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浪漫@kaido kanata

. ご愛読に感謝いたします。~次回予告~

一年間ものご愛読、ありがとうございます。
当ブログでは、まだ未発表の作品がひしめきあっております。

さて、新しい年からは、いよいよ本で読めなかった人のために、「CROSS」掲載となります。
どうぞ、お楽しみに!

*******

「CROSS」

緑に覆われし「魔都」に戦火が迫り、逃げ惑う人々。
命を守りし者、汝の名は・・・・・。
古(いにしえ)から運命づけられた魂が、今、巡り合う___。


特異な人種「樹魂大陸」の人間は、通常の人種と異なり、男は果実から生まれ、年老いた姿から若返る。
女は女の腹より生まれ出で、男を愛し年齢差を縮めていく。


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次の更新はお正月になります。
少し早いですが、皆様よいお年をm(__)m



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. CROSS本編・主な登場人物デザイン

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. 新連載「CROSS」(本編)第1回

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「つまり男は生まれてまもなく自らの柩を引き取り、自らの柩をはぐくみ、いとおしみ、自らの柩を娶って苦楽を共にし、生を全うするってわけか」
 それを聞いた旅人などはまず、皮肉めかしてそんな口をきくか、二の句が告げずに目を白黒させているかのどちらかだが、共に頭の中は今までの物事の序列を根底から覆されて大混乱に陥っていることはまず、間違いない。それほどに、樹魂大陸に棲む樹魂人種の一生はその時代の人々にとってもとびきり奇異であり、夢物語のようであったのだ。
 男は果実より生まれ、生を全うして後、女の子宮に回帰してゆき、女は人の腹より生まれいで、生を終えて後、果樹の根元へ回帰していくといういにしえよりの神秘の大陸である。人々はまるで樹に咲く花々のように短い命を燃やし、次の世代を結実してゆく。連綿と続くその掟を、樹と人間が渾然一体となって繰り返している。しかも男は枯体から若者に、そして女は若き身体より老いて男とは逆の人生を辿り、双方は交差する人生のつかの間のあいだだけを夫婦として暮らす。その煌く時間を、あるいはその在り方を、樹魂の人々は呼ぶーーーーーーCROSSと。



         一 樹魂の女

 俺がそれを思い出すのはいつだって唐突だ。
 ある時は暖炉の側で編み物をする母親の足元で積み木遊びに興じている時だったりする。
 「ラズレイって誰?」
 俺の片言に、聞き取れない母親は蕩けるように微笑む。かくして答えは得られない。
 ―――――また異なる時代、
 出撃十五分前、慌ただしい廊下の軍靴の響きを耳にしながら司令室の脇の小部屋で肩章の上に女性上官の白いかかとを乗せ、ひと仕事の真っ最中。
 「む」
 突然、頭の中にそれは閃く。
 「あン、やめないで。今やめたら懲罰房行きよ」
 「・・・・了解」
 彼女の中に強力バズーカをぶっ放しながら、俺はそれを反芻する。
 (ラズレイはどこだ)
 ――――――また時を隔て、
 その時の俺は臨終五分前。白いシーツの中から枯れ木のような腕をやっと持ち上げ、
 (ラズレイ・・・)
 声を出そうとしても唇がかすかに動かせたかどうか。見守る老妻や息子、娘、孫たちの顔が闇に没していく・・・・。
 ――――――また別の人生では、
 毛むくじゃらのゴリラグモのような男を相手に、薄汚い場末のホテルで春をひさいでいる時。
 「おっさん、ラズレイって奴、知ってるか?」
 「知らねえな。おめえのイロかい、坊主」
 俺は首を振って諦める。
 ――――――また、遠く隔たった国でのこと、
 ぽかぽか陽気のプールサイドで籐椅子に身を伸ばして新聞を読みながら、芝生の上でふざけあっている幼い息子たちの歓声ひとしきりの瞬間、脳裏を突き抜けるその名。
 「どうしたの、ダディ」
 「ん?ああ何だった、テムシド」
 「何回呼んだと思ってんの、もういいよ」
 俺はまたぼんやりとプールの光踊る水面に見入る。


 ラズレイーーーーーラズレイーーーーーー
 恋うる相手か、永遠の敵か、師か、庇護するべき者か、はたまた仇なのかーーーーーー。
それが誰なのか、俺という人間にどう位置するのか全く判然としない。だが、いつの人生においても奴を見つけ出し、奴に関わっていくことが俺の生まれてきた理由、生を授けられた使命だと確信できるのだ。そしてそれを成し得ぬうちは未来永劫、俺の孤独な彷徨が終わる事がないだろうということもーーーーーー。
 ラズレイ・・・・奴もまた、俺の名を知っているのだろうか。

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. 小説「CROSS」(本編)第2回

沈黙した闇の底でひたひたと船の横腹を洗う波の音がする。
 その音は執拗に耳にまとわりつき、船室の陰鬱な空気をさらに重くしていた。橙色の薄暗いランプの灯が船の揺れにあわせてちろちろと強くなったり消えかかったりを繰り返しているが、そこに視線をやる者とてない。船室には数台の簡易ベッドが設けてあったが、この混雑に到底足りるわけはなく、旅人たちは皆、毛布を身体に巻きつけてただひたすら固く目を閉じ、この永遠に続くかのような漂泊が終わるのを待って床の上にサナギのように小さくなっていた。
 その湿っぽい床の片隅で、膝を抱えてうずくまっている青年がある。薄汚れた外套の襟を立て、誰かに何かを懇願でもするように顔を伏せ、長い夜を耐えているようだ。膝を抱く細い指が小刻みに震えているのは悪夢にうなされているためか、寒さと不安に眠りにつくことができずにいるためか。
 外は果てしの無い暗い海が波も密やかにのっぺりと続いているに違いない。
 青年の鼻先に、ふと温かい湯気が香った。のろのろと帽子のつばが持ち上がり、外界を窺う眼が覗く。怯えた色を湛えているが澄んだブルートパーズである。その眼が捉えたのは真鍮のマグカップを近づけた、まだ若い赤毛の女だった。女はそばかすだらけの顔で相好をくずすと、もう一度青年にカップを差し出して強引に持たせ、彼の横に腰を下ろした。
青年はおどおどと女に目をやった。
 「樹魂の港から乗ってきたね」
 青年の目に火が点いた。カップを放り出し、帽子ごと頭を抱えてネズミがくびり殺されるようなか細い呻き声を絞り出す。
 「真っ平だ、もう真っ平だ。墓場と向かい合って暮らせというのか。一日一日身体が縮み知識を欠落させていくのにへらへら笑って無邪気に過ごせというのか。回帰し、消滅するその日まで・・・・・。ああ、なんて嫌な末路だ」
 後はただ、髪をかきむしり激しく膝に顔を押しつけ震えるばかりだ。
 そばかすの女はため息をついた。
 「ほんと・・・・真っ平だよね。お互い選んでもいないのにさ」
 しばらくして青年のくぐもった声が、「あんたも・・・か」と小さく尋ねた。女は泥のような液体を啜り、険しい眼で吐き捨てるように言った。
 「あんな飲んだくれを回帰させてやるなんて、虫酸が走るよ、まったく」
 ひときわ船がかしぎ、薄っぺらい底板が悲鳴をあげた。
 老いた船は灯火ひとつない闇の海を、流れ藻のごとく漂っていった。

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. 小説「CROSS」(本編)第3回

かの船が何日か前に後にした港もまたその夜、濃厚な闇の懐に抱かれていた。闇は白い霧をまとわりつかせ、霧は海面にとぐろを巻き、旅人たちは旅情を味わうなどもっての外とばかり艀を降りると外套の襟を立て、足早に船着場を後にする。
 夜中とはいえ、活気の無い港である。港といっても大型船が横付けされる岸壁も無ければターミナルも無い。閉鎖的なこの大陸の気質を象徴するように、週にたった一度の中央大陸からの定期連絡船が寂しく海上に一隻、浮かんでいるばかりで他には貨物船らしき船影も見えない。もっとも、今夜のこの霧ではすぐ前を歩く人間の背中をついていくのが精一杯だ。
 ぼんやりしたガス燈の足元を、先を急ぐ旅人たちの列が無口に行き過ぎる。その中に、行商人でもない、物見遊山とももちろん異なる妙なふたり連れの男が混じっていた。
 「やけに冷えるな。樹魂は温暖気候だと聞いていたんだが」
 若い方の男はしきりにみずばなをすすりあげ、外套ごと身体を抱きしめるようにして歩いていたが、先を行くもう少し年かさの、真昼なら通行人がやや目を止めるに違いない逞しい体躯の黒髪の男は、微塵も寒さなど苦にならない歩調である。
 「だらしないぞ。男だろ、キャスケード」
 「何だと」キャスケードと呼ばれた若い男は短気そうに、キツネ色の長髪を振り払った。「いったい、誰のせいでこんな辺鄙な樹魂くんだりまで出稼ぎに来たと思ってるんだ。今度こそちゃんと金になる仕事してくれよ、ジャレツ。今度踏み倒されたりしたらただじゃおかんぞ」
 「わかってるさ。―――おっと、この辺じゃないか」
 ふたりはいつしか上陸した波止場から町に入り、酒場がひしめきあう狭い小路に足を踏み入れてきていた。町の名と店の名を古びた看板で確かめ、目当ての待ち合わせ場所であることを確かめると、ジャレツは恐ろしく厚い木の扉を押した。途端に、酒場特有の蒸れた空気がふたりの冷え切った頬を包んだ。さほど広くもない、黒く低い天井の店内に、三十人ほどもぎゅうぎゅう詰めになっていたろうか。聞きなれぬ楽器の、それでも庶民的とすぐわかる音色が渦巻き、これもまたどこの大陸でも変わらぬ竜の吐息のような酒の匂い。太ったおやじ、大口の酒場女。赤銅色の肌をした、世界中の海をまたにかけてきた男たち。腕に刺青のある、髭だらけの男が泥酔して隅にのびているのさえ、万国共通の酒場のオブジェだ。
 「何しましょ」
 カウンターの端に空席を見つけたジャレツとキャスケードは、常連たちの注視を浴びながら椅子に登った。
 「ドラゴン・モルツなら何でも。ここの名産は?」
 キャスケードが尋ねた途端、赤ら顔のマスターは身を乗り出し、
 「おや、よその大陸の人だね、あんたたち。行商人以外は珍しいからすぐわかるよ。で、そっちの旦那のご注文は」
 「同じものを」
 ジャレツは外套を脱ぎもせず、店の隅々まで油断のない眼を巡らせた。
 「ところでおやじ、俺たちは人と待ち合わせをしているんだが」
 「ほ、どんなお方とですかい」
 その返事は背後から得られた。ふたりが振り向くと、長い民族衣装を身に着けた、蜂蜜色の髪を垂らした大柄な女が不機嫌そうな面構えで立っていた。瞼が朱鷺色に染まっていることで彼女がすでに竜の酒の虜になっていることが知れた。
 彼女はずけずけと男たちの名を言い、自分はハデュア、と名乗った。眼で問うたジャレツにキャスケードは頷いてみせた。間違いなさそうだ。
 「ちゃんと見つけてくれるんでしょうね」
 凄味のある翡翠色の眼が尋いた。ろれつがまわっていない。
 「ご安心を、お嬢さん」キャスケードが席を譲りながら言った。「ジャレツとキャスケードのコンビといえば人捜し稼業じゃ白鳳大陸で右に出る者はいませんよ」
 「捜し出せなきゃ代金は払わないわよ」
 ハスキーな声で念を押すなり、グラスを握りしめたままカウンターに突っ伏してしまう。金の巻き毛が乱れて広がり、苦しげな息づかいを繰り返す。キャスケードとジャレツは顔を見合わせ、そろってため息をついた。
 「おやじ、このレディ知ってるかい」
 おやじは小首をかしげ、ひょっとしてハデュア先生かな、と呟き、丘をひとつ越えたイエロウグローブ村へ行って尋ねてみるように言った。幸い客のひとりの農夫が、そちらの方面へ帰るので幌つきの馬車に乗せてやろうと申し出てくれた。
 「やれやれ、のっけから牝虎の介抱とはな」
 ジャレツが完全に正体を失った女の身体を軽々と肩にかつぎ上げ、キャスケードとともに路地裏に止めてあった幌馬車に乗り込むと、毛足の長い大馬はのろのろと動き出した。
 車内に積まれていた毛布にくるまっても、この大陸の深い夜の寒さは骨にまでしみいってくる。竜の吐息の酒だけが頼りである。尻の痛くなる凸凹道を、いつ分解するか判らぬおんぼろ車は根気よく夜通し駆け、やがてぎょ者席にぶら下げられたランプの油が切れかけた頃、闇はようやく溶け始めた。

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. 小説「CROSS」(本編)第4回

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「お・・・お、牧歌的」
 幌の後尾から顔を覗かせたキャスケードが思わず感嘆の声を洩らしたのも無理はない。日の出を待ち受ける空は黄金の酒を満たした大杯をぶちまけたようで、その下に広がる台地は、地平まで見渡すかぎりの果樹の列だった。さほど高くはない枝には差し初めた陽に輝く、黄金色の、人の頭ほどになる果実が朝露に縁どられ、すずなりに成っている。見慣れぬ果実だが、きっとみずみずしく濃密な味わいに違いない。
 「どれ、朝飯代わりに」
 低い枝をくぐりぬける際、キャスケードがひょいと実に手を伸ばしかけた時、烈しい声が飛んだ。
 「駄目ッ」
 車の床板の上に、死んだように眠っていたはずの女が怒りに燃えた眼で、キャスケードの腕を金縛りにした。もいでいれば、その場で相手を殺しかねないほどの剣幕である。ジャレツはその稲妻のような横顔をじっと見つめた。
 それに気づいたのか、女も傍らのジャレツに視線を移し、決まり悪げに緊張を解いた。至極純情そうな面持ちが垣間見えた。
 果樹園は延々と続き、こうも無辺の単調な景色はまるで海の上にいるかのような錯覚を乗っている者に起こさせた。
 「―――――で、誰を捜しゃいいの」
 何回目かのキャスケードの質問に、ハデュアはやっと口を開いた。
 「私の伴侶・・・」
 「人妻なのか、あんた」
 キャスケードの無遠慮な驚きの声にも動じず、女は血色の悪い顔で床を見つめていた。
 「もう四百日以上も行方不明のまま・・・・。ラズレイ・・・ラズレイ・・・」
 耐え切れず両手で顔を覆い泣き崩れた女の洩らした名が、ジャレツの総身を貫いたことを、長年相棒をつとめるキャスケードさえ気づかなかったのは、彼が感情を秘めることを習いとしているために他ならない。
 やがて収穫車がずんぐりとした牛に引かれて砂利道を出かける頃になると、陽も高くなり気温はうなぎ登りになっていった。キャスケードは甲高い叫び声を上げるなり、幌馬車から飛び降りた。臀部の痛みが限界にきたらしい。思い切り伸びをして、そのまま小走りに轍の上を跳ねながら追ってくるさまは、まるで少年のようだ。
 一本の果樹の根元に、白髪の老人が杖の上に両手を置いて腰を下ろしていた。そばでは
三歳くらいの幼女が地面に落書きしている。キャスケードが近づいていくと、女の子は少し驚いて老人の背中に隠れた。
 「ごめんよ、爺さん。お孫さん、脅かしちゃって」
 「孫じゃない、こりゃわしの妻じゃわ」
 老人は歯の無い口元をもぞもぞと動かして、泣き顔のような笑みを青年に返した。キャスケードが幌馬車に追いつきながら、中のジャレツに肩をすくめてみせた。
 「あの爺さん、モウロクしてる」
 ジャレツの方は斜め前に陰気な顔でうずくまっている女から、毒矢のような視線が鋳込まれてくることに気づき、息苦しさを覚えていた。
 (虫の好かない野郎だなってツラだな)
 周囲の人間がどんなに白眼視しようと、今さら動じたり傷ついたりするような性格や育ちでもなければ年齢でもない。だが、この二日酔いの女の眼からは逃れたくてじっといたたまれぬ心地がしてくるのだった。
 果樹園に挟まれた一本道はやがてゆるやかな勾配をたどり、行く手にこんもりとした森が見えてきた。
 「ここで結構よ」
 女は農夫に手短に礼を言うと、馬車を降りた。ジャレツと、駆けて来て汗まみれのキャスケードも彼女の後ろについて森の中へ入る。果樹園から続いた木立という風情の、ひと群れの森の木々にもあの果汁の滴りそうな巨大な果実が、そこここの枝に実っているのだった。大人十人かかっても手をつなげるかという、ひときわ大きな樹が一行の前に立っていた。見上げると、幹に沿って丸太造りの住居が数軒、樹と渾然となって造られており、それは枝に設えられた小禽の巣箱を連想させた。
 ハデュアは砂色の長い上着を脱ぎ捨てて、樹を仰いだ。手の甲で鋭く金の髪を振り払い、淡い緑の耳たぶをかいま見せる。白い喉をまっすぐ上へ向けて立つ姿は金糸銀糸で織られた幅広のサッシュと純白の衣に覆われながらも、はちきれんばかりの成熟した肢体をふたりの男に焼き付けた。
 やがて彼女は首を垂れ、ひどくぶっきらぼうに幹に沿って設けられた木組みのらせん状の階段を登り始めた。男たちも、後に続いた。依頼人から泣きつかれることはあっても、決して歓迎されたためしの無いふたりだが、今回は輪をかけて招かれざる客という感じだ。
 巨木の中ほどまで登ったところで、桁外れに大きいウロがあり、洞窟のようにぽっかりと暗い口を開けていた。こぶこぶとした木肌に囲まれたそれは、たっぷりと澄んだ水を抱いて底には朽ち葉をしこたま溜め込んでいる。
 「ひゃっほう」キャスケードの顔がたちまち輝いた。「埃と汗みずくでひと風呂浴びたかったんだ」
 ジャレツの止めるまもなく、彼は革細工のペンダント一本を残して着ていたものを全て脱ぎ捨てると、ウロの泉に飛び込んだ。

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. 小説「CROSS」(本編)第5回

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「これは・・・」
 水じゃない、樹液だ、と全身を嗅ぎまわり、液体をすくってキャスケードは検分した。樹液といっても粘りはなく水のように指の間をすり抜ける。それでいてえも言われぬ樹の香を発散しており、薄い瑠璃色を帯びているようだ。キャスケードは砂に転がる子犬さんがらに、この上ない森林浴を味わって、手足を大の字に伸ばして浮かんだ。
 「仕方ない奴だな、ご婦人の前で」
 思いつけばすぐ行動する年若い彼を、ジャレツはきかん気の弟にでも投げる優しい眼差しで見つめる。
 「頭が痛むから先に行くわ。最上階だから」
 不機嫌な顔からいっそう不機嫌な声を出してハデュアが言った時、頭上から別の女の声が降ってきた。
 「あれまあ、ハデュア先生」
 葉の隙間から、ベランダで洗濯物を干す初老の女の姿が見えた。女は太った身体を揺すぶって急いで螺旋階段を下りて来た。背には小さな赤ん坊をおぶっている。
 「帰っていらしたんですか、まあまあお疲れさま。―――で、ラズレイさんは見つからず?まあまあ、何と申し上げればよいか」
 初老の女は疲れきったハデュアの肩を抱くようにして慰めると、ウロの畔に立つ、見慣れぬ大柄で強面の男と、泉に浮いている全裸の男とを交互に見やり、人の良さそうな顔に警戒の色を浮べた。
 ハデュアが察して、
 「私の客人よ、ベオドラ。捜すのに疲れてしまったから人に頼むことに下の。不本意だけれど」
 「不本意な客で悪かったね」
 キャスケードは水面で唇を尖らせた。
 「そりゃずいぶん頑張りなすったのは、私がよく知っていますよ、先生」ベオドラは涙ぐんだ。「でも先生お一人じゃあの樹都中を捜すのはどうしたって限界というものがあります。専門の方に任せてお家で待っている方が利巧ってもんですよ。いてもたってもいられないお気持ちはようく判りますけどねえ。まったく、ラズレイさんも迷いが吹っ切れたらさっさと帰ってこられたらよろしいのに。麻疹みたいなもんなんですよ。うちの亭主だって」と、背中の赤ん坊をちらと振り返り、「ラズレイさんくらいの年頃には二度、家出しましてね、結局は私のところへ戻るしかないくせに。ねえ」
 キャスケードは濡れた髪のまま茫然と泉の中へ立ち、
 「おい、あの婆さんもかい」
 ジャレツにとも自分にともつかず洩らした。ベオドラと呼ばれたその初老の女がハデュアのために食事を用意してくれるというので、一行はやっと最上階へ向かった。

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. 小説「CROSS」(本編)第6回

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樹の上の住居は、見かけは粗野だが内部はランプしかないものの、快適そうな住み心地らしい。ハデュアの家は、恐ろしく太い枝から枝に棟が点在し、部屋数も多い。その中の一室がジャレツとキャスケードにあてがわれた。
 ふたりが樹魂の料理に舌鼓をうってひと息つき、別棟の居間に呼ばれて行ってみると、ハデュアはまだ蒼白な顔でぐったりと長椅子に掛けており、食卓の品々にもほとんど口をつけていないようだった。
 「捜すのはあんたの夫、ラズレイといったな」
 ジャレツは彼女の真向かいの椅子に腰掛け、やっと仕事の話に入った。

 「ええ、ラズレイ・ラズロ。カウントダウンエイジ十九歳。植物学者を退官して、今は学生よ」
 「行方不明になったのは?」
 「約四百日になるわ。樹都への巡礼の旅に出て、それっきり」
 「失踪か、誘拐か、何か思い当たることは」
 ハデュアは気だるげにかぶりを振った。
 ジャレツは彼女からしぶしぶ許可を得てラズレイの部屋に入った。植物学者らしく、それに関する膨大な数の専門書と資料が壁一面の書架に詰まっており、植物サンプルも山積みされている。プライベートな品々も、決して華美でない重厚なデザインの、趣味の高い物ばかりで、それらは愛着を持って使いこなされていた。
 「彼の写真は」
 ハデュアは戸棚から大切そうに、古い写真帳を出してきた。
 セピア色の最初の写真には、初老の男がまだ目も見えぬらしい赤ん坊を抱く姿。
 「私がラズレイの元へ嫁いできた日の記念写真」
 ハデュアの眼に初めて女らしい涙が浮かんだ。その後の写真には赤ん坊が成長していくにつれて、常にかたわらに寄り添う中年紳士の姿があった。キャスケードはハデュアとジャレツの間から写真帳を覗いていたが、徐々に身を乗り出し、
 「おい、ジャレツ」
 ついに洩らした声はしゃがれていた。写真の中の赤ん坊はやがて愛らしい幼女となり、華のような美少女となって、はっきり現在のハデュアの面差しを乗せてくる。だが、かたわらの男のグレイまじりだった頭髪は濃く艶のあるブラウンに、そして顔の皺もなくなり、少女が幼げな顔立ちをすっかり脱ぎ落とし成熟した女になると、男も同世代になった。その頃になると、ふたりは誰の目から見ても立派な一対の男女だった。学者社会の社交の場や、出かけた先で写真に治まったふたりの姿は至極仲むつまじい様子を察するに充分だった。やがて穏やかに、彼らに変化が訪れる。ハデュアの方はますますあでやかに美しく、男の方は年々若返り、青年の輝かしい体型と面差しを持ってくる。最近の写真では、ふたりはどう見ても数才年の離れた姉と弟という感じなのだ。
 「この写真を借りてゆく」
 ジャレツはラズレイが行方を絶つ直前の、若々しく活動的な彼の写真を選んだ。
 「これが全財産よ」
 彼女は卓上にずっしりとした皮袋を置いた。中には砂金が詰まっていた。

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. 小説「CROSS」(本編)第7回

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「この大陸では男は爺さんから若者へ(成長)するのか」
 キャスケードは部屋に戻ってジャレツとふたりになるや、裏返った声で相棒に」くらいついた。 
 「つまり、そういうことだ。俺も旅のジプシーから話には聞いていたがーーーー。樹魂の男は果実より産まれーーーーほら、お前が食おうとしたあの実だよ」
 キャスケードは仰天を通り越し、すっかり生気を失くした。
 「じゃあ、最後は赤ん坊に・・・」
 「そして、妻の子宮に回帰して一生を終えるんだそうだ」
 開け放たれた窓から、夕暮れの香気が入り込んできた。今夜もまた、ダイヤモンドの様な星々が煌く下、この神秘の大陸は凍てつくのだろう。
 「そりゃ、ラズレイでなくとも逃げ出したくなるぜ」キャスケードは胸中の動揺を鎮めようとでもするように卓上の酒瓶をつかみむと、情熱色の酒をグラスに注ぎ、あおった。「あン中に閉じ込められるなんざ、ふるふるごめんだ。それもカウントダウンされるだけに恐怖だぜ」
 「惚れた女の胎内に回帰できるのならそれもよかろうぜ」
 ジャレツは蔦の絡まる窓を閉めながら言った。
 「惚れた女!」キャスケードは頓狂な声で、「惚れた女!そんな言葉をあんたの口から聞くとは今の今まで夢にも思わなかった」
 「そりゃご挨拶だな」
 「女なんか夢幻の葉と同じで、そん時いい思いすりゃそれでお終いじゃないか」
 「まあいいさ」ジャレツは苦笑してから考え込み、「少なくともあのラズレイはそうは思ってなかったはずだ、あの写真から察する限り。何が彼に妻を置き去りに、しっそうさせたのかーーーーー」
 手がかりは写真と、巡礼の旅に出たということだけだ。この大陸では、人は一生に一度都――――樹都―――――にそびえ生えている金剛樹に詣で、それを護る樹守の聖なる掌を額に置いてもらうという巡礼の旅に出ることが最高の名誉であり、樹魂人に生まれてきた者の人生の目的でもあるのだった。ラズレイもまた、熱い信仰心を抱いて旅立ったのだろうか。それとも他に何かがーーーーー。
 キャスケードの抱え込んでいた酒瓶が空になった。
 「どれ、調達してくるか」
 彼は危うい足取りで階段を降りていった。家の中はすでに迫りくる紫のとばりのため暗く没していたが、居間の細く開けられた扉からはマントルピースの火焔の踊る影が洩れている。キャスケードは覗くともなしにそっと息をつめて扉の裏側に立った。
 ハデュアが幅広のサッシュととろりとした布地の民族衣装のまま、揺り椅子に、陸に打ち上げられた軟体動物さながらに伸びていた。今朝方あれほど二日酔いに悩まされていたというのに、また飲んでいるらしい。グラスが絨毯の上に転がっていたが、それを拾うのさえ億劫ならしく放置したままだ。代わりに彼女の右手は息づく豊かな胸元に差し入れられ、左手は椅子の肘掛に乗せられた片脚の付け根に差し入れられていた。あえかな声が彼女の口から洩れた。マントルピースの炎が爆ぜ、その整った横顔を官能的なオレンジ色に浮かび上がらせた。まるで彼女自身、灼かれているかのようだ。
 キャスケードの身体の芯に炎が飛び火し、胸苦しさを覚えて彼は立ち去ろうとした。これ以上その場にいると自分でも歯止めが効かなくなるのは判っていた。ところがその刹那、
 「待って」ハデュアのハスキーな声が呼び止めた。「あんた、あの男とデキてるの」
 キャスケードは戸口の柱に背をもたせかけて、口元を歪めた。この時、そうだと答えれば次の事態は避けられたであろうに、彼は正直に答えてしまった。
 「よく間違えられるんだけど、俺とジャレツの共通点は大の女好きってことかな」
 「じゃ、来て」
 虚ろな目を炎に当てて、女は言った。そして耐え切れぬように唇を震わせ、声を押し殺して泣き始めた。
 「来て・・・。淋しいの。どうかなってしまいそうなのよ」
 嗚咽で悩ましい肩が上下した。磁力に吸い寄せられるように、キャスケードの足は踏み出していた。
 「そりゃお安いご用だけど何せ樹魂の女性とは経験がないもんで」
 ハデュアは泣くのをやめて青年の鋭い頬の線を見上げ、「馬鹿ね」と言って小さく笑った。その微笑が消えぬうちに、キャスケードの腕は猫のようにすばしこく音も立てずに彼女の背中に滑り込み、細い首を捉えて金髪に隠れた淡い翡翠色の耳朶を唇にくわえた。
 翡翠色のはずが、まるで紅葉したように炎の色を映して染まっているのだった。

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. 小説「CROSS」(本編)第8回

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 「どこまで酒をもらいに行ってた」
 暗闇の中でジャレツの不機嫌な声が青年を待ち受けていた。
 窓からは昇りはじめた月が鼈甲色の光を投げている。キャスケードは返事もせず酒瓶を卓上に置くと、窓辺に寄った。気だるそうな肩の線が月光に縁取られ、艶かしいシルエットを浮かび上がらせている。
 「仕事をしくじったり、番狂わせが起きるのは決まってお前の女問題が原因だ。ほどほどにしろよ」
 つい先ほど別棟の居間で起こった気まぐれな情事をジャレツは見通しているようだった。相棒は拗ねたように黙りこくっていた。ジャレツは明日発ち、一路ラズレイの足跡を辿りながら樹魂の都に向かうことを告げた。地理にも通じぬ初めての大陸では、よほどの心構えを持って旅立たねば彼の行方はおろか、自らの道程さえ見失ってしまう危険さえある。いかに人捜しにかけては百発百中と言われるジャレツといえど、その勘がいつも閃くとは限らない。彼の緊迫した低い声からも、明日からの仕事がいかに今までと違って、困難かが伝わってきた。長年、生活と行動を共にしてきた若い相棒にはそれが痛いほど理解できた。
 ―――――が、彼は言った。
 「ジャレツ、俺はここに残る」
 ジャレツの息がひそめられる気配が闇の中に立った。
 「キャスケードーーーーーー?」
 「彼女をひとり置いてはいけない。いや違う、俺はハデュアと別れたくない」




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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
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家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
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技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
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結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
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が、コンクールに落ちる事、数知れず。
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諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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