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浪漫@kaido kanata

. 小説「月夜の真珠売り」第1回

登 場 人 物

ジャレツ――――――人探し稼業。元、竜蛇の牙と呼ばれた竜蛇大陸軍部の秘密工作員。
          黒髪、黒い瞳。鷹揚で弱い者には優しいが内側は激しい。
          かつて愛妻を自ら手にかけた経歴に苦しみながら生きる。

キャスケード―――白鳳人。子どもの頃、都のスラムのストリートチルドレンだった。
         キツネ色の巻き毛にアクアマリンの瞳。そのケがない男も欲情するほ   
         どの美貌だが、本人は大の男嫌い。でもジャレツだけは別。
         わがままと女グセの悪さは天下一品。甘ったれで感情的。

デニーゼ―――――湧き水の邑の貧しい少女。そばかすだらけでやせっぽち。
         身体を売ろうとしてキャスケードとジャレツに出会う。
         兄を湧き水の衛士にしたルナシルダを憎む。

ルナシルダ――――湧き水の村の先代邑長の五人の未亡人のうちの第一夫人。
         実は地下湖一族の回し者だったが先代アルノワを愛して遺志を継ぐ
         ことを決意。人間離れした美貌は真珠がもたらしたもの。
         リシュダインに殺された夫を蘇生させようと願う。

アルノワ・ロンダム――――先代邑長。竜蛇皇帝リシュダインに逆らったため抹殺された。
            死してなお、リシュダインと彼に魂を売ったポセイディオーン
            に屈しない。

ポセイディオーン――――月夜になるとどこからともなくやってきては真珠を売り歩く
            絶世の美少年。銀の髪。竪琴や横笛で人を操る。

せむしの老人―――――地下湖一族の長老。不吉な醜貌の持ち主。
           しぶとく湧き水の井戸に日参しては悲劇の民を印象づける。

モイザ――――――ジャレツの竜蛇時代を知る娼館のマダム。

リシュダイン――――竜蛇の時輪皇帝。不死。ひとつの人生を終えると老体から赤ん坊と
          なって生まれ変わる。そのたび背中の瘤がひとつずつ消える。
          かつてジャレツの全身全霊を所有し、支配していた。湧き水の邑と
          地下湖一族の対立を利用してジャレツを罠にかける。

アナリディカ――――リシュダインの密偵であったため夫に殺された。
          瞼と耳たぶが緑色の神秘的な人種。

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    「真珠はいかが?
      
     どんな願い事でも叶える真珠

     文無しでもかまやしない

     あんたの魂とひきかえさ」



 第 一 章  湧き水の邑


 人の世の澱とでもいうのだろうか、日没が迫るにつれて足元へ足元へと淀み溜まっていく濃密なもの。足枷のように足首にまといつき、眼の底にも沈殿して明快な視界を許さぬもの。やがてそれは眼の底から鼻腔へ、口元へと下り次第に人を呪縛してゆく。
 決して苦痛をともなうものではない。脳までをそれに侵され始めると、人々はうっとりと陶酔する。現実の辛さから逃避できる一日で唯一、許された時間。血のような日輪を眺める時だけ、自分は世の中でまあまあ成功しているじゃないか、と錯覚させられる魔法めいた時刻。
 やがて断末魔をあげながら、日輪が渇ききった地平線の向こうへ砂塵とともに没していく瞬間、澱の濃度は最高潮に達し――――――どこからともなくあの声が聞こえてくる。はじめはあるかなきかのかすかな響きを持ち、だんだんと耳朶に入り込み、脳の深部で澱と混ざり合い頭蓋の内側に反響するあの声。
 「真珠―――――、真珠はいかが――――――男のものとも女のものとも若者とも老人とも判別しがたい不思議な声色。経典を唱えるかのような気だるい、呪術めいた韻律。
 ザルに入れた小魚を秤売りするような気軽さで真珠を売っているのは、真珠色の瞳を持つ少年。この世に存在を許されるのかと神も羨むような絶世の美貌の少年である。
 東の空に朧な満月。
 邑人たちは熱に浮かされた者のように、または墓場から甦った死人の群れのように、その声めざして進み始める。両手を前に突き出し視線を空間に漂わせ、ただひたすら「真珠、真珠」と洩らしながら。
 黄昏の薄むらさきは刻々と濃さを増し、月からしたたるトロリとした光が真珠売りの少年の頬を蜜色に染める。
 「真珠、真珠はいらないかい。富を築ける真珠、冥界の恋人と逢える真珠、美貌を手に入れられる真珠、過去をやり直せる真珠、憎い人間を抹殺できる真珠、どんな真珠もありますよ。ええ、真珠はいかが、真珠は――――」

************************************

 赤茶けた大地を、二本の砂塵が西へ向かっていた。ほとんど無きに等しい道らしきものが痩せた潅木の間を縫って続いている。他に動くものといえば、聞きなれぬマシンの響きに迷惑そうな顔をする放牧の羊くらいである。
 「だだだだ、いいぜ、いいぜえ、すこぶる快調、ごっきげんだぜえ!最高だぜアンジェリーダアアアア!」
 二台のサンドバイクのうち、後ろを走っているキツネ髪の青年が先ほどからマシンの振動に合わせて雄叫びを上げていた。先を行くマシンがやおら停まったので、あわててブレーキをかける。
 「な、なんだよ、急に」
 先のバイクの男はヘルメットを取り、熱砂の風に黒髪をさらした。漆黒の皮ジャケットを着込んだ背中が鍛え抜かれた筋肉の量感を隠しきれずみなぎっている。
 「キャスケード、頼むからバイクを女の名で呼ぶのはやめてくれ。そうでなくてもこの暑さで脳天が火を噴きそうだ。
いいじゃねえか、そのくらい。なあ、アンジェリーダち・や・ん」
 キャスケードと呼ばれたまだ若い男は、再びエンジンを蒸かそうとしたが手ごたえがない。
 「すこぶる快調が聞いて呆れるな」
 黒髪の男はヘルメットを頭に戻し、自分のバイクも蒸かしてみたが、エンコが伝染したのか、アンジェリーダ同様にまぬけな音を出すばかりだ。
 「こいつぁいいや」
 キャスケードはキツネの尻尾のように束ねた長髪を揺さぶって大笑いした。
 「くそ、あのバイク屋の親父め、ろくでもないポンコツを売りつけやがったな」
 黒髪のジャレツはまだ笑い続けている相棒を尻目に、懐から古びた地図を取り出した。
 「おい、笑い事じゃないぞ、キャス。一番近い邑まで百陸路はある」
 「ひええ、砂漠の女神様、僕の貞操をささげますから今ここに水を湧かせてくださあい」
 「キャスケード」
 尚もおどける相棒をジャレツの眼が険しく捕らえた。
 「お前、何か気に入らないことでもあるのか」
 「何を気に入れってんだよ」
 キャスケードのブルーの瞳が迎え討つ。
 「年がら年中、人捜し、人捜し。ろくに自分のねぐらにも帰らねえで一生懸命捜し出したところで報酬はすずめの涙、見つけられなきゃ罵詈雑言。いつまでこんなわりにあわねえ稼業やってくつもりだよ、え?」
 言いながら腰の水筒をラッパ飲みにしたが、口に入ったのは、二、三滴でしかない。
 「ははあ、キャス。お前、この前の一攫千金の話に俺が反対したことをまだ怒ってるな」
 「あったりめえじゃねえか、あんな美味い話を蹴るなんざ、正気の沙汰とは思えねえぜ」
 「美味い話にゃ必ずウラがある。何度言ったらわかるんだ。お前はまだまだ世間知らずのヒヨッコなんだ」
 「へん、いつまでたってもガキ扱いかよ」
 唇を突き出して拗ねてみせる表情はまだあどけない。今年十七になったばかりのキャスケードは、十歳年上の相棒に首根っこを押さえ込まれて身動きできないのだった。
 「とにかく、干物になっちまう前に邑へ急ごう」
 ジャレツは逞しい肩に愛用の皮袋を乗せ、歩き始めている。置いていかれまいと、キャスケードが慌ててバイクをうち捨てて後に続く。
 「で、なんて邑なのさ」
 「湧き水の邑―――――だ」
 「あっりがてえ。イヤというほど水が飲めるんだろうな、きっと」
 ぎらつく日輪は今、やっと中天にさしかかったところである。

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. 小説「月夜の真珠売り」第2回

「苛立っておるな、お若いの」
 不意に足元から声をかけられ、キャスケードはぎくりと立ち止まった。日中かけてやっと辿りついた、湧き水の邑の細い小路でのことだ。声の方へ視線を落とし、もう一度おぞ気が若者の背を走りすぎた。
 声の主の風貌があまりに異様だったからである。うずくまる姿はまるで苔むした岩のようだった。せむしの小人。頭髪は古い火傷の痕のせいかまばらで、眼は腐臭の漂う魚眼のよう。鼻は引きつれ紫色の唇からのぞくたった一本の歯は歳月を経た墓標さながらであった。
 醜いだけで人を嫌悪するつもりなどさらさらないキャスケードだが、その老人は何かしら不吉な空気をまといつかせていた。
 「苛立っておるな。目で判る。悪夢のせいじゃろう。いや、白昼にもしばしばお前さんを苦しめるそれを言いあててしんぜようか。お前さんの大切な人間――――――絶対に信頼を置いている大切な男が、いつか自分を捨てるんじゃないか、という懸念。それのみせる夢。ある日、その男は豪奢な馬車に乗り、追いすがるお前さんを足蹴にして去ってゆく。そんな悪夢に苦しめられておるんじゃないか?」
 キャスケードの全身が凍りついた。
 一言一句、その世にも醜い老人が言ったことが的を射ていたからである。
 「恋しいんじゃろ、切ないんじゃろ、ひっひっひい」
 一本きり残った黄色い歯を見せ、老人は地獄の軋み時計のような笑い声を洩らした。
 「うるせえ、何をいきなりほざきやがる。俺は男に触れられると胃の中の物を吐き出したくなるくらい、筋金入りのノーマルでい!」
 キツネが背中の毛を逆立てて交戦状態に入るようにキャスケードは身構えた。
 「隠さずともよいではないか。ひっひい」
 老人は不気味な笑いをひきずっていたが、やおら膝頭に顎を乗せてもうフネを漕いでいる。キャスケードの怒りはやり場を失った。
 「おい、キャス。もたもたするな」
 小路の向こうでジャレツが呼んでいる。
 「へん、もうろくじじいが」
 忌々しげに路上に唾を吐き、癇症の若者は湿気づいた小路を後にした。

******************************************************

 湧き水の邑は黄昏のヴァイオレットのヴェールをまとっていた。
 隊商の交易ルートにあたる重要な水の補給地であるため、古くから栄えてきたであろう邑である。中央の広場に幾千年も前から湧き続け、どんな日照りの時にも枯れたことがないという古井戸がある。
 邑人や旅人は、こんこんと湧きいでる清水に身も心も癒され、家畜どもも生き返る心地を味わう。早朝から夕暮れまで老いも若きも男も女も長蛇の列をつくり、順番に汲み出してはそれぞれの夕餉や湯浴みのために持ち帰る。つるべの音が途切れる暇も無い様子だ。
 ジャレツとキャスケードが広場にやってきた時、ひと群れの内儀さん連中が笑いさざめきながら木桶いっぱいの水を持ち帰るところだった。
 「ひゃっほう!水だ水だ!」
飛び跳ねながら走りよったキャスケードの行く手を、物々しい槍の十字がさえぎった。
 「な、なんだよ。よそ者にゃ水はやれねえってんじゃねえだろうな」
刹那、彼方に見える雪を頂いた山脈の向こうに真っ赤な日輪が没した。
 「これまで――――い」
 衛士の野太い声が響き渡り、同時に教会の鐘が甲高く鳴った。
 「これまでって・・・・」
 キャスケードが茫然と眺める中、古井戸の周りを囲った鉄条網の出入り口が情け容赦なく閉じられ、石版ほどもある錠前がかけられた。衛士頭が恭しくその鍵を真紅のびろうどの上に乗せてささげもち、広場の隅に待つカササギのような老人のところへもっていく。
 長い裾の民族衣装を着込んだ老人は慣れた仕草でそれを受け取ると、背後に停車させてあった四頭立ての馬車に吸い込まれた。
 錠前と馬車そして古井戸の屋根には、同じく鱗に覆われた女神の紋章が刻まれている。
 「おいおいおい」
 キャスケードの制止など全く無視された。
 「キャス」
 振り向くと、相棒が耳元に囁いた。
 「今聞いたところによると、あの井戸は日没から日の出まで使用禁止だそうだ」
 「そんなのありかよお」
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 馬車が走り去った後、八人のいかめしい衛士が東西南北を隙なく固め、もう猫の子一匹鉄条網の中の古井戸に近づくこともできない。
 「仕方ない。旅籠に着けば食事にありつける。それまでの辛抱だ」
 きびすを返したジャレツに続こうとしたものの未練たっぷりに湧き水の井戸を振り向いたキャスケードだったが、その足が止まった。
 広場の石畳を横切って、異様な集団が現れたのである。巨大な蟹の群れがやってきたのか、とさえ錯覚してしまいそうだ。
 「あ、あのじじいだ」
 キャスケードは刻一刻と濃くなりゆくヴァイオレットの中で眼を凝らした。先ほど小路の奥で失礼な言葉をかけてきたせむしの小人が、自分と同じ体型の人間を十数人もひきつれてきたのだった。そろいもそろって背中を岩のように丸め、ひょこひょこと跳ねてくる。
鉄条網の前まで不自由な身体を引きずってくると、先頭の老人は衛士の頭らしきひときわ大きな体躯の男を見上げた。
 「お願いじゃ。水、水を汲ませて下され」
 衛士は槍を持ったまま、微動だにしない。
 「これ、このとおりじゃ。水を」
 老人はその場に膝まづき、石畳に額をすりつけた。仲間も次々にそれにならう。
 「ならん」
 「他の人間には惜しげなく水を分け与えているというに、何故わしら地下湖一族だけには許されぬのか。夜、昼ともに」
 「地下湖一族だけには許されぬのか。夜、昼ともに」
 「地下湖一族には一滴たりとも与える水はこの湧き水の邑――――――ロンダム族長の井戸には無い」
 「どうか、ルナシルダ様におとりなしを」
 蟹どもは甲羅をすりつけるようにして懇願したが、衛士の態度は和らぐどころか先頭の老人を足蹴にする始末だ。
 「これほどにお願いしても・・・・」
 邑人たちが遠巻きに見守る中、やがてあきらめたのかせむしの小人どもはうち萎れてどこへともなく姿を消した。
 一部始終を眺めて呆然としていたキャスケードの肩を、大きな掌が叩いて先を促した。

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. 小説「月夜の真珠売り」第3回

旅籠の夕食は食事と呼べる代物ではなかった。それでも、ふたりの所持金を合わせてもこれが精一杯である。
 「屋根のあるところで寝られるだけありがたいと思おうじゃないか」
 薄汚い寝台がジャレツの体重にうめき声を洩らす。
 「あーあ、明日から日雇い人夫でもして馬かバイクでも調達しなけりゃ都へ帰れねえってわけか」
 「お前が前の宿場で稼いだ金を一晩で博打でスッてしまうからだぞ、キャス」
 開け放たれた窓の外で、しきりに街娼が旅人に媚を売る色っぽい声が聞こえる。
 キャスケードは寝台に倒れこみ、長身を二つに折って枕を頭に押しつけた。
 「酒もねえ、女買う金もねえ。くそお、香水の匂いがぷんぷんしてきやがる。身体に毒だぜ。ジャレツ、窓を閉めてくれえ」
 「ばか言え、この蒸し暑い晩に窓なんか閉められるか。ちょうどいいお仕置きだ、この邑に滞在してる間くらい女ぬきで通してみな」
 「鬼!悪魔!人でなし!」
 キャスケードでなくても淫靡な夢を見そうな不思議な邑、そして宵である。
 さんざん寝台の上で身もだえを繰り返したキャスケードは抱きしめた枕の隙間から、そっと相棒を盗み見た。
 ジャレツは寝台の上一面に愛用の銃の部品を並べ、手入れに余念が無い。慣れた手つきが、彼がきな臭い経歴を経てきたことを物語っている。ましてや銃身に竜蛇の紋章がはっきりと象嵌されていては。
 キャスケードはとうの昔から、相棒が竜蛇大陸から流れてきたことを知っている。
 十二の時、白鳳大陸の都スノーバードのスラムで彼に拾われた。
 親の記憶は無い。生まれた家の記憶も無い。気がつくとゴミためのようなスラムの片隅で、山猫のように生きていた。腹が空けば何でもやった。スリ、かっぱらい、恐喝、詐欺。身体さえ、少年を嗜好する男たちに売った。徒党を組み、ストレートチルドレン同志の抗争にも挑んだ。
 敵対するグループに捕らえられ、今度こそ五体満足ではすむまいと肝をくくったその時、見知らぬ男が救ってくれた。黒髪に黒い瞳。ひと目で白鳳人種ではないと判る精悍な風貌。それが、ジャレツとの出逢いだった。
 以来、五年の歳月を共にしている。
 それまで誰にも服従したことがなかったキャスケードが、すんなりジャレツに飼い慣らされたわけではない。助けられた恩などどこへやら、何度逃げ出そうとしたことか。しかし、未だに離れられないのはどういうわけだろう。キャスケードは不思議に思う。
 高熱を出すたび、暖かい手で看病してくれた思い出が待ったをかけるのか。それとも、彼からもらった革細工のペンダントが呪縛となっているのだろうか。
 出会う人間の殆どはキャスケードがこの素晴らしい体格の男の情人だと思い込む。いい加減、否定するのにも疲れた。いっそ、そうなれたならこのところの苛立ちもおさまるだろうに。
 (そうだとも。女みたいに頼りきってりゃ、自分の生き方なんて主張しなくてもめでたく生きてゆけるのに)
 だが、キャスケードのプライドがそれを許さない。いつかでかい金をものにしたい。人を使い、顎で指図できる身分になりたい。そのために、いつかはジャレツと道を分かつだろう。
 (このままじゃ俺は狼の足元をちょろちょろするキツネでしかねえもんな)
 しかし――――――。
 キャスはもう一度ジャレツの大人びた横顔を見つめる。いざ、この男と別れて広い白鳳大陸でひとりで生き抜いていくと思うと尻込みしてしまう。
 (ガキの頃の方が度胸があったじゃねえか)
 かといって、全く過去を語ろうとしないジャレツから、ある日突然「あばよ」なんぞと告げられでもしたひには、と想像するだけで胸苦しくなるのだ。キャスは自分の懊悩をぴたりと言い当てた、あのせむしの老人を思い出して、キツネ色の巻き毛をかきむしった。
 プライドと、甘ったれた思慕が心の中で対決を待っている。得体の知れぬこの甘美な葛藤こそが若者の特権であることを、キャスケード自身、気づく余裕は無い。

**************************************************

 やがて窓の外の街娼たちもすべて商談がまとまったらしく、宵の騒擾は深夜の静けさに移り変ろうとしていた。
 唐突に扉が鳴った。キャスケードはのろのろと寝台を下りて扉を開けた。視線はやや下に向けられた。来客はキャスケードの胸の辺りまでしか背丈の無い少女だったのだ。
 栗色の髪に無造作に野の花を差した、まだ十二、三のみすぼらしい少女は、腕にかけた籠にしおれた野の花をたくさん入れていた。
 「なんだ、お前」
 キャスケードは耳の穴を小指でほじりながら、怪訝そうな目を向けた。
 「旦那様、この花を買って下さい」
 少女はか細い手で籠の花を一本抜き取ると、カの鳴くような声で言った。
 「あん?」
 キャスケードは小指を顔の前に持ってきて吹き散らした。
 「お嬢ちゃん、男に花を買ってくれって意味をちゃんとわかって言ってるの?」
 少女はソバカスだらけの頬を赤らめて頷く。キャスケードの眼が俄然、いたずらっぽく輝き始めた。

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. 小説「月夜の真珠売り」第4回

「へええ。こいつぁ面白えや。おい、ジャレツ。このお嬢ちゃんが春を売りに来たぜ」
 「よせ、キャスケード」
 相棒は奥から戒めた。が、キャスケードは悪乗りして、
 「で、いくら?」
 「旦那様のおっしゃる分で結構です」
 ますます少女の声は消え入るようだ。
 「ううん、でもそのぺったんこの胸じゃなあ。俺は窒息しそうなグラマーちゃんが好きなのよん。せっかくだけどおことわり」
 「よさないか」
 ジャレツが立ってきて少女を見た。
 「あっ。てなこと言って、あんたが買うつもりじゃねえだろうな、ジャレツ。あんた、こんなガキがいいのか?」
 「ばかヤロ」
 「知らなかったなあああ」
 くだらないやり取りはいきなり中断された。旅籠の廊下に、どやどやと大勢の人の気配が満ち、階下から血相変えた老人が駆け上がってきたのである。他の部屋の客も、何事かと次々に扉を開ける。
 「あれ、井戸の鍵を持って帰った爺さんだ」
 キャスケードが洩らした通り、まさしくあの時の老人だ。鮮やかな民族衣装をひきずって、白いあごひげを蓄えている。
 「ジャレツ様でいらせられまするか」
 ジャレツとキャスケードは面食らって顔を見合わせた。初めて立ち寄ったこの邑で、ジャレツの名を知るものなどいるはずがなかったからである。
 「確かに俺はジャレツだが」
 真白き眉の下の老人の眼は興奮に輝いた。
 いきなり部屋に踏み込み、窓辺へ突進するなり、いつの間に横付けされたものか、五台の馬車めがけてしわがれた声をはりあげる。
 「ジャレツ様です。正真正銘、ジャレツ様がおいでになりましたぞ!」
 五台の馬車のうち、四台のそれから甲高い歓声があがり、きらびやかな衣装に身をやつした夫人が飛び出してきた。侍女に長い裾を持たせたり、靴が片方脱げたりと大騒ぎしながら旅籠の入り口へと殺到し、腐り落ちそうな階段をけたたましく駆け上がってくる。
 「こりゃいったい何の騒ぎ――――――」
 茫然としていたキャスはたちまち、かたわらに残っていた幼い娼婦共々、肉厚な夫人に突き飛ばされてしまった。
 「ジャレツ様、お会いしとうございました」
 二重、いや三重あごの夫人がジャレツの首を抱いて接吻の嵐を浴びせたのを皮切りに、白粉の香をまき散らしながらやってきた女、三人が我先にと抱きつく。
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 旅籠の廊下は今や女難地獄さながらだ。
 「やめろ、まず訳を話せ。おい、爺さん!」
 老人のとりなしでようやく女たちが静まった時には、ジャレツの威厳は崩壊していた。
 「申し遅れました。私は家令のオルビンと申します」
 老人の話によると、この邑の長、ロンダム家の当主がひと月前、三十歳の若さで病死したという。あいにく彼にはまだ嗣子がなかった。致し方なく、跡継ぎ問題は放置されていた矢先、当主には弟がひとりあったことが判明した。幼い頃ロンダム家を襲った郎党どもがさらっていったというのである。
 「で、その弟がなんで俺なんだ」
 「そう申したのですよ」
 「誰がだ」
 「真珠売りのポセイディオーンですよ」
 老人は涙さえ浮かべてありがたがっている。
 「真珠売り?」
 ジャレツは部屋の隅で大笑いをこらえているキャスケードと目を合わせた。
 「真珠売りのポセイディオーンの言い当てたことが的中しなかったことはございません。
 現に、あなたさまのお名前も」
 「どうせどこかの裏のツテから小耳に入れた名を言ったんだろう。あんたたちがどう思おうと俺はロンダム家の息子なんかじゃない」
 「確信がおありで?」
 「白鳳の人間は皆、金髪か栗毛に碧眼だ。俺みたいな黒髪に黒い眼のはずがない」
 さすがに苛立ちを抑えきれず、ジャレツは頬につけられた紅を拭いながら声を荒げた。
 「あなた様のお母上は竜蛇大陸のお方でした。黒髪、黒い瞳でも不思議はございません」
 なかなか頑固な老人である。説得を待ちきれぬ婦人たちが、きいきい声でわめく。
 「で、この夫人方は」
 「亡くなられた旦那様の五人の奥方様です。この邑では、夫が亡くなると未亡人たちは全て近親者の妻となることになっております」
 「近親者ってのが、つまり」
 「あなた様でございます。ジャレツ様」
 ジャレツはげっそりとして相棒を見やった。
 キャスケードはこみ上げる笑いを押し殺そうと苦心している。
 「ジャレツ様、真珠売りの予言を聞いてからというもの、ろくに眠れませんでしたのよ」
 三重あごの婦人が涙ながらに訴えた。
 「私も、そのご尊顔を拝するまで心配で」 
 「これで、私の身分も安泰です」
 「なんてご立派な殿御でしょう」
 よく見れば、ジャレツよりはるか年上の女から十七、八の少女まで四人の妻の年齢はさまざまだ。うちそろってけばけばしい。
 「第一夫人のルナシルダ様が、外でお待ちでございます」
 老人の言葉に窓の外を見やると豪壮な馬車の前にひとりの女性が立っている。
 銀の髪だ。今まさに降りそそいできた月光の中にたたずむ姿は他の女たちとは比べものにならぬほど気高く麗しい。
 こんな女人が生きて物を食べ、呼吸をしているのかと疑わしく思うほどその肌は滑らかで純白で、唇だけが情熱の色をしている。キャスケードが思わず口笛を鳴らした。
 「ジャレツ。あんな美女が二つ返事であんたのものになるってさ」
 「そうですとも」老人は頬を紅潮させ、さらに薦める。「ささ、一刻も早く館へおいでくださいまして・・・・・」
 老人が言い終わらぬうちに、ジャレツの逞しい体躯は窓框から乗り出していた。
 「キャス」
 「あいよ」
相棒との呼吸も一糸乱れることなく、軽やかに地上へと身をおどらせる。
 「ジャ、ジャレツ様!」
 「悪いな、爺さん」
 ルナシルダのかたわらをすり抜け、二匹の獣はあっという間に闇の森陰へと消えた。
 婦人たちの下品な叫びが夜気をつんざいてこだました。

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. 小説「月夜の真珠売り」第5回

ふたりは邑外れの樫の根元に身を投げ出し、熱い胸郭を波打たせた。
 「けっさくだ」
 喘いでいたキャスケードは可笑しさがこみ上げてきた。真昼のような月光が射す地面の上で笑い転げる。
 「ジャレツが当主様だってよ」
 「まったく、迷惑な話だぜ」
 「案外惜しかったって思ってるんじゃねえの?何せ、あの奥方の美貌だもんな」
 からかいながらも、キャスケードは相棒が確かにここにいることに安堵していた。
 「ところであの女の子はどうした」
 ようやく呼吸を整えたジャレツがつぶやいた、その時である。
 女のヒステリックな声がした。
 やや離れたガス灯の根元で、穏やかならぬ騒ぎが起こっている。数人の街娼に寄ってたかって暴行を加えられているのは、先ほどの幼い娼婦ではないか。
 「あの娘だ」
 「やれやれ、また女がらみかよ」
 キャスも相棒に続いて腰を上げる。
 「よさないか」
 ジャレツは女ばかりの乱闘に割って入り、ぼろきれのようにいたぶられた少女を素早く背後にかばった。
 「邪魔しないでくれる、オジサン」
目を紅で隈どった女がすごむ。
 「こりゃ、あたいたちの世界の事なんだ」
 「どんな理由があるにせよ、一人対多数ってのは卑怯だぞ」
 「だってその女、あたいたちの縄張りにひと言の断りも無しに荒らしたんだ」
 「まだ子どもじゃないか。知らずにやったことだろう、大目に見てやれないか」
 「オジサンこそ、あたいたちの掟を知らないらしいね。
 燃えるような髪の女が刃物を取り出した。
 「知らんな。教えてもらおうじゃないか」 
 「ジャレツ、よしとけよ。姐さん方に逆らうと恐いよお」
 キャスケードの制止も効力を示さなかった。ジャレツの癇症もキャスケードに劣りはしない。ひとしきりの乱闘の後、ラメのトサカを着けた雌鶏たちをひとからげにしてしまった。
 「さ、案内しろ」
 「ど、どこへさ」
 「決まってるじゃないか。お前たちの元締めのところだ」
 街娼たちは顔色をなくした。
 「そ、それだけは勘弁してえ」
 「今頃、猫なで声出しても遅い。俺をオジサン呼ばわりした罰だ。さあ歩け」
 ジャレツは容赦なく言った。
 
***************************************************

 濡れたような月の光さえ届かぬ露地の奥に、その私娼窟はあった。
 多分、正式な免状なく営業しているのだろう、そんな胡散臭い空気が充満した館である。
 もっとも各地のそんな店には行きなれているジャレツとキャスケードではある。
 やっと戒めを解かれた街娼がすがりつくようにして青銅のノッカーを慣らす。まもなく出てきた小男は戸口にたたずむ大きな男の影に、ぎょっとした様子だ。
 「主人に会いたい」
 痛めつけられた街娼たちを、目を白黒させて眺め回した小男は無言で引っ込み、ほどなくもう一度でてきた。親指で入れと促す。
 扉の内側は深海のような緑色だった。
 紫煙がたゆたい、鉛色の照明のもと、部屋のあちこちで快楽を貪っているのは人間の男女に違いないが、まるで影絵でも見ているように幻想的だ。
 小男が傷ついた娼婦どもを手早く連れてゆき、フロアにはジャレツたちと少女がのこされた。幼い娼婦はこれから何が始まるのか、と脅えた目をしている。
 奥に曲線を持ったカウンターの向こうで、充分熟れた女が腕組みして待ちうけていた。
 来客に一瞥を投げ、キセルの灰をポンと捨て、
 「うちの娼婦たちを可愛がってくれたそうじゃないか」
 酒と煙草でつぶれたしゃがれ声だ。
 「この女の子を大勢で痛めつけていた。この世界じゃいさかいはご法度だな?」
 悠々とカウンターの席に座りながら、ジャレツは最初の一撃を放った。
 天井からの照明が彼の頬の輪郭をくっきり浮き上がらせる。と、マダムのどぎつい色の爪がキセルを取り落とした。
 「ジャレツ・・・・!あんたジャレツじゃないかい」
 紫のアイシャドーの目が見開かれる。
 「モイザ?」
 煙草を取り出そうとしていたジャレツの手も止まった。
 「やっぱり!奇遇だねえ、こんな片田舎で再会するなんて」
 女はカウンター越しにジャレツの首を抱いた。
 「白鳳に渡ってきていたのか」
 「そうなんだよ。竜蛇の真紅の芥子と呼ばれた踊り子も、流れ流れて娼館の女将さ」
 キャスケードが察するところ、どうやら彼らは旧知の間柄のようだ。マダムの態度は打って変わった。目じりにありったけの皺を寄せてもてなし始める。
 「ああ、懐かしいねえ。ここで逢えたのも何かのお導き。今夜は語り明かそうじゃないか。あれから何年経つかねえ。七年、いや八年?あの頃はあんた、毎日私たちの舞を見に来てくれたっけ。もちろん、お目当てはあの娘だけだったんだろうけど」
 連射銃のように繰り出される言葉がほんの一瞬、途切れたのをキャスケードは聞き逃さなかった。だが、だが次の瞬間にはモイザはたくみに話題を転じ、
 「お連れさんかい?こりゃまた黄金果実みたいなにいさんじゃないか」
 「仕事の相棒だ。キャスケードという」
 ジャレツはやや決まりが悪そうに紹介した。
 「よろしく、うっとりするようなにいさん。ささ、モイザ姐さん特製の竜の酒をぐっとおやりな」
 「やあ、モイザ」
 キャスケードはグラスをかざした。
「で、なんだっけ、あんたの用事は。そうそう、うちの娼婦たちが世話をかけちまったんだったね。許してやっとくれ、ちゃんと言いきかせておくよ。そっちの嬢ちゃんに怪我させちまったようだね」
 「あんたの方の縄張りで花を売っちまったらしい」ジャレツが言い添えた。「大目にみてやってくれ、何せこの若さだ」
 「本当に、まだねんねだねえ」
 一同の視線が幼い娼婦の上に集まった。少女はこれ以上は無理なほど縮こまっている。
 「お前、名前は?」
 キャスケードが隣席をすすめながら尋ねると、少女は下を向いたままかすかに唇を動かした。
 「デニーゼ」
 「この商売長いのか?」
 少女はかぶりを振った。頬の傷が痛々しい。
 「今夜が初めて」
 「初店だったのか。もったいないことした」
 おどけるキャスケードをジャレツが目でいさめてから、重ねて聞いた。
 「そんなに金に困っているのか」
 「・・・・・」
 「その歳で身体を売らなきゃならんほどか」
 「真珠を買うの」
 ポツリとサクランボの唇が言った。
 「真珠?」
 ジャレツとキャスケードは口をそろえて聞き返す。少女はこくりとし、おもてをあげた。驚くほど強固な意志が眼に宿っていた。
 「真珠を買うためにお金が要るの。ポセイディオーンの真珠は一個、千ペセテカもするんだもん」
 「ポセイディオーン?どこかで聞いたぞ」
 キャスケードはジャレツに目で問うた。
 「あの家令の爺さんが言ってた真珠売りだ」
 異様な沈黙が紫煙と共に漂った。
 「あんた、どんな真珠が欲しいんだい」
 モイザが煙を吐きながら興味深げに問う。
 「媚薬の真珠」
 「そんなものどうする気さ」
 「あの女の夫を奪ってやるんだ」
 大人たちはぎょっとして改めて少女を見た。
 「あの女って・・・・」
 「ロンダム家の第一夫人、ルナシルダよ」
 キャスケードは危うくグラスを落とすところだった。モイザが肩をすくめて、
 「だってあの女の旦那は先月死じまったじゃないか。いったい誰に媚薬の真珠を使うつもりなんだい」
 「そう。番狂わせなの」
 少女は肩を落としてため息を洩らした。
 辛抱しきれなくなったキャスケードが吹き出したのと同時だった。デニーゼはじめ一同の視線は彼に移行した。
 「あっはっは、茶番だ、茶番だ。面白え、ああ、腹が痛え」
 「キャスケード」
 「だってよお、ジャレツ。これが笑わずにいられますかってんだ。おい、デニーゼとか言ったな、お嬢ちゃん。媚薬の真珠とやらを使って籠絡する相手はこれ、ここにいるぜ」
 ジャレツの肩を叩きながら、また大笑いする。デニーゼはきょとんと眼を丸くした。
 「つまりお前が真珠代を稼ぐために初めて身売りしようとした相手こそ、新しいロンダムの当主ってわけさ」
 「よせ、キャスケード。冗談がすぎるぞ」
 ジャレツは顔をしかめた。
 デニーゼは茫然とふたりを見つめるばかりだったが、からかわれていると思って口をつぐんでしまった。もうどんなにキャスケードが軽口をきいても砂漠の道しるべのように黙りこくったまま、爪を咬んでいる。
 「ふふん」
 モイザがびろうどのショールを腕までずらして、コーヒーブラウン色の胸の谷間をあらわにした。熱い視線でジャレツを射抜く。
 「ロンダム家の未亡人に見初められでもしたのかい?あんたなら無理もないねえ。相変わらず研ぎ澄まされた目つき―――――酷薄さと情の熱さが共存している不思議な眼。まったく、あんたを見ていると内臓までさらけ出して舐めてほしくなっちまう」
 慣れた仕草でジャレツの腕をとろうとしたが、彼の手はするりと逃れてグラスを持ち、一気にあおった。
 「そっちのお嬢ちゃんへのお詫びに一夜代わってあげようと思ってさ。もちろん、お代は私がお嬢ちゃんに支払う。どう?」
 「それなら俺よりこいつの方を頼む」ジャレツの親指が相棒を指した。「ひと晩でも女ッ気無しだと月に向かって吠えるんだ」
 「人を月狂病みたいに」
 カウンターの下でキャスケードの足が思い切り相棒の向こうずねを蹴飛ばした。
 「不満か?モイザ」
 「いいともさ」
 モイザの熟れた舌がゆっくりボルドーの上唇を舐め上げながら若者を検分した。

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. 小説「月夜の真珠売り」第6回

夜は深々と更け、月の光はさえざえと家並みの瓦に真珠のように振りこぼれる。黒々と眠る民家は静まりかえっていた。
 さすがに日中の暑気も遠のき、淫靡な娼館を解放された身には夜気が美味しい。
 石畳を黙々と歩くジャレツの孤影の後ろを少し間をあけて、やせっぽちの少女が歩く。
さっきの乱闘でくじいたらしく、びっこをひいている。
 「そら」
 ジャレツが背をかがめて促した。少女は息をのんで立ちすくむ。
 「家まで送ってやる。それとも俺が怖いか」
 少女はかぶりをふったとたん、広い背中へ乗せられていた。革ジャケットと混じり合った香ばしい体臭は少女の肩越しに伝わった。
 「デニーゼだったな」
 「・・・・」
 「詳しい事情は知らんが、その歳で身体を売るなんざやめとくこった。本当に結ばれた相手に逢った時に、絶対に後悔するぞ」
 容貌からは想像できぬ優しい言葉がジャレツから洩れた。ややあって、少女の苦しげな声が応える。
 「兄さんの仇を取るためよ」
 「仇――――――?穏やかじゃないな」
 話の飛躍にジャレツは唸った。この少女の言うことは真珠売りの真珠と、ロンダム家とどうかかわているのか。
 「あっ」
 突然、デニーゼは叫び、ふりむきかけたジャレツの口元に人差し指を立てた。
 笛か、と最初は思われた。澄んではいるが悩ましい音。女の声色のような高い琴線だ。
 いつの間にかジャレツたちは邑の中央広場にさしかかっていた。夕暮れに見た湧き水の井戸には、白銀の月光を浴びながら屈強な衛士が環列をなして取り囲み、人形のように動かない。目深に被った兜の奥の眼は、聞こえてくる妖しげな音律にも毛筋ほども動ずることなく、井戸を侵す者がないかと警戒を続けている。
 やがて、音律が少しずつ近づいてくるのが判った。人間の声と、竪琴だかの音色がまじりあって独特の音を紡ぎ出しているのだ。
 ジャレツは習性にならって反射的に小路の陰に身を隠した。
 真昼のような月光の中を、ふわふわと曖昧な足取りでリズムに乗りながらやってくる者がいる。
 「真珠、真珠はいかが?小ぶりの竪琴を奏でながら謳っているのは、まだ成長しきっていない、アンバランスな細身の少年だということが判った。
 妖精のかしらとでも言い表わせばいいのか、肋骨の浮き出た上半身にまとっている布がひらひらと月の光に映えて美しい。
 「あれが真珠売りだな」
 ジャレツが問うと、うっとりと見入る背中の少女の声は別人のように蕩けていた。
 「そうよ。真珠売りのポセイディオーン。どこからやってくるのか、どこの誰だか誰も知らない。判っているのは彼の売る真珠が、私たち貧しい者たちの願いを何でも叶えてくれること、ときおり洩らす予言が外れたためしの無いこと。そして―――――」
 「そして?」
 「彼ほど美しい人間は古今東西きっといないだろうってこと」
 やがて大勢の邑人が真珠売りの後を追ってやってきた。飢えた者のように口々に「真珠、真珠とつぶやきながら、跳ね回る真珠売りの一挙一動に波のように揺れ動く。
 「さあ、今夜は満月だ。お祝いに、ささやかな願いを叶える真珠を行い正しい皆さんにプレゼントしてあげようね」
 少年は竪琴を背にまわすや、腰につけていたビクのような小さな籠に手をつっこみ、中天の月めがけてほうり投げた。
 夥しい真珠の花が弾けた。
 月光に煌きながら古井戸の屋根、衛士の兜など、てんでばらばらに雨のようにふりそそぎ、石畳に散らばってゆく。
 邑人たちは眼の色を変えて殺到した。
 「あっははははははは。ほんのちっぽけな真珠さ。明日一日の平穏無事だけしか効力は無いさ。それでもよけりゃ持っていきな!」
 「ふたたび竪琴をかき鳴らしながら、小鬼のように跳ね回る。
 ジャレツは小路の陰から視線を離せない。少年の尋常でない美貌はもちろんだが、醸しだす魅力も強烈すぎる。そしてどこかで接したような気がしてならない。どこだろう?
 古井戸を衛る衛士と、真珠売りと、満月と。
 おそらく一生この幻想的な光景を忘れないだろうとジャレツは思った。
 刹那――――――、
 「誰?そこにいるのは」
 少年の顔がこちらを向いた。遠目にもわかる真珠色の瞳。ジャレツは総毛だった。
 「出ておいで。真珠をあげようね」
 冷や汗がこめかみを伝い落ちる。その時、喉元に冷たい感触が押しつけられた。おなじみの、刃の冷たさだ。
 「お行き」
 背負った少女が月の雫のような刀身を閃かせながら耳元でささやいた。

***********************************************

 窓辺のレースのカーテンがそよめいた。
 モイザの背中が弓のようにしなったと思うと、あられもない声を上げて全身を震わせ、シーツの上にブラウンの身を投げ出す。
 「なんて坊やだい、モイザ姐さんとしたことが、つい商売を忘れちまったじゃないか」
 「・・・・・・」
 キャスケードはもう寝台の上に上半身を起こし、昂ぶりから冷めた視線を窓の外へ向けている。その一瞬の後に吹き出した汗が肩に光っているのが艶かしく生々しい。
 「どうしたのさ」
 「あいつの昔を知っている人間に会うのはあんたが初めてだ」
 「ジャレツかい?」
 「教えてくれ。あいつは一回だって自分の来し方を話してくれたことがねえ」
 アイスブルーの眼には涙がにじみ、珊瑚色の唇を噛みしめている。モイザのなけなしの母性本能が甘美に疼いた。
 「私だってよく知ってるわけじゃない。竜蛇の都で、彼は私たちが踊り子をしていた店の常連だったのさ。彼と結婚した娘は私の後輩で――――――」
 キャスケードの眼が猛禽のそれに変貌した。
 「あんた、今なんて言った」
 「彼の女房になった娘は私と同じ踊り子でね、そりゃあ器量も気立てもいい娘で」
 キャスケードの耳にモイザの言葉が虚しく反響した。思いがけない事実に横殴りにされた気分だった。
 女は大きなため息をついた。
 「あんた、女と寝ていても心はずっと彼のことを追いかけているんだね」
 「苦しい夢を見るんだ。あいつが俺を見捨てて豪華な馬車で行っちまう夢。何度もだ」
 乱暴に赤い瞼をぬぐった。
 モイザは覗きこみ、
 「恋?」
 「そんなくだらねえもんじゃねえ」
 「定命?」
 「そんな仰々しいもん、くそくらえだ」
 「じゃ、何さ」
 「俺が俺でいるための根っこの尻尾みたいなもんを、あいつはしっかり握ってる。握られてなくちゃ俺はどこへ飛んでいくか自分でも判らねえんだ」
 激情のほとばしりに気おされて、モイザは黙り込んだ。
 「で、どうしたんだよ。あいつの女房は」
 「踊り子をやめ、ふたりで小さな部屋を借りて暮らし始めた。端で見ていても羨ましいかぎりだったよ。それが、一年足らずで」
 モイザの表情は強張った。
 「一年足らずで――――――?」
 「ある朝、女房の亡骸が見つかった。彼女の銃創から発見されたのはジャレツの愛用していた軍用銃の弾丸。彼の姿は忽然と消えちまった。私が知っているのはそれだけ」
 血も凍る内容を、モイザは肩をすくめて締めくくった。
 キャスケードは息苦しさに襲われて立ち上がった。不意に自分がどこにいて何をしていたのか、判らなくなるほどの衝撃だった。
 ジャレツが竜蛇軍の人間だったことはあの愛用の銃と、今もって彼の身体にこびりついているきな臭さはっきりとものがたっている。無論、彼が少なからず人を殺してきたことをも暗黙のうちに承知していた。混沌とした大陸間の情勢、どこの大陸にも共通する治安の劣悪さからして、人殺しなど珍しい存在でも何でもない。
 だが、ジャレツが己が妻を殺した経歴の持ち主だったことは、キャスケードには衝撃だった。幻滅したわけではない。
 決して自分の来し方を語らなかった理由がこれだったのかと判ったとたん、彼の胸中を思うとたまらないものがこみあげてきたのだ。
 祖国、竜蛇を捨ててから彼は何を思い生きてきたのだろう。キャスケードに接する時の彼はいつも暖かく、厳しい。どれだけ沢山のことを逞しい背中と態度から学んだことか。彼はキャスケードにとって父親であり、兄であり、悪友であり、もちろん最高の相棒であり――――――。
 なのに自分は彼の何も見えていなかった!
 キャスケードは娼婦の膝にすがりついた。
 「年がら年中人捜し稼業をしていながら、依頼された行方不明の人間をじゃなく、俺はいつもそばにいるあいつの心を捜してる。見えねえ。来し方も行く末も、何を望んでいるのかも、何ひとつ見えやしねえ」
 「あの男の望みかい?そうだねえ、多分」
 紅い爪で幼子をなだめるようにキャスケードの滑らかな背中をたたきながら、モイザは自信ありげに言った。
 「死に場所さ」
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 「死に場所――――――」
 「殺しちまった女房に逢うために、一番自分に似つかわしい死に場所を捜しているのさ」
 キャスケードは心臓に氷の杭を打ち込まれたような気がした。
 レースがざわめき、遠くからかすかな音律が忍び入ってきている。モイザは若者の抱擁から身を抜き滑らせると、ブラウンの肌にシーツを巻きつけて窓辺に立った。
 「ポセイディオーンの竪琴だ。ああ、今夜は満月だったねえ」
 物悲しい旋律がキャスケードを新たな慟哭の渦にひきずりこんだ。
 (この先、火炎地獄をのたうちまわろうと、この身を水で砕かれようと、俺はおっ死ぬその瞬間もあんたを思うだろうぜ、ジャレツ)
 湧き水のごとく、穢れ無き涙は夜明けまで涸れそうにない。モイザが気だるげに洩らす。
 「虚しいねえ。何を手に入れても人の心が本当に手に入るわけじゃなし、罪作りな真珠さね。それでも真珠売りは繁盛する・・・・か」

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. 小説「月夜の真珠売り」第7回

       第 二 章  月下の誘惑

 
砂漠の中の邑なのに、深い霧が発生するのは豊かな湧き水のせいだろうか。その霧を割って朝日が射し初める頃、邑の広場はもう活気に満ちている。朝市の商人は作物を山積みにして声を張り上げ、放牧に出かける羊の群れがけたたましく啼き騒ぎ、湧き水の井戸には内儀さん連中がバケツを持って並びながら噂話に余念がない。喧騒の極みである。
 その中で、空間を隔絶されたかのように八人の衛生たちだけが昨夜から一歩も動いていない様子で鍵が到着するのを待っている。
 「ふうう」
 キャスケードは広場の隅の煉瓦塀にもたれかかりながら、大きなため息をついた。二日酔いは容赦なくこめかみにハンマー打ちを繰り出してきて衰える気配もない。
 あまり覚えてはいないが、どうも昨夜は醜態をさらしてしまったようだ。子どもみたいに泣きわめいたような記憶がおぼろげに残っている。目が覚めた時にはモイザはだらしなく眠りこけており、顔をあわせるのも決まりが悪くて、こっそり娼館を後にしたのだった。
 「それにしても」
 ジャレツが遅い。昨夜、モイザの店で別れ際に湧き水の広場で落ち合うことになっていたのに、太陽は刻々と昇っていくばかりだ。いらいらとこめかみを押さえながら周りを見回したとたん、教会の鐘が鳴り、頭の中は大パニックに陥った。
 乳色の霧の中から、昨日見た四頭立ての馬車が現れて広場に到着した。邑人たちは水をうったように静まり、道を開ける。
 扉が開き、ロンダム家の家令オルビン老人が恭しく真紅のびろうどに乗せた鍵を持って登場した。まっすぐ衛士頭の方へ行き、鍵を渡す。頭が鍵で古井戸を囲った鉄条網の錠前を開けると、辛抱強く見守っていた邑人たちは歓声を上げ、どっと殺到した。
 突如、広場の空気がひきしまった。
 立ち去りかけていた八人の衛士が一列に並び、かしゃりと槍を鳴らして直立不動の姿勢をとる。
 つるべに群がっていた邑人たちもしばし手を止める。
 鍵を捧げ持ったまま、オルビン老人が鶴のように首を伸ばし、告げた。
 「邑長さまのご視察――――――う」
 一段と豪奢な馬車がやってきた。轍の音もけたたましく、古井戸のかたわらに停車する。
 御者が飛び降り、手際よく乗車口に目も綾なしき物を敷いた。それを踏んで降り立った男を見て、邑人たちがどよめいた。
 オルビン老人がしわがれ声をしぼりだす。
 「ロンダム家の新しい当主、湧き水の邑の全権を統べる新しい邑長、ジャレツ様である」
 キャスケードはわが目を疑った。
 「ジャ、ジャ、ジャレツ――――――?」
 四頭立ての豪奢な馬車を背にして立つ男。まごうことなき長年の相棒、ジャレツだ。だが、こんなに美々しく海老茶の民族衣装をまとい、剛い黒髪を髪脂でとかしつけた横顔をキャスケードはかつて見たことがない。おまけに表情はこ揺るぎもなく威厳に満ちて、すっかり当主様になりきっているではないか。
 八人の衛士たちが槍を持ち上げ威儀を正す様子をゆったりと歩きながら睥睨する。
 「ロンダム家の、あれが行方不明になっていた弟君かい」
 「なかなかどうして品といい、体格といい、立派な当主様じゃないかね」
 ささやきかわす内儀さん連中の評判も上々だ。
 古井戸の水量豊かな様、邑人たちの潤った表情を確認した新しい当主は、やがてオルビン老人に頷いてみせると馬車へ戻るべく、きびすを返した。
 「ジャレツ!」
 人垣を蹴散らしてまろび出てきた若者を、ジャレツはゆっくり振り返った。
 「ははは、こ、こりゃ何かの冗談だよな。俺をからかってるんだろ、ジャレツ。な?」
 弱弱しく、けれども懸命にキャスケードは言った。しかし、ジャレツの瞳には一石も投じられなかった。かまわず、馬車に乗り込もうとする。待ってくれよ。どうしたんだよ。わかんねえはずねえだろ、俺だよ、キャスだよ」
 返事の代わりに、ジャレツはやおら懐からびろうどの包みを取り出し、若者の足元に放り投げた。
 はみ出た尋常でない量の札束に、人垣からどよめきが洩れた。
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 「手切れ金だ。とっととどこへでも行くがいい」
 「手、手、手切れ金だって―――――――?」
 キャスケードの心臓が凍りついた。
 へなへなと石畳の上にへたり込み、ぼんやりと広い背中を見やる。目に馴染んだ逞しい背中。まだキャスケードがこんなに背が伸びる前、幾度か背負われたことのある背中だ。
 その背中を、馬車の扉がさえぎった。
 御者が鞭を振り下ろし、車輪が動き始める。急いで駆け寄ろうとしたキャスケードは太いひずめに蹂躙されかけ、転がった。
 「ジャレツ!ジャレツ――――――!」
 何度も見た光景、悪夢の再現だ。
 「手切れ金てのはイロにやるもんじゃねえかよ、ジャレツ――――――!」
 人だかりの陰から、デニーゼが小さな肩を震わせて見つめ続けていた。

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. 小説「月夜の真珠売り」第8回

「終わりましたか?」
 馬車に揺られながら、麗人が尋ねた。
 ジャレツがうなずく。
 「本当にこれであいつには指一本触れないんだろうな」
 「約束は守りますわ。さあ、あなたはロンダム家の当主。くだらぬことにいつまでも関わりになられぬことです」
 濃い紫のヴェールをまとったルナシルダの表情は馬車の席で向かい合っていても窺い知ることはできない。先夜、月の光に煌いていた銀髪も厚いターバンの下だ。
 「あなたの義務。それは湧き水の鍵の管理。衛士たちの統率。そしてロンダム家を護りもりたてていくこと、の三つだと申し上げましたね」
 「耳にタコだ」
 「中でも湧き水の管理は絶対です。地下湖の一族には一滴たりとも水を与えてはなりません」
 「何故だ。地下湖の一族とやらに何か怨みでもあるのか?」
 「私たち湧き水の一族と彼らとは何千年も昔から敵同士なのです。詳しいことはおいおい話しましょう。当面はロンダム家の安泰を彼らに見せつけることができればよいのです」
 「いきなり連行して、窮屈な生活しろってのはちと殺生だぜ」
 ジャレツは脂で撫でつけた髪をかきむしった。
 「ほほほ、ロンダム家で贅沢三昧させてあげようというのですよ。多少、窮屈な生活が何だというのです。気にそまぬ女まで閨に呼べとは申しません」
 「第一夫人のあんたとしても、気に染まぬ男の閨に足を運ぶつもりはないようだしな」
 ルナシルダのヴェールが憮然とした。
 「それと」
 気まずい時間が流れてから、彼女はいっそう厳しくクギを刺した。
 「あの真珠売りポセイディオーンには、ゆめ近づかれませんよう」

***********************************************

 暦は進み、月がやせ細った。
 盛り場から小路を折れ、またいっそう細い路地を行ったところにモイザの私娼窟はある。
 デニーゼが一度しか来たことのないこの店へ足を運んだのは、ひょっとして、あのマダムなら大きなお金を貸してくれるかもしれないと、わずかな望みを持ったからである。
 もちろん、一度は身体を売る決心をしたからには、マダムに交換条件を言われても仕方がないと思っている。真珠の代金だけでなく、自分の食べるもの、住む所さえ無い身だった。最近まで仮住まいをしていた牛小屋の軒先は、少女の兄が帰ってこなくなると、追い出されてしまった。
 今日食べる黒パンのかけらさえ、少女には買う金は無かった。しかし、そんなことはちっとも苦にならない。要は、真珠代さえあればいい。
 (勇気を出して)
 玄関で立ち止まって、拳を握りしめてから、いざノッカーを叩こうとした時である。
 扉が開け放たれたと思うと、猛烈な勢いで何かが夕暮れの路上に放り出された。次いで、荒牛顔負けの鼻息で飛び出してきた豊満な女が路上に伸びている人間にバケツの水をお見舞いした。
 「無茶もいい加減におしっ!店の娼婦たちは残らず買い上げるわ、酒は浴びるように飲んじまうわ、挙句の果てに椅子は壊すわ、ガラスは割るわ、ベッドは切り裂いちまうわ、いったいこれが狂人じゃなくて何なのさ!」
 鬼神の形相のモイザだ。
 ずぶぬれになったキャスケードはかまいもせずへらへら笑って泥水を泳いでいる。
 「へ、へ、へ、・・・・俺は邑長様のダチ公よ。いっくらでも請求書書いてくんな。そら」
 虚空に札束をばらまく。泥水に散り乱れるそれを見て、若い娼婦たちが歓声をあげて群がる。
 「おやめっ!」
 モイザの大喝が響いた。
 「しっかりおしよ、にいさん。ジャレツがくれた金なら大事にしなきゃ。これだけありゃスノウバードの都でひと仕事の元手に充分じゃないか!」
 キツネ色の髪を泥色に染まらせ、キャスケードは自嘲に唇をゆがめる。
 「手切れ金だとよお。へへへ、上等じゃねえか。俺との歳月がこんな紙切れでおしまいにできると思ってやがる」
 「甘ったれるのはおよし!そんなだからジャレツに愛想つかされるんだよ。もう二度とうちの店には来ておくれでない!」
 扉を閉めようとするモイザを、かたわらにいた少女が慌てて引き止める。
 「な、なんだいお前。ああ、この前の子?」
 「マダム、マダム、あたいの一生のお願い。お金を貸して!媚薬の真珠を買うお金」
 「何だって?」
 突拍子のない願いにマダムは濃く隈どった目を丸くした。お願い。何年でもここで働くから!」
 「お断りだよ、お嬢ちゃん。いくら私娼館でも、私のお眼鏡にかなった一級品でなければ商品にしないのが私のモットーでね」
 「マダム、後生だから」
 店のエントランスでもみあうふたりを、酩酊していたはずのキャスケードの目が捉えた。
 豹のように鋭く飛びかかり、少女のか細い腕を爪が食い入るほど強くつかむ。
 「やっと見つけたぜ」
 デニーゼは反射的に逃げようとした。
 「おっと、逃がすかい。一週間捜しても逢えなかったんだ」
 「痛い、離してよ」
 モイザが渡りに舟とばかりに、
 「お嬢ちゃん、金が欲しけりゃその兄さんにお言い。懐にたんまり持ってるよ」
 今度こそ激しく扉は閉じられた。
 キャスケードは露地の反対側に嫌がる少女を引きずっていった。
 「ちょっくら聞きたいことがあんだよ。お前、この前の夜ジャレツと一緒に帰ったよな。そん時、何があった?」
 「知らない!あたいは何も」
 少女の眼はおどおどと落ち着かない。何を怖がってる。何か知ってるな」
 「あたいが足をくじいていたから、おぶってくれて、この辺で別れた。それだけさ」
 「嘘をつけ」
 キャスケードは懐から数枚の札を出し、デニーゼのソバカスの頬を叩いた。 
 「白状したら、これをやる。お前の身体でこれだけ稼ごうと思ったら幾晩かかるかな」
 デニーゼが札に手を出そうとすると、キャスケードは素早く懐深くに隠してしまった。少女は口ごもりながら、話始めた。
 「あの夜、真珠売りのポセイディオーンがやってきたんだ。素晴らしい歌声で・・・・。あたい、あの声を聞くと、頭がぼんやりしちゃって自分が何をしたのかよく思い出せなくなるの。たしか、ポセイディオーンがあの人を呼んで・・・・」 
 少女の言うには、ジャレツが真珠売りの方へ踏み出しかけたとき、湧き水を衛る八人の衛士が突如として動き出し、彼を取り囲んだというのである。あっというまに少女は背中からはがされ、ジャレツは拉致されてロンダム家の馬車に放り込まれたというのだ。

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. 小説「月夜の真珠売り」第9回

「きっとルナシルダの差し金だわ。ひどい女なんだから」
 キャスケードはようやく少女を解放した。札を渡すのも上の空で少女から聞き出した事実を反芻する。
 (ジャレツの野郎を無理やり馬車で連れて行っちまっただとお――――――?)
 いくら湧き水の衛士たちがつぶぞろいの猛者どもであってもジャレツの腕っぷしの強さを知りぬいているキャスケードには信じられぬ光景である。
 泥水を前髪から滴らせながら、彼は唸った。
 「キャスケード」
 札を数えながら、デニーゼがうって変わった不敵な表情を浮かべた。
 「あんた、取り戻したいんだろ。あの人を」
 「誰が!」
 強がって夕空を仰ぐ若者の口元がひきつっている。
 「無理しなくてもいいよ。ね、あたいにポセイディオーンの真珠を買ってくれたら、あの人を奪い返してあげる」
 「なに?」
 「だから、この間から言ってるでしょ。ロンダム家のルナシルダから当主を奪って、あの女を追い出してやりたいって」
 頬を黄昏のヴァイオレットに染めて決意を吐く少女の言葉に、キャスケードは度肝を抜かれた。 
 「お前、何考えてんだ」
 「ルナシルダが憎いんだよ。あたいのたったひとりの兄ちゃんをめちゃめちゃにした女」
 「お前の兄貴を?」
 少女はこっくりとした。
 「おかげで兄ちゃんは人間でなくなっちゃった。笑いもせず泣きもせず、あたいを見ても誰だか判らない――――――木偶の坊に」
 ソバカスの頬に悔し涙が伝った。
 「どういうこった?」
 「ルナシルダの人形にされてしまったのさ。そら、今夜もそこで忠実に勤めに励んでる」
 少女の指が、路地の隙間から見える広場の井戸を――――――護りに着いている八人の衛士たちのひとりを指した。
 「まさか――――――」
 「右端にいるのがあたいの兄貴、ネルゴ。ううん、兄貴だったって言う方がいいかな」
 目深に鉄兜をかむり、辺りにスキの無い視線を投げている衛士たちが、一人残らずあの人間離れした美しい女の操り人形にされているというのだろうか。
 「まさか」
 「本当よ。あの女は普通じゃない。そういう力を持った妖女なんだよ。ほら、見て」
 少女はあごをしゃくった。
 いつぞやのせむしで小人の老人がまたぞろ同じ体型の仲間を引き連れ、井戸へやってきたのが見えた。また湧き水をくれと懇願しているのだろう、石畳に矮くを這いつくばらせているが、衛士たちの対応も相変わらずだ。
 キャスケードは路地の出口までゆき、耳をそばだてた。
 「どうか、どうかルナシルダ様にお願いを」
 せむしの老人が震える手を差し上げながら言った直後である。仲間たちが二、三人、横っ飛びにとんでゆき、石畳に叩きつけられた。衛士のひとりが殴り飛ばしたのだ。
 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うせむしの一族たち。老人だけが恐怖に身をすくませ、逃げることができずにいる。
 衛士は顔色ひとつ変えず、槍をかまえた。
 「危ねえ!」
 自分でも無意識のうちに、キャスケードは飛び出してせむしの老人の身体を抱きかかえていた。槍がキャスケードのブーツをかすめて石畳の隙間に突き立った。
 「な、何をしやがる、無力な年寄りに!」
 衛士のひとりは表情も変えず槍を抜き、何事も無かったように持ち場に戻る。
 「任務だかなんだか知らねえが、たかが水の一杯や二杯けちけちすんなよな」
 思わず脳天が火を噴き、抗議したキャスケードの首筋を、爬虫類の這うぞろりとした冷たい感触がした。
 感情の宿らぬガラス玉の眼。まさに衛士の眼は人形のそれだったのだ。
 キャスケードの腰ベルトを、せむしの老人がひっぱった。
 「よすがいい。やつらに何度言うても無駄じゃ。お前さんまで巻き添えくうぞ」
 「けどよお」
 キャスケードは情けない顔で側に来ていたデニーゼを振り返った。
 「わかったでしょ。兄貴はもうあの女の忠実な番犬でしかないんだ。うっかり夜に井戸に近づこうもんなら串刺しか煉瓦で殴られて挽肉にされちまう。普通の人間の力じゃないんだ、この湧き水番たちは」
 デニーゼは哀れな兄の横顔を見つめる。
 キャスケードの胸を警鐘が鳴り響き、身体の内部を縦横に駆け巡った。ジャレツもまた、あの絶世の美女に操られているのだとしたら―――――――。
 悪酔いも、癇癪玉も、キャスケードの脳天で凍結した。
 「デニーゼ、教えろ。どうすればジャレツを取り戻せる?」
 急に態度を翻したキャスケードに、デニーゼは面食らった。
 「あたいに媚薬の真珠を買うお金を貸して」
 「いくらだ、これで足りるか」
 ジャレツから渡された手切れ金の包みを取り出しながらせっつく。
 「お若いの」
 せむしの老人が白濁した眼で若者を見上げた。
 「まだいたのかよ、爺さん。串刺しにされねえうちにさっさとずらかりな」
 「この前にわしの言うたことが現実となってしもうたようじゃの、お若いの。大事な大事な男をルナシルダのとばりの奥深く隠されてしもうたか、気の毒にのう」
 「うるせえ。爺さんにゃ関係ねえだろ」
 キャスケードはいらいらと言い返した。
 「時に、真珠売りに用があるようじゃが」
 「それがどうしたってんだ」
 「それなら月が満ちるまで待ちなされ。あれは今宵のように月が痩せた夜には決して現れぬゆえ。ひっひっひい」
 キャスケードとデニーゼはそろって空を仰いだ。なるほど、今宵の月は餓死寸前の魔女のようだ。
 「あのくそ忌々しい護符さえなければあんな衛士の八人やそこら、わしの敵ではないものをのう」
 せむしの老人がぶつぶつと口の中でつぶやきながら、傷ついた仲間に肩をかして去ってゆく。
 紫のとばりはいよいよ濃くなり、邑はまた騒擾と神秘を織り交ぜた夜を迎える。



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. 小説「月夜の真珠売り」第10回

ロンダム家の敷地は小さなオアシスの一領主のものとしては格段の広さを有していた。
 何百年も昔から交易税を独占していたらしく、一族の暮らし向きはなかなか裕福なようだ。都や地方都市の貴族に負けぬほどの美術品や邸宅内部の趣味の高さがそれを物語る。
 まず門をくぐり、砂漠のオアシス都市とは思えぬ豊かな緑の人工庭園を過ぎてから、やっと本館の玄関にたどりつく。
 邑長の起居する本館の裏に第一夫人つまり正妻の住まいである碧水の館、以下、第二夫人から第五夫人まで紅水の館、黄水の館、銀水の館、翠水の館と連なる。
 その背後はさらに深い森となっており、木立に囲まれて豪壮な蒼いタイルの建築物があった。ジャレツの問いに、オルビン老人がそれは歴代邑長の霊廟だと厳かに答えた。
 ジャレツは本館の豪奢な一室で、今宵も暇を持て余していた。朝な夕なに運ばれてくる贅沢な食事を片づけることくらいしか役目は無さそうだった。湧き水の井戸の管理や村の議会に関するこまごまとした実務は、すべて、ルナシルダが執り行っているらしい。
 実際、古井戸の鍵は彼女が厳重に保管していた。
 奔放な生活をしてきたジャレツにとって退屈なのも苦痛だが、もっと苦痛なのは、第二夫人以下四人の奥方がひんぴんと艶美な文を送りつけてくることだ。その熱烈さと言ったら、ジャレツも赤面しかねないほどだった。気まぐれで一通は読んだが二度と封を切る気はない。奥方たちが直接、主人の閨室を訪ねることを許されていない習わしなのが、せめてもの救いだった。
 ルナシルダだけは、沈黙を通している。
 湧き水の衛士を使ってジャレツを連行した直後、冷徹な眼で獲物を検分して、相棒を追い払うよう命じたあの朝以来、会うことも許されないでいる。
 夜が訪れた。
 一度死んだ月が生まれ変わり、小舟の形となって浮かんでいる。
 ジャレツはうたた寝からやおら身を起こすとその鋭い眼に光を宿らせた。うっとおしい丈の長い民族衣装を黒い革の上下に着替え、闇に紛れてベランダからそっと伝い下りた。
 庭のあちこちに湧き水番と同じような、屈強な警護の男たちが配置されている。
 ジャレツは黒豹のように忍びやかに庭を抜け、第一夫人の居館、壁水の館へ入り込んだ。
 召使も眠り込んでいるのか、館の中は静寂そのものだ。女主がいるのかどうかさえ判らない。しかし、今夜こそジャレツはルナシルダから自分を強制的に連行した理由を聞き出す腹づもりだった。
 寝室らしき二階の一室に近寄り、扉に耳を当てた。かすかな人声が聞き取れた。
 「もう逢わないと言ったのに、どうしてまた来たりするの」
 厳しい声はルナシルダのものだ。誰かと言い争っているらしい。
 「誰のおかげで美しい姿を保っていられると思ってる?性根の腐りきった女め」
 女とも、男とも聞こえる不思議な声が言う。ジャレツには聞き覚えのある声だ。
 「性根が腐っているのはあなたよ、ポセイディオーン。あなたは地下湖の真珠を穢してしまったわ。昔はあんなに清廉な存在だったのに、人の欲望を叶えて魂を盗む恐ろしいものに変えてしまった」
 「湧き水を手に入れるためには止むを得なかった事じゃないか。お前が裏切りさえしなければ、こんな回りくどい計画を建てなくてもよかったものを」
 「・・・・・・」
 「当初はルナシルダ、お前も賛成し――――――だからこそ、美を授ける真珠を飲み、この館の第一夫人におさまることができたくせに、今になってどうして裏切る?つい最近も、地下湖の仲間が湧き水番によって乱暴された」
 「いくら湧き水を得るためでも、人の命や運命をおもちゃにすることはできないわ。そんなことを続けるなら、いっそ地下湖の一族など真珠と一緒に滅びてしまえばいい」
 「よくもそんなことを!」
 激しい殴打の音がした。打つならいくらでも打ちなさい。どんな仕打ちをされようと湧き水井戸の鍵と、あの男―――――ジャレツだけは渡さないわ。絶対に」
 「ルナシルダ・・・・。愛しいルナシルダ。お前は心まで湧き水の一族に染まりきってしまったんだな」
 高いトーンの声が涙に混じりしわがれ声となってゆく。
 ジャレツがそっと扉の隙間から覗くと、銀の髪をした細身の少年が細い首をうなだれて部屋を後にするところだった。のろのろと手すりに足をかけ、軽業師のように軽やかに身を躍らせると、森陰へと跳躍して消えた。
 後にはゴブラン織りのソファに嗚咽の波を繰り返す女がひとり、取り残された。
 ジャレツが音もなく忍び寄った。
 「驚いたな。あんたと真珠売りがそろって地下湖の回し者だったとは」
 ルナシルダはひどく驚いてバネ仕掛けの人形のように飛び起きた。あらわな目鼻立ちは麗しく、泣き顔でさえかえって美しさをひきたてこそすれ、遜色を示す材料にはなりはしない。銀の髪はあふれる湧き水のように豊かに腰の辺りまで扇状に広がっている。この麗姿から、誰が彼女の出自を見破れるというのだ。ジャレツでさえ男の本能が疼く。
 「先月死んだ当主も、さてはあんたが?」
 「いいえ。ポセイディオーンが一族繁栄の真珠といつわって黄泉へ旅立つ真珠を飲ませたのよ。私の目を盗んで」
 言葉の端々から、彼女が亡き当主を心から愛していたことが察せられた。
 ジャレツはソファの端に腰掛けた。
 「邑長なんか退屈で死にそうだ。いつまで猿芝居を打たせるつもりだ?行方不明の弟だなどとでっち上げもいいところだ」
 「・・・・・」
 「なんだか最初から妙だった。仕事の帰り道、川はせき止められて砂漠への回り道を余儀なくさせられるわ、サンドバイクはトラブるわ、まるでこの湧き水の邑に招き寄せられるようだった」
 「すべてポセイディオーンの仕業よ。あなたを手に入れるための、ね」
 「俺を?」
 「だから、私がここにかくまったのよ」
 「わからない。何故あの真珠売りが俺に用がある?」
 鼻面をしかめた。気にいらないと感じた時のジャレツのくせだ。
 夜風が忍び入り、庭の黒々とした森影をざわつかせた。押し殺すような声で、ルナシルダはやっと洩らした。
 「来月の満月・・・・デスムーンの期日が迫ってるの」
 「デスムーン?」
 「その日が地下湖の水、すべて干上がってしまう限界の日。竜蛇人種の血を持つ勇者を湖へ人身御供に差し上げ、湧き水を曳いて湖を満たさなければ地下湖の真珠貝がすべて死に絶えてしまうの。だからポセイディオーンは焦っている」
 「この俺を人身御供に、だと?」
 ジャレツの背中が粟だった。
 「あんたは自分の種族が滅んでもかまわないというのか、ルナシルダ?」
 彼女は尖ったあごで毅然とうなずいた。
 「もう故郷の真珠はポセイディオーンの血まみれの手で汚れてしまった。滅んだ方がいいのだわ」
 「どういうことだ?」
 「あなたをポセイディオーンの手にわたせばデスムーンの夜に、真珠を飲んだ人々に恐ろしいことが起こるわ」
 意味ありげなルナシルダの言葉が闇に溶けた後、ぞっとするような沈黙がふたりを包んだ。
 「何故、俺なんだ」
 ジャレツは呻いた。
 「気をつけて、ジャレツ。どんなにポセイディオーンが甘い言葉でもって近づこうと、どんなに泣き所を突かれ脅迫されようと、決して彼の手に落ちては駄目」
 「俺の泣き所――――――」
 思いあたる泣き所といえば、キャスケードの存在以外考えられない。あいつの欲しがっていた大金を与えたことだし、今頃はとっくにこの邑をおさらばしていることだろう。とすれば、ジャレツに弱みはなかった。この邑の神秘に満ちた災いを解き明かしたい気持ちを抑えられない。
 雲が月の面をよぎったのか、光が陰った。とたんに美女は身をよじり両手で顔を覆った。
 「見、見ないでジャレツ。私の本当の顔を」
 ジャレツは茫然と闇の中で立ちつくした。

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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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