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浪漫@kaido kanata

. 三浦春馬 小説 再連載 「青のサギリ」まえおき プロローグ 第1話」

<まえおき>
  三浦春馬くん❤に魅せられて、勢いで書いた作品です。
  お気が向かれたら、読んでやってください。
  今まで大嫌いだった恋愛小説です。初挑戦!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 
    「青のサギリ」





  プロローグ

 マイトはコンサート開演の直前に、非常階段から空を見上げた。
 あの面影を偲んで立ちつくす。
 空はサギリの瞳のアイスブルーだ。
 スタッフが呼びに来て、溢れそうだった涙をふりはらい、会場へと向かう。
 二万人のファンの歓声が渦を巻いて彼を待ち受けていた。


        第 一 章


 一年前、マイトは3人組(マイト、トウヤ、チハル)のユニット『Gio』(ジオ)として若手歌手の上り坂を順調に昇っているところだった。
 コンサートを開けば日本の各地で満席、歌だけでなくTVドラマ、映画、必ず成功した。

 ものごころつかないうちから、ふと気づくと芸能界にいた。
学校が終わると、レッスン場へ走りこみ、発声と演技とダンスの練習。
学校よりレッスンの方がはるかに楽しかった。というより、辛いことも忘れていられた。
デビュー前にバックダンサーを努める時も、スポットライトを浴びると心が躍った。
暗闇の中で振られる無数の赤いライト、自分もその中のひとつの蛍になって舞っているような気がした。
 甘いマスクと声だと周りから騒がれるのに慣れていた。

14年 AAA はるま ちゅおう




 初めてのCDデビューは、15歳の時。いきなりトップテン入りした。
 初めてTVドラマの話が来たのは16歳の時。
夜、ひとりで鏡に向かった。
(別の人間を演じるのか…)


15年 布被った 春馬

 不安がなかったと言えば嘘になる。脇役だったが主役の次に重要な役柄だった。
フィギュアスケートの選手だったので、数ヶ月猛特訓。
途中で捻挫もしたが、クランクインまでにはなんとか治した。
 シナリオを頭に詰め込む苦しさは夢にまで見た。


 1クールの撮影期間が、あっという間に過ぎ、夢中で演じきった。
 次のシナリオが待ち遠しくなった。
一作、一作、役を自分のものにしていくという手応えは、歌や踊りとは別の快感があった。

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. 「青のサギリ」第2話

「おい、マイト、舞台を演る気はないか」
ある日、マネージャーの杉岡が眼を輝かせて楽屋に飛び込んできた。親身になって『Gio』の親代わりになってくれる人の善い男だ。
「あの巨匠の演出家、永松慶吾がお前に白羽の矢を立てたぞ」
「何ですって?」
永松慶吾といえば演劇界の鬼と呼ばれる重鎮だが、演技指導の厳しさに途中で逃げ出す役者も少なくないと聞いている。コンサートのおかげで観客の前に立つことは慣れているが、いくらCDが売れて,少しTVドラマに顔を出すようになったからといって、どうしてまだ新米の自分がそんな大御所の演出家の目に止まったのか。


ほどなく永松に会うことになった。
 思いがけず自宅に呼ばれた。こうなりゃままよ、とマイトはラフなジャケットにジーンズで赴いた。
 さすがの豪邸に緊張したが、客間に通されたマイトが見た光景は、永松がソファの上で幼児ふたりに絵本を読みきかせているところだった。
 永松は来客を気にも留めずに読み続けていた。
 愛くるしい5歳くらいの女の子とと3歳くらいの男の子が夢中で耳を傾けている。
 永松の読み方が普通ではないのだ。擬音も入れて、セリフはもちろん、その役になりきって自分も楽しみながら読んでいるのがよく解かる。
 やがて、ようやく絵本のおしまいが来て、
「おじいちゃま、もっと、もっと~~~」
 と、まとわりつく子どもたちをなだめながら、永松は立ち上がった。ごま塩頭でいかにも頑固そうな相貌だが、子どもたちに向ける眼は優しい。
「いい子だな、お前たち。じいちゃんにお客さんだ。また後でな」
 子どもたちはお手伝いさんに連れられて、しぶしぶ客間を出て行った。
「いやあ、お待たせ、お待たせ。わしの孫たちでね。どうぞ、座りたまえ」
 マイトはやっと我に返って、示されたソファにおずおずと腰掛けた。
「初めまして。ボクは」
「『Gio』のマイトくんだろ。よく来てくれた。つまりOKしてくれたんだな」
 そういうことになるかな。断るつもりならここへ来たりしないだろう。マイトは覚悟を決めた。
「ふうむ」永松はマイトの頭の天辺からつま先まで眺めた。「世間が騒ぐはずだな。まず瞳が澄んでいる。そして口元の引き締まり方が、もののふを連想させる」
 マイトはごくりと唾を飲みこんだ。
「だが、騒がれるからといって、君に頼んだわけではないぞ。有名であろうが無名であろうが、わしの眼で、磨けば光る人間だと判断しなければ頼まん」
 永松の双眸が再びマイトを射る。
「そら、窓からの陽射しが君の身体にまとわりついて、よりいっそう君も陽射しも輝きを増す。それだけじゃない」
 その時、先ほどの男の子が走りこんできて床に落ちていた赤いクレヨンを拾おうとした。とたんに下げた頭をテーブルに打ちつけた。大粒の涙があふれてきて大きな瞳からこぼれ落ちる。
「うわ…」
「泣かない、泣かない、はい」
マイトは代わりにクレヨンを拾い、男の子の頭を撫でながら手渡した。男の子はマイトを睨みつけてから、クレヨンをひったくって部屋を走り出て行った。
「そのさりげない所作がわしは欲しいんだ」永松は叫ぶように言った。「この前の映画、良かったぞ。あれで君を眼に留めた」
「ボク、一人っ子なので子どもは好きです」
「明るい眼をしているな……む?」永松の顔にかすかな翳りが映る。「だが、決して幸せなだけの平坦な道ではなかったようだな。瞳の奥に疵がある」
「……」
 マイトはやや表情を強張らせて相手を見返す。
「触れてほしくなさそうだな。悪かった」
 使用人の手によって香り高いお茶が運ばれてきた。
「今度の舞台の原作はだねえ」
 永松が説明し始めようとした時、
「すみません、失礼します」
 マイトは突然立ち上がると一礼して、演出家の前から去った。

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. 「青のサギリ」第3回

「おい、正気かよ!?」
 某TV局の廊下で後ろから肩をつかんだのは『Gio』のリーダー、トウヤだ。マイトよりひとつ年上で背も高い。性格もしっかりしていて、3人の中では一番冷静だ。
 肩までの真っ直ぐな茶髪を少々乱していた。
「永松先生の芝居を蹴ったそうじゃないか。本気か?」
「俺にはまだ早い」
素っ気なく言い捨てて先へ行こうとする。
「あの先生に見込まれりゃ、将来を約束されたようなもんだぞ。俺とチハルのことなら気にすんな。シットしたりしないから」
「そんなこと、解かってる」
「待てよ」トウヤはマイトの髪をつかんだ。「あの先生、お前が『うん』と言うまで舞台はやらんそうだぞ」
「そんなバカな」
 信じられなかった。自分の代わりになる若手なんかゴマンといそうなのに。
 しかし、トウヤが言ったことは事実だった。マスコミがデカデカと
「永松の舞台、延期か!?」
と、書きたてた。
 公演の準備はかなり進んでいたらしいのに、自分のひと言でこんなことになるなんて。
 マイトはどうしても気がかりになり、永松の事務所 兼 稽古場に行ってみた。
 思ったよりデカい。主役以外の役者が大声を張り上げて稽古をしていた。廃屋になった工場でも改築したのか、かなり広い空間があり、大道具が所せましと詰まっている。

 ライトの当たっている稽古用の舞台が無ければ、まるで廃材屋だった。だが裏方たちが必死のまなざしで稽古の様子を見ている。舞台上では、永松が先日とはまったく違った形相で役者に演技指導をつけていた。別人だ。こまごまと厳しく指導しているさまは、とても「優しいおじいちゃん」と同じ人物とは思えない。
 少し見物していただけで、彼の芝居へ賭ける情熱がマイトにもじんじんと伝わってきた。
 作品は明治時代のもののようである。ついついマイトは引き込まれていた。
「ちょっと、そこ、どいてくれ、ジャマ!」
 いきなり男の声がマイトを現実に引き戻した。大道具係らしき男が汗の臭いを放ちながら広い板を運んでいく。
 それをよけようとして、よろけたとたん、マイトの背中が立てかけてあった材木にぶつかり、グラリとなる。
「あっ」と思った時には、太い材木は上背のある女性が支えていた。
「すみません、ケガ、ありませんでしたか」
 慌ててマイトが言うと、長そうな黒髪を無造作にバレッタで留めた彼女は、キッとマイトを睨んだ。
「ボヤボヤしてると危ないわよ」マイトを見ても表情は変わらない。「あ、君、ちょうど良かった、片方持ってくれる?」
 太い材木を軽々と持ち上げて、マイトに指図する。マイトは彼女の気迫に押されて思わず手を貸した。そのまま舞台のそでまで運んでいく。
「サンキュー、ここでいいわ」
 材木を降ろした女性がこちらを見て、やっと少し微笑んだ。その瞳を見て、マイトは息をのんだ。アイスブルーなのである。限りなく透明で優しく、繊細な色…アクアマリンの色だ。
 マイトはしばらく彼女の瞳から眼が離せなかった。
「どうかした?」
「い、いえ、その眼…」
「カラ・コンよ。今時、珍しくもなんともないでしょ」
 そこへ彼女と同年輩のやや小太りで黒ブチメガネの女性がやってきた。
「どしたの、サギリ。次の準備、OK?」
「ええ」
 メガネの女性はマイトを見やり、目を見開いた。
「おや、これは、これは」
「どうかした?チカ」
「どうもこうもないわよ。あなたマイトくんよね?『Gio』の。永松先生を振ったっていう」
「そ、そうですけど」
 初めてサギリの真剣な視線がマイトに向いた。
「へ~~え、あんたがねえ」チカは敵対心剥きだしだった。「で、今頃ここに何の用?」
「あの、ちょっと見学したくて」
「見学ぅ?」
 意気込んだチカをサギリが抑えた。
「よしなさいよ、チカ。こんな子ども相手に」
「だって、この子、先生のオファーを蹴ったのよ。サギリ、あんた腹がたたないの?こんな駆け出しの、女の子にきゃあきゃあ言われていい気になってるアイドルさんのために、舞台は延期になったのよ」
(サギリっていうのか……)
 チカの罵声など耳に入っていないかのように、マイトはサギリのアイスブルーの瞳に釘付けになっていた。

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. 「青のサギリ」第4回

「そうか、考えなおしてくれたか」
電話の向こうの永松の声は嬉しさを隠せない声色だった。今度こそマイトは初舞台を決心したのだった。
「わしのしごきに耐えられるかな?楽しみだ」
「よろしくお願いします」
落ち着いた声でマイトはケータイを切った。
見守っていた『Gio』の仲間のトウヤとチハルは歓声を上げて飛び跳ねた。特にチハルは幼さの残る満面の笑顔だ。
「やったな、マイト!!」
「いよいよ舞台だな」
「なんで気が変わったんだよ」
「……ひと言じゃ言えない」







      第 二 章


 河の流れのように、スムーズだった団員たちが作業の手を止めてざわついた。
「おい、殿様のお出ましだ」
「今頃、よく顔を出せたもんだな」
「何様だと思ってやがるんだ、ド素人のクセに」
 わざとマイトの耳に入るように、ヤジに近いウワサ話が聞こえてくる。
 永松の稽古場を二度目に訪れたマイトだった。
 風当たりが強いのは覚悟していたが、震える足に力をこめて踏み出し、舞台の前に立った。
「片桐舞都です。これから半年間、皆さんと公演させていただくことになりました。舞台のことは何も解からない新米ですが、よろしくお願いしますッ」
 こげ茶のキャスケットを脱いで深々と頭を下げた。
 やがて、団員たちは何もなかったかのように、各自の持ち場へ散っていく。
「主役を引き受けたって本当だったのね」
 声をかけられて振り向くと、先日のアクアマリンの瞳の女性だった。通った鼻筋といい、大きな瞳といい、美人の部類に入るだろう。
「私は峰サギリ。美術のチーフよ。よろしくね」


 握手した手は温かだった。今日は背中の中ほどまであるしなやかな黒髪を垂らしている。と思ったら、器用にくちゃくちゃとまとめて、また、後ろでまとめてしまった。
「二階で先生がお待ちよ」

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. 「青のサギリ」第5回

「おお、来た、来た」
 永松は濃い眉を下げて笑みを浮かべマイトを迎え、殺風景な部屋でふたりは簡易イスに座った。
 ずっしりと重いシナリオが渡された。
 マイトの役は明治の貧しい書生で、父の仇である公爵家に入り込み、軍に情報を流し、革命をもくろむ青年の役だった。政治家の差し向けた者たちとの殴り合いもあれば、公爵令嬢をたらしこもうとして、悲恋に進展して葛藤するシーンもある。
「心理劇だ。心を身体で演じてもらう」
「心を身体で……?」
 想像もできないほど難しそうではないか。
(壇上での芝居さえ初めてなのに……)
 練習しなければならないことは山ほどあった。どくどくと心臓がどよめき、拳に力が入った。
「どうかね?演ってみるかね?」
「……」
「わっはは、完全に順序が逆だな。役に抜擢してから尋ねるとは。だが、わしのやり方はいつもこうでな、オーディションなんぞはヘドが出る」
 太い葉巻に火を点け、スパスパと煙を吐きながら、永松の口調は有無を言わせなかった。
 マイトを手に入れたからには、誰にも渡さぬと、と眼が語っている。何十年も演劇に携わってきた鋭い眼だ。
 この常識外れの巨匠に、改めてマイトは身をゆだねる決心をした。

 それからの出演者、スタッフの顔合わせは淡々と済んだ。
 翌日からは、発声練習から始まった。
(こうなりゃ一からやり直しだ)

 明治時代の書生らしい所作、主役の性格をつかもうとシナリオを読み込む。
 一段一段、確実に身につけていくしかない。マイトは専門の指導係の言うとおり素直に練習に打ち込んだ。


 新曲のCDのレコーディングがやっと終わった。これで舞台の稽古に専念できそうだ。
 スタジオを出ると、真冬の陽射しがアスファルトに鈍く照り返していた。風が冷たい。見上げる空は灰色だ。青はどこにもない。


 初演は初夏だ。その頃には鮮やかな青い空が望めるだろう。
「待てよ、昼メシ行こうぜ」
 トウヤが追いかけてきた。
「チハルは?」
「さあ、何か用事があるとかで急いで行っちまったぜ。あいつこの頃、落ち着きがなくて」
 それはマイトも気づいていた。子どもの頃から一緒にレッスンしてきた仲間だ、いつもと様子が違うとすぐにピンと来る。
「落ち着きが無いと思ったら、ぼんやり考え込んだりしてるんだよな。普段は能天気なのに」
「やっぱりお前もそう思うか、マイト」
「ん、でも、放っておこう。あいつ、思ったより芯はしっかりしてるから」
 ふたりはジャケットの襟を立てて首をすくめながら歩き始めた。
「で、どうだい、稽古の進み具合は」
「この世から消えたい気分だよ。夢の中でも、あのオヤジの怒鳴り声が聞こえてくる」
「はっはは」トウヤは大声で笑い、マイトの背中を大きな手でバンと叩いた。「ま、これも人生修行だよな。なあ、マイト。一度、稽古場を見せてくれないか」
「えっ?」
 気の進まないマイトだったが、トウヤの執拗な願いを断りきれずに約束させられた。

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. 「青のサギリ」第6回

案の定、第一幕から永松に怒鳴りつけられるところを、もろに見られてしまった。
(だからイヤだったんだよな)
 ため息と共に舞台から降りてきたマイトをトウヤが拍手で迎えた。茶化されること間違いなし。
「おい!」ところがトウヤはマイトの肩をつかむなり、部屋の対角線上に立っているサギリを示して言った。
「あれ……女優か?すげえ美人だな」
「違うよ、美術のチーフ。お前、誰でもかれでも女なら美人に見えるんだな」
「バカ言え、あの横顔の整ったのを見ろよ。切れ長の眼といい……女優にしないともったいないぜえ。タイプだぜ♡ でも、あれだけ綺麗じゃ彼氏いるんだろうな」
「無愛想な女だぞ。あんなのを相手にする男の気が知れない」
 いきなり、サギリがカーテンの陰へ身を引くと、その場にうずくまるのが見えた。ふたりは驚いて思わず彼女の元へ走り寄った。
「どうかしたんですか?」
 サギリの顔色はすっかり青ざめて普通ではない。額に脂汗さえ浮かんでいる。
「へ…平気よ。あなたは稽古に戻りなさい」
 お腹を押さえてうずくまったまま動かない。
「平気じゃないでしょう、横になった方がいいですよ」
マイトたちが手を貸そうとした時、メガネのチカがボリュームのある身体を揺さぶって駆け寄ってきた。
「いいわ、私が連れていくから。サギリ、大丈夫?歩ける?」
 ガタイのしっかりしたチカの方がよほど病人も安心しそうだ。サギリを壊れ物のように扱いながら、控え室へ向かっていった。
 マイトとトウヤはぽかんとその場に取り残された。
「どうしたんだろう、いつも頑丈そうなのに」
「美女が苦痛に耐える表情ってのも、そそられるな♡」
「トウヤ、不謹慎だぞ」



 その後二日間、稽古場にサギリは姿を見せなかった。三日目、顔を出した彼女はすっかりいつも通りてきぱきと部下に指示を出して仕事をこなし、永松との打ち合わせにも余念がない風だった。

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. 「青のサギリ」第7回

その日の稽古はいつもより長引いた。
 やっと終わった頃には、深夜も終わりそうな時間だった。
 さんざん永松にしぼられて、のろのろと更衣室から出てくると稽古場の周りにすでにひと気はなかった。暗い二階の非常階段からカンカンとブーツを鳴らし、マイトが降りてくると、階下に何かがあるのが見えた。
 しゃがみこんでいる背中に長い黒髪が扇のように広がっている。サギリだった。オフホワイトのトレンチコートが震えている。
「あの……峰さん?」
 マイトが覗きこむと、この前のように彼女の顔は苦痛を浮かべていた。よほど痛みがひどいのか、下唇を咬んで返事もできない様子だ。
「タクシーで送りましょう。立てますか?そっと…」
 肩を貸し、どうにか道路まで出てタクシーを拾う。彼女のマンションまでは20分ほどだった。
 ロックキーのナンバーを聞き出し、エントランスからエレベーターに乗りこむ。彼女の歩調にあわせなければならないので、のろのろとしか進めない。
 やっと彼女の示す部屋に近づいた時に、前方に人影が見えた。
「サギリ……」
 サラリーマンらしい小ざっぱりしたスーツ姿の男だった。歳は40代半ばか?
 サギリは急に顔を上げると小さな肉食獣みたいな顔になった。
「何の用?帰って!」
「待ってくれ、俺はやっぱり…」
「もう会わないと言ったのは、そっちじゃない。帰って!!」
 わななく手でもどかしくキーを差しこみ、男の目の前でドアを閉める。支えていたマイトごと、玄関に身体を投げ出した。
「サギリ、待ってくれ、話があるんだ、ここを開けてくれ」
 男は長い間、叫び続けていたが、やがて諦めたのか、靴音が遠ざかっていった。ふたりは肩で息をしていた。
「あ、あなたまで一緒に転がりこんじゃったのね」
 やや表情が和んだのは、痛みがやわらいだせいか。
「あのう」
「ありがとう。送ってくれて。助かったわ。お茶でも飲んでいく?」
黒いショートブーツをゆっくり脱ぎながら、マイトを見上げたアイスブルーの瞳は稽古場で見せてくれるのより、かなり親しげだ。
「いえ、ボクはこれで」
「……何事だと思ったでしょ」
 ドアを開けようとしたマイトの背に耳慣れない言葉が響いた。
「私、妊娠してるの」


 自分のマンションへ向かい、ようやく長い冬の夜も明けようとしている街を歩きながら、マイトの脳裏に先ほど聞いたサギリの言葉が何度も聞こえた。
『私、妊娠してるの』
 あまりにも自分から縁遠くで、そして懐かしい言葉だった。
 10歳の時、母親の口から聞いた言葉だ。
『お母さんのお腹にあなたの弟か妹がいるのよ』
 澄んだ青い眼で母親は言った。びっくりした後、嬉しさがこみあげてきたが、不思議で仕方なかった。母親のお腹に触れるのさえ恐る恐るだった。サギリのアイスブルーの瞳は、母親のそれと同じだ――――。
(待てよ)
 足を止める。
(なんで赤ん坊がいるだけであんなに痛がるんだ)
 不吉な予感が頭をよぎった。
 深く考える間もなく、マイトは大通りへとって返し、タクシーを捕まえた。もう東の空が白みはじめている。



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. 「青のサギリ」第8回

マンションの管理人にうまく出まかせを言って、キーを借り、部屋へ飛びこんだ。予感は的中していた。リビングの床に、サギリは外出着のまま意識を失って倒れていた。


「サギリッ」
 真っ先に飛び込んできたのは、黒ぶちメガネのチカである。
 点滴を取替えに来ていた看護師が指を唇にあてた。
「今は落ち着いてますから、眠らせてあげて下さい」
 チカはようやく荒い息を鎮め、蒼い顔で眠っているサギリの乱れた前髪を整えてから、布団からはみ出ている細い手を握った。
 病室の窓から最初の朝陽が射した。
「君……よく気づいてくれたね」
 チカがベッドの脇に立ったままのマイトに背中で言った。
「いえ、ボクは。それより峰さんは、いったい」
 チカは長いこと躊躇ってから、
「普通じゃないの」
「え?」
「子宮外妊娠なのよ」

 子宮外妊娠―――!?

「一日も早く手術しないとサギリの命も危ないのよ。放っておいたら卵管破裂だって。でも、この人頑固でしょう。どうしても赤ちゃん産むってきかないの」
「でも……」
「そうよ。お腹の子なんて最初から絶望的」
 チカは大きくため息をついた。
「そんな身体で、彼女は仕事を?」
「永松先生には内緒よ、いいわね」
 そう言った時だけ、チカはマイトを振り向いて厳しい表情で念を押した。

 不意にけたたましい足音が近づいてきたと思うと、男が飛び込んできた。夜中にサギリのマンションの前にいた男だ。
「サギリ……」
 ネクタイを緩め、ぜいぜいと息を喘がせている。
「工藤さん」チカは簡易イスから立ち上がった。「サギリの同僚の神田チカです。あなたのことはサギリから聞いています。ちょっとお話が」
 男にはチカが連絡したようだ。ふたりが廊下へ出て行くと、病室は急に静まりかえった。
 マイトはチカの座っていたイスにそっと腰を下ろした。
 清々しい陽射しだけが床に忍び寄ってくる。
 眠っていたはずのサギリの目尻から、美しい涙がひと筋流れ落ちた。
「サギリさん……」
 マイトは意識せずに彼女の名を呼んでいた。
「みっともないとこ、見られたわね」眼をつむったままのサギリの声はかすれていた。「お察しのとおり、あの男の子どもよ。もちろん産んではいけない子。病気のせいだけじゃなく、あの人の家庭のためにもね」
 そして、眼を開いてマイトを見た。
「サギリさん、カラ・コンなんかじゃないですね?ボクの母親も生粋の日本人なのに、透きとおった青い眼でした」
 精一杯、微笑んでみせた。男として、そうしなければと思った。


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. 「青のサギリ」第9回

              第 三 章


 その後、半月ほど稽古場にサギリの姿は無かった。
 練習は順調に続いていく。永松もいつもながらの叱咤を飛ばしている。
 マイトは芝居についていくのが精一杯で、チカの姿を頻繁に見かけながらも、サギリについて尋ねる機会はなかなか巡って来なかった。
 練習は三幕めに入っていた。主人公の青年が公爵令嬢の心を奪おうとして、自分の方が彼女のトリコになっていることに気づくシーンだ。
 マイトの長いセリフが続く。
「いかん、いかん!!」永松のシナリオを握った手が何度も叩かれる。「マイト、お前、本気で女に惚れたことないだろう?」
「……っ!」
 マイトは詰まった。図星だ。夢中になるのは上辺だけでいつも空回りして終わる。
 相手役の女優は肩をすくめてもう一度、最初の位置に戻る。
 永松が舞台上へ上がってきた。
「いいか、これは心理劇だ。そんな、心がここに無いような眼で惚れてる女を見つめてもらっちゃ困る」
「そんな、ボクはちゃんと芝居のことを考えています!」
「いいや、考えてない。もういい、下りていろ」
 しぶしぶ演出家の言葉に従った。
「ドンマイ、ドンマイ、コンサート場の貴公子!」
 豪快に笑いながらバン!と肩を叩いたのは、チカだった。今がチャンスとばかりにマイトは彼女に喰らいついた。
「峰さんはどうしているんです?」
 チカの顔からからかいが消えた。
「一週間前、やっと手術が終わったわ」
「じゃあ、もう大丈夫なんですね」
「それが……術後の経過が良くなくてね、もうしばらく入院しなきゃいけないの」
 チカの暗い表情がただならぬことを感じさせた。

 ―――会いたい―――

 マイトの心に蝋燭の火のように、一点の光が点った。
 自然に稽古場の帰りはサギリの入院している病院へ向かった。
 面会時間どころか消灯時間もとっくに過ぎていたが、そんなことは関係ない。
 サギリの個室の前で呼吸を整えてから、ノックした。
 しばらく待ったが、何も答えが無いのでそっとドアを開ける。
 サギリは窓のカーテンの隙間から射しこむ月光をじっと凝視めていた。
「もう……いないの。赤ちゃん」
 寂しげな呟きがもれた。
「でも、私は生きている……」
 サギリの瞳から涙がはらはらと落ちた。そしてマイトを振り向いた。
「峰さん、ボク、なんて言ったらいいのか」
「サギリ、でいいわよ、マイトくん」
 涙に濡れた眼でか弱げに微笑する。
「サギリさん……」
「さん、抜き」
「目上の大先輩を呼び捨てには……」
 ムキになったマイトを見て、彼女はぐい、と涙を拭った。
「呼んでみて」
「サギリ……」
 サギリは、小さく、ふふ、と笑って、
「あなたの本名は?」
「本名のままです。片桐マイト。舞う、に、都と書きます」
「ふうん、いい名前ね」
「母が若い頃、バレエをやっていたとかで」
「それでマイト……か。もし、私が男の子を産んでいたら、なんてつけたかな」
「……」
 マイトはうつむいた。母親になり損ねた傷心のサギリを直視するのは苦しかった。なのに何故、ここへ来たんだろう・
「あなたが凹むことないでしょう」
 サギリは、わざと明るく言いながら、上半身を起こした。
「あっ、まだ無理しない方が」
思わず肩を押し戻そうと歩み寄ったマイトとサギリの眼が合った。彼女の渇いた唇が目の前にある。マイトは吸い寄せられるように、それに口づけた。
「す、すみません」触れただけで飛びのいた瞬間、ケータイが鳴った。
 部屋を飛び出すなり、マイトは駆けながらケータイを開いた。トウヤからメールだ。
『すぐに○○に来てくれ。チハルがヤバい』
 しかし、メールの文字なんか、眼に入っちゃいなかった。
(サギリ……サギリ……なんて細い肩なんだ、なんて冷たい唇なんだ、なんて青い……瞳なんだ)

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. 「青のサギリ」第10回

 机の上には見慣れない物が転がっていた。
 灯りに反射して、注射器が鈍く光っている。
 チハルは赤い縮れ毛をベッドの上に押しつけて突っ伏したままだ。
「これは……!」
 背後のトウヤを振り返り、マイトはチハルの背中と注射器に交互に視線を走らせた。
 トウヤは後ろで縛っていた長い髪をふりほどきながら、うなずき、
「ヤクだよ。チハルが怖いおにいさんから無理やり押しつけられたらしい」
「いつからだっ、チハル!!」
 マイトは彼の背中に荒げた声を投げた。
「やってないよ、やってないよ……俺はやってない」
 顔をベッドに埋めたまま、チハルが涙声で訴える。
「ホントだなっ!!」トウヤの怒号が窓を震わせた。「これがマスコミに嗅ぎつかれでもすりゃ、俺たち『Gio』は破滅だぞっ!お前を脅して売りつけたヤツはどこのどいつだ、言えっ!!」
「~~~~~~」
「泣いてちゃ解かんねえだろうが~~!」
「トウヤ、そう急いで責めるな。チハルはきっと言ってくれる」マイトはトウヤを押さえてチハルのベッドに座った。「チハル、本当に打ってないんだな」
 チハルがコクリとする。
「そんな勇気、あるもんか…」
「よし、信じよう」
 小さな仲間の背をぽんぽんと叩いて、マイトは立ち上がった。
「マネージャーには正直に言っておいた方がいいな」
 冷静さを装って帰途についたがマイトの頭の中は惑乱していた。
(ヤクだって?こんなの世間に知れればトウヤの言うとおり俺たちはお終いだ)
(どうすればいい?)
(誰に相談すれば……)
 考えは空回りするばかりで動揺が抑えられない。その夜、マイトはまんじりとも出来ず朝を迎えた。



「止めだ!」永松の雷が轟いた。「マイト!何度言えば解かる!?これは心理劇だ、そんな女々しい顔で青年革命家が吼えるかっ!」
 出演者とスタッフ一同が銅像のように固まった。
 マイトの顔が蒼白になり、その場に座り込んだ。
「駄目です、ボクには出来ません」
「何を弱音を吐いてるっ」永松がつかつかと歩み寄り、マイトの襟首をつかんで立たせる。「お前になら出来る!!」
「ボクなんかに、あなたの完璧を求めるのはやめて下さい!」
 マイトは顔を背けて永松の手をゆっくり離した。
 重い沈黙が落ちた。
「見込み違いだったか?」
 永松はぼそりと口にした。
 マイトは舞台を降り、肩を落として出口へ歩み始めた。
「幻滅だ!!」
 永松の突き刺さるような声が追ってきた。
 今までやってきたすべての仕事の誇りがマイトの中で木っ端微塵に砕かれた一瞬だった。掌中の栄光がガラスの破片となって足元に散らばっていく。



 重い足を引きずって帰りつくと、真っ暗闇の中、街灯に照らされて美しいシルエットが待っていた。すらりとしたパンツスーツ。
「サギリさん……」マイトは驚いて走り寄る。「もう身体の方はいいんですか」
「さん、抜き」
 彼女はいたずらっぽく笑った。垂らした真っ直ぐな黒髪が灯りに照らされてツヤツヤしている。
「どう?練習の方は。チカから大体は聞いてるけど」
 今日のザマなんか言えるはずない。
「あ、はい。ここじゃ寒いし、俺……いや、ボクの部屋へ汚いけどよかったら」
 心臓が高鳴った。誘ってしまった。エントランスで話してもよかったのに。
「へえ。わりときれいにしてるじゃない。彼女が来て掃除してくれるの?」
 サギリはマイトの狭い部屋をあちこち見て廻った。カーテンや壁紙は、アースカラー、シンプルで物が少ないが、雑貨より緑の鉢の方が多いのは、マイトの趣味だ。
「あのう、ボクに何か用事でも?」
「用事といえば用事かなあ」
 いきなりバッグを床に落として、台所で湯を沸かしはじめようとしているマイトを
抱きしめた。冷え切った手でマイトの顔を包みこんで青い眼で見上げ――――、キ
スした。
「この前の続き」
 三度(みたび)触れ合った唇はたちまち炎となった。
 サギリの眼を射るような白さのしなやかな身体、豊かな乳房、絡みついてくる長い髪にマイトは自分を失った。彼女もまた、背中に爪が食いこむほど抱きしめた手を緩めない。
「マイト、マイト……青い熱だわ、あなた……」

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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