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浪漫@kaido kanata

. 短編小説「夕陽に輝く名前文字」第1回

☆まえがき☆作者より。

普段、大きな事件に巻き込まれているジャレツとキャスケードが、日常、どんな旅をしているのか、ちょっと覗き見したい気分で書いた作品です。

特に、超プレイボーイのキャスに、クソまじめな女の子をぶつけてみたら、どう反応するか、試してみたかったのです。


******************

「ただいま」
 耳に優しいいつものドアベルの音と、黄金色の香ばしいパンたちが出迎えてくれたというのに、オリ
ビナの胸には暗い雲が立ち込めていた。
 「お帰り、遅かったねえ」
 ひっつめ髪の母親がトレイにパンを並べながら慌ただしく言う。オリビナの家は村で立った一軒の
手作りのパン屋なのだ。
 「疲れているようだねえ。今日もひどかったのかい?すぐ夕食にしようね」
 粉だらけの手で母親がオリビナの顔を包み、眺め回す。
 「いいわ。おなかすいてないの」
 オリビナが足取りも重く階段を登ろうとすると、奥の釜場から父親の野太い声が飛んできた。
 「パン屋の娘が背伸びして村の小学校の女先生になったりすっから苦労するんだ。人間にゃ分って
もんがあるからな、黙って粉こねてりゃいいものを難しい本なんぞ読みおって」
 職人気質の父親が勉強好きな娘を無理解なのはいつものことだが、今日はいつもよりひどいようだ。
オリビナはそっと母親の耳元に、
 「何かあったの?」
 「裏の連中が二ヶ月ぶりに帰ってきてねえ」
 「じゃあ、家賃が払ってもらえてよかったんじゃないの」
 「それが駄目だったんだよ。空っぽなんだって。まったくいい歳の漢が二人そろって何の仕事してるんだか、人捜し稼業だとか言ってたけど」
 「何が人捜しだ。若い方なんぞしょっちゅう酒場や娼館に出入りしてるそうだぞ」
 一段と不機嫌な父親の声が飛んできた。
 オリビナは肩をすくめた。


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. 短編小説「夕陽に輝く名前文字」第2回

二階の自分の部屋に入るとよけいに疲れが増したようだ。愛用の牛革かばんから、世界の紀行本を取り出し、ページを繰ってみる。いつもは開くとわくわくする愛読書なのに、今日は心が晴れない。
 オリビナは自分の考えの甘さに舌打ちしたい思いだった。この秋から、希望に燃えて村の小学校に赴任したものの、十数人の悪童どもは、ついこの前まで同じ教室で机を並べて勉強していたパン屋の娘を
、そうやすやすと教師とは認めてくれなかった。
 まだ十七歳の娘ならなおさらだった。
 特に鍛冶屋の末っ子と煉瓦職人の次男坊の態度がひどい。登校してくること自体がまれなのだが、たまにやってくるとオリビナめがけて集中攻撃だ。
 カエル、トカゲの類はもう卒業したらしい。
 黒板一面の泥を塗りたくる、生徒全員の石版を砕く、などは生易しいほうだ。しかしスカートを破かれようが顔に炭を投げつけられようが、決して負けないオリビナだ。それより、彼女が一番悲しいのは
文字を書いたものーーー書籍を破られることだった。
 表紙が切り裂かれたり、中の紙面を引きちぎられたりすると、文字のひとつひとつの悲鳴が聞こえてきそうで、胸がきりきり痛んだ。
 涙ながらにやめてと訴えても、親に相談しても、悪童どもの悪さは一向に勢いをなくす気配がない。
 彼女は着替えもせずベッドに身を投げ出した。つやつやと濃いブラウンの巻き毛がシーツの上に広がり美しい。しかしせっかくの美しい髪も、本の虫だったツケなのか褒めてくれる恋人もいない。おつむが空っぽでも、お色気たっぷりのプリスなど、いつも取り巻きに囲まれて歩いている。うらやましいわけではないが、こんな夜は乙女心が揺れる。
 彼女はふと窓の外へ目をやった。
小さな中庭を隔てて、別棟の屋根裏部屋に鼈甲色の明かりが点いている。例の人捜し稼業の二人組みが間借りしている部屋だ。
 青年と呼ぶにはやや大人になりすぎた、黒髪に黒い瞳の素晴らしい体格の漢と、キツネ色の髪に透けたブルーの瞳、目の覚めるような鼻筋の十六、七の若者だ。
 半年ほど前、ふらりと村にやってきて物置の二階に住まわせて欲しいと言ってきた。
 千陸路の果て、雪鶏の都から来たという。
 部屋とも呼べない場所が家計の足しになるならと承知したものの、一度も家賃を納めてもらったためしがない。いったいどういう漢たちなのだろう。
 オリビナはろくに口をきいたこともない。

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. 短編小説「夕陽に輝く名前文字」第3回

「つつつつーーーー」
 作業台の前で、急に顔をしかめて腰に手をあてた父親がそれきり動かなくなった。持病のぎっくり腰
らしい。
 細身のオリビナと母親にとって、作業場から樽体型の父親を寝室に運ぶだけでも大仕事だった。
 「困ったねえ。今日は村長さんの家で村祭りの打ち合わせとかで、たくさん注文があるんだよ」
 母親は泣きたい顔だ。
 「じめじめしてても始まんないわ。今日はちょうど小学校も休みだし、私も手伝うから二人でやろう、母さん」
 オリビナは白いブラウスを腕まくりして、豊かな髪を三角巾に押し込んだ。
 とはいえ、パン作りの作業は力仕事である。粉袋を運ぶことさえ、女にはやっとだ。それでもオリビナと母親は会合に間に合わそうと必死だった。
 父親が心配のあまり重い身体を引きずって作業場を覗きにきた。
 「ああ、違う。そうじゃない、オリビナ、もっと腹に力を入れてこねるんだ」
 さんざん怒鳴られ、やっと生地を釜に運ぶ。額に玉のような汗を浮かべたオリビナが、うっかり足を滑らせたのはこの瞬間だった。
 (駄目!)
 真っ白いパンたちが床にちらばるのを覚悟して目を瞑った。----が、そうはならなかった。
 オリビナが恐る恐る目を開けるとたくましい腕がトレイを支えていた。
 裏の間借り人、黒髪の漢だった。
 彼は無言でオリビナの手からトレイを抜き取り、さっさと何段ものトレイを釜に差し入れていった。そして、釜の扉を閉めるとあっけに取られているオリビナの父親に向かい、
 「赤い焔と白い熱、三十黄刻ーーーでいいか」
 ぶっきらぼうにたずねた。
 「あーーーーああ」
 父親は腰の痛みも忘れてうなずいた。
 「後、何を作ればいい」
 「海老デニッシュを百個と珊瑚クリームロールを五十個、夜までに」
 「わかった。親父さん、休んどきな」
 漢は短く応えると、倉庫から粉袋を担いできて黙々と計量を始める。
 「あのーーーー」
 オリビナがおっかなびっくり話しかけると彼女の聞きたい事を見透かしたように、
 「期日に家賃を払えない詫びのつもりだ」
 真っ白い歯を見せた。
 漢の手際は父親が感心するほどで、オリビナと母親はいつしか彼の指図の下で、懸命にパンを作り続けた。
 途中、窓の外に相棒が帰ってきたのを認めた黒髪の漢は、声をかけた。
 「おい、キャス、お前も手伝え」
 キツネ髪の若者はじろりと一瞥をくれただけだった。
 何を物好きな。
 そんな蔑みの色がちらりと混じり、和気あいあいとした雰囲気を妬む青い焔が目の底で燃えていた。
 (キャスって言うんだ、あのキツネの尻尾)
オリビナは苦手だな、と思った。
 顔立ちは美しくとも、その目つきは小学校の悪童どもと同種でタチが悪そうだ。強面でも、黒髪の兄貴分の方がよっぽどましだ。
 すべてが終わり、焼きたてのパンを馬車に積み込むころには、陽はとっくに西の山の端に沈んでいた。
 オリビナの父親は腰の激痛をこらえ、精一杯の笑顔を作って黒髪の漢に握手を求めた。
 「いやあ、助かったよ。あんたパンの修行をしたことがあるね?」
 「いや、生きるための手段ってやつかな」
 漆黒の瞳が優しそうに照れた。
 「ありがとう、ええとーーーー」
 オリビナも粉だらけの手を差し出したが、まだ彼の名前も知らないことに気がついた。
 「ジャレツだ」
 「白鳳大陸の人じゃないのね」
 「ああ。竜蛇大陸の生まれだ」
 オリビナの手は大きな掌に包み込まれた。まだ若いのに、年輪を感じさせるごつさだ。
 「あの若い人は」
 「キャスケードは生粋の白鳳人だ」
 「綺麗なのにいつもご機嫌悪そうね」
 「無作法で申し訳ない。悪いやつじゃないんだが」
 「瑠璃館の後宮か薔薇真珠の奥殿で貴人に愛されるのが似合いそうな」
 オリビナはうっとりと洩らした。鼻持ちならない生意気さは嫌いだが、あの美貌には遠国を彷彿とさせる妖しい魅力が潜んでいる。
 「そんな遠方のことを良く知っているんだな、お嬢さん」
 「オリビナよ」オリビナは顔を赤らめた。「私の本棚にある本たちが教えてくれるの」
 「ほう」
 「今日は本当にありがとう、ジャレツ」
 「パンを納めてくる」
 漢は快くぎょしゃ台に乗り込むと、やせ馬に鞭をあてた。

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. 短編小説「夕陽に輝く名前文字」第4回

その夜はオリビナと母親が腕を振るった料理で竜蛇の漢をねぎらうことになった。
 しきりに遠慮する彼を三人がかりで食卓に座らせた。
 今日のことですっかり彼を見直した父親は今まで不満たらたらだったこともどこへやら、終始上機嫌で漢に酒を勧めるのだった。
 「ジャレツさんよ。わしは村でたった一軒のパン屋であることを誇りに思っているんだ。男は誇りよ。誇りがなくちゃふぬけ*&%よ。な?いやあ、愉快、愉快。こんなに美味い酒は久しぶりだ。さあ、ぐっとやっとくれ!おお、こんな強烈な地酒をものともせんとは頼もしいな」
 湯気を噴きそうな顔で漢の頑丈そうな肩を叩きまくった。
 和やかな夜だった。
 だが、キャスケードという若者は、何度声をかけても母屋に顔を出そうとしなかった。

                ★

 この地方の春は、雨の季節だ。
 あちこちで荷車や馬車が泥濘に車輪をとられて難儀していた。
 オリビナは家への路を急いでいた。
 丘の上の小学校から、つづら折れの路を村へと急ぐ。雑木林も果樹園も畑も春の雨に濡れそぼち、銀のとばりの向こうだ。
 あまりの雨足の酷さに、勾配は急だが近い方の水車小屋の脇の路をオリビナは選んだ。
 スカートはぐしょぬれ、ブーツにも水がしみいってきて不快この上ない。
 坂道はまるで斜めの滝になっていた。
 水車の陰から、狡猾そうな目が覗いていることなどオリビナが気づこうはずもない。
 足元で、雨とは違う銀色の糸が鈍く光った!と思うまもなく前につんのめって、オリビナは夥しい雨水とともに坂を転がった。
 「きゃあああ!」
 口と目に泥水が容赦なく流れこむ。
 やっと身体が止まった時には全身汚泥色に染まっていた。
 「ぶ・・・・」
 泥を吐き出した途端、視界の隅に少年が二人、立ちはだかった。
 鍛冶屋の末っ子と煉瓦職人の次男坊だ。
 「へん、いい気味だ」
 「女先生の泥んこパン、一丁上がりい」
 残忍に哂った顔は十一歳とは思えない。
 「あ、あんたたち・・・」
 顔面に降り続ける雨に耐えながらオリビナは呻いた。
 「なあにが世界の紀行本だ」
 オリビナのかばんから飛び出した分厚い本を、鍛冶屋の末っ子が拾い上げた。
 「返して!駄目、それだけは!」
 「こんなの、どこが面白えんだ」
 「知らないことが書いてあるのよ。私たちの知らない素敵なことがいっぱい。文字さえ覚えれば、こんな片田舎にいたって世界のどこにだって飛んでゆけるのよ」
 「うるせえや」
 「文字を覚えて。学校に毎日いらっしゃい。先生、毎日待ってるから」
 「あっそ、婆あになるまで待ってな」
 煉瓦職人の次男坊がふやけた本をゆっくりと一枚ずつ破り始めた。
 「やめてええ!」
 オリビナは内側で何かが音をたてて崩れてゆくのを感じた。もう駄目、もう限界。教師なんかやっぱり私なんかには無理だったんだ。やめよう、やめちゃえ、女先生なんかーーーー!
 唐突に水車小屋の扉が開いた。
 「うっせえな、さっきからぎゃあぎゃあと」
 オリビナは目を疑った。屋根裏部屋のキツネ髪の若者ではないか。
 上半身は裸、皮のパンツにブーツだけのしどけない恰好。露わな肩にキツネ色の巻き毛がロールパン
みたいに乗っかっている。
 不敵に光るアイスブルーの瞳がオリビナを認めて止まった。
 「あれ?パン屋のプリンセスじゃねえか」
 「やべ、ずらかれ!」
それまで凍りついていた悪童どもがそろって坂道を転がっていった。
 呆気にとられて見送ったキャスケードの視線がオリビナに戻ってきた。オリビナはよけい泣きたくなった。なんだってこんな泥んこまみれの惨めな姿をこの若者に見られなくちゃならないんだろう。
 「・・・こんなとこで何してんの」
 「・・・・」
 「ひなたぼっこじゃなさそうだな」
 オリビナは雨に溶けてしまいたい心境だった。その時、水車小屋の中から女の艶っぽい声がもれてきた。
 「なによう、キャス、いいところでえ」
 顔から火が出そうになって、オリビナは逃げようとした。が、右足首に激痛が奔った。
 「いた・・・!」
 挫いたらしく足首は二倍に腫れ上がっている。泣き面にハチ、いや狂犬だ。
 「用ができた。またな」
 背後に声を投げると、キャスケードはシャツに手を通しながら近づいてきた。オリビナの背にジャケットがかけられ、あっという間に背負われた。彼女は慌てた。
 「歩けねえんだろ、おとなしくしてな」
 「待って、あの本を」
 すっかりココア色に変色した本を若者はつまみあげた。
 「使いもんにならねえぜ」
 「いいの。私の宝物なの」
 受け取るやオリビナは本を抱きしめた。
 雨が細かくなった。キャスケードは畦道を村落めざして歩み始めた。
 銀色の雨すだれの中を美貌の若者におぶわれて行くなんて、御伽話みたいだ。でも、御伽話にしては、若者の髪に残る女の残り香が生々しい。オリビナは彼の背中ですっかり小さくなっていた。
 「何なんだ、それ」
 意外と逞しい肩越しに、若者が尋ねた。
 「世界の紀行本・・・よ。あちこちの大陸のことが書いてあるの」
 「へええ。俺にゃチンプンカンプンだな」
 「あなた字が読めないの?」
 「あいにく学校と親には縁がなくてなーーーー悪いかよ」
 「悪いわ」オリビナはついムキになった。「文字を知らなくちゃ、人生の半分以上はどぶに捨てたようなものよ」
 「ひでえ言いようだな」
 肩が揺れた。笑ったらしい。
 「文字は素晴らしいわ。世界中どんなに遠くのことも知ることが出来る。破光珠の散りばめられた東の果ての国や、海豚に護られた海人の島城や、鎮国椀の生産地や・・・・」
 「そんなもん、わざわざ読まなくたってこの目で見てきたさ」
 「まあーーーーほんと?」
 オリビナは足首の痛みもそっちのけで頓狂に叫び、若者の横顔をのぞきこんだ。
 「嘘じゃねえ。俺たちは人捜しの仕事柄、いろんな土地への旅暮らしだからな」
 「だったらなおのこと文字を覚えるべきよ。見てきたことを書き残せるじゃない!」
 オリビナの教師魂が奮いたった。

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. 短編小説「夕陽に輝く名前文字」第5回

その夜から猛勉強が開始された。
 オリビナはびっこをひきひき小学校の初等教本を携えて間借り人の部屋へおしかけたのだった。
 「なんで俺がこんな面倒くせえことを」
 初めは取り合わなかったキャスケードだったが、オリビナの熱意に圧倒されてか、やがて教本をのぞきこむようになった。
 ジャレツが日雇い労働から帰ってきたころには、若い二人は殺風景なテーブルに頭をつき合わせ、ランプをひきよせて書き方に没頭していた。
 「俺が何度教えても無駄だったのにな」
 ジャレツは肉厚にスライスしたハムにかぶりつきながら興味津ゝに見守った。
 大陸共通語のアルファベットは五百文字もあり、一つの音を表すのに約二十通りの文字がある。その上、それぞれの文字に詩が固定されておりそれを暗記しなければ読みこなせないという厄介な代物だった。
 キャスケードは自分の名前文字綴りを覚えるだけでも四苦八苦した。
 「キャスケード」とは蘭の一種の名だ。

 気高き蘭の精たちよ、朝霧の男神と夜気の女神に接吻を与えよ。芳醇な大気の懐に抱かれてたぐい稀なる麗しき蘭を我は捧げん。

 ----というのが、彼の名前文字綴りに定められた詩だった。
勉強がひと息つくとオリビナは目を輝かせて若者に旅の話をせがんだ。
 「変な女。俺様の麗しい視線より諸国漫遊の方がいいらしい」
 夜更けにやっと開放されたキャスケードは、兄貴分に肩をすくめて見せた。
 
               ★

 「若い娘が夜に男所帯に出入りするなんて」
 母親はいい顔をしなかったが、父親は先日の一件以来、ジャレツに多大な信頼を寄せており、許可してくれた。
 「キャスは学校の子たちよりよっぽどいい生徒よ、母さん」
 「でもねえ」
 母親の心配をよそに、オリビナはせっせと屋根裏部屋に通った。
 キャスケードが教本なしで自分の名前文字を完璧にマスターしたのは、初めから数えて八日目だった。
 「・・・捧げん、と。出来た!」
 嬉しそうに紙面をかざして眺めた。
 「これが俺の名前文字綴りかあ・・・」
 「そうよ、それでいいのよ!」
 オリビナは教室と同じ調子で生徒の頭を撫でた。慌てて手をひっこめたと時、きまりの悪そうな青い目が見上げたのとぶつかった。
 次の瞬間、オリビナは豊かな髪ごと、首筋を俊敏な若者の腕に捉えられた。
 「キャス!お前に鍛冶屋の仕事を見つけてきてやったぞ。・・・・ん?」
 戸口に立ったジャレツのかたわらを、オリビナのか細い身体が猫みたいにすり抜けていった。後にはキャスケードが頬に真っ赤な手形をはりつけて泣き笑いを浮かべていた。
 「へへ、ご褒美もーらい!」

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. 短編小説「夕陽に輝く名前文字」第6回(最終回)

翌日からキャスケードは鍛冶屋の臨時仕事に出た。親方に怒鳴られながら、ふと煩雑な庭先へ目を
やると、見覚えのある子どもが二人、たむろしていた。
 「おい、お前ら」
 子どもたちはキャスケードに気づくなりダッシュを試みたが、それより早く頸根っこを押さえられていた。

               ★

 村祭りの日が来た。
 老いも若きも男も女も、年に一度の収穫祭に浮かれ、鄙びた農村もこの日ばかりは華やいだ。
 ところが、祭りの中心となる広場から異様な泣き声が聞こえてきた.半鐘台から、二人の男の子が下着一枚の姿で縛られてぶら下げられ、泣き喚いているのだった。
「ぼくたちは こんご いっさい オリビナせんせいにさからわないことを ちかいます」
子どもたちの首にはたどたどしい文字でそう書かれた札がつけられていた。
 「ありゃ鍛冶屋の末っ子と煉瓦屋の次男坊だぞ」
 「あの悪たれどもがやられるとはな」
 「それにしてもヘッタクソな字」
 村人たちは黒山となって群がった。
 鍛冶屋の歳若い臨時雇いがその日のうちにクビになったことはいうまでもない。

               ★

 オリビナの捻挫が癒えた。
 もう一度、女先生としてやってみようと思った。教えるのは楽しい。文字を覚えていく生徒を見守るのがやっぱり生きがいなのだ。キャスケードが気づかせてくれた。
 礼を言おうと、屋根裏部屋への階段を駆け上がると、室内はがらんとしていた。
 「キャス・・・?」
 木肌むき出しのテーブルの上には真横から差し込む西陽を受けて、きちんと修理された世界の紀行本と、滞納分の家賃が置かれていた。そして添えられた紙片とが。
 
 「ありがとう オリビナ先生。けっこう楽しかったぜ。名前文字忘れねえよ。それと、あんたの唇の甘さもな。
      -----たぐい稀なる麗しき蘭
             キャスケード    」

             夕陽に輝く名前文字        完
 

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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