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浪漫@kaido kanata

. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第1回

 【 ウサンポの恋はタンポポの中 】
たんぽぽ野原 1





         序章

ウサギの黒い瞳が果てしなく純粋だ。
 宇宙の中に小さなダイヤが散りばめられて、それがタンポポの綿毛のようにも見える。
 穢れがない。日常のゴミゴミとしたものなど、別世界だ。
 相馬胤継(ソウマ タネツグ)は、この瞳を見つめていると、魂が洗われるような気がして黒ウサギのペット、ブラえもんの瞳を毎夜、 眺めてしまう。


ブログ用 ルナ 1



 同時に、あの日の父親、師常(モロツネ)との言い争いが脳裏に甦る。
 タネツグが小さい時からの夢、警察官になるため、警察学校に入学したい、と打ち明けた時の父親の意外な激昂ぶりだ。頭から反対され、怒鳴りつけられた。理由が解からなかった。
 父親は理由もなく、子どもだからといって無理に命令を下す、とか、酒乱になるとかとは無縁の人だった。幼少時から仕事で忙しい毎日の少しの時間でも、ひとり息子の相手をしてくれ、幼稚な遊びの相手もしてくれ、学校での話も真剣に聞いてくれた。
 なのに、それまで 誰にも口に出さなかった、警察官になりたい話をした時の話をした時の彼は――――。
 あんな父親を見たことがない。
 凄い形相で睨みつけ、悲しい表情さえ見せた。


北大路 1


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 解かりあえないまま、商社勤務の父、師常(モロツネ)は、海外へ赴任してしまい、そのまま冷静な話し合いが持てないまま、警察学校に入学し、警察官を経て、異例の抜擢を受け、
警視庁捜査一課に配属された。
 大事件の犯人逮捕とか、派手な仕事はしていないが、勤勉なところが評価され、昇進試験にも、とんとん拍子で合格し続けた成果か。
 無論、一番の若輩者だ。
 母の凪子(ナギコ)と祖母は静かに見守ってくれている。そして、ブラえもん。
 それが、今のタネツグの大切な家族だ。


           第 1 章

「ほら、よく似合うぞ」
 愛ウサのブラえもんに新しい真っ赤な首輪をつけてやったタネツグは、真っ黒なミニウサギ、ブラえもんを抱き上げると鼻歌を歌いながら、自宅近くの広い公園へ足取り軽く出かけた。
 母の凪子が、その背中を見送りながら、義母に話しかけた。
「お義母さま、あの子ったら、この頃、ウサンポ会、すごく楽しそうなのよ」
「何か、息抜きの他にいいことでもあったのかしらね」

樋口可南子 1


寿美花代 1

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」 第2回


 暖かい陽射し、やっと春を迎えた公園には木々も新緑が満ちて、下草も春の花々、タンポポ、スミレ、ホトケノザ、シロツメ草で溢れている。


タンポポ野原



レンゲ畑 1

 すでに十人くらいのウサギ愛好家が、首輪をはずしたり、リードを着けたまま、それぞれの愛ウサを緑の上で散歩させている。

芝生公園 1

褐色ウサギ

ちかちゃんとパパ


 ネザーランド、ロップイヤー、ライオンヘッド、雑種、色々である。
 飼い主もばらばら。老若男女、入り混じっている。


夏帆 8


 その中でオフホワイトのミディ丈のワンピを着た、真っ直ぐな黒髪の女の子がタネツグ見つけて手を振った。
「こっちよ、ブラえもんくん、タネツグくん!!」
 ウサンポ会で、つい一ヶ月ほど前、知り合った青沼華子だ。
 背中の半ばまであるストレートの黒髪を半分結わえて、オデコはいつもすっきり見えるようにしている。黒目がちの瞳、ピンクの薔薇みたいに可憐な唇。


6328811_314933306_119large.jpg

(きっと、ファーストキスは まだだろうな♪)
 普段は、ペットショップの店員だという彼女に、タネツグは一目惚れしてしまったのだ。それからは、足しげく彼女の店へ買い物に通っている。
 華子の愛ウサは、ネザーランドのクリコ。ピーターラビットと同じ品種の耳が小ぶりなのだ。よくぞ、偶然、この冬に近所の小学校の用務員のおじさんから、ウサギをもらったものだと、神様に感謝したい気分のタネツグだ。
 そのうち、彼女のクリコと自分のブラえもんをカップルにして、自分たちも切っても切れない仲になるのが夢。

ウサンポデビューのマロンちゃん、2010年9月



 タネツグは仕事柄、望んだ仕事とはいえ、毎日、イヤというほど人間の醜い部分を見せつけられ、先輩刑事――――特に、口うるさい樋村亮平からは、怒鳴られてばかりで、肉体的にも精神的にも疲れ果てて帰宅し、このウサンポ会だけが精神リフレッシュの素だったところへ加えて、華子との出逢い♪
 毎回のウサンポ会が生き甲斐をいう消極的な若者である。もちろん、まだ告白できていない。
「この前ね、クリコもおねえさんになったから、大人用のフードに変えたの」
 オフホワイトのエレガントな帽子の下から、華子の笑顔が言った。
「ふうん、食べてる?」
「うん。全然、抵抗なかったみたいよ。でも、果物の方がやっぱり好きね」
「ブラのやつもだ。リンゴとバナナは欠かせないな」
 公園のベンチに腰かけながら話す会話はこんなもの。
(なんてぇ 会話だ。ウサギの話からちっとも進展しないぞ。このままじゃ……このままか!?)
 何度か勇気を出して、告白しようとしたが、その時になるとタイミングをはずしたりして、どうもうまくいかない。

瑛太 3




 センパイの樋村亮介なんか、日替わりで、違う婦警や女刑事とデートしてるっていうのに。婦警たちも若すぎるタネツグは本気で相手にしないし、オクテのタネツグにとっては婦警になる強そうな女性は、キョーフの対象でしかない。
 一度、ウサンポ会に、華子の弟だという高校生の小柄な男の子が何かを届けに来たことがある。
 明るめの茶髪にピアス、だらしなく着崩した制服、クソナマイキそうな目つきと尖らせた唇、横柄な口の聞き方。
(これが、本当に華子ちゃんの弟か?)
 タネツグは眼を疑ったことがある。
 さらに驚いたことには、その後、たまたま、夜の繁華街で万引きグループを捕まえることになってしまった時に、この弟が混じっていたことだ。どうも常習犯らしい。


                ※

「あっ」
 いきなり華子が立ち上がって、タンポポの群生するひと群れの中にいたクリコのところへ走り寄った。
「どうしたんだ?」
「左の前足から血が出てる……」
「ガラスの破片か何かで切ったのかな。すぐに動物病院に連れていこう」
「行きつけのアニマル・クリニックが、すぐ近くにあるの」
 華子はもうクリコをキャリーバッグへ放り込んで自転車へ積み込み、走り出そうとしている。タネツグは大急ぎで、タンポポをむしゃついていたドラえもんを捕まえて彼女の後を追って走った。

 診療時間外だったが、獣医の岩村は、快く治療を引き受けてくれ、丁寧に診察した。
 クリコは、ステンレスの診察台の上で痛々しく震えていた。
「大丈夫だよ。念のため、レントゲンも撮ったが、骨には異常なし、切りキズだけだ。もう血も止まっている」
「ありがとうございます、先生」
 華子はクリコを抱きしめて、深くお辞儀をした。
 岩村Dr.は四十半ばか、少し長めの髪、甘いマスクの男だ。清潔なアニマル・クリニックを経営している、さぞモテるだろうタイプだ。


モックン 1


 華子とも、かなり馴染み深い様子で、ふたりの態度から充分、それが感じられる。タネツグは、少なからずジェラシーの炎を胸の奥に感じた。
「どれ、そっちのウサ公もついでに診断してあげよう」
 岩村のひと言でブラえもんは、診察台の上に乗った。
 ひとしきり、ブラえもんを転がしたり、聴診器を当てたりして、医師は言った。
「うむ。どこも異常なし。眼も澄んでるし、耳も清潔。内臓もろもろも、子宮も卵巣も異常ないな」
「そうですか、ありが……えっ!!」
 診察室にいっとき、静寂が満ちた。
「今……なんて?」
 タネツグがごくりとツバを飲み下してから言った。
「どこも異常ないと言ったんだが」
「確か、子宮も……とか、言われませんでしたか?」
「ああ、立派なメスウサギだよ。1才だから、まだ若い」
 タネツグの視界がぐにゃりと歪んだ。


runa.jpg

(ブラえもん……オスだと思っていた、ブラえもんがメス―――!?!?!?)
 確かにブラえもんは、近所の小学校で飼育されていたウサギが産んだ中からもらったものだから、飼育係の先生が間違えたとしか思えない。
 ブラえもんがメス……ブラえもんがメス……
 と、いうことは、
 クリコとカップルにさせるという、タネツグの壮大な計画は、ガラガラと音を立てて崩れたことになる。

【将を射んと欲すれば、馬を射よ】

 この計画が――――!!
 視界は歪むどころか、真っ暗闇になってしまった。
「ブラえもんって名前、変えなきゃね、タネツグくん」
 華子はクスリと笑った。
 そして、クリコを抱いたまま、岩村にお礼を言い、自転車を押してタネツグと歩き始めた。

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」 第3回

「もう、風が冷たくなってきたわね。せっかくのウサンポ会だったのに、途中でこんなことに
なってしまってごめんなさいね」
 タネツグは首をぶんぶん振った。彼女の優しい言葉に少し立ち直った。
(華子ちゃんとふたりきり?になれたことの方が嬉しいのに)
「あのう、ちょっと!」
 背後からいきなり女性の声に呼び止められ、ふたりは驚いて振り向いた。
 白衣を着た大柄な女性がピンクの財布を持って追いかけてきたところだった。
「これ。青沼さまのですね?」
「あ、私ったら、忘れてきちゃったんだ」
 華子がバッグの中を探って照れた。
 タネツグは、その大柄な女性を見て棒立ちになっていた。
「織絵姉……オリエ姉じゃないか」
「やっぱり、あんた、タネツグ!?」

釈由美子 C



 数年ほど前、欧州だかに留学したきり、音沙汰の無かった従姉妹の織絵だった。
 タネツグの肩までしか身長のない小柄な華子と大違いでもう少しで長身のタネツグにせまりそうなほど背の高い女性である。顔のつくりも濃い。タネツグとは殆ど似ていない。
「オリエ姉!いったいどこへ行方眩ましてたんだよ!?」
「なによ、その言い方。人聞き悪いわねえ」彼女は唇を尖らせた。「少し前に日本に帰ったのよ」
「だったら、どうして目と鼻の先にある俺ンとこへ顔を出さないんだよ?」
「……ああ、忘れてただけ」
 呑気そうにオリエは答えた。
 タネツグのジャケットの裾を小さな手が引っ張った。華子に気がついて彼は慌てて紹介する。
「これ、イトコの南 織絵。ん?何を勉強しにどこに留学してたんだっけ?」
 オリエはため息をついてから、
「べつにいいわよ、んなこと。タネツグの彼女?可愛いお嬢さんね」
「わ、私は、青沼華子です。タネツグくんとは、ウサンポ会のお友達です」
 ぴょこん、と頭を下げた。
「ウサ……何ですって?ま、いいや、可愛いおままごとしてるのね」
「ままごとで悪かったな」
「そうだ!!」オリエはいきなり爛々と瞳を輝かせた。「タネツグ、あんたんところへ下宿させてよ。ここの岩村クリニック、転がり込んだけど居心地悪くて。あんたん家だったら部屋、あり余ってるでしょ?」
「何を言い出すんだ、いきなり」
 オリエは強引にタネツグのケータイを借りて彼の母親へ電話し、話を決めるが早いか30分後には、タネツグ宅へ到着していた。スーツケース3個だけ持って。タネツグの母親がすっかりお迎えの食卓を整えて待っていたのといい勝負だと言えるだろう。


チラシ寿司 1



 オリエを迎えて相馬家は一気に華やぐ。
 タネツグの母の凪子と祖母は大喜びでご馳走をふるまう。
 オリエが早くも前菜に舌鼓をうちながら、
「さっきの女の子も呼んであげればどう?」
 タネツグは少し紅くなってから、素っ頓狂に叫んだ。
「あ゛あ゛っ!!」

2011 1、17 いいとも 2

 一同、驚いて彼を見た。
「大変だ、ブラえもんのヤツ、メスじゃなくてオスだったんだ!!」
「なんだ、そんなことか……」
「俺にとっては一大事なんだぞっ。華子ちゃんとこのクリコとカップルにしようと思ってたのに」

2011 るな 2


「タネツグ、あんた、ウサギじゃなくて華子ちゃんて子とそうなりかたったんじゃないの?」
 図星を指されて、タネツグはよけい赤面した。
「バカ言え。彼女には、好きな人がちゃんと……」
「いるの?」
「今日の獣医だよ……」
 疲れきった顔でタネツグはブラえもんをケージの中へ入れた。
「彼女に言って、タネツグ。岩村は善良な男じゃないわ。私がよく知ってる」
 オリエの表情が厳しく引き締まった。
「だいたい、彼には奥さんも子どももいるのよ。深いキズを負わないうちに離れた方があの子のためよ。さっさとコクッて浚っちゃいなさい」
 もじもじしているタネツグ。こういうことは、からきしダメなのだ。
「とにかく呼ぶのよッ」
 しかたなくタネツグはケータイを取り出して電話した。
 しばらくして振り返った彼の顔は輝いていた。
「華子ちゃん、すぐ来るって!!」
 女たちは、顔を見合わせて、クスリと笑った。


 やがて訪れた華子は、愛ウサのクリコと共に、弟まで連れてきた。
 ふてくされた顔の高校生だ。薄汚れた制服姿のまま。姉に引きずられてきたという感じですらある。
「あ゛っ」タネツグは、弟を見て思わず声をあげ、弟の方も眼を見開いて叫んだ。
「ど、どうしたの?」
 女たちが眼を白黒させている。
「い、いや、何でもないんだ」
 タネツグは少年を急いで廊下へ連れ出した。

神木 1

「お前、また昨日やっただろう、万引き」
「よう、世話になったな、デカさんよ。姉貴の彼氏だったとはな」
「そんなんじゃない!!それより……」
「説教はもう沢山だ。俺はムリヤリ連れて来られたんだからな。さっさとメシ食ったら帰る!」
(可愛くないヤツ……)
 内心、タネツグはムカムカしながら少年を連れてダイニングへ戻り、母と祖母の作ったチラシ寿司とすき焼きに向かった。
「そうだわ、樋村さんもお呼びしましょうよ」母の凪子が手を打って言った。「あの人も独身で寂しい夕食なんでしょう?」
 樋村亮介は、タネツグより2年先輩の刑事だ。
 明るく、声も大きく、タネツグより逞しい体躯、運動神経もいい。顔立ちも精悍だし、仕事ぶりも評価良く、上司から一目(いちもく)置かれて信頼も厚い。
 こんな亮介が新人のタネツグに目をつけ、同じ課に配属になるなり、ずっと行動を共にしたがる。
 タネツグとしては、悪い気はしないのだが、先輩として態度がデカいのと、職場では婦警と女性刑事、飲みに行けばホステスにモテまくりを鼻にかけているのが気にくわない。
 それに、何より口うるさいのだ。こんな席に本心では招きたくない。
 華子がせっかくいる席に、彼みたいなのを呼びたくなどない。が、華子は言った。
「呼んでよ、タネツグくん。そのセンパイに、私、一度会ってみたかったの」
「ええ?」
 タネツグはしぶしぶメールしてから、しばらくして落ち込んだ顔で言った。
「……5分で来るって」


 本当にジャスト5分でチャイムが鳴った。
 樋村はダイニングに飛び込んでくると歓声を上げた。

瑛太 5

「うわ~~、美味しそう!それに……」オリエに目をやり、急にカチンコチンになった。「樋村亮介です。タネツグくんと、いつも仕事で組んでいます」
「従姉妹の南織絵です。獣医のタマゴです。タネツグがいつもお世話になりまして」
 オリエの極上の笑顔に、樋村の鼻の下が伸びた。
 婦警を騒がせているいつものモテ男ぶりが台無しだ。
 賑やかなうちに皆で楽しい夕食はすんだが、タネツグはついに、いつものように、華子にコクれずじまいで終わった。


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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第4回

        第 2 章



 数日後、疲れきって帰宅したタネツグは、靴を脱ぎ捨てるなり、母親を呼んだ。
「ただいま~~!母さん、上着のボタンが取れた!」
 玄関を上がって、リビングを覗いても姿も返事もない。
「お~~い!帰ったってば!!」
「今、ちょっと手が離せないの!!」
 母親の声は、リビングの奥の寝室から聞こえてきた。
(また、ネットオークションか……。いったいいくらムダ遣いすれば……ブランド品なんてヤマほど持ってるクセに)
 タネツグの母親は深夜になると、ネットオークションの落札に夢中になっている。しかも、時間が迫るまで横のTVで深夜放送を楽しみながら、という欲張りさ加減に、息子も呆れている。
「ボタンくらい、自分でつけなさい!!」
「わ~~ったよっ☆」
(まあ、海外赴任の長い夫がいなくて寂しさのまぎらわしなんだろう、仕方ないか、ストレス発散に)

お疲れ

 上着を肩にかけリビングを出てくると、縁側に、月光の溢れる庭を見つめて佇み、やや涙ぐんでいるオリエの姿を見つけて、思わずドキリとなった。
 声をかけようか、どうしようか迷っているうちに、彼女がこちらを向いて慌てて手のひらで涙をぬぐった。
「マズいとこ、見られたかな」
「何かあったのか」
「べつに……何かあったとか、そんなんじゃなくて、ちょっと気弱になってただけ」
 オリエは縁側に置いてあった竹製のイスに座り、ちょっと真面目な顔になった。タネツグも直感的に、(こりゃ、深く悩んだ顔だな)と思う。
「タブーなの、私」オリエがポツリと言った。「今の彼、奥様も子どももいるの。なにかね、自分はそういう恋しかできないだろうなって、思春期くらいから思ってた」


釈 5

(確かになあ……オリエ姉は大人びていて、中学生の時から学生通り越えて、社会人と……って、まさか、エンコウじゃなかったろうな!?)
「その相手ってもしかして」
「ええ。岩村よ。獣医の。だから、華子ちゃんみたいな純粋な子に、こんな苦しみを味あわせたくなかったの。岩村、手が早いから華子ちゃんだってアブナイわよ」
 タネツグの心臓が、耳の中で鼓動を打ち始めた。

もっくん ドラマ 1


(そんな女グセの悪いヤツに華子ちゃんがエジキでもされたら大変だっ!!)
「オリエ姉、そんなヤツとなんか、早く別れちまえよ!」
「バカ、それができれば苦労しないわよ。まだまだガキンチョねえ、タネタネ」
「とにかく、すぐに華子ちゃんに電話するっ」
 ケータイを取り出したタネツグにオリエの罵倒が飛んできた。
「バカッ!どこまでガキなの、あんたって子はっ!!そんなことしたら、よけい華子ちゃんが岩村に惹かれるかもしれないじゃないの」
「!?!?!?」
「若い女の子ってあなたみたいな若僧より、シブい中年男に魅力を感じるものなのっ」
 その夜、タネツグは食事もノドを通らなかったし、風呂ではぼんやりして湯舟で溺れそうになった。
(華子ちゃんが、もし、アイツのエジキにでもなったら……)
 今度のウサンポ会まで、まだ何日もあるじゃないか……。


               ※


 繁華街の裏街、不潔な細い路地。
 たむろしているのは、若いシルエットが数人、ふかしている煙草の煙が路地いっぱいに満ちている。
「チッ」横にいた樋村が、整った顔を歪めて舌打ちした。「また、捜査一課が今夜も少年補導係かよ。俺らが、警視庁の敏腕だってことを忘れるな」
「でも、放っておけないでしょう」
 タネツグはため息をつく。
 少年たちが気づいて、どっと逃げ出した。
「逃すかっ!!まだまだ俺の駿足はお前らガキどもに負けんぞっ」
 道路を蹴って走り出した樋村につられて、タネツグも追いかけ出した。


 5、6人いたうちの4人はどうにか路地を突き抜けたところにあるひと気のない公園で取り押さえた。
「放せよ、オッサンらっ!!俺たちが何をしたってんだよっ!!」
 金髪のガキが暴れる。
「お前にオッサン呼ばわりされる覚えは無い!!オヤジなみに煙草の匂いプンプンだぞ」
 ムキになっている樋村だ。
「イテッ!!」
 タネツグはいきなり手のひらに激痛を感じた。取り押さえてた不良のひとりが咬みついたのだ。
「こんの~~~~~……!!」
 改めて、その少年の顔を見てタネツグは、大きく肩で息をついた。
「また、お前か。シゲナリ。華子姉ちゃんを困らせるなって言ってあるだろっ!」
「お前こそ、姉貴に近づくなっ!!
 少年はノラ猫が背中の毛を逆立てているような形相で言い返す。
「お前、姉ちゃんを一生、オヨメに行かせないつもりか!?」
「なんだと、このアツカマ野郎、姉貴と結婚しようなんざ、俺が許さん!!」
「うるさい、ガキに何が分かるっ」
 わめく少年たちをひとからげにして署まで連行した。またもや、少年補導係をやってしまった。

松ケン ヤンキー映画

 ひとしきり署でお説教を受けた少年たちは、今回が最後に学校へは通報しないことを約束してもらった。タネツグが口添えしたせいもある。
 深夜にやっと帰宅しようとすると、署内の植え込みの脇に、小柄なシルエットが待っていた。シゲナリだった。
「なんでお前……早く帰れ」
「お、俺はべつにお前に来てほしいんじゃないぞ。でも、ちょっと来てほしいんだ」
「何が言いたいんだか、わからん」
「……いいんだよ、黙って俺の家へ来い」
「こ、こんな時間にか!?お前、華子ちゃんとふたり暮らしなんだろ」
「クリコと三人暮らし」

神木ッティ 1



 華子とシゲナリとクリコの住むマンションは、こぎれいな住宅街の中にあった。
 華子の部屋を初めて訪問する……しかも、こんな深夜に……!!
 タネツグは落ち着きはらってるシゲナリより、狼狽しきっていた。
「だ、大丈夫か、こんな時間に、行ったりして」
「さっき、姉貴にメールしといた。『待ってる』って」
(待ってる!!)
 その言葉だけでタネツグの心臓が口から飛び出しそうになった。
「なに、してんだよ。姉貴にヘンなことしたら、わかってんだろーなっ」
「???」
(なのに、なんでこの少年は、自分を部屋に連れていこうとしてるんだ?)
 などと考えている間もなくエレベーターで5Fまで上がり、廊下を歩いていくと、キンキン声が響いてきた。
「クリコッ!!お前、またカーペットの上にやっちゃったでしょっ!!こら、待て!!」
 扉の前で肩をすくめてみせて、シゲナリはカギを開けた。とたんに、小ざっぱりしたパステルカラーの内装の玄関からクリコと華子が飛び出してきた。
 クリコはボールのように丸まって飛び跳ねながら、華子は裸足で後を追いかけ、ふたりの前を風のように通り抜けていった。
「捕まえたっ!!さ、ケージへ帰りましょ!!」

マロン お手




 通路の突き当たりで愛ウサを捕獲した華子は、ゆっくり戻ってきた。
 可愛いピンクのキティちゃんのイラスト入りの部屋着を着ている。
「あ、タネツグくん、とんだところを。さ、入ってちょうだい」
 華子は部屋へ戻ると急いでクリコをケージに押し込め、シャワーかと思うくらい長く長くかかって手を念入りに洗うと、やっとポットに水を入れた。
「華子ちゃん、もう2時すぎてるから、お茶なんかけっこうだよ」
「いえ、少しだけ。そこのソファにかけててね」
(なんだか、ウサンポの時に会う華子ちゃんとは、少し印象違うな)
 タネツグは感じる。
「姉貴、クリコに厳しすぎるだろ?」シゲナリが耳打ちしてきた。「ケッペキ症なんだ。可愛がってるクセに、クリコはネズミなみのバイキンあつかい」
「バイキンあつかい!?」
 そう言えば、自分のブラえもんのオモチャ、その他が散らかったケージとは違い、ピカピカに磨きあげてあるしクリコの毛一本落ちてない。
 その分、クリコに対して厳しいのか……。
(俺は、大雑把だから部屋の中、めちゃくちゃかじられても許してるけどなあ)
「そこんトコ、姉貴にちょっと説教して欲しかったのさ。でないと俺も、キュウクツでたまんねえ」
 シゲナリが照れくさそうに言った。
「あの……華子ちゃん」

レモンティー 1




レモンティーを運んできた華子にタネツグはためらいながら、シゲナリにせっつかれて言ってみた。
「ちょっと、クリコちゃんに厳しいんじゃないかな?俺ンちなんか、ブラえもんのせいで、あちこちボロボロ……」
「タネツグくんに、そんなこと言われる筋合いは無いわっ」
 華子の口調はキツかった。タネツグはドキッと冷たいものに触れたような気がした。
 ウサンポの時と華子の形相は別人だ。
「私は私のやり方でクリコと暮らしてるの。口出ししないで」
「ハ、ハイ」と言うしかなかった。
(ちぇっ、頼りねえヤツ)
とばかりに、シゲナリがケイベツの視線を送ってきた。

 帰宅したタネツグは、ケージからブラえもんを出し、顔を近づけてホッペをペロペロさせた。
(お前が華子ちゃんだったらなあ……)

ガジガジ




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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第5回


 
 翌日である。
 タネツグは樋村亮介と、十人ほどの同僚も共に、上司の捜査一課課長に集合をかけられた。

警視庁 1

 話が始まる前から異様な空気が感じられた。新しい捜査の命令だ。
 某国の軍事顧問と取引しているらしい人物が、この町に潜伏しているというのだ。
 丸秘書類が配られ、タネツグは眼を見張った。
 ブラックリストの中に、獣医の岩村の名前があったからだ。

もっくん 2

(なっに~~~!?あの男、こんなヤバい事件に関わっていたのか!?)
 岩村の身辺調査をする!?
 いや、それより岩村がかなりな犯罪に関与しているとは!?

BM 2 第8話 3


(こりゃ、華子ちゃんにも、オリエ姉にも大問題だ!!)

 亮介が止める間もなく、飛んで帰ったタネツグは二階に部屋をあてがわれていた、オリエの元へ駆け上がり、ノックもせずに飛び込んだ。
 同時にランジェリーだけでベッドに寝ているオリエの背中の白さが眼に入ってきて慌ててドアを閉めた。
「……誰? 今、誰か入ってきた?」

釈 6

 目覚めたばかりのオリエのかすれ声がする。
「ゴメン、何も見てない!!」
 カーテンを閉めた薄暗がりの中でも、輝くような真珠色の肩が露わだ。
(ええい、何を慌ててる!子どもの頃からよく一緒に遊んだオリエ姉じゃないか!)
 カチャリ……と音がして、薄いシルクの光る紅色のガウンをまとっただけのオリエがドアを開けた。
 タネツグは眼を背けながら、
「大事な話がある。あの獣医の岩村、とんでもないヤツだぞ!妻子持ちなんてレベルじゃない。さっさと縁を切れ!!」
「な、何なのよ、いきなり」
「オリエ姉にも火の粉が降りかかってくるどころじゃないぞ」
「ひょっとして……岩村に捜査の手が伸びようとしている?」
 オリエは落ち着いている。目を白黒させているタネツグを前に、
「ええ、もちろん、知ってるわよ。彼が極刑にされかねない危険な事にクビを突っ込んでることも」
「言うなっ!!」タネツグにしては、険しい声が飛んだ。「俺は何も聞かなかったことにする。オリエ姉にワッパかけるなんてことになったら、俺は……」
「ダメな坊や。職務のためには、私情を捨てるのが刑事というものでしょう」
 オリエはゆっくり室内へ戻り、テーブルの上にあった細い煙草をくわえ、繊細なフォルムのライターを鳴らした。紫煙の向こうに見える彼女の立ち姿に、思わずタネツグはまだ午前中だということを忘れそうになった。
「と、とにかく、岩村とは一秒も早く別れろよっ」
 階段を駆け降りた。



          第 3 章


 次は華子だ。
 彼女の口からはっきりと岩村のことが好きだ、と聞いたわけでもないし、取り越し苦労かもしれない。
(いったい、どう切り出せばいいんだ……)
 迷いながらも、いつしか華子の勤めるペットショップまで来てしまっていた。
 あらゆるペット、ペットフード、グッズなどで溢れている広いフロアでうろうろしていると、
「タネツグくん!」

ペットショップ内 1


夏帆 6

 華子の方から見つけて肩に乗せていたインコを籠に入れてから、走りよってきた。
「どうしたの、こんな時間に。お仕事は?」
「あ、ああ、ちょっと近くまで来たもんだから」
「私、あと十分でお昼休みだから、待ってて。一緒にランチしましょ」
(!?!?)
 今までデートにも誘えなかったのに、ひょんなことからこんなカタチで実現するとはっ!!
 華子が案内してくれた店は、いかにも若い女の子が好みそうな、どちらかというとレストランというよりは、おしゃれなカフェに近いような淡いピンクが色調の可愛い店だった。
「ねえ、ノワールってどう?」

コピー ~ ルナ 2

 意識しないうちに、オムライスを口に運んでいると、華子が満面の笑顔で言った。
「ブラえもんくんの新しい名前よ!女の子だって判ったのに、『ブラえもん』じゃあんまりでしょ?ちゃんと聞いてるの?」
「あ、ああ。ブラえもんの名前を変えるなんて思ってもみなかったから」
「まあ、気の利かない飼い主さん!決まったわ、『ノワールちゃん』ね。フランス語で黒っていう意味」
 客が入ってきて、ドアベルがチリリンと鳴った。

カフェ 1

 タネツグは閃いた。
「言いにくいんだけど、シゲナリくん、そうとう危険な組織と関わってるらしいんだ。偶然、知ったんだけど、その組織……マフィアを言っていいのかな、岩村Dr.とも関わりが……」
「な、なんですって!?」華子が立ち上がった瞬間にテーブルの上のコップが倒れた。「岩村先生みたいな親切で善いお医者様はいらっしゃらないわっ!何のことなの?」
「詳しくは言えない。だから悪いけどクリコちゃんの主治医を変えてもらって、岩村Dr.にもいっさい近寄らないでほしい。シゲナリくんは、俺がなんとかするから、彼には何も言わないでくれ」
「……」
 蒼白の華子だ。
 胸が痛んだが、タネツグにはどうしようもなかった。


 ペットショップ前で仁王立ちになって待っていたのは亮介だ。
「いい度胸だな、仕事サボって真昼間からデートとは」
「いや、あの、これは」
 華子はぴょこんと会釈するなり、ペットショップへ駆け戻っていった。
「タネツグ、お前、今度の任務がどれだけ重いものか、解かってるのか。ヘタすりゃ国家間戦争の火種にもなりかねない件だぞ」
「そんな、大げさな……」
「大げさじゃないっ!」
 亮介の手がタネツグのネクタイを鷲づかみにして、乱暴に引き寄せた。
「俺たちのちょっとしたミスや、よけいな行為がヤツらの取引から大きないさかいになる可能性があることを肝に銘じておけ!このサボリの始末書は署できっちりと!!」
「わ、わかりましたってば。つまりオリエ姉のメアド教えろってことでしょう……」

瑛太 6

「わかってるじゃないか」
 手を放すなり、亮介の目尻が垂れた。

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第6回




 とりあえず、岩村への華子の接近は食い止められた。(と、思う)
 その見張りも兼ねて、岩村の日常を尾行すればいいのだ。しかし、タネツグは面が割れている。……どうするべきか。


            ※


 とっくに学校も始まってるであろう、午前10時頃、コンビニの前に座り込んで、たむろしている十人ほどの若者たちの姿があった。だらしなく地面に寝そべっている者もいて、日向ぼっこでもしているようだ。
 黄色、赤、黒、白、髪の毛だけでもカラフルなのに、耳ピアス、鼻ピアス、銀製のペンダントやブレスはもちろんのこと、せっかくの名門の私立高校の制服も原型が想像できないほど改造してあり、(彼らに言わせると個性的に)着ている。

コンビニ前

 時折、コンビニの店長らしき、サザエさんの父、波平さんのようなオヤジが煙たそうに覗きに来るが、ひとりの三白眼の鋭い一瞥を受けただけでひと言も言えずに引っ込んだり、また、こっそり覗いたりを繰り返している。
「こんな陽気にガッコーなんて、行ってられっかよ」
「オジン、オバンの先公ばっかでよぉ」
「家でもオヤがウザくて居らんねーよ」
 煙草の煙がモウモウと立ち上がっている。
 その中でも、一番、ふてぶてしい顔で黙り込んでるのは、華子の弟、シゲナリだ。
「どしたんだよ、シゲ。キゲン、わりぃな」
「ヘン!」という風に立ち上がったところへ背後から声がかかった。
「よ、シゲナリ」
 笑顔のタネツグを見て、シゲナリは大きな眼を見開いた。
「な、なんだよ、お前。今日は俺、まだ何もお前に引っ張られるようなことしてねえぞ」
 周りの仲間も、ザワザワと騒ぎだした。自分たちも補導されたことのあるデカだと気づいたのだ。
「ちょっと、話がある」
「俺に顔貸せ、ってことかぁ?」
 強引に近くの街路に少年を引きずっていった。

キティちゃん いいとも





「お前、姉ちゃんのことが大事なんだろ?」
「当たり前のことを……何が言いたいんだっ!」
「お前と組みたい。クリコちゃん行き付けの岩村Dr.知ってるな」
 シゲナリは相手を睨みつけながら、頷いた。
「あいつ、どうやら、食わせもんだ。サツに追われる身だ。そんなヤツに姉ちゃんが恋してたら許せるか?」
「な、な、なっに~~~~!?姉貴はお前のことが気にいってたんじゃなかったのかよっ」
「だったら、お前にこんなこと頼んだりしないって。マジに姉ちゃんがヤバいんだ」
「で……お、俺は何をすりゃいいんだよ」
 少年は唇を尖らせる。
 タネツグはグレーのスーツの内ポケットから一枚のチラシを出した。

***************************************************************************************************

入院中の動物の世話係 アルバイト募集!!

   高校生、大学生 可。  時給 ◎880円  泊り込み有
       交通費全額支給  制服貸与


        岩村 アニマル・クリニック 
            TEL: 〇〇 〇〇〇〇 〇〇〇〇
                     委細面談

****************************************************************************************************



 オレンジのメッシュに染めていた髪も黒く戻して、少し品よく身づくろいしたシゲナリ少年は、やすやすと岩村クリニックに入り込んだ。


神木ッティ 9

 彼が入手した情報は、すぐにタネツグに届くことになっている。
 タネツグが、シゲナリにあらかじめ与えておいた情報は、
「どうやら、岩村Dr.は、某国のマフィアらしき組織関係者から依頼を受けて動物の持つ特定の分泌物から人間に致命的な生命の危機に陥らせる、生物兵器を研究、開発中である。少しでも、怪しい人物と接触するようなことを耳にしたら、現場を押さえたいので、すぐにメールでも電話でもすること!!」

(こんなヤバいヤツを姉貴に近づけてたまるか~~~!!)
 シゲナリ少年も闘魂を燃え出させた。

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第7回


             第 4 章


 一方、タネツグはオリエから何か聞き出そうと、四六時中彼女の動きに目を光らせていた。
 オリエはタネツグの家に下宿ならぬ居候(いそうろう)を決め込んでからも、特に急いで仕事を探すでもなく、毎日、昼過ぎまで寝ていて、夕方からぶらりと出かけてウィンドウショッピングでもしているのか、ひとりででも飲みに行ってるかくらい、のらりくらりとした生活をしている。
 獣医になるために留学していたのだと、判ったものの、未来の目的なんぞ知るよしもない。
 岩村Dr.と不倫関係にある今、自分でも方向を見失っているというところか。覇気がまったく感じられない。



 タネツグの脳裏に、幼稚園時代にもう中学生になっていた、オリエとの記憶のひとコマが甦った。
 中学生なのに、セミロングの髪にゆるいパーマをかけて、唇はリップだろう、艶やかだ。
 珍しく、茶色いウサギをタネツグに見せに来た。頭の毛が突っ立っている、なんとかいう種類だそうだ。


春馬 はぐれ刑事 1

フォグバーでキメた タネツグくん


「友達が旅行に行くからあずかったんだけど、まだ子ウサギだから、名づけ親になって、だって」
 動物が大好きなタネツグは、ひったくるようにウサギを受け取って撫でまわした。
「なんて名前がいいかな?スティーブ、アラン、レオニード、ディック……。オスなんだな、こいつ。可愛い」
 オリエは腕組みした。
「横文字ばっかよねぇ……。それも、ありふれた。かといって、ゴンベエとか、ヨネ吉はふざけてるし……。そうだ!!あんたの名前、もらってもいい?タネツグ」
「えっ?」
「き~まり~~っ!!こいつの名前は『タネツグ』!!男らしくてカッコいいじゃん!!」
「こいつがボクと同じ、タネツグ!?」
 少し戸惑った。
(ボクの名前は、昔のおさむらいが大好きな父さんがつけてくれたんだぞ)
「おい、お前、タネツグになるか?」
 顔を近づけると、こげ茶のウサギはタネツグ少年の鼻のアタマをペロリと舐めた。
 それきり、ウサギのタネツグと会うことはなかったが、きっと可愛がられて育ったことだろう。俺だってそうだから。


              ※


 ある日、深夜にタネツグが帰ると、薄暗い階段の踊場から白い姿が見下ろしていた。飛び上がるほど、びっくりした。

オドロキ 春馬

「うわ、誰かと思うじゃないか」
 光沢のある長いガウンをまとって、長い巻き髪を垂らしたオリエだった。
「待ってたのよ、あんたを」
 慌てながら、靴を脱いだのでタネツグの足先に靴下が伸びてくっついてきた。
「バレてんのよ、あんた、ここんとこ、私の尾行してるでしょ?」
「えっ……」

釈由美子 E

 オリエは素早く駆け降りてきてイトコの青年に顔を近づけた。
「何を企んでるの?私から岩村の情報でもつかめるとでも思ったの?それと……あんたのセンパイのなんとかいう男からハートマークいっぱいのメールが来たけど、どういうわけ?」
 彼女からは、ブランデーの香りがした。眼もすわってるし、ロレツもまわってない。
「もう遅いから寝た方がいいよ。肌が荒れるんだろう、女は」
 なんとか逃げ出すのに成功した。
 が、尾行を続けていても何も情報が得られそうにない。

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第8回



「粘れ」
 亮介は鋭い眼つきで、机の上で両手を凝視したまま、後輩に命令した。


瑛太 4



コピー ~ BM2-3



 殺風景な捜査一課の一室である。
「彼女はきっと岩村と接触する。身体だけの関係じゃないと俺は睨んでる。彼女は岩村の助手で優秀な獣医なんだろ?生物兵器のことにも関わっていると見ていい」
 その眼はカンペキに職務を遂行している刑事そのもの……と、思いたかったが、心の奥でシットの焔(ほのお)が燃えさかっているのを、タネツグは感じた。


 少し気が退けたが、オリエが午後に出かけるのを見計らって部屋の中の様子を見てみることにする。
 二階なので、母の凪子も祖母も気がつかない。


 クローゼットや小タンスの引き出しをあちこち開けてみたが、何も怪しい物は見当たらない。だいたいスーツケースみっつだけで転がり込んできたのだから、本当に必要な生活用品しかない。
 ふと、ベッドのサイドテーブルに小さなアールヌーヴォー調の絵が描いた陶器の小もの入れが目につき、そっと手に取り開けてみた。

アールヌーヴォー小物入れ

 小さな黒い小瓶。
 タネツグがつまみ上げた瞬間、背後に気配を感じた。
「イケナイ子ねぇ、女性の部屋に勝手に入り込むなんて」
「これは……」
「家捜ししてたんでしょう?何か岩村と関係あるものがあるかどうか」
 オリエは近づいてきて、タネツグのサラリとした唇を指先でさわり、猛獣みたいなギラギラした瞳で見つめ、ゆっくり顔を傾けてタネツグの耳を両手ではさみ込み、くちづけした。

赤い口づけ

「……!」
 逃れようとしたタネツグだったが、意外にも彼女は力が強かった。
 充分、若い唇を味わった彼女は、やっとタネツグを放した。
 タネツグの口元は真紅の口紅でめちゃくちゃ汚れてしまった。ヴァンパイアでも、こんなひどいことにはなるまい。
「ハイ、いい子ねえ、それ、返して」
 タネツグの手から小瓶を取り上げる。
「教えてあげるわ。これは岩村が開発した殺人兵器の製造法を記したマイクロフィルム。電子化すると破損されやすいので、文書化されたまま。あんたに渡すわけにはいかないの」
 強い麝香の香水の香りが流れたと思うと、彼女は行こうとした。
「待て」
 反射的に呼び止めた。
「オリエ姉、いつからそんなに変わってしまったんだ、あの男のせいか?昔、よく遊んでくれたオリエ姉は、そんな暗い顔してなかったぞ」
 彼女の身体を乱暴にカベに押しつけた。
「目を覚ませ、自分が何やってんのか、解かってんのか!?バレたらどうなるか……」
 タネツグの脳裏にまた、幼い頃から溌剌としたオリエの屈託の無い笑顔が浮かんでいた。それらが、あの岩村によってグレイに塗りつぶされていく。
「きゃっ」
 我知らず、タネツグは床の上に従姉妹を押し倒していた。
 あんな男に彼女を踏みにじられるのが悔しかった。勢いあまって、オフホワイトのシルクのブラウスの前を両手でつかんで左右に力を入れた。
「あんなヤツに汚されてたまるか…!」

釈 7

「ふふん」オリエはハナで笑った。「タネツグ、これ以上のことなんか、あんたにゃ出来やしないわ。華子ちゃんが、知ったらどう思うかな~~??」
「!!」
 つい手の力が緩んだ。
「重いわよ、どいて」彼女はさっさと彼の身体の下から滑り抜けて立ち上がった。「もう私は昔の私じゃないの。身も心も志も、人生さえも何もかも岩村に捧げてしまったの」


            ※


 ブラえもん……いや、ノワールの鼻先に温かいものがポタポタ落ちてきた。
「うっうっうっ……」
 自分ではどうしようもなかった。情けないのは、解かっていても、子どもみたいに涙が止まらなかった。
 ノワールを膝に乗せて溢れては落ちる涙をそのままにしておくしかない。シン、と冷えた床の上。

りょう 春馬 涙


よその黒うさ




 本当の姉のように慕ってきたオリエは、あの男のせいで別人になってしまった。
 ノワールのぬくもりを感じると、華子の面影もやってきた。
(こんなカッコ悪いとこ、華子ちゃんに見せられやしない……。これじゃ、シゲナリの方がよほど逞しいじゃないか……)
 グイ、と目元をぬぐい、顔を上げた。
(華子ちゃんは、死にもの狂いで守らなきゃ。それには、まずあの岩村がどんな男なのか接近してみることだ!!)
 春の夜明けは早く、ベージュのカーテンの外が明るくなってきた。

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第9回



          第 5 章



「ものすごい形相だな、タネツグ」
 亮介に言われて、岩村の調査書を睨みつけていた、タネツグは我に返った。
 珍しく亮介が持ってきてくれた自販機の紙コップのコーヒーが机の上に置かれた。香ばしい香り、湯気が頬をなぶっていく。
「どうだ?その男、経歴に文句のつけようがないだろう。T大、米国H大大学院卒。若くして獣医学会では、その論文により注目を浴びる。……e.t.c. e.t.c. 」
「そうだ!」いきなりタネツグが眼を輝かせて立ち上がった。「センパイ、犬、飼ってますよね?」
「なんだ、いきなり。グレートデン飼ってるって言ってただろ。男のクセにちまちまとウサギなんか、飼ったりしないからな」
「その犬、貸して下さい!」
「ナポレオンをか?いったい、どうするんだ」
「敵情視察のために、是非!!」


グレートデン 1

 かくしてタネツグは、自分ほどのデカさの白黒まだらのグレートデン「ナポレオン」を亮介から借りて、岩村クリニックへ出発した。
 もちろん、クルマで連れてきてもらった「ナポレオン」は、見慣れないタネツグに警戒して、ずっと低い唸り声をもらし、なかなか言うことを聞かなかった。顔を合わせるなり、鼻息であしらわれるわ、勝手にあちこちの住宅街に入りこもうとしたり、猫たちから怪獣扱いされたりクリニックに到着した時には、ヒロウコンパイのタネツグだった。
 咬みつかれなかっただけ、命びろいしたと思わなければならない。


アニマル クリニック 1


「愛犬健康診断」 表向き。 これが今日のタイトル。

 真のタイトルは「岩村 靖 身辺調査」

 岩村は慣れた手つきで、ナポレオンを診断し、
「立派なデンだな。何かのコンクールで入賞したことがあるでしょう」
「はい、3回ほど……」
 と、亮介から聞いている。あくまで聞いているだけだが。
「大丈夫だよ、健康優良児くんのわん公だ!!」
 岩村は目を細めて、ナポレオンの太い首筋を叩いて褒めた。


もっくん 1

「君、この前、青沼華子さんと一緒に来た青年だね」
「相馬胤継です」
「華子ちゃんは、今どき珍しい古風で純真な娘さんだ。大事にしてあげなさい」
(んなこと、なんで、あんたに言われなきゃなんないんだっ。華子ちゃんを毒牙にかけようとしてるクセに……)
 しかし、胸の裡はオクビにも出さず、
「あのう、俺、南織絵のイトコなんですが、彼女がしばらくお世話になっていたそうで」
「ああ、そうだったのか。いや、世話になったのは、こっちの方だよ。三年ほど前、しばらくドイツにいた頃に出会ったんだ。彼女も優秀な獣医だよ」
 笑顔が青年のように爽やかだ。
(華子ちゃんも、オリエ姉もこの笑顔にイチコロにされたんだな。こいつが人殺しの兵器を造ろうとしていることも気づかず……)
 いつしか、岩村に向ける眼がこっぴどく邪険になっていってるのが、自分でも解かる。
 いきなり診療台を下りるなり、ナポレオンがむせて、床の上に胃の中のものをもどした。
「おや、どうしたんだ?」
 岩村も驚いたようだ。ナースが急いで床を拭く。
 タネツグは内心、舌をペロリと出した。
(健康診断、終わって、はい、ありがとうございました、って、すごすご、誰が帰るもんか)
 ナポレオンには悪いが、そういうクスリを飲ませてある。
 緊急入院させてもらって、自分もゴーインに泊り込み、岩村の動向を探る!!
我ながらいい作戦を思いついた、と、タネツグは陶酔していた。
(亮介にバレたら、即、殺されそうだが、この際、ムシすることにする)
 ナポレオンは、胃が荒れていて一週間、入院することになった。
「ナポが心配で、とても、家に帰れません!別々に寝るなんて考えられませんよ!!」
 タネツグの泣き落としで、付き添いとして、泊り込みが許された。


 深夜、クリニックの棟続きにある、岩村の私邸に入り込むのに、雑作は無かった。そんなに広くはないが、タネツグの勘で彼の書斎を探りあてた。
 ドアを開けてみるとカギはかかっていない。
 カベにびっしりと獣医学の専門書が詰め込まれた書棚があり、重厚だがシンプルな机とイス。机の上にはデスクトップのPC。隣にちょっとした研究室らしき部屋がある。
 不意に人声がして、タネツグは慌ててその研究室に逃げ込んだ。
 入ってきたのは大柄な、お腹の出っ張ったブラックの男性とボディガードらしき白人男性ふたり。岩村が応対している。
 が、英語なので、タネツグにはさっぱり聞き取れない。
「シクジッタ!!」


お~い 1

 こいつらが、キナ臭い人間であることは、間違いないのに。
 こうなったら、取引現場を押さえるか、物的証拠を見つけるか。

 岩村とブラックの男性はソファに腰掛けてブランデーを飲み交わしていたが、話が本題に入ったようだ。
 どうやら岩村が持っているらしいマイクロフィルムを渡せと言ってるように思われる。岩村が紛失したと弁明しているようだ。
 言葉がチンプンカンプンなので、半分以上、タネツグの妄想が入っているのかもしれないが。
 突然、頭に湯気を立てんばかりにブラックの男性が立ち上がった。
 岩村を罵倒している。フィルムを紛失したことに腹を立てているのだろう。
 今頃、それをオリエが持っていることも知らず。
(いったい、オリエ姉はあのフィルムを岩村から預かったのか、盗んだのか、どちらだろう?)

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. 「ウサンポの恋はタンポポの中」第10回 

「お父さんが帰ってこられたわよ!!」
 一週間の犬の入院付き添いが終わって帰宅するなり、タネツグを出迎えた母親の凪子が顔を輝かせていた。



樋口可南子 2

 三年ぶりになるか。タネツグの父親、師常(モロツネ)は、業界大手のイツキ商社に勤務、欧州海外赴任している。
 タネツグが刑事になることを頭から反対して、大喧嘩になり、それ以来、口を聞かないまま、行ってしまった父が帰ってきたというのだ。
 少し緊張して、クリーム色の色調のリビングに入ると食事を終えたらしい父親は、ソファでくつろいでいた。
 年齢にしては、若く見えるだろう。健康そうだ。
「よう、元気そうだな」
 以前のことなど何ひとつ覚えてないように、息子を見て相好を崩した。


北大路欣也 E


「……お帰り」
「突っ立ってないで、酒の相手でもしろ」
 タネツグはちょっと戸惑ってから上着を脱ぎ、向かい側に座った。
「どうだ、ちょっとは鍛えられて逞しくなったかな?」
母親が運んできたグラスにウィスキーを注ぎながらモロツネは尋ねた。
「逞しくなりましたよ。あなたと対等くらいには」


ウイスキー 1

 ぐい、とグラスの中身を飲み干してから、父親を「あなた」と呼んだタネツグは半分、ヤケクソで答える。
「そ、それはまた、えらく自信をつけたもんだな」
「俺たち家族に後ろめたい事をしている男ではないから」
「何のことだ?」
 父親は もう顔を背けてTVのスイッチを入れ、ニュース番組を見始めた。
(そう簡単には、シッポをつかませないだろうな)
 息子も背を向けてリビングを出て二階の部屋へ向かう。
「タネツグ、ご飯は?」
 母親の声が背中を追ってきたが、頭の中は父親のことでいっぱいだった。


 翌日、クルマで出かけた父親の尾行をゆるゆると始めたところへシゲナリからメールが来た。
『岩村が誰かとオリオンホテルのラウンジで会うらしい』
『よくやった』
 と、返信。急遽、父親の尾行を中断してそちらへ向かう。
 オリオンホテルへ直行。
「華子ちゃん!?」

夏帆 10

 ホテル近くの路上を歩いている彼女を発見して、急いでクルマを止めて降りる。水色のドットのチュニック、膝までのスパッツ。いつもの清楚な感じだが、表情が違う。朗らかな彼女ではなく、タネツグに呼び止められても唇を引き結んでいる。
「どうしたの、こんなところで」
「岩村先生に会うの。クリニックに寄ったら、シゲナリがそう言ったんで」
(アイツ……!!)
「私……いいの、先生に奥様がおられても。とにかく自分の気持ちを打ち明けないと心が張り裂けそうなの」
 涙さえ浮かべている。
「そんなに……。でも、今日のところは帰った方が」
「タネツグくんがどう言おうと、私は行くの!」
 胸の中が、雷雲に襲われたようにどす黒くなった。
「わかった。ついておいで」
 しぶしぶ連れていくことにする。
(危険にさらしていいのか……?)


欧州ホテル ラウンジ

 都心から少し離れたホテルのラウンジ、静かなピアノの音が流れている。
(待てよ、俺ひとりより華子ちゃんとふたりの方が、怪しまれずにすむぞ)
 ボーイに案内されて、ふかふかの絨毯の上を、ちょっと勇気を出してとなりの華子に肘を差し出すと、彼女も察してそっと手を滑り込ませた。
 仕事からみだと、勇気が出せるタネツグは、自分に驚く。
 奥の席でカップルを装って待っていると、やがて岩村が現れ、窓辺の席に着いた。
 夕暮れてきたビル群を眺めていると、かなり背の高い白人男性がやってきた。
(歳はまだ三十代か?メガネをかけたスーツ姿で一見、ビジネスマンだ)


めがね白人 1

 しばらく何やら話してから、ふたりは席を立つ。
 華子が席を立ちかけるのを留めて、タネツグはふたりのテーブルに一度オーダーを聞きにきた若いボーイに近寄る。
「あ、先生が行っちゃうってば」
 タネツグはしっかり華子の腕をつかんで離さない。
「お客様、何か?」
 ボーイは怪訝そうだ。
「ちょっと、連れが気分が悪いらしくて、少し横になれるところありませんか?」
「!?」
 驚く華子を制する。
(いいから、黙ってて)
「お部屋をお取りしましょうか?」
「いえ、そこまでは。しばらく横になるだけでいいので」
 ボーイは厨房の奥の小部屋に案内した。
 貧血を起こしたふりをした華子をソファに寝かせ、案内してきたボーイを引き止める。先にドアを閉め、立ちはだかる。
「今、白人男性から受け取ったものを出せ」
「な、何のことでしょう」
「後ろを向いて手を上げろ」
「!?」


コピー (3) ~ BM 1 まこと 5

 タネツグの気迫に言う通りにしたボーイは、背中に固いものが当たるとビクリとした。銃口だと判ったようだ。
「出せ」
「な、何をです」
 グイ、と銃口を食い込ませる。
 瞬間、ボーイはタネツグの虚をついてウデをつかみあげた。
 華子が飛び起きて、水色のチュニックの胸元を破り、部屋から飛び出した。
「誰かっ!あの人が私に乱暴しようと……」
 ラウンジに居た人々は、全員、華子に注目した。
「いかがなさいました、お客様!!」
 駆け寄ってきたフロアの責任者に、華子はすがりついた。
「くそっ」
 タネツグのウデを捩じ上げていたボーイは、舌打ちしてマイクロフィルムをズボンのポケットから出した。
「おい、何してる」
 責任者が部屋を覗くと、同時にタネツグはすり抜け、フロアにいた華子の手を引っ張ってエレベーター向けて猛然と走った。
 ホテルを出たところで、彼女に上着をかけようとしたが、華子は「大丈夫」という代わりに自分の軽い上着で裂けたチュニックを隠した。
「ありがとう、君のおかげで、大切なものを手に入れられた」
「ありがとう、じゃないわよ。私、覚悟を決めて先生に会おうとしてたのに、ワケ解かんないわっ!!」
 そして、バシッとタネツグの横っ面を殴りつけた瞬間、彼は地面に伸びた。
「ヤダッ、そんなに力、入れてないでしょっ」
 タネツグの脇腹からワイン色の液体が滲み出てきて、華子は悲鳴を上げた。
 あのボーイに消音銃で撃たれたのだ。



 次に目覚めた時は、病院のベッドの上だった。華子と母の凪子が見下ろしていた。
「タネツグ……」
「タネツグくん、良かった……、気がついて」
 いきなり、亮介の怒鳴り声が頭の上から降ってくる。
「バカヤロウ!!華子ちゃんに何かあったらどうするつもりだったんだ!!」
「あれ?センパイのターゲットはオリエ姉だったんじゃ?」
「華子ちゃんを一般国民として言ってるんだっ!お前は勝手な行動ばかりしている!始末書どころか、クビが飛ぶぞ」
 頭から湯気が出ている。
「落ち着いて、センパイ。あの岩村と接触した人間からこれを手に入れました」
 マイクロフィルムを納めたカプセルだ。
 意識を失っても、タネツグが握り締めて話さなかったブツだ。動物の細胞から採取した、生物兵器の製造法。
(オリエ姉が持っていたものは、ニセ、囮(おとり)のフィルムだ)


コピー (3) ~ BM 2-2

「おお?よくやった!!」
 亮介の態度、豹変する。
「月給UP間違いなし、昇進するかも」


「タネツグくん……。岩村先生は……」
 涙が溢れている華子だ。タネツグは胸が痛い。
「あの男だけは、諦めなくちゃだめだ。平凡な幸せを与えてくれる男じゃない。それに……。俺はあの男がまっとうな人間だとしても、華子ちゃんに間違った道に踏み込んで欲しくない」
「……」
「悪いけど、あの男は必ず俺たちがブタ箱にぶち込む」
 脇腹の痛みを堪えながら、口にするタネツグの決意の固い瞳を見て、華子は唇を咬みしめてうつむいた。



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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
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★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
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