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浪漫@kaido kanata

. 三浦春馬 中編小説 わたしのきりんちゃん  その1

<登場人物>

瀬川春都(せがわ はると)―― 東京から心疲れて京都に
                     ふらりとやってきた 青年

権現静(ごんげん しずか)―― 動物を愛する 心優しい女性。
                     
権現大輔(ごんげん だいすけ)―― 静の夫 

山崎マネージャー ――――― 瀬川春都のマネージャー



             <序章>

15年 act 9月号 1


 
 辺りは 真っ暗。
 街の灯りが あんなに遠い。
 どのくらい走ったかな。靴が痛くなって、靴、脱いでしもた。
 空気が冷たい。かなり高いところまで、登ってきてしもた。
 時折、通り過ぎるクルマのライトが眩しい。

※ 静は 途方に暮れていた―――。


            その1

TCK 鋭い 表情


 苛々している自分が 分かった。
 いつもは 平気な些細な事でも、敏感になっている。
 こんな状態で ハンドル握るのは、危ないと分かっていながら
 愛車に 飛び乗って、郊外を 走らなければ気がすまない。
 山道に さしかかり、カーブが続く。夕暮れ時だ。

 クルマが 空いているので思い切りアクセルを踏み、カーブを楽しむ。
 このスリリングさが 世の中のごたごたを 忘れさせてくれる。

 ヘッドライトを 点けたその時だ。


 いきなり、飛び出してきた 人影。
 慌ててハンドルを切り、ブレーキを踏んだ。
 クルマは ガードレールぎりぎりのところで 止まった。
 急いで クルマを 降りると、女性が 道路の真ん中で倒れていた。
 サーモンピンクの薄手のコートと 長い黒髪が 乱れている。
「しっかりしてください、ケガは ありませんか?」
 そっと 抱き起こしてみた。


はるか 緊張


 乱れた 黒髪の額を そっと、分けると 色白の顔が見えた。
 そして、まつ毛の濃い瞳が そっと開いた。
「ああ、よかった。ここが どこか、わかりますか?」
「わ……たし……」
「急に、クルマの前に飛び出して来られたんですよ。びっくりした」
 女性は 自力で 路面に座ろうとした。
 頬に ドロがついている。

樹と流れ星



「バカヤロウ!!」と、言いたいところですが、一緒に乗って下さい。
病院で検査してもらいましょう」

「い、いえ、大丈夫です。少し、打ち身がある程度ですから」
「そうはいきません。検査結果を聞き届けるギムが あります」

 因果な商売だな、と 春都は 舌打ちした。
 芸能界にいて、交通事故の加害者にでも なれば、役者生命を絶たれるも同じだ。

 ふらふらしている 女性を、ひょいと 横抱きにして、後部座席に放り込むや、
クルマをバックさせ、山道を街へ向かって Uターンして走らせる。


AJ アップ


 一部始終を フクロウのように、鋭い眼で見つめている者が いるとも知らずに。
夜風がすでに 射すようだ。

サバンナのきりん シルエット


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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん 2

春、爛漫の4月。
 桜は満開、柳の若葉が 美しい。

平安神宮 鳥居と疎水と船と桜


 観光地は 人が多いので、平安神宮の朱色の大鳥居に 背を向け、
ぶらりと 平安神宮ぶらりと 動物園に寄ってみる。

おこしやす!京都市動物園


 まず、模様の鮮やかな キリンに目を惹かれた。
 五頭くらい、いるだろうか。親子連れもいる。
 なんて大きいんだろう。足音を立てないで、ゆったり歩いている。

 茶色の模様が 幾何学的で、びっくりするほど大きな長い顔、
まつ毛が長くて、瞳も哀し気に優しい。

 子どもの頃、家族連れで、動物園へ行けば、必ずキリンをのんびり 眺めていた。

キリン あかんべ



 立ったまま、キリンの檻の外から 熱心に スケッチをしている女性を 見かけた。

 24,5歳だろうか。
 長い黒髪を ポニーテールにして こんな場所に似合わない、OL風のスーツを着ている。
 肩越しに スケッチブックを覗き込んでいると、
「いや!」
 女性は 春都の存在に 気づいて 小さく叫び、スケッチブックを 胸に当てて、隠した。
 この「いや」は、「嫌」という意味ではなく、「あら」という小さな叫びだ。

 小さい頃から 仕事で 京都へ来ていた春都には なんとなく分かる。
「す、すみません、熱心にスケッチされていたので、つい」
「いえ、お見せできるようなものではあらへんさかい、どうしよ、思いました」
 京ことばの 柔らかい声とアクセントが 可愛らしい。

はるか 2



 いつも 東京にいると、せわしい声と街の雑音ばかりが 耳につく。
 その渦中にいると、時々、疲れる。
 のんびりとした、緑多い京都の観光地の風景にも癒される。


「拝見したら お上手です。良かったら、ゆっくり見せてください」
「いや、ほんまに どうしよ。私なんか ちゃんと絵を習ったこともありませんのに」
 照れながらも、春都が 何度も頼むと、女性は かたわらのベンチに腰掛けた。

まこと 14年秋 伊藤園 ひょうきん笑顔 はるま


 スケッチブックを開くと、キリンばかり 何十枚も描かれている。
 柔らかい、タッチで 描かれてるのがわかった。

「どうして、キリンばっかり?」
「どうして……なんとなくです。黙ってゆったり歩いているところ。
あの優雅な姿の中に、大きな底力を 感じるんです。縁の下の力持ちみたいな」
「確かに憎めない 優しい眼をしていますね」

キリンをスケッチしている 女の子



「あの、地元の方ではないですね」
「東京から来ました」
「学生さん?」
「い、いえ、違いますよ」


「すみません、私いうたら」
「役者の卵です。バイトしながら 修行中です」
「ああ、道理で。オトコマエさんやわあ。あ、また すみません」
「どうして 謝るんですか?役者イコール、イケメンじゃないですが、悪い気はしませんよ」
「ああ、良かった」
 あどけなく、大きく息をついている彼女も 女優のモデルと言っても、変ではない、
美貌の持ち主だ。しかも、素人っぽい、素朴な。

カーキTシャツ 春馬 1


春都は ふと我に返り、何のために、ここにいるのかを 思い出した。
背筋を 寒い風が 吹き抜けた。

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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん  その3

そのうち、ふたりの 周囲に園内の客が 集まりだした。
「ねえ、あの人、俳優の……」
「やっぱり、そうやね。何かのロケ?」
「高校生の時に あの映画で なんとか賞を獲った、〇〇〇〇くんやね」
 若いカップルも、家族連れもさかんに、ウワサしている。
分かる人には 分かるんだ。

je act4

ブランチ サングラス 春馬


 春都は ジャケットの胸ポケットから 薄い色のサングラスを出して
つけるや、女性をベンチから 引っ張って、キリンのコーナーを 離れた。

「どうしたんですか?急に」
 カバのプールの前で やっと立ち止まったが、女性は何も感づいてないらしい。
「いや、急がせて、すみません。なんでもないんです。ボクは竹本春希と言います」
 そう言って、名刺を渡した。肩書きは 何もない。
「権現静(ごんげん しずか)と申します」
静という女性は、つぶらな瞳で しげしげと見つめ返した。
「そういえば、どこかで 見たことが あるような」
「……」
「そうや、キリンに似ているねんわ」
 手を打って叫ぶ。

はるか 黒

キリン えさ


「その睫毛の長さといい、のんびりした感じといい」
「はは、そんなに なんでも キリンに見えるのかい?」春都は 苦笑して、
「動物園を出て、その辺を歩きませんか?」
「母に連絡しておきます」
 iPhoneを 取り出した静は 速やかにメールを打って、リュックにiPhoneをしまった。
「これで、少しくらい 遅くなっても大丈夫です」
「きちんとしてるんだね。門限とかあるんじゃないか?」
「あります。19時」
「19時。中学生じゃあるまいし」
(よほど、良家の子女なんだろうか、権現という名前からして重々しいよな)


「門限には 不満ですけど、一人っ子なので 両親が心配するので」
「ボクには 門限も何もなかった」
「いいですね、ご自由で。男性だからでしょう」
「ううん、そんな自由でもないんだけど」
 複雑な 表情しか できない
 静が いぶかし気だ。

 いきなり、彼女は サングラスを 奪い取り、はめてみた。
「いやあ、紫とベージュで 黄昏時に見えるわあ」
「カバも よけい、シックに見えるわぁ」

おもちゃ カバの行列


 すぐ横のプールから カバが眼だけ出して 潜ったまま、こちらを見ていた。


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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん  その4

動物園を後にした。

動物園 玄関


 園の横には 琵琶湖疎水が流れていて、
それに沿って、若々しい緑が 美しい枝を伸ばしている。
夕暮れの薄紫を帯び、緑の枝が 何本も なよやかに 揺れている。

岡崎 疎水と柳



「ここから 東へいけば、滋賀県との県境……昔の、逢坂の関です」
「古典の授業みたいだな」
「あ、古くさい話題でしたか? ごめんなさい」
「そんなことない、ボク、そういうの、好きです」
「良かった」静は 申し訳なさそうに 苦笑いを浮かべた。
「学生時代のコンパや、職場の飲み会でもこういう話題は うっとおしがられたんで」
「やっぱり」
 と、春都。

15年 バーフォート 青空の下の笑顔
はるか さらさら ヘア


「いえ、確かに うっとおしい話題ですよね。でも、私は好きなんです。
逢坂の関を越えて、瀬田川にかかる 瀬田の唐橋では、長い間、行き違いになった
宮本武蔵とお通さんが待ち合わせをするの。うまく逢えないけれど」
少し、哀し気にうつむく。
「宮本武蔵……」

役所 宮本武蔵

古手川祐子 ふえ


 春都の眼は 少し、遠く―――逢坂の関の方角を見つめた。
「ボクも好きだ。あの孤高の武士」
「そうですか?何か 本で読まはったの?」
「いや、ドラマの台本でしかないけど」
「行ってみましょうか、瀬田の唐橋まで。琵琶湖が眺められて、気持ちいいですよ」
 言うが早いか、静は タクシーを拾うために 手を上げた。
「待ってください。もう日が暮れる。寺田屋に予約してあるんだ」
「寺田屋に?そんなら 私が案内しましょう」

 どうやら、静は まだ 気がついていないようだ。
 半年前の秋、接触事故を起こして 病院に運んだ男が、春都であることに。

 無理もない。慌てて病院に運んだだけで、
結果はマネージャーから、かすり傷と聞いただけだ。

エンケン 1


 事なきにしてくれた 山崎マネージャーだったが、ある男が 目撃したと、脅迫してきた。
「命令をきかないと、世の中にあの事故をバラすぞ、と」
 そして、男の指示通り、再び、京都へ来た。
 後ろめたさを 感じずにはいられない。
 命令というのは、山道で 事故を起こした女性――― 静を 
もう一度、傷つけろ、という 内容だった。



 山の事故で、静を 病院に運んだ後、駆けつけたマネージャーの山崎からは、
「脅迫してきた権現という男、出自は分からんが、大企業のトップだ。
成りあがりものということまでしか不明だが、人格的に問題があるというウワサもある。実際、
あらゆる世界に影響するだけの力を 持っている」
と、報告を受けている。


北村 ましょうめん こわい


「そんな厄介なヤツにとんでもない ところを 目撃されたな……」
 山崎も手を焼いている。

15年 さえない顔のはるま




 妻に危害を加えろ、という脅迫命令までは、春都は 山崎に告げていない。
 とても、言えるものではなかった。

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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん その5

「あの時の後遺症とかは無い?」
 私鉄電車で揺られながら、隣の席に座る静に尋ねた。
 彼女は びっくりした様子で シゲシゲと春都を 見つめ、気がついたようだ。

「あ、あの折の。その節は ご迷惑をおかけししました」
 慌てて 頭を下げる。
「いや、こうして 元気でおられるのなら、いいんです。迷惑をかけたのは、こっちだ。」
 吐き気のするような つくった言葉。春都の良心が ズキズキ痛んだ。


ヴォーグ 赤いトレーナー


特急電車は 目的の駅に到着し、ふたりは 改札を出た。

「ここから 歩いて10分くらいかな?」
辺りは もう、真っ暗だ。街の灯がポツポツ見える。
交通量は 少しあるが、そんなに都会ではない。
駅を後ろに歩いていくと、疎水に架かった小さな橋があった。
 突然、わいわいと 人だかりがしている、と 思ったら、寺田屋の大きな提灯が 見えた。
「ここは いつも 人気やな~~」
静が 洩らした。

寺田屋の前の疎水
寺田や 表

寺田屋 内部 龍馬の掛け軸



旅館の建物は そんなに 大きくなかったが、江戸時代からの 黒い木材を使った佇まいだ。
坂本龍馬が 何者かに襲われ、柱に刀キズが 残っているということで、
観光客が絶えず、江戸時代から続けて営業しているというのだから、すごいものだ。
龍馬の銅像が立った、小さな庭を見物する前に春都は 宿の入り口で何か話して戻ってきた。


「静さん、明日の予定は?」
「また、動物園に行くつもりですが」
「ここに迎えに来てもらってもいいかな」
そして、iPhoneを取り出し、「教えてくれる?」と言ってみたが、
彼女の顔に、サッと 暗い影が射した。
「あ、ごめん、イヤなら いいんだよ」
「いえ、そんなことないんですけど、もう少し……もう少し待ってください」

はるか 唇かむ



ドギマギと 困惑する様子が よくわかった。
(今時にしちゃ、慎重な子だな。いや、このくらい慎重でないと。
俺も、逃さないように、という下心あって聞いたのだから)

公式サイト 拓人 up


「明日には 必ず ここへ お迎えに来ますから」
逃げるように 春都と寺田屋の提灯に 背を向けた。

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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん その6

 翌朝、静は ちゃんと 約束の時間に寺田屋に やってきた。
 晴れやかな笑顔だ。

はるか 黒


「どうでした?泊まり心地は?」
「うん。たっぷり 坂本龍馬を味わったよ。……こっちにおいで」

春都が 静をいざなったところは 寺田屋の小さな庭。

そこには 龍馬の言い残した、勇壮な言葉が記されていた。

寺田や 坂本龍馬 名言

『 世の人は われを 

 何とも言はば いへ

 わがなすことは

 我のみぞ しる 』



「ズシン、と来るなあ。時代が違うとはいえ、男には」

(そして、今の俺には 眩しくて 逃げ出したいくらいだ)
知らず知らず、顔が曇る。

13年 秋 ダイレクト メッセージ


(今の俺には 宮本武蔵の身勝手さの方が まだ、合っているかもしれない)

「京料理、どうでした?物足りなかったんと違いますか?」


「実はね。昼、座布団みたいな ステーキ、食べに行こうか」
「座布団ですって、まあ、面白い人やね。えっと……」
「春都です、瀬川春都。あの名刺は 偽名です」


 思わず、眼を見開いて、口元に手を当てた 静である。
「いややわ、なんで 気づかへんだんやろ。いつも TVで見ている春都くんやないの」
 真っ赤になって、寺田屋の高い敷居に つまづきそうになった。
「私ていうたら、あの春都くんの クルマにぶつかりそうになって、
病院に運んでもろたん~~!?な、な、な、なんてことを!!どうしよう~~!?
その上、厚かましく、寺田屋まで 案内してしもたん~~~!?」
 突然、というより、パニックだ。
 髪を大急ぎでかきあげて、しどもどしている彼女に、
「ま、まあ、落ち着いて。ボク、普通の人間だから。バレないようにしなきゃいいんだ。
さあ、動物園へ行こう。また 電車で」

~~というわけで、ふたりは また 動物園目指した。

静にすれば 生きた心地がしなかったが、瀬川春都というと、
今や、日本中の幼児とご老人以外は 知っているだろう。
(そんな人と関わりを持つなんて……)
(自分は 普通のOLだ。しかも……)

「どうかした?急に黙り込んで。ほら、目の前にシマウマがいるよ。たまには、
シマウマもスケッチしたら、面白いんじゃないかな?」
「い、いえ、やっぱり、キリン、描きます……」

ひょろん 青空キリン


しどろもどろだ。
この日の彼女のスケッチは 惨憺たるものだった。早々にスケッチブックを閉じ、
「じゃ、今度は 約束の座布団ステーキ、行きましょう!!」
 動物園を出た。

木かた キリン


「あ、あのう」
「ん?ああ、また お母さんにメール?どうぞ」
「いえ……」静の顔が曇る。「実は 夫になんです。帰りが遅いと 厳しくて」

 春都の表情も 厳しくなった。
(あの男……、この人にとっても、俺にとっても、疫病神でしかない。
思い出したくもない。あの男の脅迫なんか。もう一度、彼女に近づいて、キズつけろ、と。

北村 ネクタイ 1



(なんて 卑怯なことの片棒を担ごうとしているんだ、俺は)
 しかし、自分の保身のために 断れない。
 ますます罪悪感が 増していく。

2014nen カレンダー!!


 はっきり 断ることが 出来たとしても、このまま 静を放っておけない。
いつ、第二、第三の 俺が 出現するかもしれない。
春都の心の中は 混沌としていた。

「夫、と聞いて、驚かはらへんのやね?」
「いや、驚いたよ。独身OLさんだとばかり、思っていたから」


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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん  その7

動物園を 出たところで、静がいきなり 立ち止まった。
いきなり、腕を掴まれたのだ。

北村 ましょうめん こわい


「また、こんなところで 来ていたんだなっ」
「あ、あなた……」
「さっきのメールは なんだ、どこへ寄り道してるのかと思ったら、こんな若造と」
男は スーツ姿だが 目付きが鋭く、ネクタイもだらしなく緩めている。四十代半ばだろうか。
静の夫にしては、少しトシが離れている。
体格は 上背のある立派な男だ。

はるか 泣いてる



春都を 睨みつけて、
「こいつぁ、俺の女房だ。これからは 絶対、近づくな」
「……」
春都は 呆気に とられていた。
(さっき、思い出したくもないと 思っていたヤツだ。『近づくな』だって??
近づくよう、命令したじゃないか)

アローズ はるま


静を乱暴に クルマに乗せようと、腕を引っ張っていく。

「イタイッ!やめて下さい、私は これから 行くところが――――」
「白昼、堂々と 若造と情事か」
「違います、お食事だけですわ」
「そんなこと信じられるか」

アブナイ 北村


更に、引っ張ろうとする夫の腕を、春都が掴んだ。
「手を離してあげてください」
「貴様、偉そうに、なにを」
男が アゴを動かしたとたんに 春都の身体は 道路に叩きつけられていた。
「……!?」
顔を上げて 男を見た時、その背後に 屈強そうな男ふたりが 見えた。
(ボディガードか……)
唇をかみ締める。
もう一度、殴りかかろうとするボディガードの前に、腕が 出された。
「これ以上は いいだろう」
男の唇の端が ニヤリと歪んだ。


その隙に、立ち上がった春都は 素早く静の手をつかみ、大通りへ走り出した。
男が追ってきている。
タクシーを見つけて、手を上げ、男が追い付く前に 滑り込みで 乗り込む。
座席で静のiPhoneが 鳴り続ける。
「夫からです。ご迷惑おかけして すみません。人目をひいてしまいましたね」
「構わない」
「えっ」
と、答える間もなく、静の唇は春都の唇に ふさがれた。
「俺が ついてる。どこへもやらない」

東京公園 コニタンとキス


 唇と頬のすり傷の血をぬぐって 春都は 黒髪の小さな頭を抱いた。
「あ、あのう、お客さん、どこへ行けばいいんでしょう」
 タクシーの運転手が 遠慮深げに 尋ねたが、後部シートの床に、スケッチブックが落ちただけだった。


スケッチブック


 川面(かわも)から 吹く風が 涼しい。
 ふたりは 少し、間を開けて、賀茂川の河原に座っていた。

賀茂川 春 1



「すまなかった。君が あんな男に束縛されてるのかと思うと、
理性がどこかへすっ飛んでしまったみたいで」
頭を掻く 春都は 少年のように 照れていた。
「いいえ、びっくりしましたけど、キズ、大丈夫やろうか。お顔に残らへんやろか」
 側に来て、春都の顔を覗き込む。
 返事する代わりに、大きな手のひらで、もう一度、抱き寄せた。



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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん  その8

(なんて 長い睫毛だろう、影が出来てる……)

たいすべ 寝顔

はるか 白いベッドで

 素肌に白いシーツにくるまりながら、静は 寝ている青年の顔をじっと見つめていた。
 これは 夢だろうか。
 日頃から、乱暴を極める夫からは、まったく異なる。

 こわれものを 扱うように、真綿にくるむように優しく、そして真夏の太陽より熱い情熱で 愛された。
(どうしよう、あの夫を裏切ってしまった……)
 今度こそ、何をされるか分からない。背筋が凍る思いだ。
 親に 勧められるまま、結婚した今の夫。
 地位もあり、裕福でもあるが、親は 娘の生活の安定だけを考えたのか、
人格が見抜けなかったと思われる。

 面白くないことがある度に、妻を平気で殴る男―――。
 権現大輔。
 父親の大切な取引先の息子なので 静は 親に泣きつくことも出来ないまま、
身体に傷痕を増やしていった。

北村 横顔

北村 腕を膝に乗せた 裸体

はるか 幻想的


 心は もうズタズタだ。
 それに比べて……この、夢のような まさに夢のような、出来事は何?
 春都の優しい愛撫は 心をも慰めてくれる。
 まだ 見知らぬ青年の、ゆるいウェーブの、前髪に、濃い睫毛に、口づけたくなってしまう。

 動物園に、精悍な 天使が舞い降りたのか……。
「どうしよう、住む世界の違う人と、こんなことに」

 ぱっちり眼を開け、
「「静は 何も悪くない。俺は特別な人間じゃない。君も。理由なんかない、君に惹かれた」
「私なんかのどこが。あなたは、憧れている人が日本中に いっぱいのスクリーンの向こうの人」

大切 寝顔


サバンナのきりん シルエット



「でも、今はここにいる」
 ひたいに かかった静の髪を 撫であげながら、腕まくらをした。


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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん  その9

ぼんやりと 天井の柔らかい照明に目を当てながら、ぼそりと言った。

ぼんやり 逆さ向いて ねている はるま



 行き詰まりを感じているのは 事実だが、静の夫から 頼まれて、
再び京都に来たとは 言えるはずもない。
 手枕されている 静にも深刻そうな 感じが 伝わってきた。
 芸能界の内側のことなど、さっぱり分からない。



「とっても 苦しんでいるのやね」
「特殊な業界だからな。いろいろあるけど、自分で選んだ道だから」
「誰だって逃げたい時、あるわ」
「君も あの夫から」
「駆け落ち、できるものなら やってみたい」
「もう、してるようなもんじゃないかな」
 静は クスリと笑う。

はるか 3

瀬田の唐橋 擬宝珠

 
(手に手をとって、故郷から逃避行した、宮本武蔵と、お通さんのように)
「できたら、どんなに スッキリするやろ。夫も家も放っぽりだして、
でも、あなたには 私なんかよりもっと、華やかな女性が」
「君は とても清楚で綺麗だし、心が純粋じゃないか。話していて、安らぐ。
着飾ったスポットライトの中の女性たちは 俺には似合わないし、魅力を感じたこともない」
「喜んでええのかな。野原のぺんぺん草に例えられたみたい」
「喜んでいいんだよ!!」


 そこで 春都は がばと起き上がった。
「お互い、逃げたい。手助けさせてほしい」
「本気やの?私なんかを。それに、あなただって悩みの最中」
「そっちは ケリをつけるため、東京へ一旦、帰る。必ず戻るから、待っていてくれ」
「私も、ついていっちゃダメ?」
「今すぐ、連れ去りたい。だが、少し、待っていてくれ」
「分かったわ……」
 この人なら あの陰湿で 残虐な夫、権現から、救い出してくれるかもしれない。
「あなたを信じます」
 静は iPhoneを取り出した。


 春都の仕事は 事務所の不始末で 行き詰まっていた。
 金銭問題なので、静の夫が、財力にものを言わせて それを解決してやろう、と、
持ちかけられていた。
 芸能界の、育ての親、山崎マネージャーも 困り果てていた。
 不本意でも、権現の力を借りなければ 役者は 続けていけないかもしれない。

北村 メガネ


 あの男の話を承諾したということは、わが身可愛さに、彼女を売ったことになる。
「なんて、獣なんだ、俺は―――。何が、爽やか俳優だ。
人間の皮を被った鬼だ。俺なんか―――」
 東へ向かう、新幹線の中で、真っ暗な外に目をやりながら、
何度も窓ガラスに 頭を打ち付けた。


14年 カレ メイキング6

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. 三浦春馬 小説 わたしのきりんちゃん その10

それから 数か月―――、
 季節は すっかり移り変わり、梅雨を過ぎて 猛暑を迎えていた。
 いつものように、勤務先から 帰宅の足を速めていると、メールが来た。
 春都からだ。
「今夜、七時着の新幹線で 京都へ着く」

はるか 口紅


(あの人が 戻ってきはる――――)
 身体の力が ぐったり萎えるほど、ホッとした。
 あれから、勇気を出して、夫との生活から 逃げ出したが、いつ、
今のアパートを探し当てられるかと、ハラハラする毎日だった。
 転職して 職場も替え、iPhoneのアドレスも変えた。
 実家へも帰っていない。
 なんとか 逃げおおせていると思い込んでいるが、もしかすると、あの男の手のひらで
 遊ばされているのかもしれない、などと思うと、悪寒が 走った。
 春都だけが 救世主にも思えた。
 その彼が 戻ってくる。

京都タワー


 足どりも弾むように、京都駅へ迎えに行くと、雑踏の中にホームに降りて 
歩いてくる姿が 見えた。
普通の大学生のような ジーンズと Tシャツだ。

ボクイタ 赤いセータ― はるま


(春都さん……)
 ああ、涙でかすんでしまう。
 肩幅の広い姿が ぼやけてしまう。
 春都も すぐに 見つけて走ってきた。
「元気そうだね」
「はい、住まいは 知られてないと思います」
 静の手が 心細げに 握りしめていた。
 春都の心が疼く。
 また 京都へ来てしまった。
 つまり、目の前の愛おしい人を害する決心をしたということだ。

 あの、山道での事故を脅迫されたばかりでなく、業界の問題を解決するために、
権現大輔の財力に頼ることになってしまった。
 あの男が 異常だとわかっていながら。
 自分で 蒼ざめてくるのが分かったが、静には ひた隠しにして改札めざして、
二人で長いホームを歩く。
 しっかり手をつないで、二人とも、うつむき加減に、足早に……。
 まるで 逃避行するカップルのようだ。


 静のアパートは 動物園の裏手の古い住宅街の一角にあった。
 少し、大きな通りに出ると、観光地が広がるが 路地を入ると静かなものだ。


古いアパート 電信柱


 六畳間と四畳間だけの、昭和に建てられたアパートの二階建て。鉄骨の錆びた階段。
 各戸の吹きさらしの廊下には 洗濯機が置いてある。
 部屋には 生活用品が最小限だけ。質素この上ない。
「カーテンも女のひとり暮らしと思われへんように、地味な色にしたの」
 小さな文机には 見慣れたスケッチブックが 置いてある。

イラスト マサイキリンとアミメキリン



「たくさん描いたわ。京都のアミメキリン。マサイキリンも描きたいけど、ここの動物園にはいないの」
 スケッチブックを繰りながら、はにかんで言う。
(裕福な家に 生まれ育ったようなのに、こんな狭いアパートで……。
あの夫のせいで。女性は結婚相手によって、まるきり違う人生を歩むことになるのだな)
 春都は 不憫でならず、また 自分をも呪いたかった。

ヴォーグ 赤いトレーナー



「マサイキリン??」
「アミメキリンと身体の模様が違うの。花火みたいにきれいなの」
「へえ、キリンに種類があることも知らなかった」
「マサイキリンのいる動物園は 神戸。春都さん、一緒に行ってくれる?」
 何も知らず 眼を輝かせる静に、いや、とは 言えなかった。


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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
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★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
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