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浪漫@kaido kanata

. 短編・湖の 妖しのもの 2

元々、丈夫ではなかった。

でも、まさか 生まれ育った 都会を離れて 山の中の

療養所に 来ることに なろうとは 思わなかった。

家には 飲んだくれの 父親と まだ 幼い 弟、妹たち。

母さんは 私が 小さい頃に 死んじゃったし、

私が すぐにも 帰って 働かなきゃ。

弟、妹たちを 守ってやらなきゃ。

父さんは お酒の勢いで どんな乱暴しでかすかわかったもんじゃない。

私が 早く 元気になって 帰ってやらなきゃ。


ななみ2


~~~~~~~~~~~~~

胸が 苦しい。

微熱が 続く。

時々、高熱で 起き上がれない。

息苦しくて 毎夜、眠りが 浅い。

いつも 不思議なのか うなされるような 苦しい夢を見る。

最近、療養所へ来てからは

見たこともない 美しい 青い、蒼い、碧い 湖水。

白樺の木々に 囲まれている。

裸足のまま 岸辺を ふらふら 歩いていると、

私を 呼ぶ声が する。

「なぎさ…… なぎさ……」

若いけど、浪々とした 男らしい声。

でも 寂しそうで 何かを 訴えている。

どうして 私の名前を知っているの?

湖の底から 聞こえてくるような 不思議な声。

~~~~~~~~~~~

同じ夢ばかり 何度 見続けたことだろうか。

いや、夢から 覚めても また 夢。
これを 繰り返した。

多重夢だ。

ある夜明け、私は 浴衣の寝巻のまま 療養所を抜け出し

白樺の林へ 入っていった。

山の端が 薄紫に 輝いているだけで まだ 薄暗い。


むらさき 白樺の林


白い幹だけが 何本も 立ち並び、昼間 見ると

美しい 林も 夜明けに 踏み入ると 不気味ではある。

白樺たちが 枝を寄せ合い、よそ者の私を ざわざわと

注目しているのが よく 分かる。

でも、行かなくちゃという 思いにかられて 歩みを進める。

「なぎさ……」

夢の中と 同じ声だ。

ふと 振り向くと 太い幹の向こうから 現れたのは

色白な 青年だった。


強い視線



人間だろうか――――。

いや、現(うつつ)だろうか。

幻だろうか―――――。


……と、思うほど、

緑の葉影から 現れた彼は、森の精のように 清々しい。

漆黒の 髪、 透けるように 白い肌……。

しかし、差し込んでくる視線は 鋭い。

というより、強い(こわい)思いに 満ちている。



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. 短編・湖の妖しのもの・3

返事もできずに 立ちすくんでいると 近づいてきた。

「なんだ、なぎさじゃない……」

ガックリと 肩を落とし、くるりと背を向けて行こうとする。

「私の名前は なぎさです。でも、あなたに 会うのは 初めてです」

勇気を出して 言ってみると

「あんたも 『なぎさ』というのか……
 道理で なんとなく 感づいたはずだ」

唇の片方を 釣り上げて、シニカルな笑い方をする。

彼の 言葉の意味が わからない。

ななみ1



どんどん 林の中を行ってしまいそうなので 小走りに追いかけるが、
青年の背中は 木立の中、小さくなっていくばかり。

慌てて 後を追いかける。

「若さま」

いつのまにか 白髪の背のひくいみすぼらしい着物を着た老人が
傍に立っていた。

白い眉毛で 目が覆われている。


白髪の爺さん


そして しわが深い手に ついているものは―――

水かきではないか!!

なぎさの背筋が 凍った。

この老人は 人間ではなく――??
水の世界に棲む者なのだろうか。

「若さま。また 林に上がられて。ささ、翁とともに 戻りましょう。
 皆、心配しております」

「どうしても なぎさのことが 頭から 離れない」

「あの娘は きっと 手の届かないところへいってしまったのです。
 なよなよと、元々、命の短い存在だったのです」

「わかっている。私と違いすぎることは。
 諦めた方が 気が楽だろう」


青年の瞳には 深い失望の色が。

「あの…… 諦めることも勇気が 必要だと思います 」

思わず知らず そんな言葉が 私の口から飛び出した。

自分は 家のことが気になって 諦められない真っ最中だというのに。

~~~~~~~~~~~

バシャバシャと水音がして 農夫のような若い男が走ってきて、
老人の耳に何か ささやいた。

ラス 9話 1


「なにっ!? 天空の帝が なぎさを……??」

顔色を 変えて叫んだのは 白皙の青年の方だ。

何のことだろう?


キリの林


惑乱しているうちに 山の端に 朝陽が射し初め、白樺たちが

一気に 活気づいた。

いや、活気づいたというより 驚いて 枝の葉をひるがえした。


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. 短編・湖の妖しのもの 4

湖の畔に 立っていると 水中に 
小さな可憐な白い花が 咲いているのが見える。

白い、小さな花……

透き通った湖水の水面から 手の届きそうなところに

多く繁茂している 緑の苔のような 葉の中に


ばいかも


~~~~~~~~~~~~

ある日、青年は 畔の砂地に ひざを抱えて座り、

ポツリと言った。

「なぎさは この花の化身だった。
 あまりに 美しいので さらわれた……

 この花みたいに 壊れやすい。
 摘み取られた瞬間に 霞のように消えてしまった」


この青年は 人間ではない。
水の世界に 棲む妖しのものだ。

白い眉の老人や 見慣れぬ若者たちが 水辺を走り回り、
かなり うろたえていた。

どうやら 「なぎさ」という 愛姫を 天帝に
さらわれて 戦が起ころうとしていたらしい。

「おやめください、天帝などに 逆らえるはずが ございません。
 この湖に 棲んでいるもの、皆が 滅んでしまいます」

翁が 血相変えて いきり立つ青年を 引き留めていた。

「皆が 滅んでしまう??
 いけませんよ、そんなこと、なさっては!!」




白樺の林に 爽やかな 風が 吹き、
晴れ渡ってると いうのに、青年の顔は 地獄の昏さだった。

「もう、戻ってこない……」

その「なぎさ」という 私と同じ花の化身を 愛していたんだな。

彼女は 砂糖菓子のように なんてもろい……。

~~~~~~~~~~~

咳こんだ。

今日も熱っぽい。

もしかして、私もこのまま 儚くなってしまうのかもしれない。

そうしたら、こうして 泣いてくれる恋人も いやしない。

それより 弟と妹は??

あの酒乱の 父ちゃんに どうにかされないうちに

私の 命が 尽きませんように。

~~~~~~~~~~~~~

「お前」

いきなり 目の前に あった 深い瞳に 息が止まりそうになった。

妖しの青年の瞳が 群青色だ。

後ろから 首に腕を廻されて 押さえ込まれた。

「私と、私の棲む世界へ 来るがよい」

「え、でも、あの……」


彼に ついていったりしたら……

「私は いなくなった 『なぎさ』の代りに なれません」

「いや、お前が 気に入った。花のなぎさにはない 輝きがある。

 まっすぐに ものを言ってくれる お前が」


ジュノン 13年 8月 6



~~~~~~~~~~~~

「よいな、お前も 私を 慕い始めている。

 私と共に くれば 永遠の命が 得られるぞ」


「永遠の命―――――」


それは いつ 儚くなるかと悩んでいる身には 

夢のような 言葉だ。


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. 短編・湖の 妖しのもの・5  (最終回)

でも、

「あなたと 一緒に行けば 残された 幼い弟と妹に
 会えなくなります」

「若さま」

翁が口を はさんだ。

「人間の肉親の情は 深いのです。人間の娘を 連れかえるのは
 無理でございます」

「何を 無理なことが あろうかっ」

 青年の声が 一喝した。

「愛した者は 手元に置く。

 天帝も 水中花のなぎさを 無理やり 摘み取っていってしまったではないか」

「しかし……」

「しかも この人間の なぎさは 私の元に いたいはず」

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なぎさは しっかり 顔を上げた。

「おっしゃるとおりです。私は あなたに 連れ去られたい。でも……」

「父や 兄弟のことが 心配なのなら 
 好きな時に 地上に帰ればよい」

「本当ですか、それは」

自分でも眼が 輝くのが 分かった。

~~~~~~~~~~~

いつ 果てるか、と 思った命が 永遠に延び、
弟や妹とも 会える―――??

そして 傍らには 人ではないにしろ、

心を吸い取られたような 美しい青年が 片時も離れずに いてくれる。

湖水の底で?

摘み取られた花のように わしづかみに されて―――??

それは 桎梏ではなく なんと甘やかな牢獄だろうか。

湖底の龍神に嫁ぐ、ということが

生きながらえることなのか、命を捧げることなのか、

青年への 熱い想いの中で 心の乱れが 止まらないまま―――。


赤い翼の眠っている女



~~~~~~~~~~~~~~~~

しばらくして、療養所に ひとりの少女が永遠の旅路に
旅立ったという噂が 流れたが、患者たちは

噂だけしか知らない。


大きな帽子の看護婦


時折、大きな看護帽の看護婦が 廊下を曲がる 少女の姿を
見かけたりしたが、

いつも幻のように かき消えてしまうのだった。


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. プロフィール

海道 遠(かなた)

Author:海道 遠(かなた)
小さい頃からお絵描き大好き
お話創るの、大好き
      ↓ 自然に
漫画家になりたい
      ↓
OLを退職。デザイン学校の漫画科へ入学
      ↓
家庭の事情で後、半年というところで退学、OLに戻る
      ↓
技量不足とひどい肩こり症のため、もの書きに転向
      ↓
結婚、妊娠、育児のブランクを経て再度ペンを持つ。
      ↓
が、コンクールに落ちる事、数知れず。
      ↓
諦めてアマの道へ

★著作★
 ペンネーム:海道 遠(かいどう かなた)
 「“海王の接吻”を抱きしめて」新生出版
 「CROSS」新風舎 
 共に全国出版、ネット販売しております。

★海棠結実(かいどう ゆみ) ペンネームで 

 【 遠雷去らず 】風詠社(鎌倉時代もの)
 全国ネット販売しております。
 

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