FC2ブログ

浪漫@kaido kanata

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第1回


   ライム・ライト 

 

登場人物

統(スヴェル)・ルオンロン……エメラルドの髪、麗しい麗園星(レオンスタリア)、皇太子。
               別名 ライム・ライト。学園の遊説アイドル。
               育(ソダツ)とは幼稚園時代の大親友。
               後宮(ハレム)無しの生活は考えられない。

ライム・ライト(アップ)



育(ソダツ)・ヤング……学園の思想生活委員会、委員長。
            父は宇宙文化交流協会、ヤング会長。
            正義感の強い、負けず嫌いの14歳。
            発育不良が悩みのタネ。

育(アップ)



マーラ・ミモザ……育の家のお隣に住む幼馴染み。育と統の女神。
         合歓星(ネムスタリア)からの移民で、姉夫婦と暮らして
         いる。
         ポプリとドライフラワー作りが趣味のおとなしい少女。
         ネンネで鈍感なのがタマにキズ。


マーラ(アップ)


ヤング………宇宙文化交流協会、会長。 愛(恐?)妻家。
      協会は軍を保有し、加盟各星をその制圧下に置く。


ヤング夫人……勝気で明るい育のママ。常に夫と息子の上に君臨。
       ルビスコ将軍にライバル意識を持っている。


エメダリン……麗園大帝星の女帝。統の母。


プォーゾ………麗園星の宰相。皇帝の座を狙う腹黒い男。


ダンディライオン(たんぽぽ)……統の内部の前世者。
                巨体、怪力のサイボーグ。


ダフォーラ………同じく統の前世者。テレパシスト。
        何万年か前、育とは恋人同士だった。
        グラマラスな赤毛の女戦士。

リリダン博士……同じく統の前世者。テレパシスト。物理学者。
        三万年前の宇宙ハリケーン襲来の記憶を持つ。


マカンラライ……協会宇宙軍少佐。
        パンプキン・イエロウの肌を持つ陽気な男。


エゼブラ……協会宇宙軍准将。両生類系星人。


デラ…………マーラの姉。ヤング会長の秘書を努める。


レッド・ストロベリ……デラの夫。育の属するスペース・バスケ部コーチ。


トビアス・アークハート…協会宇宙軍少佐。はるか上司を妻に持つ。
            妻の統率力に圧倒されつつ、尊敬し深く愛している。
            統のつけたあだ名は「パンダカマキリ」

ヘンドリカ・ルビスコ…協会宇宙軍の女性将軍。夫はアークハート少佐。
           配下から牝豹将軍と恐れられる。
           ベリーショートヘア鮮やかな鋼鉄美人。
           激務の合間に夫のウワキ虫の監視をさりげなくこなす。



プロローグ


 あと頭ひとつ分の身長があったら……!
 今夜ほど切実に願ったことはない。
 普段からこんなくだらないコンプレックスに悩まされるほどネクラじゃないんだ。そのうち伸びるだろう程度に思って、スペース・バスケクラブの練習に励んでいる僕、育(ソダツ)・ヤングは夢多き十四歳。本格的な青春のエリアに踏み出したばかりだ。
 でも、今夜ばかりは発育の悪さが恨めしい。
 時は地球(ブルースタリア)暦XXXX年。
 ブルースタリアは宇宙文化の拠点として咲き誇っている。そして今夜はブルースタリア連邦の首都バーミリアンにある、ここ宇宙文化交流学園の創立百周年記念パーティーが華々しく開催されているのだ。外宇宙の、数々の恒星系からの来賓はもちろん、教育関係者や父兄……数千の紳士淑女が着飾り、学園の大ホールから園庭に満ち満ちている。
 夜空にはレーザー光線のページェントが繰り広げられ、湾かた望む海面に美しい光を映し出し、中空に静止するステーションからスペース・オペラからの奏でる壮大な音楽……。
 大学生から小学生にいたるまで、頬を上気させたカップルの列がひきもきらず続き、華やかなステップに酔い痴れている。この、全校生徒が待ち望んだ夜に―――僕は傍らの女神にダンスを申し込む勇気が出せない。彼女が僕より頭ひとつ分、背が高いがゆえに!
 彼女―――マーラは僕と、家が隣同士の幼馴染みで、七歳の時から何をするのも、どこへ行くのも一緒だ。
 トパーズの光沢を放つ腰まである金髪に、ビリジャンの瞳。地球人(ブルースタリアン)ではなく、もっと古い歴史を持つ恒星系からの移民で、姉さん夫婦と暮らしている。いつも生花の髪飾りと、びっくりするくらい細い首にも花のモチーフのチョーカーを欠かさない。ポプリとドライフラワー作りが大好き、読書も大好きな古風な女の子。僕の魂の持ち主。

 今夜のパーティーに誘うのは簡単だった。行く場所が同じなら、一緒に行動するのが当然の僕たちだからだ。が!
 どうしても「踊ろう」この言葉が喉の奥に張り付いて出てこない!
 ああ、今夜こそ彼女にステディになってもらい、念願のファーストキスを、彼女の桜貝にようなくちびるに一発………❤❤❤!!
 ………いや違う……!
 このイライラは身長の悩みせいじゃない。マーラにダンスを申し込めないのは、本当はとてもそんな気分じゃないからなんだ。
 彼女と踊っている途中に邪魔が入る。その懸念、いや確信からなんだ。
 あいつさえ現れなければ、この素晴らしい夜に僕とマーラは単なる幼馴染みから熱い❤カップルへと変身を遂げられるはずなのに!
 あいつは来る。
 僕の、もうひとつの肩書き、思想生活委員長(ソートチェッカー)のカンがそれを伝えてる。そうとも。今夜ほど彼に相応しい舞台はないじゃないか。ありあまるほどの聴衆と、演出された背景。目立ちたがり屋のナルシスト集団め!今夜こそ、逃がしゃしない!ふん捕まえて化けの皮を剥いでやるぞ!僕は天下のソートチェッカーだ!
 そら……おいでなすった!
 名声(ライム・ライト)が……!


     一 再会



 レーザーの光条がふっつり消え、辺りの照明も瞬時に闇に塗り変えられる。何千人のどよめきが星空の下でわき起こった。
 と、思う間もなく、中央の円形舞台に強烈な蒼い光と共に天から降り立った人影。頭上には、いつの間にかスペース垂直離着陸機(ヴィトール)が静止していた。
 蒼い光を背にすっくと立った人影は滝のように流れる赤毛を肩の向こうへ振り払い、黒い光沢のタキシードを着込んだ、豊満な身体を自信満々に衆目に晒しながら辺りを睥睨した。
「我は ライム・ライト」
 朗々とした、しかし美しい女の声が響き渡る。
 育・ヤングは、待ってましたとばかり、食べかけのアイスクリームをマーラに押しつけ、会場いっぱいの人の波を泳ぎ始めた。
(今夜は赤毛の女か……。レスリング部顔負けの偉丈夫に、青白いインテリ男、ピアノの弾き語りをする妖精みたいな銀髪の可愛娘ちゃん、……ライム・ライトってのはいったい、何人いるんだ?見るたびに顔ぶれが違うじゃないか!そして、リーダーは誰なんだ!)
 舞台の裾へ、そっと忍び寄る。
(いつも姿を見るのが関の山でネズミみたいにすばしっこく逃げちまう。今夜こそ見ていろ。ひとり捕らえてしまやあ、後はイモづる式に検挙できるはずだ。いくら生徒がやつらに肩入れしたって、この晴れがましい衆目の中で、逃げ切れるもんじゃない!いや、たとえ僕ひとりでも絶対、捕まえてみせるぞ。思想生活委員をなめんなよ。言いたい放題の遊説も今夜が最後だ!)
 脂汗が育の額に玉のように膨らんだ。
 女の演説が始まる。

<キャラデザイン:ゆずる様>


にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
スポンサーサイト



. 「ライム・ライト」――育と統―― 第2回

社交界パーティー 2

「我が名は ライム・ライト 。今夜お集まりの紳士淑女方にはお目ざわり、お耳障りかもしれぬが、しばしお時間を拝借したい。決して無駄な時間ではないと自負する。真実の片鱗を知っていただくために―――。
 地球(ブルースタリア)は今や銀河社会になくてはならぬ大輪のバラ。科学の発達により環境は美しく保たれ、資源と食料は外宇宙の殖民星よりありあまるほど輸入され、政治情勢は、三百年前の地球連邦政府樹立によってかつてない平和な時が続き、今や内紛の恐れとてない。
 人々は揺りかごから墓場まで過剰なまでの福祉政策により笑顔で一生をまっとうし、驚異的な医学の進歩は地球から病という病の種子を根絶やしにした。また、ご親切な精神医学さまは、人生相談はおろか、思春期の悩みのカウンセリングすら引き受けて下さる―――。人々はこの世界をこう呼ぶ。理想郷(ユートピア―――と」

マーブル地球


群集に、重いどよめきの波紋が拡がった。
「掌の砂よりもろく――美しいがその実、悪魔の心臓よりも汚らわしく――欺瞞と欲望と黒い権力と、飽食と、きらびやかな栄誉栄華に満ち満ちた、この惑星を人は―――理想郷と呼ぶ」
 女が言い終えると人ひとりいないような静けさが天より落ちた。誰ひとり咳ばらいする者もなく化石化している。―――たったひとりを除いては。
 引き上げ時を察してか、赤毛の女が頭上のスペース垂直離着陸機 を見上げた。その時である。彼女はいきなり衝撃を受け、気がついた時には床に弾き飛ばされていた。牛のようなタックルを喰らわした―――と、女が見ると、そこにはまだ子ども子どもした黒髪、はしばみ色の瞳の少年が肩で息をしながら立っていた。
「やっと捕まえたぞ!ライム・ライト」
真っ赤に上気した顔で、少年、育は激した。


 舞台上の騒ぎを目撃した大観衆はたちまちこの少年に罵倒を放った。
「引っ込め、引っ込め、ヘボ委員(チェッカー)!」
「ライム・ライトに何すんのよ!」
「彼女を校則違反でしょっぴいたりしたらただじゃおかんぞ!」
 怒号は全校生徒が思想生活委員を頭からバカにし、ライム・ライトを自分たちのリーダーだと認めていることを、いやというほどはっきり示していた。
 育・ヤングは悔しさに唇をかんだ。
 怒号の波がより激しくなろうとする時、床に腰を落としていた赤毛の女が、すっと片手を上げて人々を制するポーズをとった。波はおさまった。女が立ち上がり、タキシードの裾を軽くはたき終わる頃には、人々はさっきまでの昂ぶりを嘘のように鎮め、和やかにダンスや噂話の輪へと戻り始めていた。
 育は女を拘束する使命も忘れて、呆気にとられていた。
 不意に女のエメラルドのような双眸が、育を捕らえた。だがそれは鋭い視線ではなく限りなく優しく遠い眼差しだ。
(どこかで会った……?)
 育の脳裏にそんな思いが掠めた時、ファイバー製の縄梯子が頭上から降ってきた。女は逃げるつもりらしい。
「そうはさせるか!」
 育の身体は夢中で弾け跳び、縄梯子をつかむ女の腰にぶら下がる―――。
 その瞬間―――、
 辺りにあふれていた蒼い光が、白いそれに変わり、育は電撃のようなショックを受けた。
 床に尻餅を着いたのは今度は彼の番だった。
 垂直離着陸機の低いエンジン音が遠ざかっていく。
「くそぉ……今度も逃したか……!」
 床に拳を打ちつけて立ち上がろうとした育は眼前のタキシードの人影が去っていないことに気づき、びくりとした。しかも―――。
 少年の両眼はまん丸になった。
「君は…君は……!」
 しどろもどろに口走り、指さす先の人物は先ほどまでの赤毛の女ではなかった。
 同じ漆黒のタキシードを一部の隙もなくピシリと着こなしてはいるが、広い肩幅、スラリと伸びた手足―――その体躯は、まさしく青年に近いものである。そして何より、顔立ちと髪の色がまったく違う。
 エメラルドの光沢を持つ銀髪は柔らかく巻きながら顔の輪郭を囲み、高い鼻梁の顔立ちは、先ほどの野生美あふれた赤毛の女のそれとは対を成すほどノーブルなのである。
 そして、猫のような黄金の瞳 が対峙する少年を鋭く捉えていた。
 一目瞭然、地球人(ブルースタリアン)ではない。髪と目の色が麗園星(レオンスタリア)系の人種であることを物語っている。
 育には、その人種に充分、心当たりがある。
「君は…」
 黄金の眼が蕩けるように和み、気高い唇にやや皮肉な笑みが浮かんだ。
「相変わらず血気盛んだね、育」
 甘い声音が懐かしさをこめて発せられた時、育は口をあんぐり開けるしかなかった。
「君は統―――?麗園星大帝星の皇太子、統(スヴェル)・ルオンロンか―――?」
「そうだよ、育!」
 叫ぶが早いか統と呼ばれた少年はその両腕の中に育の小柄な身体を抱きしめた。

にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第3回



「やっとまともに会えたね、うれしいよ」
 育は気が動転しながら、圧倒的な力に指一本動かせない。エメラルドの髪に埋もれた小さなピアスが、育の頬にぴったり寄せられた。
「この香り…」
 育の脳裏に、幼稚園時代を楽しく過ごした統との日々が甦った。統・麗園大帝星の皇太子は幼い頃、地球(ブルースタリア)に留学させられ、育は彼のクラスメート として知り合い、大親友になったのだった。生涯の友とまで誓った仲である。その統が、前ぶれなしに突然、目の前に現れたのだ。
「そんな馬鹿な!」育は頭に閃く思いと同時に、少年の身体を突き飛ばした。「君が統なもんか!彼は僕と同い年なんだぞ。君はどう見ても十七、八じゃないか」
 頭ふたつ分の身長差はある。
「統だよ、育。正真正銘。地球人と麗園星人じゃ、成長度合いが違う。惑星の公転、自転周期も違う。育、今、十四?じゃ、俺はその1.2倍年上なわけだ」
「統…なのか」
「そうとも、もっとも、そんな名前はとっくの昔に返上したけれどね」
「ライム・ライト―――?」
 統は頷いて、小憎らしいほど優雅な仕草で胸元のタイを直した。
「信じらんない!君がライム・ライトの一員だなんて!神出鬼没で学園内に現れ、風紀を乱す暴言を撒き散らして、全校生徒を悪の道に煽動している輩に君が首を突っ込んでいるなんて――――!」
 殆ど叫びに近い育の言葉を聞いて、黄金の眼にやや厳しい色が走った。
「育。君は間違っている。ライム・ライトは複数集団じゃない。唯一、俺のことさ」
「……!」
 しばし、育の思考が停止した。次の声が出てくるまでに、十秒を要した。
「だ…だって僕、今まで何人ものライム・ライトを見たぞ―――!巨体漢もいれば、か細い女の子も…!」
「一度に、じゃないだろ?」
「そりゃそうだけど、今、さっきだって赤毛の女性がしゃべってたじゃないか」
「俺の変装」
「まさか!僕がしがみついた時のボインの感触は本物……あわわ」
「はははは」


 ライム・ライトは少年らしく笑った。
 それからエメラルディッシュな前髪を軽くかき上げ、育の方に向き直った。
「意気盛んなのも、おチビちゃんなのも、昔のままだね。だけど、驚いたのは俺の方さ。こちこち頭の教師会に媚びへつらう、思想生活委員会(ソート・チェック)とやらの委員長が君だったなんて、ごく最近知ったよ。それで今夜は是非、ご対面させてあげようとしたの。今日だけ、ライム・ライトを捕まえられたの、不思議に思わなかった?」
「……」
「正直言って、残念だよ。君には大人たちに騙されてほしくなかった。でも、今からでも遅くない。どうせ思想生活委員は君ひとりしか残ってないんだろ?じゃ、そんなのさっさと辞めちまって俺の聴衆に加わってほしいな!」
 統の形の良い掌が、ぽん、と育の肩の上に乗る。育は怒るのも反論するのも忘れたまま、美しい旧友の顔に見入っていた。
(違う!)
 頭の中でそんな声がした。
(昔の彼はこんな斜に構えてるヤツじゃなかった!少なくとも、自分のことを俺とは言わなかった!どうして、いったい何が彼を変えてしまったんだ?)
「ねえええん、ライム・ライトォ」


豹柄 ガール

 素っ頓狂なピンク色の声が背後から悪寒と共に漂ってきた。
 学園の高等部(ミドル・クラス)で、一、二の色っぽさを争う綺麗どころ、セクシュアル・キティとチャーミー・バーニのお出ましだ。いかにもライム・ライトのようなアウトローにワカメみたいにまといつき、色目を使いたがるおつむの軽い姐さん方だ。

バニーガール 赤

 案の定、限界まで肌を露出させた派手なドレスを身につけている。もっとも、これは今夜のためのパーティードレスではなく、彼女たちの日常着なのだ。


「そんな発育不良のヘボ委員(チェッカー)なんか、いつまでも相手にしていないで、早く踊りましょうよう」
「何よ、キティ。私が先よ!」
 早くも白い腕を絡ませてくる美女たちを軽くいなし、それぞれの頬にキスを送った統は、下のフロアへのステップを降りかけて、急に足を止めた。
「ちょっと、育くんてば!いつまでこのアイスクリーム持たせる気?もう半分以上溶けちゃったわよ!」
 ステップから可愛い声をはりあげながら統と美女たちの脇をすり抜けて舞台に上がってきたのは、ピンクのフリルに埋もれたマーラだ。
「ごっめーん」
 育は我に返って彼女に走り寄った。
「後でマンモスプディング取ってきてあげるから勘弁してよ」
「ほんと?」
 マーラは甘いものに目がないのだ。無邪気なやりとりをしているふたりに、美女連の腕をすり抜けた統が声をかけた。
「こちらのお嬢さん(ピュア・ローズ)は」
 先ほどの自信に満ちた話し方はどこへやら、聞き苦しく口籠もり、動作もギクシャクしている。
「この子はマーラ・ミモザ。君が麗園星(レオン・スタリア)へ帰った翌年に、合歓星(ネム・スタリア)から転校してきたんだ」
「マーラ…」
 統の、蜂蜜色の瞳は熱く潤み、頬は薄紅に輝いている。育は悪い予感を感じた。それはすぐ的中した。
 統は素早く膝をつくやマーラの手を取って口づけながら、甘い甘いあまーい声で訴えるように言ったのだ。
「ミス・マーラ。やっと見つけた私の天使。どうか一曲、踊っていただけませんか?」
 そしてマーラの長所は何より素直なことだ。
「いいですよ!」
 セクシュアルキティとチャーミーバニーの口惜しげな声が嵐のように叩きつける中、、育はついに爆発した。

にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第4回


    二 育、怒る


起動飛行 後ろ向き



 猛禽を想わせるスペース垂直離着陸機が飛び去った後、会場は再び和やかなムードに満たされた。
 緩やかなワルツが流れている、上のフロアに群れ集うのは協会のお偉方と、外宇宙からの来賓―――大人たちばかりである。
 ひときわ華やかにステップを踏んで注目を浴びているカップルがある。会長のヤング氏と夫人である。ヤング氏は四十代半ば、人なつこい笑顔の奥にダンディズムを漂わせた好男子で、物腰のひとつひとつにも上流階級の水で磨かれた気品が備わっている。夫人もまだまだ若く美しく、闊達な魅力にあふれ、夫妻の仲睦まじさは協会の内外に知れ渡っている。もっとも、ヤング氏の愛妻家ぶりは恐妻家と紙一重という声もあるが。

タキシード男性、カフス


薄紫イブニングドレス

 今夜のところは平穏無事にダンスを楽しんでいると見える。
 そのふたりの間に突如ぬっと首を出した者がいる。
「わっ」
「きゃっ!」
 ヤング氏と夫人は同時に叫んで飛び離れた。ドラムを打っている心臓を押さえてよくよく見ると、彼ら自身の息子ではないか。
「パパ!今日こそは、ちょっと尋ねたいことがあるんだ!」
 育はすごい剣幕で父親のタキシードの胸元に飛びついた。ヤング氏は不意をつかれ、たじたじの体だ。夫人が逞しく彼の代弁をする。
「ちょっと、育、何なのよ。せっかくパパとママがあまーいムードに浸っている時に、おジャマ虫ったらありゃしない。さ、お前は下のフロアでマーラちゃんと踊っておいで」
「ママ!」育は急に矛先を変えた。「どーして僕をこんな発育不良タイプに生んだのさ」
「何言ってんの。伸びないお前が悪いのよ。ママのせいじゃありません」
 血も涙もない母親だ。思春期の息子の傷ついた心にタバスコと唐辛子をこすりつけるような言葉を浴びせて、平然としている。育の両眼はたちまち大洪水に陥った。
「そんなくだらないことを、今夜みたいな素晴らしい夜に持ち出さないで!マーラちゃんはどこよ?あ―――あらッ?」
 ガラス越しに下のフロアに眼をやったヤング夫人は生徒たちのダンスの渦の中に一対の華を見つけた。たぐい稀な美貌の少年のエメラルドの髪と少女の金髪が舞うたび、美しいハーモニーを醸し出し、ダンスの息もまるで昔からのパートナーのようにぴったり合っている。きらびやかな会場も、楽の音も夜空のレーザー光線も、すべてはこの若い一対の男女のために用意されたと言って過言ではないほどだ。


子供用パーティードレス ピンク

「あれ、マーラちゃんじゃないの。お相手は……ま――――っ!な―――んて麗しい少年かしら。まるで、神話の中の男神のような」
「統(スヴェル)だよ」
 ぼそりと返った息子の答えに、夫人は信じられないほど素っ頓狂な声を上げた。
「統―――くんって、あの、家に遊びに来ておもらししちゃった、統皇太子?」
「そうだよ、その統!」
 育は涙を振り払って父親に向き直った。
「その事で、パパに話があるんだ。来て!」
 息子の表情には鬼気迫るものがあった。
 ヤング氏は後で夫人のカミナリが落ちるのを覚悟で、しぶしぶ息子に引かれていった。



 育は夜の冷気が心地よい中庭に父親を連れ出した。
 辺りは恋を語るカップルがまばらに点在しているだけで人気は少ない。
「何だね、育。家じゃダメなのか?」
 ヤング氏はようやく立ち止まることを許された。
「今すぐ尋きたいの。僕、今夜やっとわかったよ」
「何のことだね」
「パパは知っていたんだね。パパだけじゃなく学園の教師会も。ライム・ライトが統・ルオンロンだってこと――――!」
 育の暴露に、ヤング会長は返答に困った。
「だから、教師会はライム・ライトを野放しにして、思想生活委員会にも圧力をかけて潰しちゃったんだ!汚いよ。いくら統が皇太子だからって、校則違反は校則違反だろ?」
「うむ…」
 会長は気まずそうに頷く。
「僕、委員になるのだって気が進まなかったけど、パパが一世一代の頼みだって泣きつくから仕方なく引き受けたんだぞ。なのに、ひどいや、こんな裏切りなんで僕だけ皆からヘボ委員ってバカにされなきゃなんないの?なんで僕ひとりバカなことやってんのさ?あんな校則違反がまかり通るなら、思想生活委員会なんて存在する意味無いじゃない!いっそのことライム・ライトに委員長をやってもらえば?」
 怒りの奔流はとどまることを知らず、育の眼に再び口惜し涙が浮かんだ。
ヤング会長は息子の激昂が鎮まるのを待って優しく肩を叩いた。
「パパが悪かった。お前に事情を話さないでいたのは確かに私の手落ちだ。……掛けないか?」
 育は涙でぐしょぬれになった顔を袖口で乱暴に拭い、父親に勧められるまま大理石の庭椅子に腰を下ろした。
「実は、麗園星(レオンスタリア)の女帝―――統皇太子の母上のことだが、彼女にくれぐれも息子のことを頼むと言われてしまってね……」
 ヤング会長は正面の華麗な造りの大噴水に眼をやって、話を切り出した。



火星

「どうやら統皇太子は母帝といさかいを起こし、家出ならぬ星出してきたらしいんだ。原因は判らない。また、留学してきて以来、彼がライム・ライトと名乗って遊説を繰り返す、その目的も判らない。それがはっきりするまで先生方にも様子を見るよう言い渡しておいたんだが、近頃、目に余る活動ぶり……ちょうどお前にひと役買ってもらおうと思っていた矢先だったんだ」
「今さら何ができるのさ?思想生活委員会の権威なんかとっくの昔に踏んづけられて焼却炉の灰さ」
 育は唇をとんがらせた。
「そうむくれるな、育。パパはお前を男と見込んで委員の任務を任せたんだぞ。思想生活委員会は決して軍国主義めいたものではない。むしろ、その逆だ。ここまで発達した宇宙間交流の中で、生徒たちが雑多で劣悪な思想の中から、自分と、自分の惑星に合った正しい思想を見極められる眼を養ってもらうために設置したんだ。潰すなんてとんでもないよ。育ならきっと再編成してくれるだろう。
もちろん生徒の悩みを聞いてあげるのも役目のうちだ。皇太子はきっと親身になってくれる友だちを欲しがっておられる。相談相手になってさしあげなさい。小さい頃、あんなに仲の良かったお前にならきっと…」
「だ――――れが!」
 育は憤然と立ち上がった。
 父親の述懐を受け入れるには、今夜の彼は傷つきすぎていた。
「僕は断固、戦う!好きでなったわけじゃないけど思想生活委員会のプライドをこうまでぺしゃんこにされて黙って引き下がるなんて真っ平さ!」
「そっ育…」
 息子の気迫に、ヤング会長は息を飲むばかりだ。
「親友だったなんて、虫唾が走るね。あの高慢ちきな鼻っ柱をへし折ってやったらさぞ胸がスカッとするぞ」
「そ、育、落ち着きなさい。戦うなんて、どうやって…」
「僕も演説する!」
 育は決然と言い放った。
「バカな、委員自ら校則違反を犯してどうする」
 育の眼の奥には、どうやっても消せぬ闘いの炎がむらむらと燃え上がってきていた。
「育!」



にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第5回

 父親の止めるのもきかず、大股でどっかどかと中庭を後にする。すれ違ったカップルが驚いて立ち止まった。
 マーラの姉デラと、育のスペースバスケ部コーチ、ストロベリ夫妻だ。ヤング会長秘書を務めるデラは、持ち前のきびきびした口調で声をかけてきた。


ボブカット アニメ??



真紅 ウエデョングドレス 後ろ姿

「あら育くん、マーラったら統皇太子とやらと踊っていたわよ。こんなところでうろうろしていていいの?」
 育の足がピタリと止まる。禁句だった。
「しっかり捕まえておかないと、マーラったらどこへふわふわ飛んでっちゃうか判んないわよ。ほんとに頼りないネンネなんだから。万が一、皇太子殿下がお気に入られてお妃に、なんてことになったら、数十万光年も行き来すると考えただけで気が遠くなりそう。その点、育くんところなら、歩いて五分。何かと便利よね。まっ、誰にも横取りされないよう、しっかり頼むわ!」
 ビタンと背中に一発喝を入れ、高らかな笑い声と共に去っていく。これでもマーラと血の繋がった姉妹だろうか、と、育はいつも思う。
「シケた面(つら)してないで、楽しめよ、育」


白いタキシード

 ストロベリコーチも肩たたきを追加して、ワイフの後を追った。
(もちろんさ、デラ。マーラは誰にも渡さない)
 育はヒリヒリする背中をさすりながら唸った。スペース・オーケストラの奏する楽の音はますます冴え渡り、たけなわの宴を盛り上げている。



    三 プロポーズ!!

 花房から花房へ、軽やかに飛び回る妖精の羽音がマーラには聞こえる。
 リラの花がたわわに枝から垂れ下がって美しい。学園の中央通りに植えられたリラの並木が今を盛りと咲き競い、学生たちが安らぎを与えていた。


ミツバチとライラック

 マーラはこの大好きな並木の下を、うっとりと見上げながら歩いていた。花の色に劣らぬヴァイオレットのロマンティックなワンピースを着て、両手でブックバンドにまとめた本とコンパクト端末を抱きしめている。美しい花を見ると夢見心地になって後先のことを忘れてしまい、通行人にぶつかってしまうことも珍しくない。
「ア、ごめんなさい」
 今、おデコをぶつけた相手は、なかなか去ろうとしない。不思議に思ってよく見ると、リラの花房より華やかな風貌が眼前にあった。
「マーラちゃん、見いつけた!」
「皇太子さま!」
 マーラはどぎまぎして、頭の隅から急いで挨拶の言葉を寄せ集めた。
「昨夜は私なんかと踊っていただいてありがとうございました」


「こちらこそ!」今日はとても舞踏会の貴公子、まして皇太子とは思えぬ、白いシャツとジーンズというラフなスタイルの統は、心底照れ臭そうにいった。いつも美女軍を従えハーレムを形成している彼からすれば、信じられない初々しい態度だ。「あんなに素晴らしい夜は生まれて初めてだった。まだ耳の奥でワルツが流れているくらいだ。ね、授業は?」


赤いレンガの教会

「終りました。これから育くんと待ち合わせして帰るところです」
「育と、ずいぶん仲がいいんだね」
 裸の嫉妬心をぶつけてきた。しかし、おっとりやのマーラは気づかない。
「ええ、七歳の時から、どこへ行くのも何をするのも一緒なの。兄妹のように育ってきましたから」
「兄妹のように?じゃ、俺の入る余地も、少しはあるのかな」
「どういうことですか?」
 眼をまん丸くして尋ねる少女に、ほっとし、同時にがっかりした。どうして、こんなに幼い女の子に一目惚れしてしまったのだろう。決してロリータ趣味じゃないのに。銀河一の女殺しと歌われる身でありながら!しかし、自分の心に嘘はつけない。彼女にぞっこんな気持ちはいや増したようだ。
「少しだけ一緒に歩いていいかい」
「ええ、もちろん」

にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第6回

キャンパス 芝生

 マーラはじゃれつく子犬のようについてきた。行き交う学生たちが注目する。
「皇太子さまと育くんとは、幼稚園時代からのお友だちなんですってね。私、昨日、初めてお会いした気がしなかった。だって、今まで耳にタコができるほどお噂を聞いていたんですもの」
「ワガママで、オーヘイで、ヒネクレモノ―――って?」
「とんでもありません。育くん、(統は優しくて暖かくてかけがえのない親友だ)って。(宇宙中捜しても彼みたいに気の合う友だちは見つからないだろう)って」
「……」
 統の眉間に鋭い苦悩が走ったが、一瞬にして消えた。
「皇太子さまも同じでしょ。なのに、どうして育くんと対立するようなことに?マーラびっくりしちゃったわ」
「マーラちゃんは心配しなくて大丈夫だよ」
 とろりとした黄金色の瞳を見つめると、マーラの心は不思議に安らぎに満たされた。これがライム・ライトの魅力なのだろうか。
「マーラ、ライム・ライトの演説を何度か聴きましたわ。演説というより、吟遊詩人のように柔らかな響き。あれは本当に皇太子さまおひとりで変装なさってお話してらしたの?」
「まあね」
 リラの、ハート型の若葉が風にさやさやと鳴り、ふたりの髪や肩に木漏れ日を躍らせる。道を隔てた園内スタジアムからは、公開練習試合でも行われているのだろう、時折、歓声が上がり、風に乗って聞こえてくる。平和そのものの放課後だ。
「昔と変わらない。美しいね、地球(ブルースタリア)は」
 統はシビリアンブルーに輝く五月の空を見上げて言った。皮肉な含みがあるのだが、マーラには判るはずもない。


「麗園星(レオンスタリア)はどんなですの?お話して下さいな」
「………いいとも」
 少し躊躇いがちに、彼は話し始めた。
「麗園星は惑星ではなく、衛星でね。恒星を父とし、惑星を母とし、兄弟星とともに母星の周りを廻っているんだ。小さくて、人口は少ないが豊かな自然に恵まれ、戦争もない穏やかで美しい星だよ。地球にひけをとらないくらいさ。紫の空は輝き渡り、黄金の虹は毎夕、潮の上に架かり―――伝統を守って生きる民の心も温和だ」
「素敵……!」マーラの眼が輝いた。「それに比べて、私の生まれ故郷の合歓星(ネムスタリア)は大陸の大半が砂漠化して、年々住みにくくなっているの。それで私も小さい頃、姉と移民してきたんだけど―――。羨ましいわ、麗園星が。同じ輝虹星雲の中に位置しているのに、全然違うのね」
「そりゃあね、でも、そうか。麗園星と合歓星は近いといえば言えるかな」
「名前のとおり、とっても美しい楽園のような星なのね」
 統はちょっと眼をそらし、言った。
「でも当分帰れないんだ。いや、ひょっとしたら二度と」
「まあ、どうして?」
「母親に勘当くらっててね。かっこ悪いよね。留学なんて表向き、実は追い出されて学費も面倒みてもらえないのが本当のとこさ。実を言うと、皇太子だってとっくの昔に廃太子にされてるんだ。今頃、あの女帝は自分の卵子と民の中から選りすぐられた精子とで新しい皇太子をつくり出していることだろうな。今度こそ、俺みたいな不良皇太子が生まれてこないことを祈りながら、ね」
「そんな―――!」
 統の双眸がぎらぎらした色を帯びたのを見たマーラは、思わず後じさりした。
「そうとも。人形のような皇太子を座に据えて自滅の道を進めばいい。バケモノ皇太子の忠告を聞かなかった報いさ……」
 もはや独白だった。

エリザベート



 マーラはしゃくり上げ始めた。統の表情が豹変したこと、彼の、思いも寄らぬ打ち明け話にショックを受けたのだ。
「やめて、皇太子さま。そんなKとおっしゃらないで。きっとお母様と仲直りできる日が来るわ。きっと美しい麗園星に帰れる日が来るわ。だからそんな怖い顔なさらないで」
 真珠が膨らんで生まれては、紅い頬を伝い落ちる。統はたちまち天使に覚醒されたように現実に立ち戻った。マーラへの愛おしさがあふれてくる。
「マーラちゃん、君はなんて心優しい娘なんだ。俺、いや、私にはひと目見てすぐにわかったよ。君が宇宙でたったひとつ、私が出会うための魂の持ち主だと――――」
「え……?」
 マーラは涙をためたまま、きょとんと少年を見上げた。
「紛れもなく、ふたりはそれぞれ異なる星に生を受けながら、この地球(ブルースタリア)で巡り会う運命だったんだ。ああ、どう言えばいいんだろう。胸がドキドキして何を言えばいいのか頭がぼうっとするよ。本当だよ、こんなこと初めてだ。今までどんな美人に接近してもおちゃのこで美辞麗句が並べられたのに、ほら、手だってこんなに震えてる」
 嘘偽りではない。物心ついて以来、後宮で過ごしてきた皇太子が、ひとりの女学生によって初恋を知ったらしい。その感激と戸惑いが、彼を暴走させた。情熱のおもむくまま少女のか細い肩を引寄せ、桜草の花びらのような唇をさらう。
 春風の早さだった。

接吻 1



 マーラは何が起こったのか判らぬまま硬直していた。頬に感じた少年の吐息が甘美なひとときの終わりを告げ、やっと少女は我に返った。
 パン!
 突然、統の頬が鳴った。少年が驚いてマーラを視界に捉えた時には全てが遅かった。
(しまった……)
 少女はこれ以上、恨めしい者はないという顔で相手を睨んでいた。口惜し涙が碧い眼からあふれ唇はぶるぶる震えている。
「ひどい……!あ、あなたにとってはほんの挨拶代わりでも、私にとっては一生に一度の……。ひどいわ、いきなり……!」
 マーラはスカートをもみくちゃにしながら抗議した。
 統は思わず、悪魔に心臓を握り潰されたような衝撃を感じた。軽率な自分を呪い殺したいと思ったが、もう遅い。
(駄目だ……。全宇宙でただひとりの人に嫌われてしまった……)

にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第7回


 よろよろと傍らのリラの大木に寄りかかった時には眼を開くこともできず、病の発作に耐えるように、大きく胸を波打たせていた。
「皇太子…さま?」
 さすがにマーラもその様子の異変に気づいて怒りを引っ込める。
「どうなすったの、お顔の色が真っ青よ。どこかお苦しいの?それとも私の言ったことがお気にさわったの?皇太子さま!」
 太陽が翳り、メイ・ストームの前触れを想わせるような強い風が吹き抜けた。無数の葉が頭上でひるがえり、低い唸り声を上げた。
 どのくらい経ったろう。
 統はおもむろに振り返った。―――が、その顔は統ではなかった!
 エメラルドの髪は深いビリジャンに、黄金色の瞳は紅く鋭く、そして端麗だった顔の輪郭はごつごつとした粗野な感じに変貌していた。顔ばかりではない。肩幅、身体つき、年格好までが壮年の男になっている。


黒人マッチョマン

「おう、ねえちゃんよォッ!」
 声までがエンジンのいかれてるエアバイクのようだ。マーラは驚きのあまり、眼をそらすことができずにその場に立ち竦んでいた。
「たかが、ちょっとその可愛いお顔を舐めたくらいでキイキイと人を痴漢呼ばわりするんじゃねえっての。夜這いしたわけじゃあるめえし、よ。ま―――ったくあいつもこんなガキンチョのどこがいいんだ」
 マーラの歯がガチガチ鳴った。
(皇太子さまが、べ…べ…別人になっちゃたあ!)
「ええい、辛気臭えねえちゃんだなっ!」
ビリジャンの髪の男は太い幹ほどもある腕を、マーラの目の前でひゅん、と振ってみせた。
「とにかくお前さんはライムライトのお眼鏡に叶ったのよ。さ、ありがたくこの申し出を受けて、あいつの嫁っこになるのか、ならねえのか答えな!」
「な……?」
「結婚するのか、しねえのかと尋いているんだよ!」


フィギア プロポーズ 1

 こんな恐い目にあったことはない。マーラは失神寸前だった。
「いや……!誰か、助けて!この人、皇太子さまじゃない!誰か…育、育くん、助けて……!」
 その時だった。
 耳をつんざくばかりの大音響が辺りを揺るがせたのだ。
「諸君、この場にお集まりの学生諸君!……」
 園内スタジアムの大スピーカーかららしい。マーラも、ビリジャンの髪の強面の男も、はっと立ち止まる。ガーガーという雑音の後、スピーカーはまたしゃべり出した。
「諸君、僕は思想生活委員の育・ヤング!」
「育くん……?」
 紛れもなく、育のハツラツとした声だ。男は、幼児が興味の失せた玩具(おもちゃ)を打ち捨てるようにマーラから離れると、スタジアムの方へ駆け去った。
(白昼の夢……?)
 少女はへたへたと、その場に座りこんだ。




   四  宣戦布告

 前半戦を終えたばかりのスペース・サッカーの選手たちも、観戦に詰めかけていた学生たちも、茫然としていた。
 いきなり場内に響き渡った騒音は、占拠された放送席からのものらしい。
 マイクを奪い合う声の応酬が鎮まったと思うと、キンキン声のボーイソプラノが再開された。
「学生諸君!目覚めよ、諸君!近頃の諸君のライムライト崇拝は、行き過ぎの観がある!彼の演説には、危険な香りが漂っている。厭世観に満ち、退廃的で反抗的。滅びの道へ諸君を誘っていく。目覚めよ、諸君!我々は受身で生きるべきではない!我々自ら若い、健康的な思想を抱いてぶつけ合い、成長しなければならない。ライムライト一色に染まるのは自我を殺すに等しいのだ。ライムライトを英雄の座に着かせてはならない。
 我々、ひとりひとりこそが英雄なのである。ここに誓う!委員長、育・ヤングはライムライトの魔手より諸君らを救うため、断固戦い、学園よりライムライトを駆逐する!今、ここに改めて、思想生活委員会の存在を確認したい!打倒―――ライムライト!打倒―――ライムライト!」
 スタジアムは大きくざわめいた。
「うるさいぞ、ヘボ委員!」
「大きな口をたたくな!」
「ライムライトを追い出したらただじゃおかないわよ」
 たちまち罵声が飛び交い、あらゆる物が放送席に投げつけられる。育は構わず放送席からぴょんと飛び降りるや、フェンスを乗り越えてグラウンドへ降り立った。胸を張り、小さな身体いっぱいに力を入れて、仁王立ちになっている。罵りでもなんでも、来るなら来いと、その姿は言っていた。
 観衆たちの中で異なる考えが囁かれ始めた。
「驚いた!あいつ、本気だぜ」
「意外とやってくれるじゃなぁい」
「思想生活委員なんて、今まで教師連中の手先だと思ってケーベツしてたけど」
「ひょっとしてそうじゃないのかも?」
「いや、あのヘボ委員は会長…つまりヤング理事長の息子だぜ」
「じゃ、やっぱり親父の命令でこんなことを?」
「解からない。それにしちゃ、教師会からの協力も無さそうじゃん。やっこさんら、ライム・ライトに関しては、高見の見物を決め込んでるもんな」
「どっちにせよ、あのチビ、度胸あるぜ。何千人の大観衆の前で、あれだけのことを言いやがった…」
「ライムライトの親衛隊にフクロにされるわよォ」
 雨のように降り注いでいたヤジも、投げつけられる物も、やがて途切れた。


 育の額には血が滲んでいたが、それに手をやりもせずゆっくりグラウンドを横切って、やがてその小さな身体は非常口へと吸い込まれた。
 靴音の反響する薄暗い通路で、育を待っていた黄金の瞳があった。
「初めてにしちゃ、いいセンいってたじゃないか。それほどお望みとあらば、仕方ないな。君を敵に回すなんて、思いもしなかったけれど…」
 壁に背をもたせかけたまま、統は言った。
 育は針のような視線でチラリと一瞥したなり、足を止めることもなく彼の前を真っ直ぐに通りすぎてゆく。
 統は彼の靴音が遠ざかるのを聞きながら、
「俺の目的を妨げる奴は許さない!育、それがたとえお前であっても……」
 皇帝の息子に生まれ育ったプライドの高さがそうさせるのか、かつての親友から挑戦を受けたことと―――、
(助けて、育くん………)
 ついさっき受け止めた愛しい少女の思念が渦巻き、統は育に対する敵対心と嫉妬の炎で胸を妬かれていた。
「育くん、聞いてたわよ、今の!」
 スタジアムを出たところで駆け寄ってきたマーラは、少年の顔を見るなりいっそう驚きの声を上げた。
「キャッ!血が出てる!無茶するからよォ」
 急いでハンカチを育の額にあてがう。
「平気さ、こんなの」
「でも」
「君こそどうしたの?眼が赤いけど」
「え?これは…」
 つい先ほど、ライムライトの変貌に腰を抜かして泣いた、なんて言っても信じてもらえるはずがない。
(突然キスされたショックで頭がヘンになっちゃったのかも――――)
 思い出したマーラの両頬にカッと火が昇ってきた。キスだけじゃなくプロポーズまでされたのだ!
「マーラ、今日は先に帰ってよ。僕、まだやることがあるんだ」
 天地が引っ繰り返るような少女の胸中を露知らず、育は意気揚々と言った。
「まだ何かやるつもり?」
 閉鎖されてる委員会本部を再開しようと思って。もう後には退けない。やるだけさ」
 マーラはトパーズ色の金髪をぶんぶん振って叫んだ。
「危険よ。学園の全生徒を敵に回す気なの?ライムライトは今や学園のスーパーアイドルよ。みぃんなライムライトの崇拝者よ。大好きなのよ!」
「マーラ」
 育はリラの香あふれる薫風を大きく吸い込んでから、振り返った。
「彼をいっち好きなのは―――僕だよ」


にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統――第8回



 ―――羊飼いがいた。
 忠実な犬がいた。何年も何年も変わらぬ平和な営み。


黒顔ひつじ牧場

 牧草を求めて山へ登り、日がな一日羊飼いは蒼空の下、大の字になって昼寝をし、飯を食らい、やがて日没、村の広場の噴水のところまで羊と共に帰ってくる。
 ある日、
 いつもの山道を登る途中、犬が吠えた。
 羊の群れが動揺した。
 犬は吠え続ける。羊飼いに向かって何かを訴えるように吠え続ける。羊飼いには、犬の必死な眼が解からない。
 お前、気でも違ったのか。
 羊がびびって遠くへ行っちまう。
 さあ、連れ戻せ。いつものように群れを整えろ。
 何故、言うことをきかない?
 お前はわしに逆らうのか。
 あれほど可愛がってやったのに。
 この畜生が!
 こら放せ。わしをどこへ連れて行く。
 放せ!もういい、お前などどこへでも行ってしまえ。
 羊飼いは犬に鞭をくれた。
 犬は尚も吠え続けたが、山へ登っていく一行を止めることはできなかった。
 突然、犬は駆け出した。
 駆けて、駆けて、まっしぐらに村へ戻った。
 村人の誰彼なしに懇願するように吠え続けるが、誰一人相手にしない。
 うるさいぞ!
 石を投げられ、うなだれた犬はもう一度山へ走った。
 いつしか足の裏が血しぶいた。苦しみに、泡を吐きながらも犬は走った。
 そして―――、いつもの放牧地に辿りついて犬が見たものは――――。



 ライムライトの膝から麗園星独特の弦楽器、リューダが下ろされた。
 いつのまにか、彼の頬はしとどに濡れていた。昼下がりのラウンジに、鈴なりになって彼の弾き語りに耳を傾けていた学生たちは尚もじっと待っていたが、もうそれ以上、彼の口からは何も語られなかった。
 統はラウンジの中央に植えられたエンジュの大木から身軽に降り、小さく手を振った。お開きの合図だ。
 一同ようやくあきらめて、がやがやと自分たちの教室へ戻り始める。
 すみっこに女友達と共にマーラの姿があった。


「素敵だったわねえ。今日のはまた一段と」
 ソバカスだらけのロージーは、終始興奮してマーラの手を締めたりひっぱったりしていた。

そばかす少女(人形)

「どーしたのよ。マーラ。ぼーっとして。ちゃんと聞いてなかったの?」
「聞いてたわよ」
「あ、そっか。あんたは育くんの味方だもんね。一度くらいダンス踊ったってどうってことないのよね。私は駄目!もし、あの黄金の眼で(ロージー、デートしない?)なーんて言われたら、卒倒しちゃーう!」
「味方だなんて。私には育くんも皇太子さまも大事なお友達よ」
「そんなのありぃ?羨まし~い!」
 マーラはおしゃべりなロージーに気取られないように、さっきから熱い鼓動の止まらない胸にそっと手を置いた。
(私……どうしたのかしら。ダンスの時はなんでもなかったのに、今は…皇太子さまの声を聞いただけで息ができないほど苦しい)
 マーラは統の姿を目で追った。
 クラスメートに囲まれる彼は、いつになく寂しげだ。
(皇太子さまは、何かに苦しんでいる?)
 ふと、そう感じた時、統はこちらを向いた。
 もう涙はない。いつものように猫のような陽気な目を輝かせ、マーラに気づくと軽くウインクを投げかけてきた。
 マーラは今にも胸が燃えるかと思った。が、次の瞬間、統の意思はもう少女から飛び離れている。
「そうそう、皆に伝えることがあったんだ。俺は今度、生徒会長に立候補することにしたからよろしく」
 ポンと言い置いて、陽射し溢れる通路を遠ざかっていく。散りかけていた学生たちは呆気にとられて足を止めた。まるで午後のお茶を誘うような気軽さで伝えられたライムライトの言葉をめいめいがゆっくりと頭の中で繰り返してから―――ラウンジは蜂の巣を突っついたような騒ぎになった。
 ――――ライムライトが生徒会長に立候補するぞ!
 育への対抗であることは間違いなかった。
 現在の生徒会長たるや、クモの巣だらけだった思想生活委員会と似たり寄ったりで、あって無きに等しい。だが、ライムライトがその人望を手土産にその地位に着けば、名実ともに学園のリーダーになることは必至だ。
 そして、それは同時に学園内だけでなく、宇宙文化交流協会そのものへのライムライト進出を意味する。何故なら―――生徒会長は生徒の中でただひとり、大人に立ち混じって協会会議への出席を認められているからだ。

にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統―― 第9回



    第二部



    五 押しかけルームメイト

 寮母のミセス・肝っ玉は、がらんとした食堂テーブルに大きな身体をもたせかけて雑誌のページを繰りながら居眠りしていた。


割烹着姿の女装オトコ

 土曜の昼下がりである。寮生は殆どが外出するか自宅に帰るかしており、いつもならてんやわんやの夕食の支度も今日はたかがしれている人数分なので、つい気が緩んだらしい。
 窓の外に広がるヴァーミリオン湾はトロリとした紺碧の海水を湛え、その向こうの岬には交流協会のビル群が蜃気楼のようにそびえ建っている。

青い海

 何回かフネをこいだ後、ガクリと首を落としたミセス・肝っ玉は眠い目をこすりつつ大アクビをした。―――と、妙なものが廊下を行くのが目に入り、彼女は大急ぎで立ち上がった。
「お待ち。誰だい?」
 強烈なダミ声に三つの大きなリュックサックが立ち止まった。背中にひとつと、両手にそれぞれひとつ持っているらしい。その陰から小柄な少年が決まり悪そうに振り向いた。

リュック 黒

「ここの誰かに用事かい?」
「えーと…」育はしばらく口ごもっていたが、意を決した。「ミドル・クラス二年、育・ヤング!どうか、僕をこの寮に入れて下さい!」
「何だって?」寮母の鼻から馬のような息がもれた。「ヤング会長の息子だろ、知ってるよ。だけど、あんたの家は目と鼻の先じゃないか。ここは自宅が遠い生徒しか入れないんだよ。学生課で言われただろ?」
「そこを、なんとか」
「第一、会長は何て言ってるの。まさか内緒じゃないだろうねッ」
「パパとママなら、新婚時代に戻れるって大喜びさ」
 ミセス・肝っ玉はあんぐり口を開けた。
「駄目なものは駄目なんだよッ。さ、とっととお帰り」
「お願い、寮母のおばちゃん!」育はやにわにリュックを放り出してひざまずいた。「僕、毎晩おばちゃんの仕事手伝うから!六時から八時まで。ううん、九時まで!」
 寮母は黙って首を横に振った。
「そんなこと言わずにさ。僕、どうしてもこの寮に入らなくちゃ敵に一歩リードされちゃうんだ。男の勝負に勝ちたいんだ!」
「……?」
 ミセス・肝っ玉は怪訝な顔で少年を見下ろした。言ってる意味は解からないが、少年の真剣な眼差しに気づいたようだ。
「でも、本当に今、ここは満室なんだよ。入るとしたら、最上階の個人部屋に入ってる子に相談して相部屋にしてもらうしか」
「アッそうだ!」育はごそごそと胸のポケットから紙片を取り出した。「これ、よかったら、プレゼントするよ。おばちゃんへのお近づきの印に。ヴァーミリオン・モード界にプリンス、ガール・ジョークのオートクチュールの無料お仕立て券。ママからもらってきたの!」
 明らかにミセス・肝っ玉の表情に変化があった。思わず口許がほころぶのを抑えながらしぶしぶという顔をつくり、
「仕方ないねえ。学生課には内緒だからね。それに、あくまで個人部屋の子が(ウン)と言ったら、の話だよ。
「いやったあ!さーすが肝っ玉おばちゃん!話せるよね!」育は飛び上がって彼女の肉厚の肩を叩いたが、掌がしびれてしまった。「……で、何ていうの?個人部屋の生徒は?」



「ねーえ、ライムライトォ」
 しなだれかかる美女のひとりがハチミツのより甘い声を出す。
 気だるげな音楽。立ち込める脂粉の香。


イスタンブール ハレム

 豪華な調度が地球のものより洗練された曲線を持って、ひとりで使うには広すぎる空間を埋めている。東と南、全面に開かれたベランダからはヴァーミリオンの港が一望できる、ここは最上階だ。
 ダブルベッド顔負けのソファにくつろいでいる統の周りに、止まり木に群がる小鳥のように着飾った美女が鈴なりになっていた。これらが、後宮で育った彼が苦学生に身を落としても、決して変えられないライフスタイルなのだ。


イラスト 猫耳メイド

 統はセクシュアル・キティの白い膝から少し顔を上げて、足元に控える碧い髪の美女を見やった。
「何だい、ソフィーアイリス」
「今夜はだあれ?」
「そうだな」
 物憂げに上半身を起こした彼は、紺のシルクの部屋着を緩やかに肌にまとっているだけなのがひどく艶かしい。
 その時、軽いコール音が響き卓上のメカが点滅した。取り巻きのひとりが立ち上がろうとするのへ統は投げやりに、
「いい、出なくて」
「でも、恒星間のコール音よ。麗園星からかもしれなくてよ」
「いいんだ」
 何回か繰り返された音は、やがてあきらめたらしい。
「さてなんだっけ」
「今夜のお相手を決める話よ」

バニーガール(ゴールド)

 さっそく美女たちはかしましい争いを始める。
「私よ!ライム・ライト」
「あら、チャーミ・バニーは先週、選ばれたじゃない。二週続けてなんてずうずうしいわよ」
「彼は私の香りがお気に入りなのよ」
「わかった、わかった、俺のフルーツたち」統が制した。「じゃ、クジにしよう。文句無いだろう?」
 側にあったスカーフを両目に当てて縛る。
「じゃ、君たちも目をつむって右手をソファに置く。恨みっこなしだよ」
 女の子たちは行儀よく並んで白い手を置き、ワクワクして待った。
「ようし……君だ!」
 手をつかんで引寄せると同時に統が見た今宵の相手は―――元気満々に瞳をぎらつかせた、少年だった。
「わっ!」
「きゃっ!」
 統と美女たちは、花火のように周囲に飛び爆ぜた。
「言ってやーろ、言ってやろ!マーラに言ってやろ!統は学生寮で後宮ごっこしていますって言―――ってや―――ろ―――!」
 少年はカブトの首を取ったとばかりにわめいた。耳まで真っ赤になった統は慌てて態勢を立て直す。
「どうやって入ってきたんだ?」
「肝っ玉おばちゃんにもらったスペア・キーで!」
 育は顔の前にキーをぶらつかせた。
「どうしてそれを?」
「今日から僕もこの部屋の住人なの。よろしくね!さっすが個人部屋だな、豪華ホテルのスイートルームなみじゃん。ごっきげん」
 唖然と見守る統と美女達の前に、育は三つのリュックを引きずってきた。
「と、ゆーわけで、上級生のお姐さんたちにはワルイけど後宮ごっこは今日限りお終い」
 さっさと荷物の整理を始めるのへ、統ががなりたてた。
「ちょっと待った!ここは個人部屋なんだぜ。プライバシーの侵害だ。第一、なんで君がわざわざ寮に入る必要があるんだ?」
「そうよ、そうよ!あんたみたいなおチビに私たちの楽園を邪魔されてたまるもんですか」
 女の子たちも目を吊り上げて言った。が、育はひるむ様子もない。
「僕も生徒会長に立候補するんだ!」
「なに……?」
「思想生活委員会の権威を取り戻すためさ。ライバルの君が学園内に住んでいて僕が自宅通学だなんて、フェアじゃないだろ?」
「だからって何もここへ」
「だって、ここしか空いてないんだもん!」
「ここも空いてないってば!」
「でも、部屋代、ワリカンになるよ。僕、肝っ玉おばちゃんのお手伝いアルバイトするからちゃんと払うもん」
 これは統の心をつかんだ。皇太子として育った身に、生活レベルは落とせるはずもない。
 しかし、星出している今は、バイトをしながらの勤労学生なのだ。………と言っても、ディナー付きトークショーなんぞを催してライムライト活動と一石二鳥を狙ったバイトなのだが。
 何はともあれワリカンのひと言が功を奏し、育は統の部屋に居座ることに成功した。

にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ

. 「ライム・ライト」――育と統――第10回


「デスクの代わりにテーブル。このソファだって家のベッドの三倍はある」
 美女たちがブーブー言いながら引き上げた部屋で、育は家具の割り振りに余念がない。
「育、本当に立候補する気か?無駄な努力だと思うけど」
 自信満々に見下ろす統に、育は思わず牙をむく。
「そんなの、やってみなくちゃわかんないじゃない!とにかく指をくわえて見てることだけは僕はイヤだもんね」
「お好きなように。おチビのくせに鼻息だけは一人前なんだから」
「なに―――っ!八年で十一年トシとる異常成長者が!僕より先に爺さんになるだけじゃないか!」
「お生憎!麗園星人の寿命は君たち地球人より二十年は長いんだ」
 ふたりは花火を散らせて睨みあった。
 双方、同時にそっぽを向き、育は荷物整理に、育はヘッドホンをつけてソファに身を沈める。沈黙がのろのろと過ぎていった。
「さて……と」ようやく身の回りの片付けを終えた育は、部屋の奥に眼をやった。
「ひゃあ!システムキッチンまであるのか。統、お腹空かない?僕、肝っ玉おばちゃんから材料もらってくるから一緒に夕飯つくろう!」
 いきなりの提案に戸惑った統だが、
「つくる?この俺が?はん!」
 不満げな答えしかできない。育は構わずふかふかの絨毯の上を跳ねながら部屋を出ていった。遠ざかる鼻歌を聞きながら、統の口許にまんざらでもない笑みが浮かんだ。


統は育の手際の良さに目を見張った。
 ミセス・肝っ玉から借りてきた大きなエプロンを細い身体に巻きつけ、次から次へと美味しそうな料理を作っていく。
「上手いもんだろ?ママにばっちり仕込まれたんだ。今日は地球の家庭料理をたっぷり食べさせてあげる。海鮮リゾットに、グリーンパスタ……あっ、そこのジャガイモの皮むいてよ」
「むく?これを?」
 統は危うげな手つきでしぶしぶ従う。
「うん。グラタンにしよう。ふふっ、こんなことしていると、幼稚園時代、僕の家でスクランブルエッグの練習一緒にしたことを思い出すね」
「……?」
「忘れちゃったの?僕は覚えてるよ。あの後、夕飯食べて一緒のベッドで眠ったよね。楽しかったな、あの頃は。ヴァーミリオンの森は僕たちのでっかい遊び場だったし、イタズラもよくやったよな」
「そういえば、そんなことも…」
 皇太子の肩書きなどどこへやら、ガキ大将として荒らしまわった昔を思い出して、統は苦笑した。かつての相棒は、オーブンをパタンと閉じ、昔と同じボーイソプラノで言った。
「さ、後はグラタンが焼けるのを待つだけ」
 育は両手を届くかぎり伸ばして真っ白いテーブルクロスを広げた。
 外は早くも黄昏時である。

豆乳グラタン

 育はリュックから濃紅色のボトルを出してきた。
「へへっ、パパの目掠めて持ってきたんだ。選挙戦の景気付けにパーッとやろ!」
「それなら、俺も」
 統はクローゼットの中にもぐりこみ、薄紫色のボトルを抱えて出てきた。ふたりは顔を見合わせて笑い、お互いのグラスに注いだ。
「さあ、かんぱ……」

赤ワイン

「ちょっと待った」統が遮った。「その前にルールを決めておこう。ひとつ、この部屋には選挙戦を持ち込まないこと」
「わかった」
「ひとつ、お互いの生活に干渉しないこと」
「うん」
「特に、俺が眠っている時には絶対にベッドルームを覗くな」
「なんで?」育は大きな目をくるめかせてからニヤリとした。「ははん、どうせ女の子を連れ込む魂胆だろ。駄目、ダメ。僕の目の届くところでそんな不純な行為はさせないよ。即、マーラに言いつけるからな」
 統は眉間にタテ皺を寄せた。
「そうじゃない。とにかく、ベッドルームには近づくな。絶対に、だぞ」
「わ、わかったよ」
 恐ろしい眼で念を押す相手に、育は肩をすくめた。
「な、何だよ、ヘンなヤツ。ツルの恩返しでもあるまいし」

鶴の恩返し

「君に襲われないとも限らないからな」
「バカ言え。僕は健全な青少年だぞ!」
 口を尖らせる少年に、統はついに笑いを爆発させた。
「乾杯!久しぶりの俺たちのディナーに」
 再会してから初めて見せる屈託のない笑顔は幼い頃の面影そのままだ。
 育は嬉しくなって、彼のかざすグラスに応えた。


にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

. お気に召したら1クリックお願いします♪
ブログランキング・にほんブログ村へ
. ☆初めてお越しの皆様☆


作品書庫(カテゴリー)からお入りいただくと、連載作品が第一回からお読みいただけます

. 作品書庫(カテゴリー)
. 相互リンク絵ブログ
島崎精舎さま
. 長崎祐子さま
. メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

. ☆当サイトバナー☆
Untitled2.jpg
. FC2カウンター
現在の閲覧者数: