FC2ブログ

浪漫@kaido kanata

. 2011 クリスマス記念 「聞こえるか、あの橇の鈴の音……」

  

          一

 その瞳は 異様にギラついていた。
 渋谷の繁華街で、肩がぶつかったのだが、睨み返し方が ハンパじゃなかった。
 手入れの行き届いていない 肩までの髪、着ているものも、垢抜けていない日常着にダッフルコートを羽織ったジーンズ姿だが、顔はこの表情でなければ 愛らしい。

は ラブ


 樹(たつる)は、この少女を強く印象強く思った。ハデに着飾った女子大生のとは、かけ離れた野生の猫だ。
 睨まれた一瞬が、2分くらいに感じられた。
 どこかで見た覚えがある。「あっ」と閃いて、雑踏の中、後を追った。
「おい、君、橘さんだろ」
 また 毛を逆立てた山猫のような視線が突き刺さってきた。

にらむ

 誰よ、あんた」

「三坂樹(たつる)」

 その名前を聞いて、少女の顔は更に険しくなった。
 話すことなんか 何も無いわ」
「いや……」樹は、少女の肩越しに叫んだ。「お礼が言いたい。俺も君の父親を憎んでいた。君が殺らなければ、俺が殺っていただろう」
「何を気軽なこと言ってるのよ!!安穏と育ったクセに!私は人殺しなのよ、それも父親を、よ」
 樹は少女の口元を塞いで目立たぬ軒先に入った。

青ツ


 大通りの広場にある、大きなツリーの色とりどりの灯りが反射されて美しい。
 クリスマスソングが流れて、街は華やいでいるが、足元からしんしんと冷えてきた。
「君に少年裁判所で会ったことがある。傍聴席からだが。俺は……」
「知ってるわよ。父さんと関係のあった女の息子。……あっ!!」
 少女は叫んで、身を翻し、路地の奥へ走り去った。
 人相の悪い中年男が路地から飛び出してきて、少女の後を追う。
 薄汚いカーキ色のジャンパーの中年男が、少女の背後から両手を指し伸ばそうとした時、小さな獲物は、振り返りざま、ぶら下げていた大きなバッグで男の横ツラを張り飛ばした。
「いでで……」
「男が怯んだ隙に、樹は少女の腕を引っ張って、大通りへ出て、人で溢れる広場を突っ切った。ふたりとも、肩で息をしていた。息が白いのが、忙しく感じられる。
「な、何なんだ、今のヤツ」
「関係ないでしょ、ついてこないで」
 放っておけなかった。目が脅えきっている。
「ついてこないでって、言ってるでしょう!!」
 峻拒されて、樹の足は止まった。小柄な背中を見送るしかなかった。
(今夜、寝る場所はあるのだろうか……)


          ※

 少女、頭を鈍器で殴って実の父親を殺害した。
 しかし、裁判では、幼少の頃から、この獣のような男に性的虐待を受けていたこと、少女の告白から知れた。故に、執行猶予が下された。
 母親は、数年前に家を出てしまっている。


 樹の母親は、一流の会社経営者だが、彼女もまた、男性関係が派手だった。
 何年も前から 少女の父親と関係を持ち、その他、複数の男もいたようだ。

れい 1

 少女の父親もまた、「女にだらしがない」という言葉では 言い表せない人間だ。
 その為に 樹の家庭も波風の絶えない日はなかった。母親が家出や実家に帰ったことなど、数え切れない。


にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村
スポンサーサイト



. 「聞こえるか、あの橇の鈴の音……」第2回


                  二


 数日後、大学側からの帰り道、ゼミの友人、数人と歩いていた 樹は、通学路の街路樹の陰に、あの少女が隠れて見つめているのに気づいた。

木立


学

「どうした?樹」
「いや、先に行ってくれ」
仲間を先に行かせて走り寄ると、少女は逃げようとした。
「待っていてくれたんだろ?」
 細い足首が止まる。振り返らずに、肩が小刻みに震えているのが判る。
 無言で少女の後をずっと歩いていった。夕暮れは早く薄闇が辺りをつつみ始める。
 閑静な住宅街の隅で少女の足が止まった。
 振り向いた顔には、痛々しい蒼あざが頬と口元にある。
「どうしたんだ、それ……」
「また来た!」
 少女はビッコを引きながら、走り出した。


 公園の木陰から 飛び出してきた モスグリーンのトレンチコートの男が 少女に飛びかかろうとするのに、樹は 咄嗟に割り込んだ。
「この子に何をす……」

ひげ 1

 言い終わるか、終らないかのうちに、男に拳で顔面に一撃受けた。危うく公園の柵で 頭を打つところだったが、すぐに立ち上がり、男の襟首を後ろから掴んで少女から ひき離した。
「やめろってんだ!!」
「邪魔すんな、若造!!」
 もみ合いになった。
「やめて!!」少女は叫んだ「もう 二度とあんたの自由にはならないっ」
 男を睨みつける。
「俺たちに廻されたことを世間にバラ撒かれても、いいのか?」
 姑息な顔で、男が言った言葉に、樹は 『聞き違いか?』と頭の中がショートした。
「そんなこと怖くないわ。あんたたちの方が、困るんじゃないの?」
「何をこのアマッ!!」
 次の瞬間、今度は樹が先に 男をぶっ飛ばした。

じゃ はる

 アスファルトの上に、もんどりうって、倒れた男は 立ち上がりながら上着の内側から ナイフを取り出した。
「やめ……!!」
 少女の絶叫が、響かぬうちに、ふたりの男はぶつかりあって、転がった。
 のそのそと樹が立ち上がると 足元に倒れた男は ビクともせず、どす黒い血痕がみるみる拡がっていく。
 自分の真っ赤に染まった両の手のひらを見て、樹は顔色が無かった。
「逃げましょう」
 今度は 少女に引っ張られて すでに暗くなっている街の中を必死で走った。
 樹の頭の中で、ぐわん、ぐわん という 重い不快な音が鳴り響いていた。


 やっと、ふたりが足を止めたのは、かなり夜も更けた繁華街の 裏側だった。
「ごめんなさい、私、あなたにもう一度、会いたかっただけなのに、こんなことになってしまって……」
 少女の頬に、涙がとめどなく溢れた。
 思わず樹は、血の痕のついた手のまま、少女の頬を包み込み、口づけた。が、少女は 胸を押して離れ、
「待って、私なんか 穢れた……」
「言わなくていいっ!」
 逃れかけた少女の薄い肩を抱え、疵だらけの心を慰めるように、熱いキスを繰り返した。もう、少女の弱々しい抵抗など、狂おしい愛撫に飲み込まれていく。

こいぞら べっど


 場末のホテルに飛び込んで 服を脱ぐのももどかしく、愛し合ってるうちに、樹の脳裏に真夏の真昼、ある日の記憶が甦った。うだる暑さだった。身体中に脂のような汗が噴き出ていた。
 女性にだらしのない、夫に嘆き悲しむ母親を慰めているうちに、胸にもたれかかって、しゃくりあげる、その髪の匂いがたまらなく甘く愛おしく思えた。

れい 2

 我を失って、実の母親と……。
 その事実は、部屋に古くからある、聖母マリアのブロンズ像だけが見つめていた。

 憐憫の情からだ。
 しかし、許されることではない。鬼畜と言われても仕方のないことだ。
 樹は その日のうちに、家を出て、友達の家に転がり込んだ。

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村

. 「聞こえるか、あの橇の鈴の音……」第3回

              三


 ふと、眼が覚めると、朝陽が 射し込んだ窓辺に少女が全裸のまま 立っていた。
 後ろから 樹が シーツを着せかけると、その手の上に 手のひらを置いた。

 暗くなってから 町の中を彷徨ったが、どこも 警察の捜査網が 張り巡らされている。
 イブの夜だ。繁華街には、幸せそうなカップルが あふれている。


夜景 1


イルミ 1

 粉雪が舞い落ちてきた。
 狭い路地を歩くふたりだったが、少女が顔をしかめて足を止めた。
 スカートから出ている内ももに、どす黒い血が、ひと筋、流れてきている。
「君……」
「だ、大丈夫」
「真っ青だぞ」
 少女は、お腹を抱えて うずくまる。
「救急病院、行くか」
「だ、だめ、そんなことしたら、あなたは……」
 それより この先に小さな教会があるの。そこへ行きましょう」
 イブだというのに、まったくひと気が感じられない真っ暗なその教会は、廃屋になっていたが、聖堂に入ってみると、大きな十字架が埃とクモの巣にまみれて残されていた。

十字架 2

 十字架のキリスト像を見上げただけで 両手両足に杭を打ち込まれたキリストを目の当たりにするのは、氷のような床に身を寄せ合って、座り込んだ。
 少女はまだ 疼痛に顔をしかめている。
「たぶん……」
 私の中の命が消えてしまったんだわ」
 誰の子だか 判らない胎児が流れてしまったらしい。
 樹は少女をよけい痛々しく思った。
 少女の息づかいが荒い。暖を取るものは何もない。どうにかしてやりたいが、迂闊に町へ出ることは、出来ない。
「俺はどうなってもいい、病院へ行こう」
 少女は悲しげに微笑んで クビを振った。
「誰にも会いたくない……、あなたと一緒にいられれば」
 何も出来ずに真っ暗な教会の中で小鳩のような少女を抱きしめることしか出来ないのが、樹には もどかしくてならない。街の大時計が、十二時の鐘を打つ音が響いてきた。
 その後、鈴の音が 聞こえてくるではないか!
「聞こえるか、あの橇(そり)の……」
 腕の中の少女に眼を落としかけた時、そこには、安らかな顔しかなかった。
「……!!」
 名前を呼ぼうとして、少女の名前さえ ちゃんと覚えていなかった 事に気づいた。
 粉雪が激しくなった。
 夜明けまでそれは、止むことがなかった。



            ※



 イブの明けた朝、街は閑散としていた。
 雪はやみ、朝陽がビル群に反射し始め、アスファルトは凍結している。
 心の芯まで 冷えるような 風に髪を乱されて、昨夜の狂乱の跡の散らかり具合の中、樹はボツネンと立っていた。

朝の都会 3


 靴音が近づいてきた。
 カツーン、カツーンとした高いヒール。
 すぐ傍らで止まった。

黒いパンプス

 やおら、樹が振り向く。
「私の大切な人を、死に追いやった小娘を、始末できたみたいね」
 切れ長な瞳、清楚でありながら、気の強い性格を宿した美貌の相。経営コンサルタントを長く務めてきたキャリアウーマンの母親だ。
「俺を騙したのか?」樹は向き直った。「あの子は長い間、苦しんで仕方なく父親を……」
「仕方なく?どんな理由があろうと、非人間的な行為に及んでいても、あの人を私は 愛していたわ。あの人から命を奪った 小娘なんて、実の娘でも許さない」
 母親の眼光には、魔が宿っている。
「そのために、俺まで利用したんだな」
樹は 視線を背けた。
「あの子は苦しんでいた。二度とあんたを母親と呼ぶ気は無い」
「私も息子とは 思っていない。――――とても よかったわ。ずっと忘れない」

檀れい コート

 トレンチコートのベルトを締めなおすと、女は、元来た道を歩いていった。
 一瞬、樹は、この女の細い首を後ろから締め付けたい衝動に駆られたが、すべて馬鹿馬鹿しく思えた。
 静かな朝をつんざくように、パトカーのサイレンの音が 近づいてきたが、樹の耳には何も聞こえなかった。
 聖なるはずの、クリスマスの朝に、血にまみれた青年の手がかじかんでいる。




nanaちゃん 春馬


 <イメージ>
 樹(たつる)――――三浦春馬
 少女
 母親―――――――檀 れい


   2011年12月 クリスマス記念

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村
. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

. お気に召したら1クリックお願いします♪
ブログランキング・にほんブログ村へ
. ☆初めてお越しの皆様☆


作品書庫(カテゴリー)からお入りいただくと、連載作品が第一回からお読みいただけます

. 作品書庫(カテゴリー)
. 相互リンク絵ブログ
島崎精舎さま
. 長崎祐子さま
. メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

. ☆当サイトバナー☆
Untitled2.jpg
. FC2カウンター
現在の閲覧者数: