねえ」
「スタブロス……」
「ちょっとした情報を耳にしたぞ」

虹色の瞳

 スタブロスの言うところによると、もうすぐ大統領官邸では、ゾナ夫人の七十歳の誕生パーティーが開かれることになっているというのだ。
 それまで押し黙っていたジャレツが口を挟んだ。
「そんな警備が厳重にされる日に何をする気だ、危険すぎる」
「警備が厳重で、いっぱいお偉方が集まるんだろう?それが狙い目さ。まあ、見てな」
 彼の真紅の瞳に爛々(らんらん)とした炎が燃え上がっている。

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. 「銀の森英雄叙事詩 CROSS 番外編」第7回



5. 時空を越えた邂逅


「では夫人の永遠の栄光を祝して」
「ご子息ノワクレス様のますますのご躍進を願って」
「ここにまた美しく年齢を重ねられることを祝して」

 その夜、白鳳大陸の社交界の面々―――、政界、財界、あらゆる識者が集い、ゾナ夫人のためにグラスを鳴らして傾けた。

赤いパーティー会場

 ゾナ夫人はきらめくブラウンダイヤの長いイヤリングを揺らせて着飾り、来賓たちの祝いの言葉に応えるのに忙しかった。大統領官邸の大広間。天井のシャンデリアの鈍い光が彼女を若く見せている。
 副大統領のゾドリゲスも、機嫌よく列席していた。

 大広間の外で大勢の人の騒ぐ声がした。言い争っている。やがてそれは間近に迫り、乱暴に豪華な扉がこじ開けられた。
 なだれこんできた野放図な男たち。
「きゃあっ」
「何者!?」
 驚いて逃げ回る、紳士淑女たち。
 スタブロスの残党たちがパーティー会場を襲撃したのだ。
 沢山のボディガードをものともせずに、客が身につけている宝石の類いをめりはがすように、取り上げていく。
「はっは、さすがに一流品ばかりだぜ!!」
 会場は大混乱に陥ろうとしていた。



 
「もう、その辺でよかろう、スタブロス」
 ひと際通る声が響いたと思うとジャレツとキャスケードが立ちはだかっていた。
「あんたがたが、この連中を引き入れたのか」
 さすがのノワクレスも、怒りを露わに唇を震わせている。
「母上の誕生パーティーが台無しではないか!いいか、これは、民間人の社交場ではない!!政治の取引も行われる大切な機会なのだぞ!いったい誰の情けで仕事が出来ると思っている!」
 ジャレツは大統領と来賓に向かって、深々と頭を下げた。
「今宵、ご列席の皆様、お騒がせして申し訳ございません。この者たちは、決して皆様に危害など加えませんのでご安心ください。安心してお静まりください。お詫びに」
 ジャレツの背後から一弦琴を持ったアベルモスコが進み出て、会場の中央に腰を下ろした。
 一弦琴の爪弾きが響き、なめらかな旋律が流れ出す。
 うろたえ、怒りまくっていた客たちだが、美しい金髪の青年に視線を集めて、ざわめきは、小さくなっていった。

イラスト 銀髪



♪ ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:* ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*

 銀の森の掟は岩より固く、海より深い
 銀の森の一族を統べるのは 巫女姫 
 その瞳は夜空の星々のように煌き
 聖き巫女姫  穢れなき巫女姫  その唇は薔薇より紅い
 掟は 巫女姫の語られる言葉  抗う者に訪れるのは 死神の制裁

 巫女姫は人を愛さない 一族を守っても人を愛さない
 愛してはならない……

 でも……でも……
 巫女姫とて人の子
 ある御世 ひとりの巫女姫が一族の青年を愛したが……

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 ジャレツはそっとゾナ夫人に近づいた。
「さあ、もう本当の事をお話されてはいかがです」
 彼女の頬に、いつしか涙が光っていた。
 アベルモスコが静かに立ち上がり、ふたりの方へ歩み寄った。そして見えない眼で夫人の両手をとり、
「あなたは時空を越えて、私とビューセを罰するために追ってきた……。たとえビューセがあなたと同じ巫女でも、私は彼女を愛さずにいられなかった……。それだけの事です」
 ゾナの年老いて濁った茶色い眼から涙が止まらない。

バーグマン 2


「私も……太古の昔、恋人がありながら結ばれることは出来ませんでした。掟のためだけに。ですから嫉妬していたのですわ。私はあなたとビューセに。だから無理やり彼女をスタブロスに嫁がせた」
 その口調は神妙だった。
「もしや、山中でビューセを襲った輩もあなたが……?」
「いいえ、それは違う、ビューセの身に起こった事は猫の思念から感じました。可哀想としか申せません」
 ツノの半分折れたカララがよたよたと女主人の側に来て悲壮に鳴いた。
 いきなり、アベルモスコの白い腕は隠し持っていたナイフで老女の胸を刺し貫いた!!
「アベルモスコ……」
 ジャレツとキャスケードは、どうすることも出来ず、事の成り行きを見守った。
 アベルモスコの顔は怒りに歪んでいる。
「そこまで、しらを切りとおさなければ命まで奪いはしなかったものを……!ビューセを死神に売り渡したのは、あなただ、ゾナ!!私は許しはしない」
 ゾナ夫人の手がアベルモスコ向けて空(くう)を彷徨い、そして唇が何かを訴えていた。が、それもつかの間、彼女の身体はゆっくりと床にくず折れた。
 どす黒い血の染みが絨毯に広がっていく。
「お、お母さんっ!」
 ノワクレスが血相を変えて人垣をかき分け、倒れた母親の上半身を抱き起こす。
「ノワクレス、お別れの時が来たようです…」
 苦しげにも、かすれた声でゾナは言った。
「あなたは、お父様の前の奥様の子……。私とは血の繋がりが無い……。真紅の瞳の男から恨みを買うことは無いでしょう……」
 それだけをやっと言い終えると、がくりと首を下げた。
「お、お母さんっ!」
番兵がどっと押し寄せて、アベルモスコを捕らえようとする。
「スタブロス!」アベルモスコが叫んだ。「こやつらに処刑されるよりは、お前の手で……頼む!」
「何だとっ?」
「お願いだ」
 アベルモスコの悲痛な叫びが銀の森の長(おさ)の心を貫いた。
「木っ端ども、どけっ!!」

 銃弾の音が会場に響き、金髪の青年が床に激しく倒れる。
「アベルモスコ……アベルモスコ……俺の……唯一の…友……」
 銃を構えたまま、スタブロスの真紅の瞳から涙が後から後から噴出してきた。
 スタブロスはその炎の滾(たぎ)る瞳を、人々の後ろで震えて一部始終を見ていたゾドリゲスに向けた。
「これで満足か、副大統領殿。しかし、俺はもう協力などせぬ。略奪品をあんたに横流しして俺たちだけ汚名を被るのは、お終いだ」
 急に人々の間にざわめきが起こり、一斉に一同の白い視線がゾドリゲスに集められる。
「副大統領、まさか……」

メガネ男

 母親の骸を抱いたままの、ノワクレスも恐ろしい形相となって一歩、踏み出す。
「わ、わしは……」
 たじろいだゾドリゲスはグラスを落とした。

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. 「銀の森英雄叙事詩 CROSS 番外編」第8回(最終回)




「アベルモスコ……」
 スタブロスは床にキラキラと広がった髪の友の亡骸を見下ろしてから、
「銀の森の英雄は俺なんかじゃねえ。お前だよ、アベルモスコ……」
 ジャレツが彼にそっと近づいた。
「ゾナ夫人が巫女姫の掟を破って恋に落ち、産み落としたのは、あんただ、スタブロス」
 スタブロスの真紅の瞳が見開かれた。
 そして、ノワクレスに抱かれているゾナ夫人に眼をやり、アベルモスコに視線を戻した。
 そのまま、迷わずにこめかみに銃口を押し当て、銃爪(ひきがね)を引いた。

『ソレデコソ銀ノ森ノ英雄……』
 白猫、カララが心の中で呟いた。

白猫





 さやさやと葉擦れの音が心地好い。
 しかし、本格的な冬も近いのだろう、葉は色とりどりに染められている。
 散り敷いた葉に覆われた山道を、白い猫が行こうとしている。
 立ち止まっては振り返り、又、少し行っては振り返る。
「どうした、行きな。銀の森へ帰るんだろ」
 キャスケードが優しく声をかけた。
『アリガトウ。ワタシト、オナジ色ノ瞳ヲシタ青年。ワタシハ銀ノ森デあべるもすこノオモカゲヲ、感ジテ生キル』
 しなやかな肢体をくねらせ、側の木に登った白猫は、たちまち枝葉に隠されて見えなくなった。
「……帰るか」


オーラ 8

 キャスケードの背後から、相棒の声が呼んだ。
 踵(きびす)を返して行こうとするキャスケードの耳に、聞き覚えのある音色が葉擦れの音に混じって届いてくる……。
「一弦琴……アベルモスコ……?」


♪ ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:* ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*

 そして 銀の森は静寂に還る
 深い深い森の奥  微かな羽音をたてて飛ぶのは 妖精たいばかり
 哀しい恋の物語を知っているのも 玉虫色の羽根を持った妖精たちだけ…
 
 銀の森に 燃える髪 真紅の瞳の一族が 栄えていたことを
 知るのも 今は妖精たちだけ……

☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:* ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*


koibito tati

紅葉 2



   「銀の森 英雄叙事詩 CROSS 番外編」  完


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. 銀の森 英雄叙事詩 その1

★登場人物
 ジャレツとキャスケード―人探し稼業の風来坊
 ノワクレス―― 白鳳大陸の大統領
 ゾナ――――― ノワクレス大統領の母
 スタブロス―― 銀の森の賊の頭目
 カララ―――― 頭に角のある白猫
**************************


♪ ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*

銀の森の樹たちよ  樹に棲まう老人たちよ☆☆.
輝く緑の葉裏に潜む小さな妖精よ
森を渡る薫風の精よ  木漏れ陽の精よ
古木の足元に生える苔の精よ  茸の精よ
枝を渡る小さな獣たちよ
知らぬか?
愛しい女の居所を……

☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*・゚*:.。.☆☆.。.:*  ☆☆.。.:*・゚*:.。.☆



アイスブルーとアイスブルーの対決!!
「なんだ、お前、生意気じゃねえか、そのツラ」
「……」
「挨拶くらいしろってんだ、えっ?」
 視線と視線のぶつかりあい。お互い一歩も譲ろうとしない。
 そのうち、気の短いキャスケードは、どんな手を使って
相手に頭を下げさせるか本気で考え始めた。
 相手は、つと眼を外すと、しなやかな長い手首をペロリと舐めた。
「こんの~~!!」

銀の森用 シャム

遂にキャスケードが跳びかかると、純白の猫は、
ぴょんと門柱から飛び降りて庭に入ってしまった。

ブルーム 笑う


「おい、キャス、何を遊んでる。着いたぞ」
 まだ息荒いキャスケードの背中にジャレツの厳しい一喝が突き刺さった。
「だって、あいつがよお、ツノ生やしてやんの、猫のクセして」
「嘘をつくな!それより、ほい、スーツの襟が曲がってるぞ」
「ふん、ジャレツはいつもの皮の上下じゃねえか」
「お前の穴の空いたジーンズよりはマシだろう。大家の息子のを借りてやったんだぞ」


 ふたりは巨大な官邸の前に立っていた。芝生の庭がやたらと広大だ。
 白鳳(はくほう)大陸の若き大統領、ノワクレスの住まう官邸だ。
 名乗ると門の番兵が速やかに通してくれた。
 いつもの門前払いと大違いだ。
 なにせ、今日のふたりは大統領自らの招きでやってきたのだから。

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. 銀の森 英雄叙事詩 その2

 ★登場人物
 ジャレツとキャスケード―人探し稼業の風来坊
 ノワクレス―― 白鳳大陸の大統領
 ゾナ――――― ノワクレス大統領の母
 スタブロス―― 銀の森の賊の頭目
 カララ―――― 頭に角のある白猫
**************************

大統領の居間はジャレツとキャスケードのアパートの
部屋十個分くらい入りそうだった。
 オフホワイトの壁紙、同じアースカラーのシンプルな家具。
 ベージュのふわふわの絨毯。
 ふたりが少し落ち着きなくソファで待っていると、木目の大きな扉が開いた。
 ノワクレス大統領である。

 まだ若い。ジャレツと同年代か。異例の若さの大統領である。
 選出されたのは最近だが、その時には、大陸中が湧きに湧いた。
ゴミ溜めのような首都スノウバードが美しく生まれ変わるのではないか、
貧民が少しでも楽な生活をおくることができるように出来るのではないか、
失業率が少しでも抑えられないか、多大な期待が寄せられた。
 この科学の遅れた白鳳大陸を別天地に変えてくれるような希望を民たちは抱いた。

若き 大統領


 彼は人好きのする笑顔でジャレツとキャスケードと握手を交わした。
 明るいブラウンの髪と灰色の瞳。いかにも育ちの良い男だ。
 と、彼の背後から、もうひとり入ってきたのは美しい老婦人だった。
「私の母です」
 こちらは赤毛に白髪がずいぶん増えた、赤茶色の瞳。
 まだ妻帯していないノワクレスは母親の大きな支えを得て政治をしていると、
もっぱらの噂だ。品の良い貴婦人だった。
ジャレツたちのような、ならず者を見ても、嫌な表情ひとつせず丁寧に握手した。


「ノワクレスの母、ゾナです。ほほほ、おふたりとも、やんちゃそうだこと」
 そう言って、席に着いた夫人の膝にひょこんと乗ってきたのは、
さっきのツノの生えた白猫だ。
「あっ、こいつ…」
 キャスケードは言いかけたが、思わず口を閉じた。

 窓から秋の陽射しが柔らかく満ちてくる。猫の背の毛が鈍くビリジャンに輝いた。
「で、探し出す人物というのは?」

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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