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浪漫@kaido kanata

. 「スプリング・フォンデュを君と」

   『モテない』がテーマです。
果たして、「モテない」が読者さまに伝わったかどうか?
それはかなり難しかったのですが、学園ラブ・コメとしては、大変楽しく書けました!!
 タイトル付きで夢で見たストーリーに枝葉をつけて組み立てただけです。


     【 スプリング・フォンデュを君と 】


        第 一 章


「今日はいつもよりぶっ飛ばすわねえ、すみれ」
 小柄なツバキがシートベルトを握り締めながら洩らした。
 愛車、ワ○ンRのハンドルを握るすみれの、サングラスの奥の瞳が血走っていることがよく分かる。


ワゴンR

「私たち、今日から花の女子大生なのよっ」
「わ、わかっているわよ、そんなこと」
「なのに、どーしてくれるのよ、この顔!!」
「どーしてくれるったって……」
 すみれは大きな悩みを抱えていた。
 中学の頃からできはじめたニキビがひどくなり、ニキビ面どころではないのだ。
 顔立ちが分からないほどひどい。今まであらゆる手を尽くし、いくつもの病院の皮膚科を廻ったが、ムダ足だった。
 中~高時代は、それが原因で友達からさんざん苛められた。
 その数々は、思い出したくもない!
 もちろん、彼氏いない歴、18年!!
 で、今日の大学の入学式もサングラスとマスク姿だ。



 たったひとり小学生時代からの親友、ツバキが、コンプレックスをよく知っていてくれていて、相談相手になってくれた。彼女がいなければ、イジメの日々は乗り越えられなかっただろう。
今日も顔を見られまいとするために、猛スピードでクルマを走らせているのだ。
「ママたちは?」
「さあ、後から来るでしょ。入学式なんてさっさと終わればいいのに!!」
 不機嫌極まりない。ツバキさえ、少し恐れを感じていた。


          ☆


『パプァ パプァ パプァ……』
 突如、あの独特の騒音が響いたと思うと、すみれのクルマは十数台の大型バイクに取り囲まれた。うっとおしい暴走族だ。朝っぱらから。
 皆、バイクに旗を立て、「宇因太亜」と書いたハチマキを巻きつけ口笛を鳴らしている。
 黒ジャンの背中にはド派手な冬将軍の刺繍!!
「よぉ、よぉ、ねえちゃんたち、そんなに急いでどこ行くの」
「あんたたちには関係ないでしょ!」
 頭に血の昇りやすいツバキが窓を開けて怒鳴りかえす。
「やめときなさいよ、ツバキ。あんなヤツらの挑発に乗ることなんかないわ」
「だってぇ」
「すぐに振り切ってやるから、待って!!」
 すみれは慣れたハンドルさばきで、細い路地へ入り込み、又、道路に出たりしてタカッてくるハエのようなヤツらをさっさとまいてしまった。
「さすがのお手並みねえ、すみれ」



         ☆


 族はヘッドが右手をあげた合図でバイクを止めた。
 ヘッドの男―――タナカは、メットを脱いで
「チッ、女のクセに」
 路上にツバを吐いた。


          ☆


 やがて、長ったらしい入学式が終わり、記念撮影に華やいでいる大ホールに、すみれは、さっさと背を向けた。母親の呼ぶ声が背中で聞こえたが、無視して駐車場へ急ぐ。
 ツバキが追いかけてきた。
「ね、そのままでいいから記念写真撮ろうよ」
「私がジョーダン嫌いなのを知ってるでしょ、ツバキ。誰がこんな格好で!」


          ☆


 キャンパス内は桜も満開、お祝いのムードで華やいでいる。
 各クラブ、同好会の勧誘も賑やかだ。



 すみれとツバキはその中を目もくれず突っ切ろうとしていた。
 いきなり、すみれの前に一枚のチラシが差し出された。フリルがいっぱいついた真っ赤な地に白いドット柄の衣装のピエロが、鼻にホオズキをつけてにっこりしていた。睫毛の長い美しい瞳だ。
 チラシには『季節を楽しむ同好会』と書いてある。
「なあに、この年寄りっぽい同好会は?」
 ツバキが吹き出しかけた。
 他に鮮やかな青とまっ黄色の衣装のピエロも寄ってきた。

ピエロ 赤

「お嬢さん方、ご入学おめでとうございま~~す!どう?俺たちの同好会に」
「何すんの、これ?」
「地域のご老人との交流が主な内容かな。ゲートボール、手作り菜園、幼稚園児との交流……」
 最後まで聞こうとせずに行こうとする、すみれの後を、ツバキは慌てて追いかけた。
「ね、すみれ、私、喉渇いた!あそこのテラス行こう。あそこだったら木立も多いし人も少ないから」
 仕方ないな、という風にすみれは足をとめ、ツバキとテラスに向かった。
 桜の花びらがちらちらと舞い落ちる中、ふたりは冷たいカフェオレを飲んでやっとひと息ついた。
「私たち、これからここで6年間、薬学部で学ぶのよ。絶対一緒に卒業しようね、すみれ」
「う、うん、まあね」
 マスクの下からストローを指し込んで、すみれは曖昧な返事をした。
「それにしても、さっきの同好会、老人会の間違いじゃないのかしらね?」
 ツバキが苦笑いした時である。

           ☆


 ドヤドヤと隣のテーブルにさっきの赤、青、黄色のピエロをまじえた数人がやってきて腰を下ろしたのだ。
「あ~~、俺、もう声、枯れちゃったよ」
「みぃんな、ムシしていきやんの」
 その中に、赤い帽子とホオズキの鼻を取ったさっきの青年を見て、すみれとツバキはぎょっとした。


【 きれい…… 】

 帽子を脱いで汗を振り落とすさま、短くもなく長すぎもしないナチュラルな黒髪が乱れるのはスローモーションに見えた。
 なんといっても、整った横顔!!
 こんな美しい青年を見るのは、ふたりとも初めてだった。
 日本人離れしすぎていないギリシャ彫刻のような高貴な顔立ち、それでいて冷たくない。むしろ愛嬌がある。友達と話している表情はまだ高校生のようだ。
 なんといっても笑顔が絶品だ。
 数分間、すみれとツバキは、ぼうっとその青年に目を釘付けにされていた。


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. 「スプリング・フォンデュを君と」第2回

           ☆


「おい、どうすんだよォ、最低、ふたりは捕まえないと解散だぜ」
 彼らからのそんな声を聞いたとたん、ツバキは椅子を蹴って立ち上がり、すみれの腕をつかんで彼らに駆け寄った。
「な、なによ、ツバキ」
「どうもこうもないわよ、あんな子を毎日、間近で見られるなんてチャンス、そうそう無いわよ」
 そして、彼らのテーブルの横に立つと、
「私たち、入ります!!『季節を楽しむ同好会』!!」
 一同、ギョッとなってから、立ち上がって歓声をあげた。
「ホントかよ、君たち!?」
 一番に声を上げたのは、かなり長身の茶髪の青年。

ダイゴ1

「ハイ。私は中庭ツバキ。こっちは山野上すみれ。今日、入学したばかりです」
 すみれが軽くツバキのスネを蹴飛ばして、ひそひそ声で、
「ちょっと、本気?」
「あったり前じゃない」
ツバキの瞳のカタチがハート型になってしまっている。
「動機不純よ」
 今度はツバキがすみれのスネを蹴飛ばした。
「そうとなったらアジトへ行ってサインしてもらおう!おいで、君たち」
「アジト~!?」
「同好会の部屋のことよ。いらっしゃいよ」
 同好会の中のふたりの女の子も笑顔で迎えた。
 ひとりは鋭い感じのクール美人、もうひとりはまだ無邪気な小柄な子だ。


            ☆

 キャンパスの隅のボロい殺風景なアジトへ案内された。
 お世辞にもきれいとはいえない長テーブルに全員が座る。5人の男子とふたりの女子。
 男子学生は、ズラリとイケメン揃いではないか。
 もちろん、あの赤いピエロが群をぬいているけど。
 リーダーというダイちゃんが、ひとつ咳をして立ち上がった。
「これにサインしてくれッスか?なあに、カタチばかりッス」
 ふたりは……すみれは半分、ツバキに無言で強要され、サインした。
「君たち、本当にこんな同好会に入ってくれるの?ボクらが言うのも変だけどモノズキだな」
「活動内容は殆どご老人たちとの交流で季節を味合うんだぜ」
 メンバーが口々に言う。
「桃兵衛(トウベエ)がチラシを渡したんだよな?お前の手柄だな、さすが、我が同好会の看板!!」
「そ……その呼び方はやめてくれと言ってあるだろっ!」
 赤いピエロの青年が赤面して慌てた。
「あはは、こいつ、爺さんがつけた桃兵衛なんて名前だから新入生の前で照れてやんの」
 髪にミドリのメッシュを入れたヒロという男子学生がからかった。
「役にたつのは、その顔だけ!中身はじいさん譲りのオジンだもんな。彼女イナイ歴何年だ?世の中、そんなに甘くないぞ。○のやり方、覚えてるか?」
 男子たちが吹き出した。
 目の鋭い、メイちゃんという女の子が、
「やめなよ、ヒロ。本人が嫌がってんだから。ね、桃」

メイサ 2

「……」
 青年は黙りこくっている、名前がコンプレックスらしい。
 しかし、すみれたちには笑顔を向けた。
「医学部、三回生、瀬川桃兵衛(せがわ とうべえ)っていいます。俺の渡したチラシに反応してくれてありがとう。歓迎するよ」
 そう言って大きな手のひらを差し出した。
 名前なんか、どうでもいい!!
 すみれもツバキも雲の上にいるように、ふわふわした気持ちで握手した。
 本当に役にたってるのは、顔だけなんだろうか?
「桃ちゃんって呼んであげてね」
 小柄な方の女の子、エリがウィンクして言った。

朝倉えりか 2



             ☆

「そうそう、顧問は医学部助教授のムカイ先生。そのうち会えるだろう」
「院生のサエコ女史も時々、顔を出すぜ。ふたりのチビちゃん連れて。ただのきまぐれでだけど」
「アイツもおちょくりに来るよな、何年、留年してんだか、わかんねえ、カスガ」
 イケメンたちがお喋りしている間も、すみれとツバキは、ず~~と、桃の表情から目が離せないでいた。

 知らず知らず一同の目がサングラスとマスクを外さないすみれに集中していた。
 リーダーのダイちゃんのケータイが鳴った。
「ああ、れん爺さん?あさってのゴミ拾いの件ね、任してッス!あ、可愛い女の子がふたりも入ったッスよ!」
 老人会との連絡らしかった。



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. 「スプリング・フォンデュを君と」第3回

    第 二 章


 いきなり最初の行事がゴミ拾い!!
 それも地元老人会との合同作業。
 ゴム長とエプロン、ゴム手袋と手バサミが支給された。
 キャンパス近くを流れるせせらぎ縁(へり)のゴミを拾ってまわる作業である。
 春風の爽やかな、とてもいい陽気だ。せせらぎに沿って、桜と柳が交互に植えてあり、柳の新芽が美しい。


柳新芽の川へり

 まさに「季節を楽しむ同好会」うってつけの行事だ。
顧問のムカイ助教授も参加していた。
 すみれとツバキが挨拶すると、笑顔で応じてくれた。頭の良さそうな紳士だ。研究者の堅苦しさはまったくなく、朗らかそうで、まだ若い。

「桃がスカウトしたんだって?よくできたことだ、あのじじむさいヤツに」
 ふたりは黙って聞いていた。
「あいつは、あの通りイケメン中のイケメンだが、考え方がどうも、祖父母に育てられたせいか、古臭くてな、パッと見で寄りついてきた女の子にゲンメツされるんだ。ただの看板だ」
 またその話!!
「老人会メンバーと話してる時の方が生き生きしてるぞ」
 確かにおじいちゃん、おばあちゃんと話しながらゴミ拾いしている桃は、すごく楽しそうだ。
 彼がこんな「若年寄り」だったとは!!


            ☆


 やがて、二キロもゴミを拾いながら歩いただろうか。
「きゅうけいッスよ!」
 ダイちゃんの声が響き渡った。
 女の子ふたりがオレンジジュースの缶を皆にテキパキと配った。
「私たちもやります!」
 すみれとツバキも腰を浮かせたが、
「今度からあなたたちにも、やってもらうわ。今日はサービス」

なっちゃん 


 長い黒髪に、切れ長の美女メイちゃんが、にっこり笑って言った。
 こんな同好会に所属しているのが、勿体ない。
 春の陽射しは強い。皆、汗をかいていた。
 土手に腰を下ろしたすみれとツバキの横に、桃が座りに来た。
「ずいぶん、頑張ったね」
 おかげさまで、ふたりの持つビニール袋の中は、ビン、缶、その他であふれそうだ。
(こんなの、焼け石に水じゃない)
 すみれは少しふてくされた。
(こんな同好会、入ってもよかったのかな……?)


          ☆


「君たち、薬学部だろ?白衣着て、クスリの研究するのが夢?」
 突然、桃が尋ねた。
「い、いえ、べつに、なんとなく、成り行きというか……」
 ツバキがドギマギしながら答えた。
「なんとなく?もったいないな。俺の夢は絵本作家になることなんだ」
「医学生の桃兵衛……いえ、桃さんが?それは、また何故!?」
 メルヘンチックな絵を描くのが、子どもの頃から好きなんだ。医学部に入ったのは、じいさんの命令」
「そいつ、大病院のお坊ちゃんなんだぜ」
 やや遠くからジュンペイというイケメンが叫んだ。
(へええ)
 すみれとツバキは、しげしげと桃を眺めた。
 桃は陽光に輝くせせらぎに目を落としながら、静かに言う。
「俺、両親が子どもの時に死んじゃって、おばあちゃんに育てられたんだ。絵本作家の」
(ああ、それで)
 すみれは納得した。
(○○コンっていうヤツね)
「さ、もうひと頑張りしてくるか」
 桃が去った後、ジュンペイが土手を下りてきた。

溝端淳平 3


「あいつ、交通事故で両親を一遍に亡くしたんだ。それがトラウマでクルマの運転ができないんだ。それも、モテない理由のひとつ」
「!?!?!?」
 スピード狂のすみれには、考えられなかった。


           ☆


「ちょっと君」ムカイ助教授がすみれに声をかけた。「そのサングラスとマスク、何のイミがあるの?はっきり言って、ご老人方に失礼だと思うんだが」
「こ、これ……」
 戸惑いながらも、すみれ自身、もっともだと思った。
 ムカイ助教授が、両手をパンパンと大きく鳴らし、一同を呼び集めた。
「老人会の皆さん、この春から同好会に新しく入ってくれたふたりです。すみれさんとツバキさん」
 おじいちゃん、おばあちゃんが注目する中、ふたりは頭を下げ、すみれはしぶしぶサングラスとマスクを外した。
 皆の視線がすみれに集まった。
 すみれは、うつむき加減にニキビで腫れあがった顔で耐えていた。
「年頃だというのにのう」
「いやいや、これが青春のシンボルなんじゃよ」
「マスクなんかで隠すことなんかありゃせんよ」
 老人たちは、暖かい言葉で慰めてくれ、すみれは顔を隠して意固地になっていたことを反省した。
やがて、皆の努力の甲斐あって、川べりはきれいになった。


          ☆


 新緑の溢れるキャンパスの中庭―――。
 いつものように、芝生に腰を下ろしてすみれとツバキがお喋りしていると、桃がやってきた。
「きゃっ!ついに来るべき時が来たのかしらっ!?」
 ツバキが真っ赤になっている。
「あんた、あんな若年寄りでもいいの?」
「まだ、こんなの着けてるのか」
 急に桃の手が伸びてきてすみれのサングラスとマスクをそっと外し、小さなケースをよれよれのジーンズから探り出してきて、白い軟膏をすみれの額や頬、鼻の天辺、アゴなどに丁寧に塗りこんだ。
 無臭でベトベト感もなく、サラリとしている。
「これは……?」
「毎日、洗顔後に3回塗って。あ、洗顔は水だけでね。俺がおまじないかけて作ったんだ。きっと効くから」
「……」
 すみれは半信半疑で受け取った。

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. 「スプリング・フォンデュを君と」第4回

「いや~~~~、『老人同好会』の若年寄り!!」
背後から野太い声が聞こえてきたと思ったら、ピンクのベストを着た大柄な男がやってきて、桃の肩をバンと叩いた。

かすが 1


「か、カスガさん……」
「今日はまた珍しく両手に花じゃないか。若年寄りもスミにおけんなあ」
 これが、留年に留年を重ねていて、時々、おちょくりにくるというウワサのカスガさんなのか。
 すみれは、隣のツバキの異変に気づいた。
「すみれ、私、やっぱ、桃ちゃん、やめる!彼の方が頼り甲斐ありそうで素敵!あの肩幅が!!」
「ええっ?」
(あんたに引っ張られて同好会に入っちゃった私は、どうなんのよ?)
(しかも、若年寄りからこんなハデなオジサンに心変わりするなんて、どーゆーことよ!?)
 ツバキはもう馴れ馴れしくカスガのウデを組んでいる。この心変わりの早さはいったい!?
 すみれはため息をついて傍らの若年寄りを見た。ニコニコしている彼が、本当に頼りなく感じられて深~いため息をついた。


            ☆



 老人たちと菜園を楽しむ日が来た。
 今日は五月晴れ。老人会と同好会メンバーに加えて、院生のサエコ女史がふたりの幼い子、リラちゃんとデンくんを連れてやってきていた。

菜園 1

「ようこそ、サエコさん」
「お久しぶりですね~~。お子さんたち大きくなっちゃって」
 同好会の男子たちは、サエコの、二児の母親とは思えないお色気に魅了されて鼻の下が伸びきっている。
 実際、サエコは茶色の巻き毛、少女っぽいファッション、つぶらな瞳で、とてもミセスとは思えない。


サエコ




「ほら、また始まった」
 同好会の女子、メイとエリは、肩をすくめている。
「サエコさんになびかないのは、桃ちゃんくらいかしらね」
 女子たちの言うとおり、すみれが桃を目で追うと、老人たちに囲まれてこの上なく楽しそうにお喋りしている。
(まったく、あの若年寄り……)
 すみれは何故か胸の奥がムラムラした。


           ☆


 菜園では、エンドウ豆がたわわに実り、今日はキュウリとナスビの苗を植えるのが主な目的だ。ベジフルライフ。彼らは楽しんでいた。
 老人会メンバーは長年の経験があるらしく、皆、手馴れたものだ。
「俺も定年退職したら、自宅農園やろう」
「いや、山の中へ移住するんだ」

夏野菜

 ……などという話題で盛り上がっているのは、まだ卒業も就職もしていない医学生のシンちゃんとジュンペイくんだ。
(こりゃ、筋金入りの○○○○同好会だワ)
 すみれは肩をすくめた。
 ツバキは、と目を走らせると、ピンクのベスト鮮やかなカスガとべったり寄り添ってナスビの苗を運んでいる。
「はい、これ」
 声をかけられて振り向くと、桃が木箱に入った小さな芽の苗を差し出していた。
「少し重いよ。気をつけて。向こうの畝まで持っていって」
 言いながら、すみれの顔を覗きこんだ。
「あれ、ちゃんと塗ってる?少しは効いてきてるかな?」
すみれのニキビはまだ変わりなかった。一日三回、マジメに塗ってはいるのだが。


                ☆


作業は一時間も続いただろうか。
突然、畑の隅でざわめきが起こった。
苗を植えるのに没頭していたすみれも、桃も立ち上がった。
「しゅう爺さん、しっかりしてっ!」
「どうしたの、さっきまで元気だったのに」
 どうやら八十代半ばのしゅう爺さんが意識を失って畑で倒れたようだ。
 皆が駆け寄る中、サエコ女史が人の輪をかき分けてやってきて、しゅう爺さんを静かに仰向けにさせて気道確保した。落ち着いた所作で脈を測り、口元に耳を寄せる。
「脳溢血の可能性があるわ。誰か早く救急車を!!」
「ハッハイッ!!」
 リーダーのダイちゃんが、慌てふためきながらドロだらけの軍手をもどかしく取り、ケータイを取り出した。
「しゅう爺さん、しっかりしておくれッスよ、病気知らずだったじゃないスか」
「目を開けておくれよ、しゅう爺さん」
 老人会のメンバーも同好会のメンバーも救急車が到着するまでの時間を何時間にも感じた。
 やっとサイレンが鳴らして救急車が到着した。

東京救急車

 サエコ女史は救急隊員に大体の様子を話してしゅう爺さんの担架と共に乗り込んだ。
「同好会のみんな、悪いけど、うちのおチビたちを頼むわ!!」
「ウ……ウース……」
 同好会の男子たちは、サエコ女史の素早く的確な行動に見惚れている。
 すみれもだった。
(あの女性(ひと)、お色気のカタマリなんかじゃなくちゃんと医者になれる人だ……)
 桃は、と振り返ると、人々の背後で震えていた。
「どうしたの?」
 すみれが声をかけると
「もし、俺だったら、あんな対処できるかな……?」
(大病院の坊ちゃんが何、自信の無いこと言ってんのよっ!)
 すみれは心の中でじれったくなった。




                 ☆


 それから数日して、しゅう爺さんが一命を取り留めた報せが入り、同好会メンバーは、胸を撫で下ろした。
「もし、この先もご老人の身に何か起こったら、我々同好会にも責任はかかってくるぞ」
 ムカイ教授もアジトにやってきて、厳しく言い渡した。


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. 「スプリング・フォンデュを君と」第5回

 ある日の昼下がり、すみれとツバキがキャンパス内を歩いていると、前方で桃がクルマの窓から顔を出してる男性と話しているところへ出くわした。


大学 中庭

「何してんの?」
 好奇心丸出しのツバキが言った。
「お~~や、これはこれはお嬢さん方!!」
 車窓から顔を出している中年男は、一目瞭然、オネエ系だった。
 ごましお頭の短髪だが、紫のメッシュを入れ、唇には、ワインカラーの口紅、耳にはワッカの大きなピアス。

柄本明 1

「桃ちゃん、あんたもスミに置けないわね、ちょうどいいわ、あんたたちも私のアトリエへいらっしゃいよ。すぐ近くだから」
「アトリエ?」
「絵本作家のアキラ先生だよ。俺が習ってるんだ」
 桃が言い足した。


              ☆


 アキラ先生の邸は、目がチカチカするほど、ロココ調の豪華な外装と内装だった。
 アトリエへ通されると、作業場と客間がちゃんと分かれており、先生はゴブラン織りのソファに三人を座らせた。

ロココ ピンク

「さっ、桃ちゃん、新作を早く見せてちょうだい」
「新作っても、ラフですよ」
 桃は持っていたスケッチブックを渡した。
 アキラ先生の瞳がたちまち輝く。
 彼は桃の祖母、絵本作家の瀬川百合花の弟子なのだ。心の底から彼女の作品を崇拝している。孫の桃を、彼女から任されることになった時もドギマギした。
 両眼から感動の涙がポロポロと伝い落ちた。
「これ、百合花先生の作風だわあ。野ネズミがブランコしてるとこなんかいいわあ。カワウソが短いウデで雲梯(うんてい)してるとこ、ウデ相撲してるとこも。ヘビさんが滑り台に巻きついているところも!!モグラが夫婦そろって日向ぼっこしてるところも!!」
 すみれは蒼ざめた。いったいどんな絵本なんだ?
 ピーターラビットの世界より異様な雰囲気なのは、解かる。
「これ、コンクールに出しなさいよ」
 アキラ先生は太鼓判を押して薦めてくれたが、桃はイマイチ乗り気でない。と、いうより……。


                 ☆


 アキラ先生のお宅からの帰り道、スミレは尋ねてみた。
「どうして先生のおっしゃったコンクールに出さないの?」
「うん」桃は照れくさそうに頭を掻いてから、「実はもっと他に描きたい作品があって」
「どんなの?」

メルヘン画 1

メルヘン画 3

「小さい頃、おばあちゃんが食べさせてくれた『春のもの』や『見せてくれたもの』を森の妖精たちと一緒に食べる話。『春のもの』は食べ物でなくていいんだ。
 たんぽぽ、紋白蝶、土筆、冬眠していたクマのねぐら、小鳥のヒナ、梅の花、蓮華草、菜の花、かすみ、常春の国のお姫様のティアラ、チューリップ、てんとう虫、春祭りのちょうちん、春の運動会のお弁当、エイプリル・フール、雛人形、初午、シャボン玉、凧、踏青(とうせい)、野焼き、山焼き、白酒、うぐいす餅、桜餅、菱餅、雛あられ、田楽、チシャ、ヨモギ、潮干狩り、茶摘み、麦踏み、蚕、スイートピー、クロッカス、撫子、都忘れ、ヒヤシンス、猫ヤナギ、木蓮……」
「わ、わ、分かった、もういいわ」
 放っておくと桃の説明がいつまで続くか判らないので、すみれはようやく遮った。
「す、すごい超大作ね。あなた医者より絵本作家より保育士さんが向いてるんじゃないの?」
「はは、そうかなあ」
 まだまだ話し足りなさそうな桃の瞳は輝いている。これほど饒舌な彼をすみれは初めて見た。ご老人たちと話している時よりも、もっと生き生きしている。
(この人の本当にやりたいことは、絵本を描くこと……。そんな優しい心がお年寄りにはちゃんと解かるんだわ)



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. 「スプリング・フォンデュを君と」第6回


     第 四 章
 


 すみれのニキビは、傍目にも分かるほど減っていった。
 アジトに顔を出すといつものメンバーがたむろしていたので、桃に声をかけた。
「あの軟膏のおかげで、ずいぶんニキビが治ってきたみたい。ありがとう」
「い……いや」
「お礼に、あなたにクルマの運転の特訓をしてあげたいの。免許はあるんでしょ?」
 とたんに桃の顔面が蒼白になった。
 他のメンバーも椅子から立ち上がった。
「すみれちゃん、それだけは、ちょっとムリなんじゃ……」
「桃にもコクだしな」
「いつまでも、ひきずっててどうすんのよっ!!」
 すみれの怒号が響いた。
「さ、桃ちゃんじゃなくて桃兵衛、私の特訓は厳しいわよ、そうと決まったらすぐはじめましょう」
「そうと決まったらって……」
「文句、言わない!!」
 すみれは力づくで、桃を引っ張っていくや、愛車のワ○ンRに放り込んだ。
 自分はさっさと助手席に乗る。
「何年、乗ってないの?発車のさせ方くらい覚えてるでしょうね!」
 桃はしぶしぶキーを受け取るとエンジンを動かした。
「こっこれ、ギア車じゃないか!どこから今頃、こんなのを……」
 アクセルとブレーキとクラッチを見て、顔色を変えている。
「特注よ。オートなんて運転の醍醐味ありゃしない!!」
「そ、そんな!!俺がいったい何年かかって免許取れたと思ってるんだ!補習なんて気が遠くなるほど受けたし、路上だって……」
「グダグダ言わない!!」
 桃はまな板の上の鯉になる気になった。恐る恐るクルマを発車させ、キャンパスから出て街中へと出た。


                  ☆


渋滞風景



「そんな、のろのろと走ってたら後ろのクルマにメイワクでしょっ」
「ああ、そこは、一方通行!」
「信号、赤だってば、この若年寄り!!」
「ちょっと、ブレーキとアクセルを間違えないでよねっ!」


信号機 1

「桃兵衛、危ない、今、小さな子が飛び出しそうになったわ」
「え?ナビ見てたら酔いそう?なに、言ってんの!」
「ちょっとスピード出しすぎ!!若年寄りのクセに!!」
 すみれは怒鳴り疲れ、桃は久しぶりの運転に神経使いすぎ、ふたりとも、ヒロウコンパイした。
「ま、初日はこんなとこかな」
「えっ、まだ続くの?」
「当たり前よ!」
 桃にはすみれがムチを持った悪魔に見えた。


              ☆

ゲートボール 3



 老人会、今日はゲートボールの練習日である。
 ゲートボールのルールなんてすみれには、さっぱり分からない。今度は逆に桃から簡単な説明を聞いた。
 5人でゲームをやること、ボールは紅白10個使うこと。杭のようなカタチのゴールボールにボールを当てると得点2点。
 老人会メンバーはかなり上手い。
「これも立派なスポーツなんだよな」
 同好会男子たちは、頷きあっていた。
 順番が来て、キキ婆さんがスティックを構え、定位置に立った時だった。なかなか足元のボールを打とうとしない。

樹木 3

「お――い、早く打たないと反則取られるぞ!」
 野次が飛ぶ。
 キキ婆さんの顔が急にゆがみ、胸を押さえてその場に座り込んだ。
「キキ婆さん!?」
 桃が駆け寄った時、キキ婆さんには意識が無かった。
 以前から心臓が悪かったのは知っていた。
 桃はいつものスローモーから考えられないほどの素早さで病人の身体をそっと横たえ、心臓マッサージを始めた。
「心筋梗塞かもしれない」
 皆は顔色を変えた。
「キキ婆ちゃん、しっかりしろ、この前、おマゴさんの結婚式に出るって言ってたじゃないか!」
「花嫁姿を見てやらなくちゃ!」
 報せを聞いて駆けつけたムカイ助教授が、キキ婆さんの心臓が動いていることを確かめ、一同、ほっとする。
 やがて、やってきた救急車に乗せた。
「俺も一緒に行ってくる。よくやったな、桃」
 ムカイ助教授が親指を立てた。
 老人たちも、桃を取り囲んで
「若いのに、ようやったなあ」
「キキ婆さんの命の恩人じゃ」
「わしらの時にも頼むぞ、桃ちゃんや」
「桃は照れながらも、フクザツな表情だった。
(俺が本当になりたいのは……)
 すみれは彼の心の声を知っていた。

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. 「スプリング・フォンデュを君と」第7回


「この前の返事、聞いてもいい?」
 桃の声に気づいて、すみれは思わず園舎の陰に身を隠した。


幼稚園 2

 今日は、付近の幼稚園の写生会、絵本読み聞かせの会に来ている同好会だ。
 午前中、桃がいきいきと園児たちに絵の描き方を教え、教室では、絵本の読み聞かせ。大盛況だった。
 それは、本運びくらいしか手伝えなかった、すみれの目から見ても、とても和やかな情景だった。子ども好きな桃の人柄が、よく分った。その行事の終わりのことである。

幼稚園 1

 桃は幼稚園の中庭でひとりの若い幼稚園教師と向きあっていた。
 ハッと気づいたすみれは、咄嗟に木の幹の陰に隠れた。
「あなたが子どもたちに優しい人だってことは、よく知ってます。でも、あの……」
 二十歳くらいの彼女は、明らかに困っていた。

新垣結衣 2

「おつき合いするのは、申し訳ないんですけど」
「ダメですか!?」
「あなたは子どものことしか考えてませんよね。大きな病院のひとり息子さんだとも聞きました。でも、その、ご趣味が、囲碁だとか、ゲートボールだとか、いえ、そんなことはどうでもいいんです。けど、私みたいな平凡な女が、相手では、競争に勝てません」
「俺がそんなうわついた男に見えるんですか」
「いいえ、でも、私に自信が無いんです。あなたのような方とおつき合いを続けていけるのかどうか。ごめんなさい!!」
「あっ……」
 教師は、深々と頭を下げてから、桃が引き留めるまもなく走り去った。
 桃は側に生えているケヤキにもたれかかって、ガックリ肩を落としていたが、すみれが庭の隅にいるのに気づいた。
「アハハ、カッコ悪いとこ見られた」
「その顔が裏目に出ちゃった?」
「何回、こんな目に遭ってることか……」
 しゃがみこんで、世界も終わりのような深いため息をついた。
(桃兵衛には、桃兵衛の悩みがあるんだ)
 その背中を撫でてやりたくなった、すみれだった。


            ☆


「ぎゃああああぁぁぁ~~~~~~~~~!!」
 ある朝、すみれの自宅のある住宅地に恐怖に満ちた悲鳴が響き渡った。

住宅街 2

「どしたの、すみれ!!」
 洗面所に駆けつけた母親は、持っていたオタマを落とし、父親は髭剃りを持ったまま、スネ毛丸出しの格好で立ち尽くした。


                ☆


 今日の同好会の行事予定は、幼稚園との親睦会だった。
 旧暦の端午の節句に合わせてスケジュールが組まれたのだ。


鯉のぼり

 同好会のメンバーは、集合場所にやってきたすみれを見てぎょっとする。
 ミイラのように、頭すっぽり包帯でぐるぐる巻き、その上から元のサングラスまで
 はめている。
「ど、どうしたんだい、すみれちゃん……」
 一同、呆然である。
 すみれと一緒に来たツバキが、素早く桃のウデをつかんで、すみれと共に木立の陰へ引っ張ってきた。
 そっと、すみれの包帯を外すツバキ。
 そこに現れたのは、元の顔立ちがまったく解らないほど、ムラサキ色に腫れあがったすみれの顔だった。まるでドッジボールのおはぎ!!??だ。
「こ、これは……」
「あなたの作った軟膏のせいとしか考えられないわっ!こんな顔で幼稚園児さんが、気絶でもしたらどうすんのよ!」
「……」
 蒼ざめる桃。
「もっ、申し訳ないっ!オレの自転車で送らせてくれ!ご両親にも謝りたいっ」

ロードバイク

 すみれは言うとおりにした。
 桃はすみれを後ろに乗せるや、疾風の速さで祖父の病院の皮膚科へ寄り、すみれに受診させた。
 皮膚科の医者は、丁寧に診察した。
「桃へえくん、君はまだ医者のタマゴだ。自分で独自に作った薬を患者に使わせるのは良くないねえ」
「す、すみません、以前、ノラネコの皮膚ただれに塗ってやったら治ったもんで」
 それから、スミレの自宅へ彼女を送っていき、玄関で彼女の両親に土下座した。
「申し訳ありません!大切なお嬢さんの顔をこんなにしてしまって。出来るだけの償いはさせていただきます!!」
「あ、いや、手をあげて……」と父。
「どうしてくれるの、あなた、嫁入り前の娘の顔を……」と母。
「ママたち、よしてっ!」
 すみれは二階の自分の階段へ駆け上がり、カギをかける。
「誰も来ないでっ!!」
 桃は、うなだれて引き下がるしかなかった。


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. 「スプリング・フォンデュを君と」第8回

 桃は正直に、ムカイ助教授にも、すべて打ち明けた。
「そりゃあ、マズかったなあ、お手製の軟膏を使わせるとは」
 助教授もアゴに手をあてて思案顔だ。


向井 理 1

「申し訳ありません。抗生物質の他に俺んちの庭に咲いていた花から抽出したものを混ぜたもんです。女の子の顔をあんなにしてしまうなんて、医者になる資格なんてありませんね」
「医者になる気があるのか?」
 イタイ質問をされて、桃はグッと詰まる。ムカイ助教授は、すべてお見通しなんだろうか?本当は医者になる気なんかない。


               ☆


 まだ頭全体を包帯でぐるぐる巻きにしたすみれが突然、同好会アジトに顔を出したのは、それから二週間ほどしてからのことである。
 「ちょっと、桃兵衛、クルマの運転特訓、再開よ」
「桃、クルマの乗り方より○○○の乗り方教えてもらいな」
 な~んて下品な冷やかしを飛ばしたのは、ノーブルな顔に似合わないシンちゃんだ。
「ええ?」
 うろたえながらも、桃がついていくと、すみれは愛車に彼を乗せ、この前みたいに怒鳴りまくりもせず、包帯の下からくぐもった声で的確な指示を出して、桃の運転のウデはまあまあマシになった。
 何キロも走り、やっと大学構内に帰ってくると、もう夕方だった。
 桃はさっきからずっと聞きたかった言葉をやっと口に出した。
「顔の方は、あれから?」
 すみれは、頭に手をやり長い包帯を取った。
 顔はすっかりきれいになっていた。吹き出物ひとつない。
 元からの少女時代の彼女の顔なのだ。


上戸彩 1

「私も自分のまともな顔を見るの、小学校以来よ。あんたのとこのお医者さん、名医ね。ニキビ痕にレーザー光線治療までしてもらったわ」
 にっこり笑った。桃は、初対面の女の子と対面しているような気になり、少しもじもじした。
「人が悪いなあ、それならそうと、早く包帯取ってくれればいいのに」
 心底、ほっとした。
 「これ」すみれはブルーのケータイをちらつかせた。「教えてくれる?」


                                                 
 第 五 章
 

 桃のクルマの特訓は、その後も続いた。
 時には深夜まで及んだ。
 ある夜、高速に乗ってすぐ、十数台のバイクが後ろからやってきて取り巻いた。
 いつもの『宇因太亜会』だ。
 ヘッドのタナカがメット越しに怒鳴る。
「いい加減、解散してくれねえかな、○○○○会!!目障りなんだよっ」
「あんたたち、私たちに何か怨みでもあんのっ!?」
 いきり立つすみれを、桃が引き止める。
「そこの坊ちゃんの爺さんが、ダチを殺してしまいやがったんだよっ」
「ち、違う!」桃は思わず叫んだ。「あれは、もう手遅れで……」
「へへん」

暴走族 4


『パプァ、パプァ、パプァ……』

 派手な騒音をばら撒いて、桃のクルマをもてあそぶように抜かしたり、後をつけたりしながら、
「今日はこのくらいにしといてやらあ」
いっそうエンジン音を甲高く噴かせて夜の闇へ吸い込まれるように消えていった。


              ☆


 高速を下りて、静寂が戻ってから、ハンドルを握って真剣に前方を凝視している桃に、すみれは恐る恐る尋ねた。
「さ……さっきのは?」
「逆恨みもいいとこだ!!」
 桃の額に脂汗が浮かび、ハンドルに押しつけた。
「桃兵衛、アブナイ!!クルマ止めて」
「あいつらの仲間のひとりが事故起こして、じいちゃんの病院に運びこまれたんだ。もう心肺停止状態だったそうだ。それを、あいつらじいちゃんひとりのせいにして……」
「と……桃兵衛」すみれは、桃の、ハンドルを握ったまま震えている腕に手を置いた。
「お医者様って大変なお仕事ですものね」
 桃はゆっくり顔を上げて傍らの少女を見た。
「君も気をつけてくれ。あいつら、俺ら同好会全員を憎んでいる。いつ襲ってくるか判らないから」

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. 「スプリング・フォンデュを君と」第9回

 さて、梅雨入りも近い五月の末のある日、ゲートボール決勝戦が行われた。
 老人会メンバーは、この日のために練習を重ねてきたのだ。



 グラウンドは老若男女でごったがえしていた。
 サエコ女史も、ふたりの子どもを連れて応援に来ている。
 ツバキはというと、カスガとべったり腕を組んだまま、早々とレジャーシートを広げて
手作り弁当らしきものを食べている。


みその 1


オードリー春日 5




スパイダーマン弁当

               ☆


 監督が「試合開始!!」を叫ぼうとした時、グラウンドの彼方から派手なエンジン音が響いてきた。
『宇因太亜会』だ。
 すみれと桃は、身体を固めた。
 たちまち黒っぽいバイクが次々とグラウンドに乱入してきた。ガードマンの言うことなど、聞くわけない。老人や子どもたちは、悲鳴をあげて怖がり、逃げ惑う。

               ☆


 桃がグラウンドの中央へ飛び出した。
「やめろっ!お前たちが憎いのは、俺だけのはずだ。他の皆は関係ないっ!」
 ヘッドのタナカがバイクを降りる。
「んなこた、どうでもいーんだよっ!貴様らをガタつかせてやれたら、スカッとするだけのことよ。ヤツだって成仏するだろうよ」
 桃の顔面にまで短髪の頭を近づける。
 そして、仲間たちに合図を送り、自分もバイクに戻って老人たちを取り巻いてエンジン音で驚かせる。耳がつんざけるような騒音だ。
 桃はグランドの真ん中に、仁王立ちになって、絶叫した。
「やめろ~~~~~~~~っ!!」
「あ、危ないわよ、桃兵衛!」
 すみれが止めようとしても、その手をふりほどく。


            ☆


 子どもの泣き声が甲高く響き渡る。
 サエコ女史の娘のリラちゃんをかばった、ツウ爺さんが、バイクの車輪に引っ掛けられて転がっていたのだ。それを見た桃の心が、これまでになく、本気で怒りに燃え上がった。
 ヘッドのバイクに突進するや、ひきずり下ろして馬乗りになりぶん殴る。
子分や同好会のメンバーが必死で止めに入るが、そんなもの、何のイミもないかのように、殴り続ける。
 タナカもその気迫に負けて、反撃に出られない。
(桃兵衛にこんな、カンシャク持ちなところがあるなんて……)
 すみれは、呆然と見守るしかなかった。

              ☆


 急に桃の表情に苦痛が走った!
 グランドの砂の上に、顔面から倒れこむ。ヘッドが握り締めたジャックナイフがおびただしいどす黒く紅い液体にまみれていた。
「桃兵衛!!」
 すみれは我を忘れて駆け寄った。


               ☆


 救急車に乗り込んだすみれは、彼の手を離さず握りつづけた。
 お腹の真ん中辺りから、血がどくどくと溢れ、酸素吸入器をあてがわれた息づかいも苦しそうだ。
 やがて、祖父の病院に着くとすぐに手術室が用意されていた。
 同好会メンバーや老人たちも駆けつけてきた。報せを聞いたムカイ助教授と、アキラ先生も。


向井 理 4

「どうなんじゃ、桃ちゃんは!」
 老人たちが、口々に尋ねる。同好会メンバーも、看護師に食いついている。
 ムカイ助教授が、同好会メンバーから冷静に詳しい事情を聞く。
 暴走族たちは、誰かが警察に通報して素早く逃げ去ったそうだ。
 彼の祖父と祖母も慌てて駆けつけてきた。院長らしい貫禄ある老紳士と上品そうな夫人だ。

児玉清 3


八千草薫 1



「桃ちゃん、どうしてこんなことに……」
 口元に綺麗なハンカチをあて、涙ぐんでいる。
 何時間かじれじれとした時間が過ぎて―――手術室から桃が運び出されてきた。
 意識はもちろん、無い。苦しそうだ。目元をしかめている。
 外科医が、
「急所は外れていました。が、出血がひどかったので、一時はどうなるかと思いました。今晩がヤマでしょう。すぐに集中治療室に入ってもらいます」
 冷静に言った。


救急病院処置室

 すみれは、頼み込んで集中治療室に入れてもらった。


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. 「スプリング・フォンデュを君に」第11回



入院の間中、桃はスケッチブックに向かっていた。
 キズは順調に治り、退院すると大学にはしばらく休みの届けを出してアトリエに籠もった。


クレヨン

(フォンデュの絵本に取り組んでいるんだわ)
 すみれには、彼から何の連絡もなかったが、大学の講義中も、ゴミ拾いしている時も、老人会と幼稚園児の交流会の時も、すみれは、メールしたいのを我慢して手を合わせる気持ちでお祈りしていた。
(どうか、桃ちゃんが素敵な作品を仕上げられますように……)

 あの夜見た、ふたりで食べたフォンデュの夢の情景が何度も脳裏に甦る。
 ゲートボールの練習の最中に、アキラ先生がグラウンドの側にクルマを止めて、大声で叫んだ。
「すみれちゃ~~ん、やったわよ、桃が作品を仕上げて公募の締め切りに間に合ったわよ」
「本当ですかっ!?」

ゲートボール 4

 ボール拾いしていたすみれは顔を輝かせて、クルマに走り寄った。
「発表は一ヵ月後よ」
 アキラ先生はつけ睫毛の目でウィンクして、クルマを発車させた。
(やったあ、桃ちゃん、頑張ったね!!)

上戸彩 7

 もう、待ちきれない、すみれの足は桃の家へ向かった。クルマなど忘れて走っていった。
 ちょうど、桃が自転車で帰ってきたところだった。
「桃ちゃん、絵本、できたんだって?」
「その呼び方、キモいって言ってんだろ、ああ、ぎりぎり間に合った」
「入賞するといいわね、桃兵衛」
 桃はニガ笑いして、小柄なすみれの肩を抱き寄せ、かがみこんでホッペにキスした。



               ☆



 二階の窓を開けようとしていた百合花お祖母ちゃんは、ふたりに気づいて慌てて窓を閉め、花柄のカーテンの陰に隠れた。

八千草薫 2


華麗でシックなカーテン

 そして、タンスの上にある、桃の両親の遺影に目をやった。
 ふたりとも、若いままでにっこりしている。
(いいわねえ、若いって)

向井 理 3

篠原涼子 3


    
             ☆


 セミの合唱がかまびすしい頃になった。
 桃が応募した絵本コンクールの発表が新聞に載った。
「ど、どうだった?」
 木漏れ日の下の芝生に座ったすみれと桃は、目をサラのようにして、新聞を舐めるように探し回った。
「……三位だ……」
 桃が吐息と共に洩らした。
「三位?すごいじゃないの!おめでとう、桃兵衛!!」
 すみれは彼の首を抱きしめたが、彼の表情は固かった。
 すっくと立ち上がると、
「俺、ちょっと行ってくる。じいちゃんとこへ」
「えっ、どしたの?この報告に行くの?」
「きっぱり断るんだ。医者になる気は無いって。本気で絵本作家目指すって」
「な、なんですって?」
「大学も辞める。本格的にアキラ先生に弟子入りする。ばあちゃんも助言してくれるだろうし。許してもらえるまで、粘る」
 桃はもう歩きだしている。その足取りの確かさから、彼の決意が伝わってきた。
 駐車場へ行き、自分のクルマに乗り込む。すみれのおかげでスムーズに運転できるようになったのだ。
「うまく話がついたら、メールする」
「……うん!!」
 すみれはしっかり頷いた。

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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